第31話 異種族救助ドワーフ王探し

 皇帝陛下、勇者イルカスの件から数時間が経過した。

 オメガは瞑想を使用中であった。

 他のメンバーはそれぞれの担当の階層へと戻っていった。

 新しく入ったリナテイクは避難してきたエルフ達と森階層で生活をし、ブレイクは図書館階層担当となった。


 瞑想をしていくと、確かにあちこちで見た事もない異種族が出現していた。

 

 皇帝陛下は約束通りドワーフの虐殺をやめて兵士達を撤退させてくれたようだ。


 まだドワーフの地には異世界の異種族は現れていないようだ。


 ドワーフ達はそれぞれのある知識でケガ人を治療したり、動けない者を助けている。

 それを肌で感じ、ドワーフ達の激痛を大地で感じた。


 ヴァンパイア族が異世界の異種族と結託した者と結託していない者に別れたようだ。

 その男は今にも死にそうだった。

 自分なら即座に救助にいける。

 ヴァンパイア族はざっと数千を超えるくらい。

 

 しかし、殆どの者は女子供。

 男は異世界の異種族に従ったようだ。

 異世界の異種族には瞑想による鑑定などは通用しない為、不確定要素が多すぎる。


 別の地では巨漢のトロールが1人で戦っている。

 相手は異世界の異種族。

 

 別の地では魔法族が戦い、その1人がもの凄い力を発揮している。

 魔法族とは物に宿った魂の生きもので、剣だったり鎧だったり道具だったりする。

 希少な種族だが、今は異世界の異種族と戦っている。


 異世界の異種族と結託している種族や、それと相対して戦っていたり、今世界はごちゃごちゃになっている。


 人間側、自由の墓場の傭兵団、異種族、異世界の異種族となっている。


「本当に大変になってきたな」


 なんとなくオメガが呟いた。


「やる事が多すぎる」


「ならぼく達を使えばいいんだよ」


 そう提案したのはオオカミ人間化しそうになった所をエルフ姫の涙で救われたペロンクであった。


 エルフ姫のリャナイはオメガの隣で、じーっと彼を見ていた。


 その隣にはエルフ王子のラルフがじーっと姫を見ていた。


 この2人はオメガ自身で色々な事を学ばせようと思っていたのだ。


 ペロンクの隣には小さな人形のようなブレイクがいて、ルウガサーとリナテイクは円卓の椅子に座ってて、ガニーとゲニーは走り回っている。ボーン卿は腕組みして棒立ちになっており、ここに傭兵団がいつの間にか集まっていた。


「俺はドワーフ王に会いに行く、皆は各地の異種族を救助してくれ、テレポートポイントはこちらが指示する、それまで各地でサバイバルだ」


 全員が沈黙し。


「それぞれ助けて危険地区にテレポートさせる。一度行ったら、俺がイベントリの世界から戻ってくるまで無人島の自由のダンジョンには戻ってこれないと思ってほしい、1つ間違えれば死ぬと、そう覚悟してくれ」


 全員がこくりと頷く。


「ラルフ王子とリャナイ姫はここにいてもらっていいですか」


「もちろんだ」

「こくり」


「さて、皆救助しまくってくれ」


「人間は助けちゃダメなの?」


 そう言及したのはペロンクであった。

 ペロンクは父親を人間に石を当てられて殺されている。

 それでもペロンクはとても優しい。

 だが敵対者に対する者には冷酷でもあったはずだ。


「ああ、今回は人間も助けてやってくれ」


「了解―」


「皆手を握ってくれ」


 オメガは手を差し出す。

 全員が手を握り。

 次の瞬間にはその場から消滅した。


 1階層のダンジョンの間にはオメガとラルフ王子とリャナイ姫だけが残された。


「俺はドワーフ王に会いに行く、ラルフ王とリャナイ姫がここを管理して欲しい。何もないと思うが、何かあれば、そこの円卓のテーブル、いや盾を叩いて欲しい」


「そうしよう」


「こくり」


 心臓が高鳴り続けている中でイベントリを開くオメガ。

 一度も試そうなんて思った事が無かった。

 イベントリはある種の小さな窓のようなもの。

 それは異世界のような存在なのかもしれない。


 そこに手を差し込み、窓を開く。

 中に入ろうとすると吸い込まれるようにして体がイベントリに入る。

 中には今まで製作したレベル9999の武具が無数に転がっている。


 呼吸を整えて、イベントリの中を歩き続けると、別な窓を見つける。

 そこに入り、どうやら別なドワーフのイベントリの中に入ったようだ。


「これは大変だ」


 それからオメガのイベントリ巡りの旅が始まった。

 どこまでもどこまでも果てしなく、そのイベントリの世界は沢山の物で溢れて、ありとあらゆる物が転がっている。そんなごちゃごちゃした世界なのだ。


 どのくらいの時間が経過しただろうか。

 汗だくになりながら、沢山の物をどかして、窓を見つける


 それを何度も何度も果てしない道のりだと思って繰り返す。

 いつしかある事に気付いた。

 どこかで見た事のある物、どこか懐かしい匂い。

 どこか覚えるのある雰囲気、そして、どこかで見た生意気そうな爺。


 その爺は本を積み上げて玉座にして座っていた。

 彼はこちらを見ると、目を細くさせて、じーっと見ていた。


 次の瞬間瞳をぱぁーっと輝かせてまた生意気そうな顔に戻った。

 彼が手をぱんぱんと叩くと。

 沢山のガラクタが見た事もない道具に切替わった。


「ようこそ、我が玩具屋の秘宝へ」


 唖然と口を開き、オメガはゆっくりとゆっくりと歩き。

 その生意気な老人のドワーフのしわくちゃなシャツの胸倉をつかみ。


「あんた何やってんだよ、ドワーフ王だろ」


 ののしり上げた。

 だがドワーフ王は目を背けず。


「ああ、ドワーフ王が秘宝の玩具を売ってるだけだ」

「ドワーフ族が滅びの危機だ」


「知るかあんなドワーフ」

「それでも王か」


「わしの妻と息子を取り上げた民衆など死んでしまえ」

「ふざけるな、どれだけのドワーフが今世界がどうなってるか知らねーのか」


「ああ、知っとるさ、イベントリも異世界の1つ。異世界から異種族がきとるのじゃろう」

「ああ」


「だからわしはお前を待っとった」

「は?」


「わしの大事な秘宝の1つ、命を半分捧げると使える代物、大事な人がどこにやってくるか教えてくれる【未來の書】じゃ」


 老人は一冊の本を大事そうに握りしめている。


「わしの妻はダークドワーフ族だった。ドワーフ族はダークドワーフ族を嫌う。わしはある秘宝を使って息子に幸運がありますようにと幸運製造というスキルを付与した。さらに姿形をダークドワーフに見えないようにもした」


「なんだて」


「妻はドワーフに殺された。お前が守ろうとしているドワーフにだ。息子はどこかにいなくなった。どうやら成長してくれたようだ。そして未来の書はここで出会えるとあった。わしはドワーフ族などどうでもいい、結果的に全てを救える可能性のあるお前が来るんだからな」


「意味がわからない」


「その幸運製造はお前に幸運をもたらしただろう?」


「幸運の石がなければ無意味だよ」


「そうか、幸運の石か、そうかそうか」


「は?」


「あれはただの石だ。チャクターよ」


「はは、そうですね」


 突如出現したのは幸運の女神チャクター。


「幸運の女神チャクターはわしが作った最高傑作のゴーレムでな」


「は?」


「チャクターは幸運度を上げる代物を製作できる。ありとあらゆる幸運を付与できる。まぁ突然そんな力があるとチート級と呼ばれるから色々と制約があったほうがかっこいいだろ? これからはなんでも幸運度を付与してもらいなさい」


「え、あ、どういう」


「まぁ、会えて嬉しいよ、わしには時間がないからのう、200年近く生きて、寿命が半分失われている。そろそろ死ぬ、だから告げよう、息子よ愛してるぜ」


「きめーんだよ」


「ふぉふぉふぉ、この手を握れ、ここにある秘宝は全てお前の物じゃ、人間を滅ぼすのもよし、異世界の異種族から全てを助けるのもよし、共存もいいだろう。お前がやりたいようにするのが一番いいのじゃ」


「なぁ、お前が父さんだと分かった」


「そうか、それは嬉しいのう」


「ドワーフ王国治める気ないから自分で治めろよ」


「ふふ、それは無理じゃ」


 ドワーフ王はにっこりと笑うと、体のパーツが崩れ始めていく。


「これも未来の書で知っておった。この書は使い捨てでな、持ち主が死ぬと別なところに消える」


「そうか、父さんご苦労だったな」


「ふ、まぁ疲れてはおらんが、お前はダークドワーフでもある。心を開けば、ダークドワーフの力を使える。それだけは忘れるな、ダークドワーフの力は最高だぞ」


「ああ、母さんの事はうっすらと、って聞いてないか」


 ドワーフ王の体は砂となり消滅した。

 この世界のイベントリはオメガの所有物となり。


 その時地震が鳴るような音が響いた。


「これは円卓のテーブルが震えてるのか、早く戻ろう」


 オメガは即座にイベントリから脱出した。


 そこには震えが収まらず、恐怖の悲鳴を上げているリャナイ姫がいた。


「オメガさん、大変なんだ。リャナイが突然おかしくなったんだ」


「どうしたんだい」


 オメガが優しく問いかけると。


「この世界に神の一族、神族が来ました」


 リャナイ姫は言葉を発した。

 それは聞いたこともない種族。

 さらなる勢力の出現であった。


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