第13話 少し平和な日常

 放課後


 科師部に向かう途中で同じクラスの男子に声をかけられる。メガネをかけ身長は低くいが容姿はそれなりである。


「お前、確か科師部なる、活動していない部活の部員だったな。俺が部長やっている、映研に暇なら力を貸してくれないか?」


 確かに科師部は普段はだらだらとしていて部活としては活動していないのだが。裏でかなりハードなことをしているのだが。ま、そうとらえられても仕方ないか……。


「それでだが。今度、本格的な映画を撮るつもりなのだが主人公の冴えない、少年役がなかなか決まらなくて」


 冴えない?少年役……?決まらない理由が分かる気がする。ここで、断るのは簡単だが。しかし、面白そうである。


「一日だけでいいから、俺の演出は自然体だから演技の必要性はない。どうだ、やってくれるか?」


 一日か、体験入部には丁度良いかと。


「よし、やるよ」

「おぉ、大感謝だ。撮影は今度の日曜日だから忘れないように」

「分かった、それで台本は?」

「無いよ、さっきも話をした通り、自分の方針は自然体、その場でお題を言うので、その自然なリアクションがあれば良い」

「そいえば、そんな演出をする映画監督がいたな。でも、ただ単に台本が書けない気がするのは気のせいだろうか?」


 そして、日曜日、映画の撮影をむかえる。映画の内容は『逃避行物』、親の反対で結ばれぬ二人が心中をしに海まで行くという内容。シンプルでよく聞く話だ、しかし、心中まで経緯が無くていきなり旅立ちなのか?疑問は待たない方が良いのかな。でも、これならラブシーンがあるかもかなり楽しみになってきた。


 撮影はまずはバスの中から始まり、相手は『白鳥歩夢』という映研の女優でかなりの美人で身長も高く成績も優秀で、噂で聞いた事があるクールビュウティーの白鳥という美人がいると。


 うーん、確かに美人である、こんな人とラブシーンがあるかもと思うとテンションが上がる。そしてメンバーはカマラマンと監督、そして俺たち二人、四人での撮影会をはじめる。この路線バスでの撮影の許可はとっているのだろうか?確実にとって無い。


「えーまずはポッ○ーネタで行くよ」

「ポッ○ーネタ?」

「お互いポッ○ーをくわえて、食べ進んで最後はキスになるやつ」

「えぇーマジっすか。そんなで俺の初めてだよ」.

「大丈夫、最後まではいかないから。そこは演出の腕の見せ所」


  うぅーん、少し残念な気分は気のせいだろうか。


「行くよ」

「はい」

「よし、撮影開始」


 すると、カメラマン役が目の前に来て、撮影を始める。俺はポッ〇ーの端をくわえると白鳥歩美さんもくわえる。まじかに、美人顔のアップが、そしてお互い食べ始める。だんだん、顔が近づいてくる。何とも不思議な気分だ。演技だと分かっていても、白鳥さんはとても魅力的で本気で惚れそうである。いかん、いかん、これは演技向こうも割り切っているはず、変な感情は後で辛くなるはず。気合いを入れ直せねば。でも、これは悪く無いが……。


「カット、それまで」


 白鳥さんはいつものクールビュウティーに戻る。あんなに俺にベタ惚れの雰囲気はなく。すごい女優だなと思うがこれで終わりか……。うーん、残念、本当にギリギリのところでカットされてしまった。


「お疲れさま」


 白鳥歩美さんは少し寂しそうにその場を離れる。なんだろうこの違和感、まるでキスできなかったことが残念の様だ、今日初めて会ったのに……。


 そして、その後も、バカップルネタをたくさんやらされた。でも、全部寸止め、改めて男役が決まらなかった理由が分かる気がする。そして、海での撮影が始まる。内容はやはりバカップルネタ。あげくの果てに海岸で水遊びをしろと、タオルも無しにできるのかと抗議すると白鳥さんは笑いだし、ある提案する。


「海をバックにして本当にキスをしない?」

「ダメであいます。白鳥さんは皆のアイドルそれではなっとくしない者が多数でます」

「あら、残念。なら海に入るのもやめましょう」

「しかたがないです、これで撮影を終えます」


 あれ、心中シーンは?それらしきシーンは撮ってないぞ、聞いてみるか。


「監督さん、心中シーンは?」

「あ、それ無理」

「は?」

「現実に言うと心中なんて綺麗な物じゃないし、高校の映研レベルで表現するのは無理」

「そ、そうですか……」


 俺は映画の事など分からないが、監督が言っているのだから良いのだろう。


「えーみなさん、撮影した内容を仮チェックするのでしばらく待っていて下さい」


 監督さんが皆に声をかける。すると、白鳥さんが近づいてくる。


「少しお話してもよろしいですか?」

「はい」


 何だろう、その表情はとても寂しげである。でも、その美しさと交わり、魅力的な存在であった。


「実は私もうすぐ死ぬの……」

「はい?」

「医者も、もうダメだって―――ねえ、ここで本当に心中しない?」

「冗談はやめて下さいよ」

「うふ、そうね……冗談よ。だだ、あなたと最後に会えてよかったわ」


 白鳥さんはとてもさわやかな笑顔で立ち去る。何だろ、本当に冗談なのかな、そんな不安がよぎる。


「仮チェック終了、撤収する」


 監督さんが言うと皆、帰路に発つ。それから数日後。白鳥さんが入院したことを知り。


それからさらに数日後……


 後で夕香に聞いたらやはり天寿をまっとうしたらしい。


 俺は白鳥さんの最後の笑顔が忘れられないでいる。心中を冗談だと言った時の笑顔が……。


***


 今日は『T&T』で珈琲を飲みに来た。宮姫、竹野彩萌、イヴ、風夏までも具現化して勢揃いである。もちろんすべて自分持ちである。そして、宮姫はいつも通り、ブルーマウンテンを頼む、皆もそれぞれ珈琲やケーキ頼む。


「おやおや、雄太ちゃん、おそろいで何のお祭りだい?」


 顔なじみのおばちゃんに聞かれる。言えない、竹野以外は一緒に暮らしているとは……。


「私たち女子会がこのモテない男に、ほんの少しだけ、愛をプレゼントです」


 竹野がおばちゃんに対して語りだす。しかし、それはあまりにひどくないか?


「まあ、それは大変、西澤君はそんなにモテないのかい?なら、全員に西澤君へのからのお礼としてチーズケーキをプレゼントするよ」

「おばちゃん。それじゃ、あまりにも高くつくよ」

「良いいだよ、もうここも店じまいしようと思ってね」

「え?店じまい?そんなに大変なの?」

「あぁ、最近めっきり客がね、お客さんに喜んで、欲しいから高くても良い豆を使うからね。赤字ギリギリでね」

「なら、俺たちがなんとかするよ」

「どうするのだい?」

「少し蛇道だがメイド喫茶にする」

「なに?私たちに働けと」


 一同声をそろえる。宮姫はふてくされているが、風夏とイヴが良く分からないようだ。一番機嫌が悪いのは竹野である。


「私は営利目的でマジカルメイドをやっているのでは無いぞ」

「もちろん、ただとは言わない、ここの珈琲飲み放題でどうだ」

「私はともかく、他の人の衣装はどうする?」

「大丈夫、イヴがいる」

「う……ん……分かった」


 竹野は不満げだが仕方なくて言う感じか、宮姫はここの珈琲飲み放題で上機嫌になった。おっと、肝心のおばちゃんに聞かなくては。


「良いだろおばちゃん?」

「本当にやってくれるのかい?」

「はい、絶対この店を潰したりさせません」

「ありがとう、みんな、今日は好きなだけ珈琲を飲んでいって良いよ」


 そして翌日。


 竹野は自前のコスプレ、イヴは普通のエプロン姿であったが、宮姫、風夏はイヴに頼んでゴスロリ系メイド服を具現化してもらいた。そして、俺は裏方で皿洗い。


 当たり前だが裏方も足りなくなるので、必然的にこうなった。また、最近出来た竹野のコスプレ仲間の絵師さんに頼んで萌え系の看板を作ってもらった。


 最初の一週間位は暇だったが徐々に客足が伸び、常連客も増えてきた。


 皆それぞれの個性が客のニーズにこたえているようだ。


「マジカルメイド彩萌ちゃんです」


 まずは竹野、何時もの決め台詞を言いお客さんの心をつかむ。本物のレイヤーであるから問題ない。


 イヴは、普通の格好だが一定の固定客が付いた。深くは考えない方が良いだろう。


 宮姫は身長の高く胸が半分見えそうな格好のゴスロリメイド服で普段はツンツンキャラだが、突然デレたりして、一部マニアに受けている。風夏はピアノを持ち込み接客より生演奏をやっている。これはこれで斬新らしく、その歌声を聴きにメイド喫茶に行き付けている人も遠くから来る客もいる。

当たり前だがすごく忙しいのは裏方の俺である。


 皿洗いだけでもと思ったのだが、これが大変。でも、やはりおばちゃんが一番忙しい。すると。この世の者でないお客さんがくる。竹野が裏方の俺に、混悪の表情で何とかならないかと頼み込んできた。おばちゃんには無理な事、ここは俺が出ていくか。


「お客様どうなさいました?私の連れの霊的存在が接客していますが、普段はごく一般的な喫茶店です」


 どうする?この手の存在とは距離を置いてきた事を考えると力ずくは無理、宮姫や風夏でも無理、何も出来ない。


「お兄ちゃん、私がこのお客さんに帰ってもらう手伝いをしようか?」


 この世の者でないはイヴを睨みつける。


 不味い、イヴが危ない。


 すると、イヴはお札を取り出し『術式紅蓮蛇炎』と唱えると、お札から炎の蛇が吹き出し強面の人たちに襲い掛かる。


「ひぃ―――何だ―――助けてくれ!!」


 この世の者でないたちは大急ぎで出ていった。


「イヴ、今のは?」

「幻術の一つよ、本物の炎も出せるけれどここではね」


 確かに、他のお客さんには見えないらしい。助かった。しかし、すごい技だ、イヴを怒らせるようなことは止めよう。


 そして。閉店後、おばちゃんが話を切り出す。


「固定客も増えてきたからもう良いうよ」


 確かに、ここの珈琲は絶品であるから一度来ればまた来たくなる。色物で勝負しなくても良いようだ。


「分かったよ、おばちゃん、今日で最後にするよ」

「本当にありがとう、今日も珈琲飲み放題だよ」


 少し寂しいが俺と竹野は高校生そういつまでも長い時間は取れない。こうして数週間におよぶアルバイトは終わりを告げた。


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