第16話 ギャルの生きる道

 科師部でいつもの様にしていると。見知らぬ女性生徒が入っていく。いや、どこかで見たような気がする。女性生徒は奥の部屋で何かをやっているようだ。すると、寺田舞が出てくる。


「寺田さんしたのですか?」

「あなたも失礼ね、ただ寝坊してメイクが出来なかっただけなのよ」

「メイクね、あの地味な女の子がこのあの寺田さん?」

「光君ちょっと来て」


 俺は光君を呼んでみた。光君なら寺田さんが、何故あれほど変わるのか知っていそうだからである。


「なんでしょう?」

「ちょっと寺田さんの生活教えてくれないかな」

「良いですよ」


 光君は寺田舞の生活を暴露しるのであった。


 平日は朝、起きると、その恰好はジャージである。可愛いパジャマではなく実用的なのだろう。朝から軽く女性誌に目を通す、そいて、ご飯の時間を抜いてメイクを始める。うちの学校の校則がゆるいとはいえ派手なメイクは不味いのでナチュラルメイクである。


 そうマスターはその場でできる最高の努力をする。そして帰宅すると、まず、ジャージに着替えメイクを落としコンタクトも外しメガネをかける。この時点でマスターはかなり普段の外用の格好とは違います。


 ご飯、お風呂と続き、スマホは楽しむというより情報収集、芸能人の話題をチャックのために見ているようだ。そして、自分の部屋で何冊もの女性誌を読むのです。

休日はもっとすごい。


 朝起きると、女性誌を見直し、またもや朝ごはん抜きでメイクを始める、2時間はかかる。それは一度メイクをして、また落とし、気にいるまで続ける。


 そしてお出かけ、お金が無いので安めの店を回る。買う訳でもなく、メモを取る。また、店にランク付けをしている。


 品ぞろえや店員の態度など細かく評価しS、A、B、Cと几帳面に記録する。


 それから、僕の洋服選びにドールハウスに行く、基本霊能力で衣装替えが出来るのだが、その参考資料及び実際に買って着せ替える楽しみがあるらしい。ドールハウスでは、女性ものしか見ない、そうマスターは自分に女装をさせるのが趣味である。


 基本はアニメのキャラクター、他に一部の職業の恰好を選ぶ。そして、メイクもかなり詳しいので、それを応用して完璧に仕上げる。マスターは女性型の『陰陽の髪飾り』ではなく、男の自分を方が気にいっていると昔聞いたことがある。マスターは可愛いのだから恋人でも作ればよいと思うのだがそれはせず。ひたすら、自分を含めて、ファッションを楽しんでいるようだ。


「こんな感じの生活をマスターは日々の生活を送っています」

「ということは、あの地味な子が寺田さんの本当の姿」

「そうです。家の中ではあのスタイルでジャージです」

「宮姫?お前はどう思う?」

「われに聞かれても困るが、好きな人の為に綺麗になりないということもあったのう……」


 宮姫は少し寂しそうである。


「光君なにをやっているの?」


 寺田さんが来て状況を確認する。


「マスター、少しマスターの生活を西澤さんに話していたところです」

「ひぃぃぃぃ、全部喋ってしまったの?」

「はい」

「ダメ、て、西澤さんに??☆!!☆」


 何か大混乱を起こしている、ここは逃げるが勝ちか……。


「じゃあ、俺、今日は帰ります」

「そう、☆、♡」 


 そして、科師部から逃げ出した。しかし、あの混乱はまるで好きな人に秘密がばれたみたいな反応だったな。まさかね。


 あの事件いらい、寺田舞のメイクはさらに磨きがかかった、ものになっていた。ナチュラルメイクを極めた感じである。


 そして、友達と楽しそうに雑談をしている。しかし、光君は不安げな表情で見守っていた。


「光君にちょっと良いかな?」

「はい」

「どうして、そんなに、不安げなの?寺田さん楽しそうにしているのに……?」

「マスターの本来の姿はメイク無しで、ジャージ姿で僕に女装させているのが本当の姿、今のマスターは仮面を着けています。昔、僕と出会う前に何か事件が起きたらしいのですが、それ以降、仮面を着け表面上の友達を作り。ファションにもこだわるようになったらしいのですが」

