第4話 ~親友~

通っていた幼稚園は小高い丘の上にあり、眼下には一面の畑が広がっていた。

見渡す限り、畑と林と送電鉄塔ぐらいしか目に入らず、一本道の下り坂のその先に、雪を被った富士山を遠くに望むことができた。


ある冬の日の出来事である。

幼稚園の廊下の片隅で、彼は泣き出しそうなのを必死にこらえながら、血の滴る指をおさえてうずくまっていた。


「先生!!けがしてる!」


と、僕が叫ぶと、近くを通りがかった先生が駆け付けてきてくれた。


「どうしたの?」


彼がうずくまる足元には、砕けた花瓶が散乱していた。

罪悪感と、どうにかしようという思いで、とっさに鋭利なガラスに手を触れてしまった様だ。


ケガの手当を終え、ただおびえる彼を、幼いながらも放ってはおけず、

「痛い?」「怖い?」「大丈夫?」

伝わる感情のまま、今思えば無神経な言葉を掛けながら、夕暮れ時の坂道を二人並んで帰宅した。


当時は、幼い園児の中にもカギっ子といわれる子供たちがいて、多少のケガや病気では親の迎えなどなく、自力で帰宅していた。

そんな、つり橋効果もあって、僕にも初めての友達ができた。


親の事情で、送迎バスを使わない歩き組の僕たちは、お互いの家も近くだったこともあって、とにかく四六時中一緒だった。


春は葦の茂った沼地の中の小さな穴に短い腕を突っ込んでザリガニを捕まえた。

夏は夜明け前、薄気味の悪い里山をどこまでも深く分け入って、クワガタやカブトムシを探し回った。

秋はススキに産み付けられたカマキリの卵鞘をポケットいっぱいに詰め込んで、家中カマキリの赤ちゃんだらけにしたこともあった。

冬は道路のど真ん中に小さな雪ダルマやカマクラを作ったりした。

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