第4話 マジカルメイドの事情

 ここは自分の部屋のはずなのにすごいことになっている。風夏はアニソンをピアノで弾き。

 宮姫と竹野彩萌が卓袱台に座り珈琲を飲みながら語りあっている。何故、このようなことになったかというと一時間前のことである。


一時間前


 今日は学校が早く終わったので、風夏に頼まれていた楽譜を買ってきた。それは時事の曲を弾きたいと言い出したので、仕方ないので最新のアニソンが載っている楽譜を買ってきてあげた。


 早速、風夏はアニソンを弾き始める。すると、ピンポンとチャイムが鳴る。誰だろう両親は共働きでいないのでしぶしぶ玄関に行き不用意にも誰か確認せずドアを開けてしまう。


 そこにいたのは竹野彩萌であった。マジカルメイドの恰好ではなく制服だった。


 しまった、ややこしいのが来た。


「竹野さん何の用ですか?」


 ここは穏便に済ませたいのでなるべくていねいに扱うことにした。


「どうして俺の家を知っているの?」

「気にしないで、マジカルメイドに不可能は無いのです」


 何が不可能はないのか分からないが、ここは平常心で対応しよう。


「それで、マジカルメイドさんが何の用ですか?」

「何を言っている、ピアノの音が聞こえたので来たのです」


 げ、お前にも聞こえるのか。


「確かに、ピアノは弾いていますが、それがどうかしましたか?」

「シラを切るな、あれは霊的な物のはず」


 竹野は真剣な顔で俺に迫ってくる。不味い、どうしよう。やはり、ここは冷静に対応しよう。


「それで、仮に霊的な物だとしてマジカルメイドさんには、何か関係ありますか?」


 恐る恐る聞いてみる。


「ずるいぞ、あんな美しい曲をしかも最新のアニソンではないか、私にも聞かせろ」


 お前はオタか……ま、マジカルメイドなどやっている時点でオタ確定なのだが。


「分かった、何もしないなら、入れてやろう」

「約束しよう、今日は何もしない」


 竹野を自分の部屋に通すと宮姫が高校生くらいの姿で待っていた。


「こんにちは、妹の宮姫です」

「うん?何か臭うがまあいい」


 どうやらばれていないようだ。しかし、何故、高校生の姿なのだろうか。よく見ると風夏も実体化している。ややこしいことにならなければ良いのだが。


「ごきげんよう、私は雄太さんのお友達の風夏です」

「あなたがピアノを弾いていたのですか?」


 竹野が風夏に問いかける。相変わらずストレートな娘だ。


「はい」

「良い曲だ」

「ありがとうございます」


 風夏は愛想良く答える。どうやら、問題は起きそうにない。


「しかし、アニソンを弾くとは、あなたとは友達になれそうだ」

「そうですか?私には良く分かりませんが」

「なに、アニソンと知らずに弾いていたのか。ま、それもそれで良いがちゃんとアニメも観るのだ」


 しかし、やはりアニソンの楽譜を選んだのは失敗だったかな。でも、時事の物となると色々限られてくるし、俺もアニソンは嫌いでは無いから問題なかろう。


「そうだ、マジカルメイドに着替えて叫びたくなったぞ」


 そして、竹野さんは部屋を出て行った。しまった、大きな荷物を持っていた時点で気づくべきだった。


『一五分後』


 ドアをバシと開けて竹野さんが入ってきた。


「どんな悩みも一発解決、マジカルメイド彩萌ちゃん参上」


 うん?若干露出が減っている、先生と交渉とか言っていたから、少しずつ手直しをしているのか。しかし、自作なのか買ったのかは不明だがよくできている。


