第7話 試練

 翌日。


 携帯のメールに科師部で何か急な用事があるとのことで呼び出される。寺田舞さんは女性向けの雑誌を読んでいる。また、信乃桜子さんは有機化学の本を読んでいる。信さんは有機化学なら大学院生レベルだという噂である。確かにこないだの話はレベルが高すぎて困ったので、たぶん噂は本当のことだろう。すると扉が開き佐藤大吾先生が入って来る。


うん?一緒にいるのは?


「はい、皆さん注目」

「先生その子は幽霊ではないですか?」


 寺田さんが佐藤先生に詰め寄る。ここは結界で守られているので作為的に入れなければ霊的存在はもちろん一般人でさえ入れないからである。


「そう焦るな、しっかり説明する」


 佐藤先生は隣に幽霊を横に立たせる。


「えーこの生徒は、私のクラスの子で名前が綾瀬時子で俗に言う生霊です。交通事故で大怪我をして。今、生死の境目をさまよっている。諸君らに頼みがあるのだが、この子をある者から守って欲しいのだが」

「生霊を守る?」

「西澤君はこうゆう経験は初めてですか?」

「はい」

「では、西澤君にお願いしますか」

「俺が?」


 生霊を守る?単純に分からない、病院に居る本人でなく生霊の方を守るのか?ここは説明を聞くべきだな。


「くわしい内容は私が説明してあげる」


 そこにはいつの間にか高校生くらいの女性が椅子に座っている。気配からして、この世でない者。その姿は、肌は透き通る様な白さらに、それに合わせたような白く美しい着物をいている。


 「私の名は『夕香』でこっちの大きいのが『零』よ」


すると、黒いフードをかぶった大男が床の下からスーッと浮き上がってくる。


「私の目的はただ一つ、その子を『冥界』へ案内する者です。」

「冥界?」

「簡単に言えば死神です。つまり、死にかけた人を冥界に案内することです」


 夕香は確かに人の形をしているが、生身の人間とはまったく異質な存在であった。そう、霊体とも違い。もし、本当に死神がいるとしたらこの人たちをいうのだろう。


「少し、ゲームをします。ルールーは簡単今夜0時から朝の日が昇るまで、城跡の公園で鬼ごっこをするだけです」


 確かに城跡の公園が広いので大変そうだな。そもそも、向こうのスピードが分からない。


 おそらく、死神なので疲れや息切れをして能力が落ちるのは無いだろうから、頭を使った戦いをしなくてはいけないはず。


「それから、この零は少し手加減が出来なくてね、君にはこれをあげる」


 夕香は手品のように石を取り出し俺へ投げ渡す。


「この石は『賢者の石』でこれを持っていれば零は攻撃してこないわ、これくらいのハンデは必要ね。もし、自分の命と引き換えにその子を守りたかれば、その石を彼女に渡すと良いわ」


 自分の命を犠牲にして、他人を守る。何か究極選択をしなければならない可能性があることか。確かに命がけで誰かを守るのは聞こえが良いのだが、現実どこまでできるのか不安である。


「ではまた、0時に会いましょう」


 そう言うと二人は消えていた。何か大変なことに巻き込まれたみたいだ。


「大丈夫ですか、佐藤先生?」


 俺はこの状況に戸惑いを隠せないでいた。もし、やられそうになったらどうする『賢者の石』があるから、極論を言えば関係ない話ではあるが。しかし、それでは意味がない、彼女を守ってこその戦いである。


「いきなり、他人を守れと言われても、理解できないかもしれない。綾瀬さん、少し事情を説明してあげなさい」


 すると、綾瀬さんは自分の額に指を伸ばす。すると、病院で人工呼吸器を付けた少女が見える、隣で両親らしき人が隣で泣いている。


 これは夢???


 いや、現実の光景が彼女を通して感じられたのだろう


「どうじゃ、少しは現状が理解できたかな?」


 どうやら何が何でもやらなきゃいけないらしい。


「このゲームの攻略点はあまりウロウロするより、どこかに隠れていた方が良い」


 佐藤先生はアドバイスをくれる。確かに相手の動くスピードが分からない状態で動きまわるのは危険、適格なアドバイスである。


「はい、そうします」

「まだ、時間があるし仮眠すると良い、両親には合宿と私から伝えておこう」

「お願いします」


 このような時に教師という立場は大きい、部活の合宿で泊まると言えば何も問題もない。しかし、命がけのゲームをするとは口が裂けても言えない。


「それから、宮姫は連れて行けないから」


 それもそうか、こんな危険なゲームに宮姫を連れて行っても仕方ない。


「宮姫、今日は留守番してくれ」


 俺は少し寂しが、仕方なく言う。確かに宮姫ではあの死神には、たちうち出来ないであろうから。それに、このゲームに乗ったのは俺、関係ない宮姫を巻き込むわけにはいかない。


「了解したぞ、死なない程度に頑張ってね」


 おいおい、皮肉なのか冗談なのか分からないことを言うなよ。


 そして。


 城跡の公園、時間はもうすぐ0時だ。緊張する。当たり前だ、これから命がけのゲームをするのだから。


 しかし、佐藤先生も無茶な事をやらせる。いくら『賢者の石』が有るとはいえ。負けたら彼女の命は無いのだから。もしもの時どうする……死神に見つかれば、どちらかが死ぬ。


 イヤ、止めよう……これ以上考えても答えは出ない。


 すると。また、いつの間にか死神の二人が現れる。相変わらず大男の方は怖いし。むしろ、少女の方が力的なものではなく。何かの決意を感じる。たぶん、何かの事情があって死神をやっているのだろ。また、考えさせられる。


 何故、死神がいるのか?どんな人が選ばれるのか?


 俺は答えを探してした。そして、夕香が前に出る。


「さぁ、ゲームを始ますか。十分間、待ちますので好きな所まで逃げてください」

深く考えていても仕方がない。ここはゲームに集中しよう。

「分かった、綾瀬さん急ごう」


 そして、綾瀬時子の手を繋ぎ走りだす。しばらくするとトイレが見えてきた。この裏に隠れよう。しかし、生霊とは不思議な存在である、霊体のはずが手から温もりを感じるが人肌とも霊体とも違う。たぶん、霊体としては不完全な存在なのだろう。


 数時間後。


 長い……。


 俺はこの長い時間の中で、生霊につて考えていた。何故、生霊なる者がいるのかと……普通、死を迎えれば『冥界』に行くらしい。風夏のようなこの世に未練がある者は『冥界』に行くことなく、この世との縁が切れるまでいるらしい。では生霊とは何なのだろう?


 やはり、佐藤先生に詳しく聞くべきだった。


 しかし。こんなにも時間が過ぎるのが遅いと感じたことは無い。そして、東の空が明るくなってきた。それを確認すると少し安心した。


 もう少しだ。


 う……感じるこの世でない者の気配だ、仕方ないここにいると見つかった時に不味い。


 ここは賭けに出よう。


「綾瀬さん行くよ」


 俺たちは外に出て走りだした。


 しまった。見つかった、こうなったらひたすら走るしかないか。息が切れ走るスピードがだんだん落ちてくる。


 すると、どんどん、零との距離が短くなっていく。


 ダメか……こうなったら俺は『賢者の石』を取り出し綾瀬さんに渡す。


 理由なんて無い、でもこの子を助けたかった、それだけで、何も考えずに渡していた。


そして、城跡の城壁後に追い込まれる。


 男は大きなカマで切りかかる。『賢者の石』も無いので、これで俺の人生終わりか。


「私は生きたい。でも、犠牲の上で生きるのは―――私はどうすれば良いの?」


 綾瀬さんは突然、大声で叫ぶ。きっと、誰だって自分の変わりに誰かを犠牲にするのは気持ちの良いものではないはず。そんな、気持ちから出た言葉なのだろう。


「俺はその言葉だけで良い……綾瀬さん、零は死神。もし、生きることを強く願えば、その力が弱まりの攻撃にも耐えられるかもしれない……」

「はい、分かりました」


 綾瀬さんは石を握りしめ、強く願うのであった。そして、カマが切りかかる寸前に太陽の光が届く。零はカマを止め消えていく。


 助かった……。


 すると、どこからか夕香が現れ語りだす。


「おめでとう、ゲームはあなたの勝ちよ、と言っても最初から貴方が勝つようにしていたけれど」

「え?」

「私たちは死神の中でも特殊な仕事をしているのよ。内容は生きていられるのに、生きようとしない人たちの面倒をみること。そこにいる綾瀬さんは、生きていける力がありながら、死を望んでいるそんな人たちを生きる資格があるか試すこと、生きようと願う力を与える為のゲームなのよ。そして、見事合格したわ。ちなみに、トイレの裏に隠れていたことは知っていたわ。それから、もう一つ、その『賢者の石』はただの石よ、これは佐藤大悟さんに頼まれたの、あなたが真に『陰陽の髪飾り』を持つ資格があるか試したったらしいわね」


 要するに、すべて思いどおりにいった訳なのね。あー疲れた。しかし、本当に佐藤先生も無茶なテストを出す。


 うん?綾瀬さんの姿がすきとおり消えていく。


「ありがとう、この数時間、真面目に生と死について考えることが出来た」


 たぶん生と死の狭間で色々考えて、きっと生きる決意が出たのであろう。


「生霊が自分の体に戻っていった。さぁ、これで私たちの仕事は終わり、帰るとしますか」


 夕香はいつの間にかいなくなっている。綾瀬さんは恥ずかしそうにしながら。


「私、あの死神さんの言うとおり生きていけるか、迷っていたわ。でも、あなたに会えて生きることの意味が分かったきがします」


 そして、綾瀬さんは消えてしまった。その表情はとても穏やかであった。きっと、今ごろは病院で目を覚ましているのだろう。朝日が昇り新しい一日が始まる。久しぶりに朝日を見たきがする。

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