第5話 ~少年期~

小学校3年生ぐらいだろうか、僕は自分の癖について気付いたことがあった。

当時、居間には、奥行きがあるダイヤル式のテレビが置かれ、夕方5時頃から始まるお気に入りのアニメに夢中になっていた。

夕飯を終えて8時頃になると、はやりのコント番組を見て、腹をよじらせながら笑っていた。


その時、意識は集中するものの、息は止まらず、暗闇に包まれることもなかった。

どうやら、テレビやラジオといった機械では、言葉や息遣いは伝えられるものの、その思念までは伝えられないのである。


正直、助かる。


それと、本も大抵がそうであったが、稀に予期せぬことが起こる。

ある国語の授業で、先生が教科書を朗読したときに、自律神経が支配されそうになったことがあった。

その作品は自殺した作家のものだった。

作者の言葉は、声に発した人の思念で増幅され、時に言霊となって周囲に刺激をまき散らすのである。


そんなこともあって、僕は国語や音楽の授業が苦手だった。


一方で算数の授業は、なんというか無機質で、淡々としていて心地よく、持ち前の集中力も発揮して、得意な教科の一つだった。


そういえばその頃の、親友からこんな問いかけがあったのを印象深く覚えている。


「お前の好きな子だれ?」「俺、Aが好きなんだ~」


質問しておいて、返事を聴く前に自白するあたりは、親友の性格が良く表れている。


「Aってだれ、何人かいるぞ」

「内緒だよ」

「なんだそれ」


僕にはそれが誰だか分っていた。イニシャル「A」の、クラスで、いや学年で一番かわいいと噂されていた女子だった。


小学校も4年生、5年生の頃になると、「男子」と「女子」がなんとなく意識をし始める。

僕は早生まれだったせいなのか、同学年の男子よりも異性への意識が希薄だった。

なにより、僕の話になるのも面倒だったので、


「でさ、次の日曜、どこ釣りに行く?」


それ以上、幼い色恋話が盛り上がることは無かった。

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