第2話 新居!
「誰って……お前なぁ……」
「……あっ! もしかしてゆうきの妹さん? これはドッキリったやつ? どこかで隠れて見てるんだろう」
「違うわ、あほ。だいたいおれに妹いないし」
「じゃぁ、彼女とか?」
「……いくら姿が変わったからって7年も手紙を交換している親友のことを忘れたのかよ」
この愛想のないストレートな物言いまさか本当に?
「ゆうきなの?」
「そうだけど」
ゆうきは長い前髪を右手の人差し指でくるくるしながら俺をジッと見つめた。
「お前……変わったな。本当にゆうきか?」
「そうだよ。変わったの。病気で性別変わったけど文句ある? それに京太郎だって変わったじゃん。なんか背が大きくなって声低いし、身体付きもゴツいし……」
ゆうきはじっと俺の顔を見た後に顔を逸らした。なんか頬が赤いけど、俺もたぶんゆうきのこと言えないくらい顔が熱い。
「ゆうきにいつも喧嘩で押し負けてたから、負けないように鍛えてたんだけど……必要なかったか」
「へぇーそうなんだ。まぁそれはいいとしてそろそろ中に入れてくれない?」
「あっ、すまん」
俺は脇にどいてゆうきを部屋に招く。
ゆうきは大きなキャリーケースを脇に抱えて玄関で靴を脱ぎ部屋に入った。
ゆうきが脇を通った時、せっけんのいい香りがした。
「ここおれたちの部屋か、思ったよりいい感じじゃん」
「一人暮らしだと高いけど、家賃を折半するなら安いから、それに大学も近しな」
マンションの5階、丘上に建てられているせいか窓からは街が一望できる。
「まだカーテンつけてないのか?」
「一緒に買いに行こうと思って、好みとかあるだろう」
ゆうきは部屋の脇にキャリーケースを置くと、まだ何もない部屋にあぐらをかいて座ってそのまま後ろに倒れ込んで寝そべる。
「はぁー! やっぱお前といると楽だわ」
「本性を表したな」
「んだよ。女の子のふりをするのも疲れんだよ」
「わかった。何があったのか説明して欲しい。平然と受け入れたけど、やっぱり今の現状に頭が混乱している」
腰を下ろした俺にゆうきは俺と向かい合って座る。
「性転換症って聞いたことあるだろう」
「まぁ、話だけなら」
性転換症、通称TS病は100万人に1人の確率で起こるとされている性別が変わってしまう病気だ。
「おれ、それ」
「いつから?」
「小学五年の時に変わり始めて、それから女子生活だよ」
「いいじゃん。銭湯で女の子の身体が見放題じゃん」
「そう! それは最高にいいだよ。だけど他がなぁー」
ゆうきは疲れたように顔を横に向けた。
「京太郎……女子の派閥争いは本当に疲れるぞ。あといじめが本当に陰湿。あいつら表では平然としてて陰でめっちゃ悪口言ってるからな」
「何があった」
「中学から小学校からエレベーター式の女子校に通わされた」
「あ……うん」
俺は何かを察した。男女共学の学校であっても女子との付き合いは難しい。
それが女子校となれば、お察しの通り誰との関係性がない相手がどのように扱われるかはわかりきったことだ。それも元男ならなおさら苦労したことだろう。
「もう、お前には必要ないかもしれないがこれ見て少しは元気出せ」
俺は久しぶりの再会で渡そうと思っていたゆうきの好みであろうおっぱいが大きいお姉ちゃんたちが乗ったお宝雑誌を渡した。
「京太郎……」
あっ、これは引かれたな。やっぱり身体が女の子になったらそういうのは興味ないよな。
俺は自分がセクハラをしていたことに気づいて恥じた。
「ごめん……今のは……」
「お前って本当に俺に心を理解してるいいやつだな!」
「えっ!?」
ゆうきはフローリングに寝そべって足をパタパタさせて上機嫌で本を読み始めた。
好みの姿の相手が無防備にもエッチな本を読む姿。
うーむ。いかがわしいです。
「おお……これはこれは……」
ゆうきは雑誌にのめり込み、声を漏らす。
これは何というか……目に毒だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます