第6話 花

 竹野彩萌とイベントに行きことになった。結局友達は俺だけか、仕方ないかあれからまだ時間が経っていないし。それで、今回はアイドル声優の初回限定版CDのサイン会である。この街で一番大きな総合ショッピングセンターへ行くのであった。

しかし、サイン会に来ている人は少なめで、俺も全く知らないのでまだアイドルとして売れてないのだろう。俺たちの番が回ってくる。アイドルは疲れているのか元気がない。


「あなた、その肩に乗せているのは何?」


 アイドルが訊ねてくる。


「宮姫が見えるの?」


 どうやら、霊体化した宮姫を見る事が出来るようだ。竹野でさえも霊体化した宮姫は感じることしか出来ないのに、かなり霊力が強いと思われる。


「はい、少しだけ……後で話があります、少し待っていて下さい」


 すこし、深刻な話のようなので竹野彩萌を帰し、サイン会が終わるまで待つことに。


「すいません、待たせて」


 少しやつれ、疲れているようだ。アイドルの仕事も大変なのであろう。


「イヤ、気にしてないから、それで話というのは?」

「先日、兄が病で亡くなったのですが、兄のお墓の周りに季節外の花がさいているのです」

「季節外れの花とな、主殿ここは力貸してあげようではないか」


 珍しく宮姫が積極的になる。


「宮姫、お前が言われなくても、俺はこの人を助けるぞ」

「そうか……主殿のその考え方は……あのお方に似ている」

「あのお方?」

「いや、何でもない」


 宮姫は俺に何か隠している。いや、というより。俺を見て思い出しているようだ。


「どうか調べてください」


 彼女は深々と頭を下げる。


「頭を上げて俺らもレベルの低い能力しかない。期待できるほどの成果は得られないかもしれない」

「本当にありがとございます」

「うむ、では、早速調査じゃ」


 そして、問題の墓地へと向かった。


「ここが兄の墓です」


 確かに墓石の周りには季節外れの花が咲いていた。それは美しく咲いていたが少し霊気を感じる。どうも、霊的具現化のようだ。季節外れの花を霊的具現化には幾つかの意味があるのではと考察する。そして、宮姫は何か考え込んでいる様子、まるで思い出の花の名前が分からなく、想いを巡らせているようだ。


 そう、時々、耳にする『あのお方』と関係するのかと考える。


 すると、宮姫は何かに気づき目が光る。


「そろそろ、出てきたらどうじゃ」


 すると、二十歳くらいの背の高く顔の整った男性の霊が現れる。


「君たち僕のこと見えるの?」

「あぁ、そなたの考えていることは季節外れの花を見れば分かる。あなたは妹に感謝の想いから、この花を咲かせているのだろう?」

「人形の様な人にはすべて分かっているようですね」

「そうじゃのう我も……イヤ、止めておこう。とにかく、妹に感謝を伝えて、早く成仏、せい。我が一瞬だけそなたの姿を見えるようにしてやる」


 そると男性の幽霊が実体化していく。


「お兄ちゃん?お兄ちゃんなの?」

「え……そうだけど……妹と会話だなんて、何って言ったら良いのかな??」


 突然、具現化され戸惑う幽霊だった。当たり前だ、今まで誰にも見られることがかく戸惑って当然のこと。


「分かっているわ、季節外れの花の意味をずっと考えていたの。お兄ちゃんなら……」

「そうか」

「お兄ちゃんは私に感謝を言いたかったのね」


 青年の表情に確信を得たのか少女は笑顔で話していた。


「うん、病弱な俺を最後まで面倒見てくれてありがとう」


 そして、男性の幽霊は天に召されて行くのであった。つかぬまの兄妹の再会に五月の風が季節外れの花を揺らす。


「この花も枯れてしまうのかな?」

「主殿、そなたの考えていることはだいたいわかる。我がこの季節外れの花に霊力を入れておいた、もうしばらくは咲いているだろう」


 それを伝えて俺達は帰ることに。


 そして、この花が枯れる頃には心の整理がつくのだろう。帰りの道。何故、宮姫があの幽霊の気持ちが分かったか考えていた。


 『あのお方』か……。


 もし、本当に宮姫がその心を開いた時に話してくれるだろうか?


 そんな想いを考えながら帰路にたつのであった。そうれから、あの季節外れの花の名前は『コスモス』であった。季節外れの花が伝える想いに俺は帰り道の中で浸っていた。

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