第2話 悪役キャラ、色々と利用する
俺は目を覚ました。
そこはユーヴェリクスの使う部屋であり、前世のような六畳一間の狭い部屋ではない。
「……はぁ。夢じゃなかったんだな」
どうやら俺は、『光の勇者と五人の聖剣乙女』という王道RPGに登場するラスボス、ユーヴェリクス・ド・ヴァレンティヌスに転生したらしい。
いや、今時ゲームのキャラに生まれ変わるってどうなのよ。
しかも邪神に操られて、最終的には主人公に殺されるってオチの死亡確定キャラとか。
神様がいるなら文句の一言でも言ってやりたいね。
「ひっ、ゆ、ユーヴェリクス殿下……」
「ん?」
ちらりと扉の入り口を見ると、花を生けた花瓶を持った侍女が、顔を青褪めさせて立っていた。
あー、これはあれかな?
眠ってると思って油断してたら俺が起きていて、怖がらせてしまったパターンか。
取り敢えず声をかけて、コミュニケーションを取ってみよう。
どんな相手でも、まずは対話が大切だからな。
俺は笑顔で話しかける。
「おはよう、良い天気だね」
「ひっ」
侍女が花瓶を床に落とし、壊してしまった。
そして、侍女は慌てた様子でその場で土下座し始める。
「あ、も、申し訳ありません、お許しを!! どうかお許しを!!」
えぇ、俺ってどんだけ怖がられてんだよ。
いや、でも今のは俺のミスか。
普段から傲慢で悪さしかしない悪辣な皇子が、突然笑顔で話しかけてきたら?
うん、俺ならめっちゃ怖いね。もう恐怖で足腰ガックガクになると思う。
ここはいつもの調子で、悪ガキっぽく振る舞うか。
「出て行け」
「え?」
「良いから出て行け!!」
「は、はひっ!!」
侍女が慌てた様子で部屋の外へ出て行く。
「うーむ。色々と難しいな、これは」
そんなことを呟きながら、床に散らばった花瓶の破片を拾う。
花瓶を片付けた後、ベッドに戻る。まだ眠いのだ。もう少し寝かせて――
「じゃない!! 今すぐ行動しなければ!!」
俺はこのままだと、邪神に操られて、勇者に殺されてしまう。
そんなのは絶対に嫌だ!!
でも、まずは何をすれば良いんだろう?
周囲の好感度を上げていざという時の肉か――信頼できる仲間を作るのは、一朝一夕で出来ることじゃないし……。
やっぱりまずは、俺自身が強くなることか。
ここが本当に『光の勇者と五人の聖剣乙女』の世界だったな、魔物を倒してレベルアップすれば強くなるはず。
しかし、魔物を倒すためにもある程度強くなきゃいけない。
一人で修行してもたかが知れてるし……。
「リクス!!」
「あれ? 母上?」
そんなことを考えていると、俺の部屋にノックもせず母上が入ってきた。
母上の名前はフレイヤ。
深紅色の綺麗な髪と瞳の美女である。
お胸がとても豊かな人で、にも関わらず腰は細く締まっているチートボディー。
うっひょー、前世を思い出す前はなんとも思わなかったけど、俺ってこんな美女から生まれてきたのかー!!
「ああ、良かった。目を覚ましたのですね」
「……はい、母上。ご心配をおかけしました」
「ふふ。ええ、本当に心配したわ。未来の皇帝たる貴方に何かあったらと思うと、胸が張り裂けそうだったもの」
……嘘を吐くなっての。
いや、嘘じゃないのか? 本人が気付いていないのかも知れない。
俺を心配したって言いながら、フレイヤは俺を見ていない。
やはり母上にとって、フレイヤにとって大切なのは俺ではないのだ。
きっと『いずれは皇帝になる都合の良い息子』なのだろう。
母上はスタイル抜群の絶世の美女だが、正直あんまり好きになれないな。
「リクス、何があったのか母上に話してご覧なさい。まあ、言わなくても分かるけれど」
「え?」
「どうせあの女の娘が何か酷いことをしてきたのでしょう? あぁ、可哀想なリクス。陛下に直訴してあの小娘に罰を与えなければ」
あー、なるほど。
俺が勝手に転んで怪我したことをユリーシア、引いてはその母のせいだと思っているのか。
「違いますよ、母上」
「え?」
「姉上は勝手に転んだ俺を心配して介抱してくれたんです」
「あ、あら、そうなの?」
今までユリーシア姉さんには酷いことを言ってきたし、これくらいはしておかないと。
「あ、それと母上。お願いがあるんです」
「何かしら? 何でも母に言いなさい」
「俺、強くなりたいんです。なので魔法や剣術の先生がいれば紹介して欲しくて」
こんな母でも実家は公爵家。
きっと色々な伝手があるだろうし、利用させてもらおう。
母上だって、側室にばかり構う父上への嫌がらせとして俺を利用してるんだから文句は言えないよね。
そう思ったのだが……。
「それは駄目よ!! そんな危ないことをさせるものですか!!」
「そう、ですか」
チッ、駄目か。
こうなったら仕方がない、自力でやってみよう。
幸い、俺にはゲームで得た知識がある。
ここが本当にあのゲームの世界なら、効率的なレベリングをすることですぐにレベルはカンストするはず。
そうと決まれば……。
「やって来ました、大図書館!!」
俺が生活するヴァレンティヌス城は、最終的にはラストダンジョンになる。
そのため、城の至る所に隠し通路やら秘密の部屋やらが幾つも存在しており、ここ大図書館も例外ではなかった。
ここには多くの魔法に関する書物が眠っている。
俺が探しているものも、ここにあるのだ。
「あった!! 八列目にある四番目の本棚、ここの本を決められた順番で押していくと!!」
ガコン、ゴゴゴゴゴ……。
という音と共に本棚が横へ動いて、小部屋へと続く扉が出現する。
その小部屋に入ると、中には宝箱が一つ。
「見つけた!! 闇の古代魔術書!!」
この世界には魔法がある。
しかし、同時に魔術と呼ばれる技術も存在していたのだ。
魔法と魔術、どちらも似たようなものだが、実は細かいところが違う。
簡単に言うと、魔法が根性論で魔術が理論、だろうか。
呪文の詠唱によってイメージを補完し、発動するのが魔法。
対して魔術は、術式を用いて理論的に発動するのだ。
要するに魔法が国語、魔術が算数である。
だが、魔術は既に廃れてしまった。
というのも、魔法は神が与えた奇跡という認識がこの世界では一般的なのだ。
そのため、古代魔術のように魔法を理論的に解明しようとするものは悪として排除されてきた。
え? そんなものを使って大丈夫か、だって?
「くっくっくっ、とっくの昔に俺の評価は地に落ちてんだ。利用できるものはなんでも利用してやる」
俺は闇の古代魔術書を開いて、中を読む。
ふむふむ、なるほど。つまり、そういうことか!!
「なんにも読めねーな!! そりゃそうか、
俺は一旦本を閉じて部屋に戻り、魔術書の文字を解読するところから始めるのであった。
どうやら俺が考えた『今日から始める悪役キャラの聖人化シナリオブレイク』作戦は、前途多難のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます