第5話 科師部

 放課後


 何時も様に帰り支度をしている。不意に廊下の方を見ると黒猫が通り抜ける、毛並が良いので飼い猫のようだ。しかし、普通の生徒には見えていないらしい。


「あれは……」

「間違いない霊的存在じゃ」

「宮姫も気づいたか?」

「うむ、どうする?」


 宮姫は真剣な顔をして言う。


「また面倒なことに巻き込まれるぞ」

「行こう……何か呼ばれた気がした。そもそも、学校に霊的存在が居ること自体がおかしい。今まで見たことがない訳だから、きっと宮姫に関係がある可能性が高い」

「主殿がそう言うなら、反対はせぬ。たぶん、誰かの式神なのだろうが、わざと見えるようにしているということは。やはり、向こうから用事があるのだろう」


 俺たちは急いで黒猫を追いかけて行った。教室を出ると廊下の曲がり角をちょうど曲がりその姿を消す俺たちも急いで角を曲がる今度は3階の階段を上がる所だった。また、ギリギリのところ。そんなことを繰り返しているうちにいつの間にか学内のはずなのに知らない場所まで来ていた。


「どうやら、式神の主の結界の中に迷いこまされたようだ」


 宮姫はかなり、緊張しているようだ。


「宮姫ヤバいかな?」

「うむ、我は闘いができぬ。式神の使いがその気なら簡単にやられてしまうだろう」


 すると、黒猫はある部屋の中に入って行った。どうやら目的地に着いたようだ。


「宮姫、行くぞ」

「うむ、さて、どんな人が式神の主かのう」


 俺たちはそっと部屋に入る。


 そこは水槽にカラフルで小さな熱帯魚が泳いでいて、本棚には有機化学の専門書と怪しい趣味の本、部屋の中央には高価なテーブル。その上には昔流行った正六面体の色合わせのパズルが置いてある。


 しかし、何かおかしい。何だろう、この激しい違和感は……。些細な事のはずなのに分からない。


「あれは『霊力測定器』じゃ」


 宮姫は正六面体の色合わせのパズルのことは知らないはず。


 たぶん、その特徴から言っているのだろう。


「『霊力測定器』?確かに霊的な力を感じる、違和感はこれなのか」

「そう、どうやら、何者かに試されるようじゃ。あれを解けるだけの力があるかだ」

「よし、その挑戦受けてたつ」


 俺はパズルを手に取り試行錯誤でパズルを解こうとすると、まるで答えが自然と分かる気がしていた。この手のパズルは苦手なはずなのに、どうやら霊能力で難しさの違いが出るようだ。数分ほど格闘していると。


「解けた!」


 俺はパズルをテーブルの上に戻すと奥の部屋から、ショットカットの似合う頭の良さそうな女性とギャル系ファッションの女子が出てきた。


「入部試験合格おめでとう。でも、これは最低限の試験あまり過信しないように」


 頭の良さそうな女性が厳しいことを言う。どうやら霊能力では勝ち目がないらしい。


「あぁ、受かっちゃった。その『陰陽の髪飾り』君にはもったいないよ」


 ギャル系の女性が残念そうに、少し皮肉まじりのことを言う。こっちはこっちで強敵だ。そして、二人とも『陰陽の髪飾り』を肩の上に乗せている、


 賢そうな女性は『くの一』風の『陰陽の髪飾り』であり。ギャル系の女子の『陰陽の髪飾り』はチャイナ服を着た者であった。さらに、奥から黒猫抱いて初老の人が出てくる。あれは社会系担当の佐藤大悟先生だった。


「二人とも自己紹介しなさい」

「はい」


 賢そうな女性徒は素直に返事を返す。


「えーかったるい」


 多分、嫌味ではなく性格的に表現の仕方なのだろうが、もう少し考えて言葉を選んで欲しいと思うが。


「寺田失礼だぞ」

「はーい、私は寺田舞。この『陰陽の髪飾り』は光君これでも男の子よ。それと、私は『BL』にしか興味が無いから口説いてもダメよ」


 いきなり過激な宣言だ。なるほど、男娘の『陰陽の髪飾り』か……。


 確かにこの部屋の本棚にはその系の本がたくさんあるが、こんなギャル系でも『BL』の好きがいるのだな。


「私はこの科師部の部長の信乃桜子、化学部部長も兼ねている。私は男には興味は無い、ベンゼン環の方が好きだ。私の『陰陽の髪飾り』は戦国時代には忍びとして活躍した実用型で戦闘も出来る。お前のような何もできなそうな者と一緒にしないでくれ」

「相変わらず、二人とも毒舌ですね。大丈夫二人ともツンデレじゃ」

『先生!!そんなことないです』


 二人は同時に同じことを言う。どうやら色々適格だったらしい。


「はい、それで君の名はなにかな?」

「俺は西澤雄太。この『陰陽の髪飾り』は宮姫です」

「そうか、最近、力に目覚めたようだが、どうじゃこの科師部に入らんか?この部は『陰陽の髪飾り』の同好会しゃ」

すこし、迷ったが同じ『陰陽花嫁』を持つもの同士、話が合うかもしれない。


「はい、分かりました、入部させてください」

「そうか、なら珈琲でものみますか。ここの珈琲はその場で豆をひいてから作るから美味しいですよ」

「ブルーマウンテンは有るかのう?」

「宮姫!失礼だぞ。それにブルーマウンテンは高いから。まして豆からとなると」

「構わないよ。入部祝いだ、豪勢にブルーマウンテンを飲みますか」


 そして、佐藤先生は珈琲の入れる準備をする。その間に二人の部員と話でもするか。


「寺田さんはいきなり『BL』好き宣言ですが、本当に本物の男性には興味が無いのですか?」


 「そうね―――うーん―――本当は―――イヤ――でも―――西澤君なら―――何でもない……」


 何か混乱しているのでこれ以上は話すのは止めておこう。


「信乃さんは有機化学が得意のようですが、楽しいですか?」

「もちろんだ、ベンゼン環は有機化学の基本、芳香族炭化水素に分類され、染料、香料など………………」


 しまった、化学の授業は取っていなかったので。何を言っているのか分からない。いろんな意味で聞いてはいけないことだった。


「『デオキシリボ核酸』通称DNAなどや『リボ核酸』ことRNAは…………」


 何か、さらにレベルが上がっていくし。困ったどうしたら話が終わるのか。


「通常核外の環状DNAで………………」


 言葉が出ない、これ以上はキツイ……。


「珈琲ができたよ、こっちにおいで」


 佐藤先生が声をかける。助かった、一時はどうなることかと心配したが何とか解放された。そして、さっそく珈琲を飲む。


「美味しですね」

「そうだろう、豆からこだわっているからね」

「ここの珈琲は美味いぞ」


 宮姫も気にいったようだ。そして、それぞれの『陰陽の髪飾り』の話をする。こうして帰宅部だった俺は、何かよく分からない部活に入ることとなった。



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