第7話 お風呂
「出たぞ」
「ふぉーい」
俺の呼び声にポテチを食べながら漫画を読んでいたゆうきが振り返る。
「食べながら漫画を読むなよ。油汚れがつくだろう」
「小さいことを気にする男はモテないぞ〜京太郎」
ゆうきはうつ伏せからあぐらに座り直した。オレンジがかった茶色い前髪を横にかき上げ、小さく整えられた眉毛とデコが見える。そしてすこし赤みが入った茶色い瞳が俺を見上げていた。
「モテたことなんかないから別に構わないけど」
濡れた髪をタオルで拭きながら、俺は答えた。
「おれはモテモテだったぞ」
「男にか?」
「まぁ、そうだな。10人には告られた。全部振ったけど」
「なんで?」
「いや、普通に降るだろう? おれ中身は男だぞ。普通に男子との恋愛とか無理だから」
「女子校なら女の子に告白されたりはしなかったのか?」
「ないな、まったくというほどなかった!!」
ゆうきは腕を組んで堂々とした態度で言った。
「いや〜、おれも頑張ってアタックしたんだよ。そう、したんだけど…………そういう子に限って彼氏ができるんだよな〜」
「お前の夢はことごとく叶わなかったと」
「ふっ、おれの青春は野郎どもにケツを追いかけられることだったぜ」
「なんか嫌だな。そんな青春」
「そうだろう。そうだろう。だから、大学生活は京太郎とルームシェアしたかったんだよ。男がいるってわかったら他の野郎どもは迂闊には手を出さないだろ? それにおれはお前が絶対に手を出さないって信じてるからな」
ゆうきにそう笑顔で言われ、俺は少し複雑な気持ちになった。ゆうきにとって俺は一人の友達でしかない。
「あっ……うん」
「じゃぁ、風呂行ってくるな」
トタトタと足音を立てて部屋を出て行ったゆうきの姿を見送った。
「はぁ〜」
俺は大きなため息をついて肩を落とした。ゆうきとの生活は夢のような大学生活だが、それはゆうきと友達である限りである。もし、俺が手を出してしまったらこの生活はどうなってしまうのだろうか。
「考えたって仕方がないし、歯でも磨くか」
そう、思い立った俺は脱衣所へ行った。
シャワーの音が聞こえる。ガラス一枚隔てた隣に、今ゆうきが裸でシャワーを浴びている。そのことを意識すると自然と下半身に血流が行く。
「ダメだ、ダメだ」
俺は頭を振って、誘惑を消し去った。
ここで覗きなど行ったら、ゆうきは俺とのルームシェアをやめてしまうだろう。
「我慢しろ俺、我慢だ、我慢」
そうして欲求を抑える俺の目に、洗濯カゴに入ったゆうきのショーツが目に入った。
「こ、これは……」
レースで飾られて手触りが良い。脱ぎ立てなのだろう。ほのかに暖かかった。
「いや、ダメだ。これはダメだろう」
そう言いながら、俺は自然と自分の顔をショーツに近づけていた。
嗅ぎたい。嗅いでみたい。どんな匂いなのか? 知りたいと思った。
でも、本当にいいのか?
そう思った瞬間、風呂場からゆうきの「ふぅー」と心地よさそうな声が響いた。
俺はその声でを聞いて、ゆうきの「信じてるから」という言葉を思い出し、ショーツをもとあった場所に戻した。
こんなの正しい方法じゃない。
俺は歯を磨いた。
「いやぁー、いいお湯だった。あれ、京太郎もう寝るのか?」
「明日も早いし」
「ふーん、じゃぁ、おれも寝るかな」
ゆうきは俺の隣に布団を敷いて横になった。
「京太郎、起きてる?」
「起きてる」
寝れるわけがない。さっきから目が覚めて仕方がないのだ。
「こっちむいてよ」
「なんだ」
俺は振り返る。そして振り返ったことを後悔した。そこには髪が濡れているせいか妙に色っぽいゆうきがいた。それだけではない、キャミソールの襟口からゆうきの小さな乳房とピンク色の見えてはいけないものが覗き見えた。
おい、それは反則だろ。
「今日はさ。本当にありがとう。おれ、本当は京太郎がルームシェアしてくれるか不安だったんだ。おれさぁ、病気のことお前に隠していたし」
「まぁ、最初は驚いたけど……」
「だからさ、京太郎とルームシェアできることがすごく嬉しくて、おれ、お前にできることなら何でもしてあげるぞ。親友だからな」
やめろ、そんなこと言うな。理性が壊れる。
「京太郎、おれにして欲しいことあるか?」
「…………」
「京太郎?」
俺は目を瞑って考えた。ここでお願いをするか、それともしないで親友としての立場を保つか。どっちを選んでも後悔するだろう。
「…………明日、早く起こして」
「わかったよ」
正解だった。
ゆうきが緊張を解いたような笑みを見せた。
やっぱり俺たちはまだ友達なのだ。
部屋の明かりが消えた。
自分のじゃない呼吸が静かに部屋に響くのはまだ慣れない。
おい、どうするんだこれ。
目がギンギンで眠れないだが。
親友がTSしてたんだけど再会したら共同生活ってマジ? 二村 三 @333323333
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