第42話 皇帝陛下の罠

 ボーン卿を除くオメガ達は真っ直ぐに皇帝陛下がいる人間王国の城に向かっていた。

 ペロンクのトランプマスターの力によって人間の兵士は近づく事すら出来ない。

 近づいたが最後トランプの部位移動により体のパーツを飛ばされるからだ。

 それはほぼ死を意味していた。


「団長、本当に皇帝陛下を倒す気でいらっしゃるのですね」


 魔王ルウガサーが恐る恐ると言った感じで尋ねた。


「ああ、もちろんだよ、あいつが事の発端の始まりだからな」


 皇帝陛下、それはあらゆる世界を見る目を持つ男。

 いつかくる異世界異種族を予見し、同盟を組むであろう現地の異種族を皆殺しにしようとした。


 しかし、オメガ達というイレギュラーを作り出してしまったのだが、それも計算のうちらしい。


 城下町、大勢の人間達が恐怖の目でこちらを見ている。

 すれ違いざまに8人の危ない匂いを発している男と女たちを見た。


「あれは……まさか英雄と殺戮王、なぜ」


「ほーお前は魔法族のレインボーかここでやり合いたいが殺戮王様の命令で神族をやりにいくんだ」


「ツイフォンなぜあなたが」


「まぁ気にすんなって」


 白髪に長髪の男は爪楊枝を口にはさみながらにへらと笑った。


 殺戮王はオメガをじっと見て。


「お前は美味しそうだが今じゃない」


 にんまりと真っ赤な舌を出して通り過ぎていく。


「なんだあいつらは」


 オメガだけが平常心であり、他の仲間たちはぶるぶると震えていた。


「知らないんですか殺戮王と英雄達の伝説」


 リナテイクが震える手でそう呟いた。


「まぁわたしめも当事者なんだが」


「そっかーブレイク英雄だもんね」


 ペロンクがにこにこしながらその瞳は震えていた。


「玉座までまだかかりそうだ。ブレイク話を聞かせろ」


「はい、団長、英雄は10人おりました。ヒショウは柱となり残りは8名です。英雄が作られたのは全てを柱に捧げる事で古代魔王を呼び起こす最終兵器を作り出すこと、それを防いだのがそこにいるレインボー達の魔法族です」


「うむ」


 剣の姿で浮遊しながら険しそうに頷くレインボー。


「殺戮王は英雄の中でも主とされリーダーです。皇帝陛下が使役出来るような人ではありません、彼は瞬きするだけで生き物を殺せます。今の団長と互角かそれ以上です」


「なるほどな、ありがとうブレイク、震えながらすまない」


「気にしていません、ですがあんな化け物を呼び起こすなんて、わたしめが必死で人間側についたのはあいつがいるからに違いなかったです」


「先を急ぐぞ」


【はい】


 その場の全員が頷いた。

 

 目の前にそびえる巨大な門、ゆっくりと開くと中は風が透き通るように無人だった。

 外は猛暑だというのに、中はどこか山奥の寒さを感じさせてくれる所になっている。


 短い脚を短い手を使ってゆっくりとゆっくりとオメガは歩く。

 その後ろから仲間達も付いてくる。


 玉座まで辿り着くと、そこには玉座の隣で立っている子供のようであり大人のような皇帝陛下が立っていた。


「やぁ、ここまで来てくれるとはね」


「お前を殺して人間を滅ぼす」


「それは出来ないよ、君は優しいからね」


「そうか、だがお前は殺すぞ」


「ダークドワーフか、真っ黒い異種族、かつて滅ぼす為に何十億の人間が死んだことか、ダークドワーフは人間を侵略したんだよ、弱い生き物だからと言って」


「そうか、だからなんだ? お互い様とでも言いたいのか」


「後ろにいる人達だって先祖がダークドワーフに襲われた事だってあるかもしれない」


 するとガニー、ゲニー、魔王ルウガサー、ペロンク、リナテイク、ブレイク、ヴァンロード、グスタファー、レインボーの表情は一寸たりとも変化しなかった。


「まぁ、こんな話術じゃ意味がない事も知っている。この通り参ったよ、おいら達の負けだ」


「ふざけてるのか、お前は、お前が仕掛けた戦争だぞ」


「そうだよ、でも異種族は減らせたからこちらが優勢だ。君と言うイレギュラーも手駒にしちゃいたいから謝るのさ、ごめんなさい、申し訳ありません、どうか人間を滅ぼさないでください」


