第12話 ピアノに想いを込めて

 最近イヴが来て以来、風夏の様子がおかしい。どうも俺を避けているようだ。するとイヴが自分の部屋から出てきて。


「お兄ちゃん、お姫様抱っこして」

「あれは、恋人同士がやることなの」

「えーつまんない。私、泣いちゃう」


 うーん、イヴは見た目もそうだが精神年齢が低い。そもそもイヴは信乃先輩の遺伝子をいじって、最強の陰陽師として作られた可哀そうな存在なのだ。


 佐藤先生にも言われたが妹として、もう少しかまってやるか。


「分かった、お姫様抱っこ、すればよいのだな」

「わーい、楽しみ、早くして」


 そうしてイヴを抱き上げると、風夏が通りかかる。


「あ、風夏、最近元気が無いけれどどうしたのだ?」


 風夏は何も言わす通りすぎる。ほどなくしてピアノの音が聞こえる。それは寂しげで、哀しい曲である。すると今度は宮姫が通りかかる。


「なあ、宮姫最近風夏の様子がおかしいのだが知らないか?」

「主殿、それはあまりにも鈍感ですぞ」

「だから、分からないから聞いているのに」

「仕方のない主殿だ、風夏は恋をしているのです」

「え、そうなのか、幽霊でも恋はするうだ」


 俺はイヴをおろし、風夏がピアノを弾いている部屋に入る。やはり悲しげな曲である。


 しかたなく、俺は風夏に話しかける。


「風夏、どうしたうだ?何か宮姫の話だと恋がどうのこうのとのこと」

「雄太さん、新曲が出来たので、聞いて下さらない?」

「あぁ、良いぞ」


 風夏はそそくさと楽譜を取りだしピアノを弾き始める。


「月の明りに願う恋心♪」

「叶わぬ想い♪」

「痛みを感じる胸の鼓動♪」

「きっと、あなたは違う誰かと恋に落ちるのでしょう♪」

「それまで、それまで、私を忘れない♪」

「今はただ、そばにいれるだけで嬉しい♪」

「自分を大切できる、唯一の光♪」

「月の明りに願う恋心♪」

「その儚い光で二人を照らしてよ♪」

「この届かなくても、月明かりに照らされて♪」

「二人は特別でいられる♪」

「夜空の星々が、最高の舞台♪」

「そしてこの想いを届けたい♪」

「今という特別な時間の間に♪」

「せめて今だけは、神様目を閉じて♪」

「その間にキスを下さい♪」

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪


 それは悲しいラブ・ソングであった。やはり風夏は恋をいているようだ、でも誰に?この家で男と言えば親父と俺だけまさか親父でないとすると俺か?


「風夏ひょっとして……」

「風夏お姉ちゃん、雄太のことが好きなの?」


 相変わらずイヴの性格は時に残酷である。俺が気を使い遠回しに聞こうとすると、割って入ってくる。


「なら、私が少しだけその願いを叶えてあげる」


 すると、イヴは呪文を唱える。突然風夏に煙がかかりその姿を覆い、一分位すると煙は無くなり、風夏の姿はウエディングドレスであった。


「二人並んで今から撮影会を始めますよ」


 イヴは何処からかスマホ取り出し、撮影したいと言いだす。風夏はすこし照れくさそうにしているが、嬉しそうである。


「じゃ、始めるよ」


 イヴは何枚も俺たちをスマホで撮影し、風夏も最初は表情が硬かったがやがて、この状況を受け入れて楽しみだした。こうして風夏の想いは少しだけ叶えられた。

撮影会が終わり、イヴは楽しそうに去って行った。風夏も元の姿に戻り。また、ピアノに向かう。


「すこし、明るめに永遠に回り続ける季節の歌を……」



「春の日差しに満ちた空が好き、花々が新しい季節を教えてくれるから♪」

「夏の大きな雲の空が好き、それは豪快で力強いから♪」

「秋の空が好き、高い雲に夏の終わりを告げてくれるから♪」

「冬の星空が好き、透き通った夜空が綺麗だから♪」

「廻り廻り、季節の中・・想いは伝えられないけれど♪」

「友と呼べる人たちは増えていく♪」

「私は嬉しい、諦めていたことが、叶い♪」

「まだ、永遠の季節が流れていく♪」

「恋をすることが出来るのだから♪」

「届かぬ、想い出も今は、幸せ♪」

「愛するということを教えてくれたから♪」

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~


 私は自分の置かれている状況を受け入れた上で。届かない想いを大切にしたい。そして、あれから隠れて、イヴさんに頼んで髪型を変えてもらっている。参考にしているのは竹野さんにも頼んで買ってきてもらったファション誌である。試行錯誤であるが、イヴさんの能力のおかげで、髪型は変える事が出来る。ロングにボニーテール、ツインテール。元々のショートも、少し心躍る気持ちと引き換えに嫉妬という感情に気づく、宮姫さんと雄太さんは死という壁が無ければ二人はきっと……。