「まさか恋?」

「違います。そう、何か悲しい現実から逃げ出したくて、仮面をつけて表面上の友達と遊んで誤魔化しているようです」

「そうか」

「少なくても、子供の頃から霊能力に苦労をしていたようです。マスターは契約の時に言いました」


光君は寺田さんと契約を結ぶ時のことである。

―――

『神様は少しだけ、幸福をくれた。この呪われた力でも使い道があった。光君……私はあなたにすべてを見せるから、私という存在を認めて……』

『はい、喜んでお受けします。僕もマスターのような素直な方で良かったです』

―――


「このようにマスターは孤独な人でした。でも、西澤さんあなたに出会ってからのマスターは少し変わりました。西澤さんあなたには少しだけ本音で接しているようでうす」


 嬉しいような、複雑な気分だ。


「でも、コスプレをさせられるとは思いませんでした」

「やはり、嫌なの?」

「いえ、楽しいです。何より。僕にコスプレをさせているマスターが一番楽しそうだからです」


 数日後の放課後佐藤先生に呼び出される。科師部ではなく保健室。


「先生なの用ですか?」

「寺田君が大変なことになっているのだ」

「寺田さんが?」

「どうやら、何かに精気を吸い取られている、一刻も早くせねば、命が危ない」


 寺田さんがベッドの上で寝ている。隣に少女が座っている。その姿は色白では儚く白百合の様であった。


「君は?」


 「寺田さんの親友の酒井というものです」


 少女は自己紹介をすると消え去りそうであった。


 しかし、あの寺田さんに親友?聞いたことが無い。何だろ、この違和感は……。


「とにかく原因を調べなくては、これは何か呪い的な物だろう。少し、過去の記憶を調べてみよう。かなり危険だが寺田さんの精神世界にダイヴする。西澤君頼んだよ」


 佐藤先生の腕の中にいた、ダビンチが言う。そして、ダビンチは降り立つと表情が変わる。


 しかし、精神世界にダイヴ?ダビンチたちはすごいな。


「では、行くぞ」


 ダビンチと佐藤先生が光り出すと自分は気を失い、気が付くと夕方の小さな公園にいた、小さな女の子が泣いている。


 寺田さんだ、近づいてみるが反応が無い、たぶん俺が見られてないようだ。


 すると、もう一人の少女が近づいて来る。


「どうしたの?」

「私ね、みんなには見られない者が見えるの……とても怖い、私……」

「そんなことないよ、私にも見られるわ」

「そうなの」

「ねえ、良かったらお友達にならない?」

「ホント?」

「えぇ、本当よ」

「ありがとう」


 そして二人遊びだす。少女に笑顔が戻り幸せそうであった。


「あれは、さっきの酒井という人だ」


 なんだ?急に空間が歪み、場面が変わる。


「病院のベッドの上に酒井春菜が寝ている。

「春菜ちゃん、また来たよ」


 病室に寺田さんが入ってくる。その表情は硬く親友のお見舞いそのものであった。


「ありがと」


 酒井さんは幼い寺田さんにお礼を言う。しばらくして寺田さんが戸惑った様子になる。


「どうしたの」

「うーんちょっとね」


酒井さんの問いに歯切れが悪い返事を返す。すると、夕香が現れる、やはり俺が見えていないようだ。


 そして、寺田さんに話しかける。


「あなたは誰?」

「死神……」

「死神?なんで、こんなところにいるの?」

「この子はもうすぐ死ぬわ」

「嘘よ、そんなの嘘よ!!!」

「いいえ、あなたには分かっているはず」

「……」

「でも、私が来たということは、この子の命を救うことが出来る」

「お願い助けて、助けてあげて、私の親友なの」

「良いわ、でも条件がある、一つは貴方の霊力を少しもらうこと、それから。貴方の記憶から彼女を消し去ること……これはあまり良くない提案よ、貴方の命を削り、さらには親友の思い出もなくなる」

「そんなことない!!!私は春菜ちゃんが助かるなら何でもする」

「分かったわ。でも、この子の病気がまた悪化した時、その時は選ばなくてはならない。貴方が死ぬか、この子が死ぬかを……」


また、空間が歪み気が付くとそこは保健室だった。


「で、どうだった?」


 固い表情の佐藤先生が訊ねる


「……」


 なんて、言えば良い?今たぶん彼女の病気が悪化して選択の時が迫ってきている。

しかたない、ありのままに話そう。


 そして、夕香が現れる


「どうやら、皆さん事情をご存じのようで」

「寺田さんはかけがえのない仲間だ、今日ばかりは夕香、お前の好きにはさせない」

「ふーう、やはり死神は死神、どこへ行っても嫌われるのか……」


 夕香はいききれぬ、想いに辛そうな顔をする。


「すまない、つい感情的になってしまった」

「大丈夫、慣れているから」

「俺は何をやっているのだ。解決の仕方なんて分からないよ……」

「あの……私が死ねば、寺田さんは助かるのですか?」

「そうね、もともとあなたが原因」

「寺田さんは忘れてしまったけれど私は覚えている、あの頃のことを、寺田さんと出会えてがお互いに生きる力を得たの、でも、もう良いの……本当は私があの時、死ぬはずだったの」

「分かったわ。なら、あなたの命をもらうわ」


 くっ、反対出来ない、彼女は自分が原因だと知りながら、そして、その因縁に決着を付けようとしている酒井さんの決意に口をはさむことは出来なかった。


 そして、酒井さんは静かに永久の眠りについた。


 その後。保健室に皆で行き、しばらくすると寺田さんが目を覚ます。


「どうしたの、みんなで集まって、そういえば私は何をしていたのかしら?」


 すると寺田さんは突然、泣き始める。


「あれ???どうしたの????涙が止まらない―――おかしいな???何で???」


 彼女も『陰陽の髪飾り』持つことが出来るだけの霊能力者たとえ記憶が消えても大切な友達の死を感じていたに違いない。


 俺は何もできなかった。ただ、泣き続ける寺田さんを見守ることしか出来なかった。

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