第19話 死神
街で一番高いビルの屋上、ここはこの街を一望できる場所である。夕香と零が街を眺めている。
「あら、ごきげんよう、夕香ではなくて」
朝氷柱が現れ声をかけてくる。今日は戦闘的でなくその表情は和やかである。
「お前か、何の用だ」
「あら、ここはとても眺めが良くてね、私もお気に入りの場所よ」
「そうか」
「それにしても、神様はなんて不公平なのかしら。あなたが光なら私は闇、まさに陰陽の世界」
「なにが言いたいのだ」
「あら、これでも私、嫉妬ぶかくてね、一五年の付き合いですけど、本当に不公平ですわね」
「それでは、私が幸せな生活をしている様な言い方だな」
「闇の死神にまで落ちた、私の苦労は分からないでしょうね」
「私とて、背負っている物もある」
「あら、そう、それは失礼」
「もう、十五年か……」
夕香は再び夜景を眺め少し昔のことを想だす。
十五年前
救急車で少女が運ばれてくる。病室両親が人口呼吸器を付けた私を両親が囲み泣いている。そう私は一人娘として両親から愛されていた。そして、親より先に逝くという、罪を犯そうとしていていた、そんな生死の狭間にいた、私に訪問者が来た。
死神である。
彼は零と名乗り私に提案をした。このまま、何年も眠ったままでいるか、すぐ死を選ぶか。私は少し考えさせてくれと頼んだ。零は了解し去っていた。
私は生きながら、死んでいる状態だった。両親は毎日のように来てくれたが、日に日にやつれて行った。私は耐えられなくなり零を呼んだ、そして零はさらなる提案をした。私に死神にならないかと……どうやら選ばれた存在らしい。
私は迷った、話によると、永遠に死神として働くこと。辛い仕事であると言われた。
しかし、永遠に生き続けることでもあり、両親を見守ることも出来ると。
私は死神になることを選んだ。そして、私は死して永遠の生を得た。零が医者に手を回し死んだ事になっているが、死神として、不老不死の生身の体となった。
夏の暑さや冬の寒さを感じることが出来る、とても不思議な気分だった。
そして、私に与えられた仕事は、生と死の狭間にいる人を本来の寿命まで生かす、仕事だった。
しかし、中には進んで死を選ぶ者もいて、とても厳しい日々であった。
そして、死神の中でも積極的に死を迫る者たちがいることを知る。彼女は朝氷柱と名乗りプライドを持って死神をしていた、零が言うにはどんな世界でも考え方の違う者はいるとだけ説明してくれた。
そして、彼女とは一触即発の事態は何度も経験した。力は零と二人で互角、朝氷柱は死神になってまでも生と死の狭間のスリルを味わいたいようだ。
こうして朝氷柱との付き合いが始まった。
現代
「で、今日はどうする?」
「はい……?」
朝氷柱の表情は柔らかくとても戦う気配は無かった。
「決着を付けるか?」
「まあ、野蛮ですね、今日は夜景を楽しみに来ていてよ」
「そうか」
「ところで最近、西澤雄太なる人と関わっているみたいですけど、何のつもり?」
「そんなことはお前には関係ない話だ」
「あら、私はとても興味があってよ」
朝氷柱の表情が更に穏やかになり。
「そうね……『陰陽の髪飾り』を持っていてよ、しかも宮姫、あの陰陽師が作った最高傑作、私はあの陰陽の花嫁を壊したくて仕方ないのよ」
「そんなことはさせない」
「あら、死神のくせに、人に情が移った?」
「うるさい、お前には関係ないことだ」
「そうですね、基本はお互い干渉しあわないのがルール。でも、何時かはあの『陰陽の髪飾り』は壊しに行きますわよ」
「その時は決着をつける」
「まぁ、怖い」
夕香の挑発にも朝氷柱は乗らず、上機嫌でいる。
「そろそろ、帰りますわ、ごきげんよう」
そして朝氷柱は消えていく。どうやら決着の時が迫っているようだ。
「なあ、零、あの西澤いう少年……彼がこの戦いを左右するきがするが」
零は黙ったままでいる。
「お前に聞いた私が悪かった、公園に行こう少し鍛えたい」
そして、夕香と零が戦っている。夕香が零に吹き飛ばされる。
「もう、よせ、今夜はこれくらいで終わりだ」
「まだだ!バカの一つ覚えかもしれないが剣の道を極めると決めたところだ……」
しかし、夕香はそのまま気を失う。幼い夕香に父親と母親が夕香のことを幸せそうに見ている。
何だ?これは過去の記憶か?それとも現実?
すると、両親が氷の槍で突き刺される。
『がは……』
私は無機質な部屋のベッドの上に寝かされていた。
「どうした?」
零は一見心配そうに声をかけるが。その表情や声の質から、少しも感情が込められていない。
そう、零もまた死神、どこかで感情が欠落している。いや、というより感情を表に出せないと言ったほうが正しいだろう。
「私はどれほど寝ていた?」
いつもの事はいえ、あの夢の後、自分がいかに孤独な存在なのかを実感するしかなかった。
「2時間くらいだ」
「なら。まだ、時間がある朝氷柱に勝つ為にも何妙も無駄には出来ない、公園に行くぞ」
「止せ、お前の精神力は限界だ、たとえ体が滅ばなくても。霊力、つまり精神力は限界を越している」
「分かっている。だが、やらねばならないこともある」
「なら、この傷薬を飲んでからだ」
零は夕香に小瓶を渡す。夕香は受け取り飲み干す。すると、急に眠けが襲う。
「零?」
「今は休め、朝氷柱は強い、今のお前では到底、勝ち目はない。時を待て、嫌でも
決着をつける日が来る。その前にお前を失う訳にはいかない」
「私がバカなのは分かっている、それでも……何だ、この眠気は……何をした?」
そいて夕香は眠りにつく。
幼い夕香と両親が遊んでいる。また、この夢かここでいつも氷の槍で両親が貫かれる。現実世界では両親はまだ生きているはず。
しかし、死神となった私には関係ないこと。ただ、朝氷柱の恐怖心がこの夢を見させる。
うん?いつもと違う、両親が殺されない。
零め、何か特別な物を飲ませたな。父親が幼い私を抱きあげる。
「夕香、お前は特別な存在になれるはずだ。その時は私達に、ちゃんと見せておくれよ」
「うん……?」
朝日が夕香にあたり目を覚ます。どうやら、かなり寝てしまったようだ。
近くに零は居ない、私は何故か両親のもとへと向かった。やはり、あの夢のせいかむしょうにこの目で両親を見たくなった。
私は死神になってから一度もここには来ていない。そこには何気ない日常を過ごす両親の姿があった。私はそれを確認すると、朝の公園に向かった。
まだ、だれも居ない公園。たとえ、居たとしても一般人には見えなお存在。
私は刀を抜刀する。気持ちよく技が決まり、朝日が私を照らす。
するといつの間にか零が現れる。
「精神力……つまり、霊力が一段ましたようだな」
「おせっかいな、やつめ」
「我らはただ強くなれば良いのではない、精神的に強くなければならない。単純な特訓だけではダメだ」
「そうか」
「朝氷柱が闇なら、お前は光、その光を最大限にあげることを考えろ」
「分かった、私は光の死神を極めよう」
私は何を迷っていたのだ。両親の様子を見に行く事すら出来ないほど、迷っていたのか
簡単なことなのに、やはり私はバカだ……。
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