第6話 ~負の感情~
高学年になる頃には、住んでいた街の林は切り開かれ、新しい鉄道が通って道も広くなり、幼稚園からのかつての風景は、マンションや大型商業施設の看板、高架橋と電車、そんな都会っぽいものが目立つようになっていた。
街が成長するように、子供の感情も、その体以上に複雑に成長する。
低学年の頃のテストといえば、クラス全員100点花まるで、人と比較して出来不出来を気にすることもなく、体育なんかも、ただただ楽しいだけで競う感情も起こらない。
少し学年が進むと個性や得意不得意が如実に点数に表れるようになって、比較して妬んだり、腐ったり、卑しんだり、そんな負の感情が強くなる。
僕が初めて感じた強い負の感情は、親友の嫉妬(しっと)だった。
僕が小学校の頃は、先生から一人一人呼ばれ、みんなの前で点数を読み上げられて答案用紙が返されていた。
「じゃ、まず、前回のテストを返すぞぉ~」
6時限目のある算数のテストが返されたときである。
クラスのみんなが30点や40点、頭がいいといわれていた人たちもせいぜい50点止まりのテストだった。
クラスの最後に、僕の名前が呼ばれた。
「100点、すごいな」
「おぉ~、すげーなー」「すごいねぇ~」
クラス中が一斉にざわついて、しばらくどよめいた。
人生で初めて、大勢の注目を浴びた。
気の利いたリアクションもできず、そそくさと答案用紙を受け取って振り返る。
おもむろに、教室の最前列にいた親友の憧れの女子と目が合った。
その笑顔と羨望のまなざしに、僕はただ苦笑いしかできなかった。
席に着く際、僕の二つ後ろの席にいた親友とも目があった。
彼のまなざしの奥からは、これまで感じたことがない、ひどく冷たい刺激を感じた。
それは、嫉妬そのものだった。
彼が目をそらすと意識は途切れ、僕は席に着くことができた。
授業の残りの時間、冷たい違和感が僕の背中を刺激した。
授業の後、彼は僕を待たずに帰宅してしまった。
そして翌朝、彼は交差点に現われることはなかった。
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