第20話 ジョブチェンジ

 大勢のエルフが奴隷のように扱われている。

 泥まみれになりながら世界終の木に魔力を提供し続け、1人また1人と枯れ木のようにエルフ達は事切れていく。


 人間達は大量の世界終の葉を手に入れると喜びの声を上げていた。


 リナテイク・フレメリアは10回程、世界終の木から葉っぱを取り出している。

 大勢の人間達はリナテイクだけ鞭をうってでも魔力を提供させ続けている。


 彼女の体はぼろぼろになり、衣服もかろうじて大事な箇所を隠してくれている程度だった。


 リナテイクは意識がもうろうとしながら、あらゆる過去を振り返る。

 これが走馬灯ならどれだけ幸せな事だろうかと思う。


 弟が2人、妹が2人、4つ子だった。

 父親と母親はいつも元気で、祖母と祖父はいつも狩りをしていた。

 そんな時空から流星が沢山落下してきて、みーんな死んでしまった。


 次に現れたのは大勢の人間達の兵士。

 エルフ達は奴隷となり、リナテイクも奴隷となった。


 リナテイクには少し変わったスキルがあった。


【スキル:魔力増殖】

【スキル:魔力オーバー】


 魔力増殖は魔力が増加し続けるという最高な能力。

 魔力オーバーは魔力の最大値が大幅に増加するというスキル。


 だが、そのせいで、今リナテイクは死ぬ事すら許されない状況であった。

 

 ぜいぜいと息を吐き続け、体の奥底から魔力を絞り出す。


 ただ、ひたすら、ただ、人間の為に。


「おい、どうした、もう終わりか、お前には家族はいないのか? ったく人質になったものを」


 唾を吐き出す人間の隊長。


 顔面に唾がかかるがリナテイクは平気そうにそれを絶望の眼差しで見ていた。


 その時だった。

 1人の男の子が怯えながら歩いていた。

 右手と左手で世界終の木に触れる。

 脳裏であらゆる情景がフラッシュパックした。


 弟2人と妹2人が蒸発したあの瞬間。

 家族全てがまるで無かったかのように消え去った瞬間。


 怒りが増幅し、流星を呼び起こした流星シルベスタンを憎み。


 脳裏が真っ赤に染まった瞬間。


【スキル:ジョブチェンジ】を習得しました。


 脳裏がぱぁっと赤色から青色に変わり、緑の象徴たる緑に切り替わると。


【スキルジョブ:ホーリーアーチャーにチェンジします】


 ぼろぼろの衣服、それがみるみるうちに緑色の軽装備鎧へと変貌を遂げる。


【ねぇちゃん、俺、輝くアーチャーになりたい】


 妹の1人のかつての夢、それはホーリーアーチャーであった。


「は? はやくつかまえろおおおお」


 一瞬の風、地面からふわりと浮き上がるリナテイク。

 木の上に着地すると、矢を発射。その数数百本。


 一瞬にして死にかけていたエルフ達が癒される。


【スキルジョブ:ナイトソルジャーにチェンジします】


【ねえちゃん、俺、ナイトになりたい、でもソルジャーになりたい、攻撃と守りに特化したいんだ】


 かつて弟の1人がそのような夢を抱いた。


 全身の鎧が軽装備から重装備に切り替わる。

 弓矢は消滅し、盾が2個出現する。

 弓もそうだし盾もそうだし、軽装備もそうだし、重装備もそうだし、全部、かつての故郷で祖父と祖母が使っていたものだ。


 つまり倉庫から移動させていると考えていいのだろう。


「盾を2枚だとおおおお」


 兵士がわらわらと集まってくる。


 リナテイクの目は小さな光が集まって輝きに満ちていた。


 がつんがつんと音を鳴り響かせ、前進する。兵士が剣で斜め斬りに斬りかかってくると。

 リナテイクは盾で弾き飛ばす。そのままもう1個の盾で兵士の顔面を叩き潰す。


 頭蓋骨がぺちゃんこになっても無我夢中で叩く。

 リナテイクは人を殺した事がなかった。


【スキルジョブ:セイクリッドライダーにチェンジします】


【ねえちゃん、俺、いつか色んな乗り物に乗って戦いたい】


 重装備から普通の衣服に切り替わると、イノシシの乗り物に乗っていた。

 それは明らかに生きものではなく、子供チックなイノシシだった。


「ぎゃはははははは」


「お前バカなのか」


「この状況で乗り物とは、何を考えているんだ」


「いや、罠かもしれんぞ」


 兵士達が慎重に近づいてくる中で、リナテイクはイノシシのお尻を叩いた。

 次の瞬間、猛スピードで突っ込み、兵士達の体がばらばらに吹き飛んでいった。


【スキルジョブ:エラフィンにチェンジします】


【ねえちゃん、わたし、いつかドラゴンの精霊と会話するの】


 いつしかそんなことを言っていた人がいた。


 全身の恰好は先ほどの私服と同じまま。

 ただ違うのは無数の小さなドラゴンの精霊が頭上を浮遊しており。


 ドラゴンの精霊は口を大きく開けると。

 ファイアーブレスを解き放った。


 兵士達は盾でガードするも、盾ごとどろどろと溶けてしまい。

 気づけば、体そのものまで溶けていた。


 ファイアブレスはエルフには祝福の炎となったようで、元気が出てくれたようだ。


 これが竜の精霊のエンチャンターなのだと感じるリナテイク。


 全身から何もかも脱力してくると。

 ふと空を見上げた。

 恐怖がせりあがってくる。

 全てを奪っていった流星。

 それを発動させるのが流星シルベスタン。


「あの人を殺さないと」


 その時だ。何か違和感を感じる。

 1人のドワーフが腰に剣を担いで、人間に座っている。


 ドワーフが剣?


 不思議そうにそちらを見ると。


「君を傭兵団に誘いに来た。リナテイク・フレメリア、ジョブチェンジのスキルを持ち、4つ子の弟と妹の命を背負うエルフ。そうだ。流星シルベスタンならこれから殺しに行くところなんだよ」


 ドワーフは口元を笑顔にして告げた。

 まるで散歩していくついでにやってしまおうかと誘いをかけているように。


「あなたが、噂のドワーフの傭兵団ね? お仲間はどこかしら?」


「仲間なら無人島のダンジョンにいる。自由の墓場と言えば聞いたことがあるだろう」


「あの勇者をあんな恰好にさせた人たちね」


「そんな所だ。リナテイク、やる事は一緒だ。俺と来れば、弟と妹達に合わせてやる。ゴーストだがな」


 リナテイクの顔が見る見るうちに輝きだした。

 あの勇者をフルボッコにしたドワーフが言っている。

 確実に嘘ではない。


 そして弟と妹達に会える。


「父も母も祖父も祖母もだ。運がいい、ボーン・スレイブ卿があの世と交渉してきた」


「あ、あの世?」


「ああ、言い忘れていた。ボーン・スレイブ卿はアンデット王でな、そういう所は融通が利く、色々と生贄に俺の武具が大変だったが、とほほ」


「は、はは」


「さて、どうするかな、リナテイク」


 ドワーフは立ち上がり様に人間の首を折り曲げた。


「人間は油断してはいけない、こいつらはゴキブリ並みに生きている。しつこくそして執念深い、ただ1人残すだけで色々と大変だ。俺は君を歓迎するぞ」


「ふふ、そうね、それも悪くないかもしれないわね」


 その時だった。

 空から無数の流星が降ってくる。


 過去の情景が呼び起こされ、家族が蒸発する姿を呼び起こされ、リナテイクは体を震わして。


【スキルジョブ:オールジョブにチェンジします】


 リナテイクの体が光輝き始める。

 光の玉があちこちに浮遊し、小さなドラゴンの形となる。

 弓矢が100個程浮遊しながら、空に向かって解き放つ光の矢。


 見た事もない馬のような乗り物、足が8本ある。

 それにリナテイクはまたがると、巨大な2個の盾を召喚する。


 その大きさ1国の大きさに等しい。

 リナテイクの後ろにはドワーフの青年もいるし、奴隷になったエルフ達がいる。


 光の矢でいくつかの隕石を砕くと、小さなドラゴンの精霊は無数に集まり、巨大なドラゴンの精霊へと変貌する。


 巨大な顎からファイアブレスを放つと隕石が瞬く間に蒸発する。

 だが次から次へと隕石が落下してくる。


 巨大な盾でひたすらガードをし続けるリナテイク。


 全身の周りに浮遊している光の玉は少しずつ少しずつ減っている。


 それは魔力ではなくて、リナテイクの生命力だと彼女は感じ始めている。

 風がゆったりとなった。

 隕石はまだ落ち続ける。

 そこまで人間はエルフが嫌いなのだろうか。

 怒りが芽生え怒りが生まれ。


 空を見上げていると。


 1人のドワーフが空を飛翔していた。


「は?」


「はい?」


「うそだろ」


 最初はリナテイクの声、次は他のエルフ達であった。

 

「なぁ、流星シルベスタンさー流星はなこうやって返すんだよ」


 それは剣ではなかった。


 ドワーフにはイベントリという倉庫の様な物がある。


 そこから巨大すぎるハンマーを取り出していた。 

 とっさに鑑定すると。


【レベル9999:怒気ハンマー:《効果》怒りに比例して威力が上がる】


「俺はな、このエルフの大地にやってきて怒りが爆発してんだよ、緑の大地は焼け野原、美形のエルフ達は枯れ木のようになってる。ふざけすぎるのも大概にしろ人間、何が【ぎゃはははは】だ。俺がうっほっほっほって笑ってやんよ」


 怒気ハンマーは次の瞬間、無数の流星を爆発させた。

 1個の流星にヒットすると、連鎖爆破のように次から次へと爆発していく。


 無限に増える流星は無限に爆破される。


 いつしか流星シルベスタンは諦めてくれたらしい。

 リナテイクはほっとすると、気を失いそうになる。


【オールジョブ:《発動条件》1億以上の魔力が必用】


 今更ながらにリナテイクはそれを認識して、倒れなかった。


「はへ?」


「やはり凄い」


 ドワーフが手を差し出してくれる。

 先程まで浮遊していたのに。


「オメガだ。君はリナテイクだろ?」


 全身が鎧に包まれていて分からなかったけど、兜を取ると、そこには可愛らしい青年がいて。


「これは人形にすべしです」


「な、なにをする、ちょ、またんか」


 その後ドワーフ青年はとんでもない姿になったのであった。


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