第33話 MUSIC START

 突如として世界そのものが音楽に支配される。

 レッドヴァンパイア達は実はヴァンロードのスキルを知らない。

 知っているのは信頼のおけるものだけ、それでも数千は越える。

 先程の屋敷の者達ばかり。


【スキル:ランダムBGM】

【スキル:気絶のダンス:《発動条件》相手がのりのりになる:《効果》気絶する】


 ヴァンロード伯爵は謎の踊りを始める。

 それが気絶のダンスだ。


 ランダムBGMによりレッドヴァンパイア達は踊りだす。

 気分が上昇していき、彼等の頭上にメーターが出現する。

 メーターが満杯になった者から気絶していく。


「あれ、か、体が勝手に踊りだす」


「嘘だろ、楽しい」


「でも、ああ、こんな事している場合じゃないのに」


 それでもヴァンロード伯爵は狂ったように踊り続けている。

 はたから見たら変人そのもの。

 マントは翻り、白いシャツは汗だくになり、のっぽで脆弱な痩せがた青年が踊る。


「さて、気分が乗らない君達へ、次のBGMを送ろう」


【スキル:停止BGM】


 なだらかでサムサムしい曲が流れる。

 気付くと、1人また1人とフリーズしたように停止していく。

 

「そろそろ気分が上場になったところで、閉幕です、あーすげー怖かった」


 その場にいたレッドヴァンパイア1万人が気絶してしまう。

 停止したレッドヴァンパイアは立ったまま動かなかった。


「ちょっと疲れたなー」


 だが目の前からやってくる新たな脅威。

 その数は100人くらいであった。

 しかし、全員の角は1メートルを超すほどの長さで2本あった。


「我等はー鬼族なり」


「この世界を支配する異種族の部族の1つなり」


「元の世界は人間族を全て殺害し我らの物とした。お前も配下になるべし」


 ヴァンロード伯爵は鬼族の言葉を無視していたが。


「この体たらく目たちが」


 鬼族は巨大な棍棒で気絶している者と停止している者の頭をまるでスライムでも潰すように殺害していく。


【ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり】


 と何度も音が響く。


 ヴァンロード伯爵は口から内容物を嘔吐していた。


 彼は人の死を見た事がない。

 戦い方は相手の心のケージを音楽で満タンにして気絶または停止させるだけ。

 それで戦いは終わっていた。


 今、目の前で大勢のヴァンパイア族が次から次へとスライムのように殺害されている。


「ま、まて、そいつ等はお前等の仲間だろう」


「それ等は使い捨てだ」


「それにお前の首を取ってないから仲間じゃない」


「ヴァンロード伯爵、アンデット王の配下の血筋、ヴァンパイアの起源。鬼の王が相手だ」


 突如として空気が張り詰める。

 地面が震える。

 どしんどしんと何かが地面を蹴り殴る。

 やってきたのは見た目子共だが顔は鋭くごつい3本角の全身が黒い鬼だった。


「お前を殺しに来た。ヴァンロード伯爵、君の血を飲ませてもらう、そしてアンデット王のような不死になる。アンデット王とはどこの世界にもいるそうだからな、我もなれるはず」


「ちょっと意味わからないんですけどー」


 ヴァンロード伯爵はレベル100。

 だがそれまで、彼は鑑定を使用。


【オジング:鬼の王:レベル9000】


「うそだろ」


 他の鬼族の人達も鑑定。

 全員がレベル5000を超える。


「この世界が終わるレベルでしょ、これは逃げないと」


「いいのか? 漆黒の向こう、ヴァンパイアワールドの中には大切な家来がいるのだろう?」


「それでも」


「逃げていいのか?」


 鬼の王は口の橋を釣り上げて。


「さて、お前の血をいただこうか」


 何か光が走った。

 空から何かが飛来した。

 地面に爆発したそれは見るからに小さすぎる人間の人形のようなそれと。


 それと、それと、それと。


「あ、あなた様は」


 ガイコツ、骨、白い、黒い鎧に包まれ、1本の大剣。

 全身から赤い炎を上げ、2人ともレベル0。


「お、終わった」


「終わっていないな、なぜならネクロレベルによりわたしめのレベルは1億を超えている。我らが主アンデット王は今レベル10000だが本来はものすごい」


「説明はいらんブレイク、さて、ヴァンパイア族の伯爵よ1人かよく逃げなかったな」


「は、はははははは、はははっははははははあっはは」


 ヴァンロード伯爵は我を失い。


「さ、サインくださいアンデット王」


「今それどころじゃないわい」


「アンデット王? もう既にいたのか……」


「鬼の王レベル9000相手にとって不足なしじゃ」


「さて、ヴァンロード伯爵よ雑魚を片付けよう」


「人形が戦えないでしょ」


「戦えるわい、これでもレベル1億でだな、グール族のネクロマンサーだぼけ」


「これこれわかっておるのか、言葉遣いじゃよブレイク、廃棄処分が待っとるぞ」


「ひ、ひいいいい」


 ヴァンロード伯爵はきょとんとしながら、アンデット王のブラックジョークに耳を傾けてくすりと笑った。


 ヴァンロードの世界はこの日より塗り替わった。

 いつかアンデット王の配下になる。

 それが彼の夢だった。

 ヴァンロードのスキルは音楽を発生させたり、踊る事しかできない。

 いわばバフと呼ばれる強化魔法担当と言う感じだ。

 しかし音楽は強化魔法とは言えないかもしれない。

 

 ヴァンロードの記憶に父親と母親の笑顔がよぎる。

  

 そして時間を現実に戻す。

 どれだけ強くても。


「へっぴり腰の騎士は逃げないもんだ」


 ヴァンロードはスキルを発動させようとする。

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