だから歌う、この気持ちを込めて……。


…………♪


 うん?風夏がまた歌っているようだ。しかし、今日はいつもより、寂しさを感じる。最近は明るい曲が増えたと思っていたのだがやはり苦労しているのかな。それは、絶望の言葉の数々に少しだけ希望のある曲であった。ちゃんと聴きと取れたのは……。


「私は本当の恋をしている♪」

「これはせめてもの救い♪」

「私は嬉しい♪」

「この想い届かなくても♪」

「希薄な恋愛でないかことが♪」

♪~♪~♪~♪


 恋の歌らしい、俺はあえて深く考えないことした、風夏の歌を聞いて距離を置かなくてはならない気がしたからだ。いや、むしろ風夏の方から歌を聴かせることで、俺に真剣に考え、その答えとして距離を置いてくれるように望んだように思える。

風夏は頭の良い幽霊なので策もなく、恋歌を歌うはずがない。


 何時かはこの世の未練を断ち切り、安らかな眠りにつく日が来ることしを願うことしか出来なかった。そして、宮姫は何か言いたそうにこちらに来る。


「いくら鈍感の主殿でも気づいたようだな。気持ちを伝えることも大変だが。さらに、諦めてもらうそれがどれだけ辛いか、何気無い日常でも変化はある事を主殿には分かっていてほしいのです」


 俺は何時になく真剣な宮姫に返す言葉がなかった。そこで、イヴに頼んで『かんざし』風夏にあげた、竹野から聞いたのだが、髪型を研究しているようなので、気をきかせたのだが。その夜の風夏の歌は何時になく明るく聞こえた。


翌日

「雄太さんお願いがあるのですが、一日買い物に付き合ってくれませんか?」

「良いけど、物ならイヴに具現化してもらえれば良いのでは?」

「私は街で本物を見たいのです」


 それは私が勇気を絞って告白であった。しかし、自分が雄太さんのことを好きと悟られないよう、演技をした。たぶん、一生で一度。いや死んでいるからややこしいが、とにかく勇気を絞って言った。


「ファッション誌では分からない本物の服を着てきたいのです」

「駅前の少し高めのスーパーの専門店に行くか」

「お願いします」

「でも、買うお金は無いぞ、そでも良いか?」

「はい、大丈夫です。私は雄太さんと街で色々と話したいだけです」

「そうか―――それなら行くか」


 私はうれしかたった、子供の頃から病弱で外にもまともに出たことが無く。そして、幽霊して何年も一人ピアノを弾いている毎日、こんな素敵な人と出会えるなんて、人生捨てたものじゃないね。もう死んでいるか。どうも、少し混乱しているようだ。宮姫さんから、貝殻に入った紅を貸してもらった、この紅は霊能力が込められていて霊体でもつけられるので貸してくれた、大切な品物らしいが、宮姫さんにも何か考えが有って貸してくれたのだろう。紅を貸してくれた後、宮姫さんは庭に出て空を眺めていた、何を考えているのだろう?あんな、宮姫さんは初めてみた。切なさ?諦め???


ただ、空を眺めていた。


 私は紅をつけ、雄太さんと出かけていった。そして、店に着き店内に入る。やはり、値段が高い―――こんな店に入って大丈夫だろうか……。


「どうした、風夏?試着だけならタダだぞ」


 そして、店員にすすめられるがまま、試着を繰り返す。そして、白のワンピースに魅かれる、うぅぅ、欲しい。


「どうした?気に入ったのか?」

「はい」

「買ってやろう」

「でも……値段が……」

「気にするな、毎日ピアノを弾いてくれるお礼だ」


 早速着せてもらい、街を歩いて帰る。


 神様お願いこの時間を長くして、もう少し魔法が解けないでいて……。


 普通なら、服を買ってもらい、上機嫌のはず。


 でも、私は違った。この特別な時間が終わってしまうことに対して極度の寂しさを感じていた。


「さあ、もう少しで家に着くぞ」


 シンデレラの魔法は解けた、王子様は私を探してくれるだろうか?


 そうか、宮姫さんはこうなると分かっていて紅を貸してくれたのか?


 意地悪?


 違う、きっと。良い思い出を作って欲しかったのね。宮姫さんも雄太さんと結ばれることが無いから……。


「よし、家に着いたぞ」


 私は空を見上げた。


 青かった。


 今日の思いで大切にしたい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る