第22話 英雄ヒショウ:レベル5000

 舞台はエルフレイク城。

 かつてエルフ王国の首都とされ、エルフの王の住みかとされていた。

 エルフの象徴たるゆえんは沢山の巨大樹に囲まれた城という事だ。


 壮大な広さの為、兵士が8000人いても一人残らず殺害するのは結構難しい。

 それを可能にしたのはボーン卿の力だ。

 スケルトン1体につきレベルが1億ある訳で。

 その数は10000体。

 圧倒的な数を前に人間の兵士を駆逐するはずであった。


 巨大な砲撃のような音が響き渡った。

 城門が吹き飛んだではないか、土煙を浴びながら1人の男性が優雅に立っている。

 白いマフラーを首に巻き付かせ、格闘技用の軽めの黒と白の衣服を着用している。

 

 筋肉はバランスよくついており、顔そのものは無骨というかさわやかな感じの青年だった。


 オメガと魔王ルウガサーとボーン卿は唖然とその光景を見ていた。

 ガニーとゲニーとペロンクとリナテイクは別の方角から流星シルベスタン殺害に向かっているはずだ。


「おいおいおいおいおいおいおいおい、ドワーフが何様だ?」


「……」


 オメガは無言で返す。


「俺様はヒショウ、武道の達人、その拳で山をも吹き飛ばし、その拳で星をも打ち砕く、それがヒショウ様だ」


 目の前に幸運の女神であるチャクターが出現する。

 チャクターは信頼のおける仲間にしか見えない。

 ヒショウはチャクターに一切気付かないようだ。


「2000年前にヒショウは山を破壊してゴブリンを皆殺しにし、海を割ってリザードマンを絶滅にまで陥らせた。人間王国に落ちる巨大隕石を砕いて人間王国を救った。力を使い果たすまでもなく、老衰して死んだ。どうやら世界終の葉で蘇り、若返ったようだな。気をつけろ、あいつは呼吸すればレベルが上がる。鑑定してみろ、隠蔽はないはずだ」


「ああ、わかってる」


 オメガもルウガサーもボーン卿も即座に鑑定を発動させていた。

 それはヒショウも同じ事で、鑑定し返して来た。


【スキル:神域の呼吸:《効果》呼吸を1度するとレベルが10上がる】

【スキル:悪夢の呼吸:《効果》呼吸をしないとやる気がなくなる】

【スキル:パワー:《効果》拳を振るい続けると威力が上がっていく】


「へぇ、オメガさんか、武器と防具がレベル9999だし、そこの2人も同じやないか、ほうほう、面白いなーしてその武具はお前さんの許可がないと使えないと、ほむほむ、レベル0なのは何かのフラグやな、騙されへんぞ」


 一呼吸をおいて、ヒショウはこくんと頷き、右の拳と左の拳を合わせた。


「ほな、いきましょかー」


 地面を蹴り上げる。地面に巨大な穴が開き吹き飛ぶ。

 城門も一緒に吹き飛び、兵士達も巻き添えで吹き飛ぶ。

 先程のスケルトン達もこれでやられたのだろう。


 一瞬でオメガの至近距離に到着したと思った瞬間。

 オメガの間合いから消滅。


 ボーン卿が吹き飛んでいた。


「ふふん、フェイントは大事だぜ、オメガさん」


 オメガはイベントリから両手に嵌める銀色のグローブを取り出した。

 次に靴を銀色の靴に取り換える。


「おいおい、人様が殺し合いをしおうって時にお着換えかい」


 全身をおおっている無敵の鎧をイベントリに収納。

 腰に帯剣してある高速の剣もイベントリに収納。

 背中に装備してある破壊の弓と創造の矢筒を収納。

 全部レベル9999だ。


 先程のグローブは【銀神の両手】【銀神の両靴】2つともレベル9999となっている。


【銀神の両手:自分の想像力を体に具現化させる】

【銀神の両靴:自分の想像力を体に具現化させる】

 

 シャツとズボンはノーマルタイプのレベル9999となっている。


「ほう、やる気まんまんてね」


 ヒショウがこちらに跳躍する。

 地面が爆発し、次に空気そのものが振動し。オメガの体が震える。


 かつていただろうか、ここまでの強さを誇る好敵手は。


 鑑定した時に見たヒショウのレベルは8000になっていた。


 きっとヒショウもレベル9999を超えると、この世界の真実、レベル10000は0になるという事に気付くのではないだろうか。


「なーんてね」


 ヒショウはオメガの真横の空気を蹴り上げると、その反動で魔王ルウガサーの方角へと超高速で向かった。


 ヒショウはまるで空を飛んでいるように見える。


 それは空気を蹴り上げて、反動で移動しているだけなのだ。


 魔王ルウガサーは右手と左手をモンスターに切り替えている。

 ルウガサーのスキルモンスターパーツだろう。


 その隙間をぬって魔王ルウガサーの心臓を貫こうとしたまさにその時。


 オメガが動いた。


 ドワーフは基本、とろ臭くてのろまだなんて言われている。

 体はどっしりと重たくていつも重たいものを運んでいる。

 そんな事から思い込みが始まる。


 オメガは小さい頃から体を鍛える事を忘れなかった。

 そうすればより良い武器を製造する事が出来るからだ。


 それは果てしない夢なのかもしれない。

 最高で最強な武器を作りたい。


 でも今は。


 ひたすら人間を殺すのが夢だ。


 そんな事をずっと考えている気がする。


「な、なんだと」


 拳の先にはオメガが飛来していた。

 いや飛来どころではない、そこにすでにいたのだ。


 オメガの拳が前に伸びる。



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