第5話 設置しよう



「うわー、疲れた!」



ゆうきは部屋に着くと、フローリングの床に荷物を投げて、ごろりと横になる。



「おい、脱いだ靴は整えろよ」



俺はゆうきの脱ぎ散らかした靴を拾い集めて玄関の脇に履きやすいように置いた。



「京太郎は昔から几帳面だよな」



「ゆうきはガサツだよな」



「おれはいいの。京太郎が何とかしてくれるから」



「家ではどうしてたんだよ」



「お母さんがやってくれた」



ん、それってつまり、俺は……



「俺はお前のお母さんか!」



「ままぁー、起こして〜身体に力が入らないの」


ゆうきは手を挙げて、足をぱたぱたさせた。



「ふざけてないで、さっさとカーテンつけるぞ」



「えー、明日にしようよ」



「そう言ってお前は夏休みの宿題を最終日までやらなかっただろう」



「バレたか!」



ゆうきはガバッと起き上がり、カーテンを梱包されていた袋から取り出した俺の隣に来た。



「あっ、やべ……背が届かない」



俺はカーテンを上に上げるが、背伸びしてもあともう少しというところで、穴に引っかからない。



「おやおや、お困りのようだね、京太郎くん」



背後からニヤニヤと目を細めながら近づいてくるゆうき。口に手を当てているところがわざとらしい。



「あぁ、困っている」



「じゃぁ、特別におれが協力してあげよう。さぁ、肩車するためしゃがむのだ。馬車馬のロバのごとく」



「おっ、ありがとうな」



いいところに踏み台があったと俺はゆうきの背中を踏んづけた。



「ち、違う。おれが京太郎の足台になるじゃなくて、お前が俺のことを肩車するんだよ!! おも! 重い!! 重すぎ!!」



「ファイト、ファイト!」



「うぉおおおおおおおお!!」



「がんばれ、がんばれ」



「う、うっぉおおおお…………む、むり……こんな、お、重いの支えられてないよぉ……手が……おかしくなっちゃう……」



ゆうきは手がプルプルしていた。まるで生まれたての子鹿のようだ。



「そうか、あともう少しだぞ」



そうして8秒後。

フローリングに突っ伏したゆうきの姿があった。



「おーい、仕事しろ」



俺はゆうきの頭を人差し指で突く。



「ちーん、ゆうきは死んでしまったようだ」



「そうか、それなら仕方がないな。足台になりそうなものを探すか」



「ふははははっ、馬鹿め! 背中を見せたな隙あり!!」



「ちょっ、おま、な、何をするんだ!! やめろ!!」



「やめろと言われてやめる馬鹿がいるか!! うりゃりゃりゃりゃ!!」



ゆうきは俺の背中をよじ登った。



「今度は京太郎がおれの足となる番だな!!」



俺の肩は満足そうに胸を張って腕を組むゆうきに占拠された。



「別にいいけど、入れる穴を間違えるなよ」



俺が、カーテンを手渡すと見下ろすゆうきと目があった。



顔近い……というかこいつめっちゃまつ毛が長いな。



「安心しろ、針に糸を通すのは得意だ」



「何の宣言だよ」



「ほら、じっとしろ京太郎。カーテンつけられないだろう」



腕を伸ばすゆうき、前屈みになるせいか、俺の頭上に何やらフニフニとした柔らかいものが触れる。加えて太ももが首を挟み、首筋に嫌でも感触を感じてしまう。



当たってる。何かたくさん当たってる。



「あと、ちょっと……もう少し右にずれて……」



「…………」



俺はゆうきに言われるまま動いた。



俺は足、俺は足、俺は足。



「ちょっと! 前屈みになるなよ!!」



怒ったゆうきに頭をべしべしと叩かれた。



カーテンは無事に部屋についた。



俺はしばらく前傾姿勢を保っていた。



当たっているのだ。色々と。

そう当たっているのだ。

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