第11話 氷の心
科師部でまったりしていると佐藤先生が入ってくる。夕香と零も一緒である。
「注目、皆さんもご存じのとおり死神さんだ」
「また、会えましたね、雄太さん」
「はい」
この前はえらい目にあったかな。
「今回は生霊ではなく。まだ意識はある人の問題。要するに、厄介な死神に目を付けられている。具体的には朝氷柱という死神だ。この死神はとても攻撃性が強く無理やり冥界に連れて行くので『闇の死神』と呼ばれている。つまり、死神の世界にも事情があるのです。簡単に言えば私たちは生死をさまよう者を生かすのが仕事で、その朝氷柱は死の臭いを感じるとすぐ冥界へと連れて行く、これは考え方の違いで私たちも困っている。そこでだが、夕香らに協力して、少し朝氷柱と話あってあまり攻撃的でなく天寿をまっとうした人だけ連れて行くように説得して欲しい」
佐藤先生が真面目に言う。今回もかなり危険そうだ。
そもそも、あの零や夕香でさえ太刀打ち出来ないような相手と話あえか……。
かなりキツイことは確実だ。
「寺野舞君も参加してくれ」
「え~、私そんな危険なことに係りたくない」
「しかたないな、危険なので無理強いはしない、なら西澤君だけでも参加してくれてくれたまえ」
俺が行くことは決定事項なのね。
「宮姫はどうしますか?」
「連れて行きたまえ。これは君を試す試練ではなく、本当の命がけの駆け引き、宮姫の知識も役立つだろう。とにかく、西澤君頼んだよ」
「はい」
「よろしく、西澤君」
零は夕香の横にいるだけで何もしない。相変わらず無口なやつで、俺の力を借りたいならも少し何とかならないかな。しかし、死神なんてそんな者かもしれないが……。
詳し話を聞くと。その死神に狙われているというのは、この学校の水差美佐という生徒であるたぶん自分に依頼が来たのはこの学校に通っている生徒がターゲットだからかであろう。
「とりあえず、その人を屋上に呼び出しておいたわ。そして、朝氷柱が現れるのを待つだけ」
「て、本人をエサにするとはなんと無責任なやり方だ」
そして、日本人形の様な幼い少女が現れる。その服装は黒く、俺の弱い霊能力でも分かるくらいの威圧感を感じる。無口で大きな零なんかよりよっぽど怖いと本能的に感じる。
「あら、夕香さん久ぶり、何の用でこんなところに?」
「とぼけても無駄、分かっているはずよ」
夕香は真剣なまなざしで話、朝氷柱と対峙する。
「まぁ、また私のじゃまをしようと?」
「当たり前よ、人は天寿をまっとうするべきです」
「死にかけている人間を殺して何が悪くて?」
「話合っても無駄の様ね。なら力ずくで……」
「まぁ、怖い私は戦うつもりは無くてよ」
しかし、その周りには氷柱が召喚されている。向こうも戦う気が満々の様だ。
「やめろ、ここで戦っても無いも得られないぞ」
俺は朝氷柱に呼びかける。
「うん?私が見えて?そういえば『陰陽の髪飾り』をお持ちで、厄介な人を仲間にして、なんて下品なのでしょう」
「下品?あなたに言われたく無いわ、あなたのやりのほうが、よほど下品でなくて」
「そうね、まだ、生きる可能性がある人を殺すのは美しくないわ。でも疼くの―――この手で冥界に連れて行く快感がたまらなくてよ。あら?その『陰陽の髪飾り』見覚えがあるわよ」
朝氷柱が宮姫に声をかける。どうやら知り合いのようだ。ということは、この朝氷柱も江戸幕府より前から存在していたのか。
「うん?宮姫なのこれまた、驚いたわ、あの陰陽師が元気で?」
「おのれ、何と嫌みなやつじゃ、あれから何年経っていると思う」
宮姫は嫌悪感をあらわにする。こんな怖い顔を見るのは初めて、よほど以前に何かあったのであろう。
「そうでしたね、ということは隣にいるのが新しい主で?」
朝氷柱がこちらを見てくる。正直。怖い朝氷柱のこちらを見られると改めて朝氷柱の危険さは分かる。
「おぬしには関係ない話じゃ」
「関係あってよ、あの陰陽師の様な霊能力がその新しい主にあれば厄介ですもの」
「安心して、今の主殿は霊能力が皆無じゃ」
「そう、それは残念。あの陰陽師と決着を付けようと思ったのに」
「私の知らない昔の話など、どうでもよい。やるのかやらないのか?」
夕香はイラついて話しかける。
「たしかに、なにか冷めてしまいましたわ、あの陰陽師と決着が付けられると思ったのに、夕香あなたでは役不足ですよ、あぁ―――あの陰陽師と互角の勝負が出来て、それでもお互いの存在をかけた闘いに挑む快感が忘れられないわ」
朝氷柱の表情はとてもうれしそうになる。