 歯ぎしりをし、唇が切れて血が口から流れてくる。

 ギシギシと音を鳴らしながら。

 ゆっくりと心の奥から声を出すように紡ぎだす。


「お前はなんだ? ドワーフや皆を苦しめて、何がしたいんだ? こんなになってどうしてもどうしても生き残りたいのか」


「ああ、おいらは生き残りたい訳じゃない、おいらは人間そのものだから、人間とはとても醜いから、生きて行く上で必死で必死で生きていかなきゃならないから」


「ならここで死ね、潔く死ねば、人間共を見逃してやろう」


「じゃっじゃーん、民の力ってすごいんだぜ、おいらオメガが勇者イルカスにした事と同じ事させてもらったよ」


「団長まずいです」


 ヴァンロードが呟いた。


「な、なんだと」


 真上を見た。

 そこには映像版が展開されており、そこには人間達が無数に映っていた。

 皇帝陛下が命乞いをしている、オメガが死ねと、そして人間は見逃してやると、上から目線で言ってしまった。


 異種族に対して優しい人間でもいい人間でも、そこまでされれば、人間達は異種族に憎悪を抱く。


 そして、矛先は人間達が奴隷として養っている異種族に向かい。


 人間達は奴隷達を一か所に集めている。


「あいつ等は何をしようとしている」


「えー分からないのー、今から火破りにするんじゃないの? 皇帝陛下が殺されるんだから、奴隷も皆殺しだよってね」


「この、人を食った考え方がああああああ」


「じゃ、助けに行った方が良いんじゃない? おいらはここからお暇させてもらうよ」


「団長、落ち着いて、今は異種族の奴隷達を助けましょう」


 魔王ルウガサーが大きな声で叫ぶ。


「目の前に、目の前に仲間たちの仇が」


「団長!」


 なぜかゲニーが頭の上から拳骨を見舞った。


「いってー」


「団長はへっぴり腰なんかじゃないです、僕は臆病ですけど、ヴァンロードに勝てるくらい臆病ですけど、今は仲間助けましょう」


「ゲニー成長したなぁ」


「姉ちゃんは黙ってて」


「皇帝陛下覚えていろよ」


 もうそこには皇帝陛下の姿はなかった。


「ヴァンロードとペロンクが先導して瞬時に移動し救助しろ」


「任せろ、BGMでも鳴らすかねー」


「あらかじめあそこにはトランプがあったはずあったあた」


 背中に蝙蝠の翼を生やしたヴァンロードが暴風のようにいなくなり。

 ペロンクは体ごと大きなトランプの中に消滅していった。


「団長、落ち着いてください」


「ああ、すまない、みっともなかった」


 魔王ルウガサーがそう言い。

 オメガが深呼吸を繰り返す。


 玉座の間の天井に映像版があり、その映像版を返して空には無数の映像版がある。

 それはあちこちで戦っている人達の映像が映し出されている。


「皇帝陛下は何がしたいんだ」


「たぶん、遊んでいるんじゃ」


 そう呟いたのはリナテイクだった。


「エルフ族は遊びにはうといけど、よく弓で狩りをする遊びをする。その時色々な人に見てもらうと嬉しい。皇帝陛下はそんな感じな気がする」


「子供なのか」


「皇帝陛下の年齢は大人のように見えたり子供のように見えたりする。しかし、長く生きているという情報もあるが、それは定かじゃない、年齢は10歳くらい、しかし精神年齢は900歳くらいだったり不安定、ある種の人格障害かもしれない」


 魔法族のレインボーが剣の姿でそう呟いた。


「人格障害?」


「1人の中に2人いたりする奴じゃないのー昔トロール族を守ってただんちょーが行ってた」


 グスタファーが大きな声で話すと。


「つまり精神世界の中に世界があり、複数の人格、いやまて、皇帝陛下は別な世界を見る事が出来る。そこから何か導きだせないだろうか」


 その場が静まり返る。


「例えば、別な世界に皇帝陛下がもう一人いて、その人と繋がれるとか?」


「ありえなくはないな、ブレイクにしてはいい案だ」


「それってさ並大抵の精神力じゃないんじゃ」


 赤いリザードマンのガニーがそう呟く。


「確かにぃ、別な世界の自分が死ぬのを体験するんだからねぇ」


 グスタファーが頷き。


「奴は死にたいのか生きたのかどっちだ。座学はおしまいだ行くぞ」


【はい、団長】


 思考の渦に誘い込まれそうになりながらも、オメガ達は新しい可能性を見つけて動き出した。

 ヴァンロードとペロンクが異種族の奴隷たちを助けられるか、それだけが心配だった。



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