第32話 ヴァンロード伯爵

 ヴァンパイア族の悲願、それは人間を家畜にする事であった。

 人間の圧倒的軍勢の前に逃げ続け、野生の動物の血と異種族の血で生きてきていた。


 のっぽで足が長くて黒いマントを身に着け、襟を正し、きりっとまっすぐに立っている男性。


 彼は自分の屋敷で父親と母親の肖像画を眺めながら涙をこらえていた。


 彼の名前はヴァンロード伯爵。

 元祖にしてヴァンパイアの起源の一族、アンデット王の一番の配下、次にグール族。


 山奥の地にて、暗闇に包まれた世界。

 ヴァンパイアワールドで暮らす1人の伯爵。

 大勢のヴァンパイアを守り、野生の地と異種族から血を分けてもらい生きている。

 ベジタリアンヴァンパイアと呼ばれる一族。


 ヴァンパイアの中には無理やり人を殺して血を吸う奴等もいる。

 彼等をレッドヴァンパイアと呼ぶ。

 男性に非常に多く、彼等は見た事もない異種族と結託した。


 反攻するベジタリアンヴァンパイアを次から次へと殺害していく。

 大勢のヴァンパイアが死に、その中に交渉に行った父親と母親が死んだ。


 ヴァンロード伯爵はまだ15歳。それでも姿形は大人のそれだ。

 ヴァンパイア族は早くに大人になる。


 20歳になると成長は止まり、血を吸う限り永遠の命を手に入れる。

 子供は非常に出来にくく、若いヴァンパイアは少ないとされる。


 遥か昔、大戦争があった時、ヴァンパイア族とグール族とその他の闇の一族が立ち上がり、アンデット王の元に馳せ参じた。


 それはヴァンロード伯爵の夢だった。


「伯爵、皆揃いました」


 そこには大勢の女性と若いヴァンパイアが集まっていた。

 殆どの男性と殆どの老齢のヴァンパイアは異世界から来た異種族と結託した。

 今まさに人間を片端から殺して食らっている。


「よし、皆、よく来た。こののっぽでダメで脆弱で馬鹿な俺様についてくるなんて馬鹿だなー」


 その場が沈黙に包まれる。

 ヴァンロード伯爵は生粋のネガティブと俺様道の意味不明な人物であった。


「さて、皆の物、戦うか逃げるか、人間は確かに異種族を殺して来た。皇帝陛下とやらは俺様達ですら攻撃しようとした。現にドワーフ領の侵略が始まりとされる。さて、ヴァンパイアとして何をすべきか、ヴァンパイアは蝙蝠になれる。空を飛べる。そして空から奇襲できる。だが怖いけどね、逃げたいけどね、どうせ死ぬけどね、おっとすまぬ、アンデット王より任された空の覇者それを忘れた奴等はいるか」


 しばらくの沈黙、そして怒涛のように声があがる。


「そうさ、俺様達は世界一最弱の部隊だ。2000人しかおらず、相手は数万を超える。勝てるわけねー逃げるべきだろと俺様なら言うが俺様は父上と母上が築いたヴァンパイアワールドを守らねばならない、そしてアンデット王から授かったこの大地を」


「「「この大地を」」」


「さて逃げるか」


「「「なんでやー」」」


 全員が突っ込みの声をあげ。


「敵はヴァンパイアワールドの外にいる。中には入れない。闇の蜃気楼が俺様達を守ってくれる。さぁ、今のうちに逃げろ」


「「「は?」」」


「俺様が1人でちょちょいのちょいしてやるぜ」



「「「そういって逃げるんでしょ」」」


 ヴァンパイア達がそう呟く。


「に、逃げる訳がない、なぜならこの屋敷は思い出で、だが、今回俺様には最高の師匠がいる」


 全員がこくりと頷き。


「そう言って、皆を逃がして、自分も逃げるんでしょ」

「それがヴァンロード伯爵のいいところでさー」

「それが俺様同騎士道って奴なんでしょうが」

「俺達はヴァンロード様に忠誠を誓いました」

「逃げるならヴァンロード伯爵が逃げてください」


「なんだって、最高に嬉しい言葉じゃないか、それでも納得する事が出来ない。俺様道とは騎士道と同じ、最初期の起源ヴァンパイア族は騎士だった。その騎士がヴァンパイアになり始まった」


 全員が沈黙を保ち。


「皆も知っての通り俺様のスキルは最強だ。だから逃げれとは言わない、屋敷を守ってほしい」


「「「「御意」」」」


 その場の全員が頷いた。


 黒いマントを翻して、のっぽで脆弱でネガティブでへっぴり腰のヴァンロードは武器を持たず素手で屋敷の庭の扉を開いた。

 大勢のヴァンパイア族は屋敷の庭で屋敷を守ってくれる。

 ヴァンパイアワールドの中にある屋敷は巨大で数千人を収容できる。

 いわば人間で言えば城のような存在。


 屋敷の周りに点在する家々、それがヴァンパイア族の家であり古郷。

 

「ふ、なんか俺様かっけえええ、でも怖いなーそれが騎士道だ」


 ヴァンロード伯爵は辺りを見回す。

 漆黒の世界が広がっており。

 空気が透き通り、果てしない闇が広がっていた。


 その闇向こうから大勢のヴァンパイア族の声が聞こえる。

 彼等は言わばレッドヴァンパイアとなった。


 その向こうには異世界から来たし異種族がいる。


「どうせ、ヴァンロードの首を手土産に異世界異種族に媚びを売るのであろう、この俺様そう簡単には負けはしないしだいだ」


 漆黒の蜃気楼から出たヴァンロード伯爵。

 前方に広がる軍勢。

 レッドヴァンパイア族が1万人いる。

 彼等は力に屈し力に負けた。


 全員が飢えた獣のように口から涎を垂れ流し、犬歯の牙をちらつかせる。


「ふ、俺様のショータイムが始まるぜ、いっつ音楽START」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る