「さて、決め台詞もきまったことだし、お茶でも出してよ」


 なにを考えているのだ。この娘はもう少し常識を考えて行動できないのか。


「我も珈琲が飲みたいぞ」


 いかん、宮姫にも何か感染している。


「分かった。今、入れる」


 俺はしぶしぶ立ち上がると。


「何を言っている。せっかくだ、インスタントではなくちゃんとしたやつを買ってこい」


 いろんな意味で最悪の展開だ。


「分かった、コンビニの珈琲で良いだろう?」

「うむ」

「はい、はい」


 コンビニの珈琲ならそんなに高くないしよしとするか。俺はコンビニで珈琲を買って家に戻る途中、ピアノの音が聞こえる。竹野はこれを聞いて家を見つけたのかな……。


 家に帰って珈琲を飲のむ為に卓袱台を出し皆で飲み始める。そして、風夏はアニソンをまた弾き始め、竹野は宮姫に人生相談を始める。


「宮姫ちゃん。私、最近これで良いのか迷っているの……」

「ほう?」

「何か居るのは分かるのにそれがなんなのか分からないの」

「気にする必要はないわ、人それぞれなのよ」

「そうね、マジカルメイド彩萌ちゃんは受けが悪くても続けるわ」


 竹野は何か納得したようにうなずく。たとえ相手が宮姫でも認めてくれたことに自信を取り戻したようだ。


「我にはそのマジカルなんとかは良く分からないが、好きなことを続けるのは良いことだ」

「宮姫ちゃんはまだ高校生くらいなのにしっかりしているわね」

「ありがと、これでも苦労したこともあるのよ」

「そうなの―――大変でしたね」


 なにやら二人だけの世界に入り始めている。『陰陽の髪飾り』とマジカルメイド不思議な組み合わせである。


「主殿、珈琲が切れたわ、また買ってきて」

「はい、はい」


 なんか居酒屋で初めて出会って、意気投合したサラリーマンの様な状態だ。そして、この雑談は何時間も続くのであった。


 一週間後


 俺の家にまた竹野が転がり込んでいる。竹野は風夏に古い名作アニソンの楽譜を渡し弾いてもらっている。宮姫とは人生相談からアニメやコスプレについて語っている。


「竹野?お前相手をしてくれる友達はいないのか?」


 かなり率直だがはっきりさせなければ、友達として心配になる。既に俺という友達がいるか。でも、俺だけで良いのかな?


「居ないよ、最近妙にここにいる人たちに親近感がわいてね」

「俺にはわかないのか?俺はお前のこと友達だと思っているが。もし、俺に彼女が出来たらその時はどうするつもりなのだ?」

「何を言っているのだ。そういうことは鏡を見てから言えよ」

「うぅ…………」

「私は宮姫や風夏といると同族の臭いがして良いのだ」


 幽霊と『陰陽の髪飾り』と同族?俺は色んな意味で竹野が分からなくなったぞ。


「それはたぶん、友達が居なかったという共通点ではないでしょうか。私にも友達が居なかったので、何か引きあるものがあったのでしょう」


 確かにそれは言える、少し前まで竹野は一人でいた。


「竹野。お前は他に友達を作ろうかと思わなかったのか?」

「私も小さい頃は友達もいた。しかし、魔法少女に目覚めてから。友達は居なくなった」

「要するに、マジカルメイドの方が楽しかったのか」

「そうとも取れる」

「コスプレ仲間はできなかったのか?」

「コスプレ?何のことだ。私は魔法少女だぞ」


 竹野の痛い言動にも同様することなく、普通に会話が続く、風夏には魔法少女が何か理解できているのか?


 いや、理解して冷静な対応が出来ているに違いない。しかし、世の中には面白い人も居るものだな。


「とにかく、友達が居なくて寂しいからなのだろ?」

「うーん、私もマジカルメイドなどやっていると寂しいことが多々あるがこれも、私の使命と割り切っている」

「あれ、私や宮姫さんに比べればかなり、良い人生を送っていますけど、ここは少し、本当の寂しさを歌にしてみましょう」


 ♪


「今日は晴れ、だから、明るい歌を歌いましょう♪」

「今日は曇り、だから、にごった歌をうたいしょう♪」

「今日は雨、だから、暗めな歌を歌いましょう♪」

「今日は……何時まで続くのかしら、この一人ぼっち♪」

「今日は……もう、言葉にならない、寂しさ♪」

「歌うことをやめてしまったらもう、耐えられない♪」

「だから、今は歌う、孤独で潰されそうでも♪」

「だから、今は歌う、寂しさから、自分を見失わないように♪」

「だから、今は歌う、きっと見失ったら戻れない♪」

「庭に来る小鳥たちが、友達が出来ないけれど私は嬉しい♪」

「春に咲く庭の桜、散らないで、もう少し春の季節を感じたい♪」

「夏の日差し、その暑さを感じられない♪」

「秋は嫌い、その季節の儚さに。また、一年経とうしている♪」

「冬の雪の白さも、私の友達、溶けないで今は一人だから、せめて♪」

「そして、一番の親友がこのピアノ、私に音を感じさせてくれる♪」

「一日が早いのか遅いのかさえ分からない♪」

「一週間が早いのか遅いんかさえ分からない♪」

「一か月が早いのか遅いのかさえ分からない♪」

「一年が早いのか遅いのかさえ分からない♪」

「十年が過ぎあなたと出会えた♪」

「きっと、十年は長いのだろう。こんなにも嬉しいのだから♪」

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪


「どうでしょう?竹野さん」

「で、私にどうしろと?」

「そうね、ここで私たちの相手をしてくれるのも嬉しいけれど。

あなたはまだ生きている。まだ、生きている。それだけ、言いたかっただけよ」

「なんか、それじゃあまるで、二人とも死んでいるみたいじゃない?」

「あら、あなたなら分かっているはずよ、現実をよく見てね」

「うぅ―――たしかに、そうかもしれない……」

「少し、きつく言い過ぎたかしら」


 竹野は下にうつむいたまま、動けないでいる。かなり堪えているようだ、竹野も分かっていたはず。ここに居ても表面上は楽しくてもそれが問題であることが……。


「なら、少し。明るめの歌を……」

「十年が過ぎ、君たちと出会えた♪」

「毎日がバラ色。たとえこの身が滅んでいても、感じることが出来る♪」

「あなたの温かさを♪」

「きっと気づいていないのですね♪」

「あなたは、多くの人を救うことが出来ることを♪」

「だから、今は歌う、あなたがくれたぬくもりを♪」

「そして、いつの日かあなたは気づくでしょう♪」

「あなたの優しさが世界を包む日がくることを♪」

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪


 うん?この歌は何なのだろうか?俺が首を傾げていると。


「……私のことじゃないよね?」


 竹野が呟くと下を向いてしまう。


「そうね、竹野さんは『マジカルメイド』で世界を救うなんて言っているけど、その力がある人は特別なことをしなくてもいずれは活躍できるわ」


「では、この曲はあの鈍感のことか……」


 なにやら含みのある会話が続くな。俺は複雑な気分だぞ。


「確かに、世界を救うのは大げさだけど、いくつかの悲しみは救うことが出来るはず。それは鈍感だけでなく竹野さんにも言えてよ」


 幾つかの悲しみを救う力か……風夏は良い表現をする。


「分かったわ。まずは、コスプレレイヤーの友達を作る」

「少しは分かってくれたみたいね、私も嬉しいわ」

「話がまとまったことだし、休憩を入れましょうか?」


 宮姫が言うということはまさか……。


「主殿、珈琲を買って来てください」


 やっぱり、買いに行かされるのね。しかし、そんな風夏にも癒しの力があるようだが。


「主殿の良いところは即、断行のはず」

「はい、はい、行ってきます」


 なにやら、落ち着いて、考え事も出来ないな、仕方ない。行きくとするか。そして俺は近くのコンビニへと向かった。


 しかし『あの鈍感』がやはり気になる、風夏は俺のことを言っているのだろうか?


 ま、深く考えなくても良かろう。しかし、風夏は最初のころは寂しさを歌うことが多くなったが最近はとても楽しそうに歌う。癒すメロディーか……風夏自身の心が変わったのかな。


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