お互いの存在を賭けた戦い。聞いただけで寒気がする。
「今日のところは帰りますわ、でもその子の命は必ずもらいうけてよ」
すると、朝氷柱は氷の塊を消し、飛び去っていく。
「ふぅ、なんとか最悪の事態は避けられた」
夕香はその場に座り込む、よほど緊張していたらしい。たぶん本気で戦えばどちらかが……。
すると、呼び出した女子生徒が話しかけてくる。
「あなたなの、何のために呼び出したの?まさか告白じゃあないでしょうね?あなたみたいな人はタイプでなくてよ、キモいからやめてよ」
そう言って女子生徒は去って行った。そんな、命がけで守ってあげたのにそれは無いでしょう。うーん今日はかなり疲れたな。でも、問題の解決にはならなった。
これからどうなるのだろう。
***
朝氷柱がビルの屋上で夜景を見ている。
「どうした?珍しく物思いでもしているか?」
「お前か」
それは中学生くらいの少年であった。色は白く、美少年であるが、やはりこの世の者でない気配を感じさせるのであった。
「この永遠、いつまで続くのかな」
朝氷柱は下を向き目を瞑る。
「名無しのお前に言っても仕方ないか」
「なにを言っている?君、自身が望んだこと」
「そうだったな、死神として永遠の苦しみを選んだ」
時は平安時代
私は貧しさから親にどこかの金持ちに売られた。一生、奴隷としての始まりであった。
「初めまして、私は朝と言います、これからこのお屋敷で働かせてもらいます」
私はこの屋敷の主人に挨拶をする。優しい人だと良いのだが、明らかに強面である。
「勘違いするなよ、死にかけるまで働いてもらう。安心しろ、顔だけは傷つけないでやる」
そう言うといきなり……。
「ウグ……」
本当は叫び声でもあげたいところなのだが。本能的に危険と判断し、心の底から我慢して呻き声だけですます。この状況で悲鳴をあげれば、さらなるに仕打ちを受けると私にも理解できていた。
「返事は?」
「はい、ご主人様……」
どうやらこれから人生楽しいことになるらしい。そして、私は家の雑用を任されることになった。そこには奴隷の先輩が居た、私より幼いが仕事はテキパキとこなしていた。
「私の名前は朝よろしく」
「はい、新しく入った人ね。私はお花、もう何年もここで働いているの、分からないことがあったら何でも聞いてね」
私たちはすぐに友達となった。しかし、地獄に友達が居ても地獄には変わり無かった。息子や奥様も人とてしては扱ってくれなく、ただの人形と化していた。そう、血の通わない人形として、夜遅くまで仕事をさせられ。誰よりも早く起き朝食作りや洗濯をしていた。仕事は数え挙げればきりがない。そして、日常的な暴力は当たり前だった。顔以外のアザは日に日に増えていった。
そして、事件が起きた、どうやらこの家の息子が花瓶を壊したらし。
しかし……。
「お花、お前が壊ししたのだな?」
「旦那様、私ではございません」
すると竹刀で腕を叩かれる。
「お花、お前だな……」
「旦那様、私ではございません」
今度は―――――――。
お花は一瞬息が出来なくなったようだ。
「もう、一度聞く」
「はい……申し訳ございません」
そのあとお花が受けたものは語らないでおこう。
そして、翌朝、お花は首を吊り自ら命を絶った。
次は、私、ここにいればどちらにしろ、殺される。そんなことを考えながら屋敷の屋根上で途方に暮れていた。
すると、一人の少年が横に、いつの間にか立っていた。
「君、なかなか、面白いことになっているね」
「誰……?私を笑いに来たの?」
「君は選ばれたのだよ」
「え?」
「君の持っている霊能力はすごい、どうだね、こことは違う新しい仕事をしないか?」
「ここから、助けてくれるの?」
「あぁ、君が望めば……」
「助けて下さい、お願いします」
私はここから抜け出せるなら何でもする。そう、たとえ悪魔に魂を売っても。私は一瞬の迷いを捨て死神として生きる。いや、正確には、死して永遠に生きることを選んだ。
現代
「珍しいね、君が迷うなんて」
「そうね、少し、あの西澤とかいう男にイラついていただけ、あの人に、生前に出会えたなら」
朝氷柱は下に向いた目を開け決意の表情になる。
「僕じゃあ不満かい?」
「そんなことなくてよ」
朝氷柱は少し嬉しそうに答える。
「そうか……でも、僕らは彼らとは違う道を進んでいる。いつかは決着を付けなくてはならないね」
ビルの屋上二人は夜景をいつまでも見ていた。
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