2章 オレタチの逆襲

第19話 傭兵団始動

 人間王国の玉座にて皇帝陛下は震えていた。

 それは正体不明の異種族の傭兵団にだった。

 皇帝陛下のスキル:世界目では全ての世界を見る事が出来るが、それは抽象的なものからターゲットを選ぶ訳で、そうして勇者イルカスを見つけたわけで。だけど皇帝陛下が見た世界目でのダンジョンでは無数のモンスターがいて首謀者を見つけ出す事が出来ない。


「ええい、どういう事なんだ。世界中だぞ、世界中にイルカスの馬鹿面を見せてしまった。人類の希望がああではどうすればいいのだ」


 皇帝陛下は目である。武術も秀でているし剣術だって魔術だって。

 だが、所詮はレベル90止まりという事だった。


 がりがりと皇帝陛下は自分の親指の爪を齧る。


 すると1人の人間の兵士が慌てて皇帝陛下がいる玉座に走ってきた。


「皇帝陛下様、現在エルフ領を占領しました。エルフ達を奴隷化させ、世界樹の葉を大量生産し、かつての英雄達を蘇らせる事が出来るでしょう」


「それはよかった。引き続き頼む」


「勇者候補生の流星シルベスタン様が計画を練られておられます」


「そうか、彼が」


 流星シルベスタン、勇者候補生でありながら、エルフの大軍を1人で叩きのめす程の逸材。唯一勇者に近いとされていたが。


「それと、例のダンジョンですが忽然と姿を消しました。探査系のスキル持ちでも見つけ出す事は出来ません」


「そうか……」


「ただ。変な傭兵団が人間狩りをしています」


「なんだと」


「ただの噂ですよ」


「それは良かった」


 皇帝陛下はほっと胸を撫で下ろした。


 そうして1人の兵士がいなくなると。

 窓から外を見る。

 そこには人間が築き上げた色褪せた文明が広がっていた。


 この文明を守る為に異種族には犠牲になってもらわないといけない。


「罪は背負おう」


 ただ、ただ、寂しく呟いていた。


====傭兵団====


 エメラルドグリーンの葉っぱが無数に広がる森の中、橙色の木々が無骨に枝を張り巡らしている。根っこが緑の大地に突き刺さっている。


 その台地には無数のエルフの死体が転がっている。

 巨大な木、それは普通の木ではない。

 世界樹の木、または世界終の木と呼ばれている。


 その木はエルフの莫大な魔力を全て吸い上げると木の生命を終わらせる。

 その代わり無数の宝石のように輝く葉っぱを落とす。

 その葉っぱ1枚で怪我を完全回復させる事が出来る。


 世界樹の木からとれる世界終の葉っぱ。

 エルフ以外の民は世界樹の葉と呼び、エルフはそれがどのようにして作られるか知っているから世界終の葉と呼ばれる。


 世界終の葉っぱを100枚集めると1人の死者を蘇らせる事が出来るとされる。


「とまぁ、こんなところだな」


 幸運の女神チャクターが述べてくれた。


「それで、こんなにエルフの死体が転がっているのか」


「そうさな、どうやて助けるか考えたほうがいいぞ」


 白い羽を生やした小さなコロポックルのような姿。

 一部の人間にしかその姿は見る事が出来ない。


「見えてきたな」


 現在、ドワーフ族の青年オメガと魔王ルウガサーは2人でエルフの樹林にやってきていた。


 オメガは重武装で装備しており、ルウガサーは軽装備で装備している。


「団長、これはひどすぎますよ」


「ああ、ひどいな」


 眼前に広がる光景、エルフの子供を人質にしてげらげら笑っている人間が、エルフの親達の魔力を世界終の木に与え続けている。


 エルフの親はみるみるうちにやせ細ろって行く。


「もって数分、いくぞ」


「ですが、兵士は100人を越えます。瞬殺でなければ、エルフ達を人質に取られる可能性が」


「時間がない、瞬殺だ。容赦するな」


「御意でございます」


 オメガとルウガサーは地面を蹴り上げる。


 オメガのレベル10000を超えている。

 ルウガサーのレベル10000を超えている。


 ステータスは基準値を遥かに超えている。


 素早さは人間を遥かに超えている。

 エルフの子供達は泣き叫ぶ。


「ぎゃははははは、エルフ族は賢いそうじゃないか、なんで泣いてんだ?」


「ああ、それは君が泣かずに死ぬからだ」


 首が斜めに両断され、時間差で人間の兵士の首が地面に落下した。


 悲鳴が上がる前に、次から次へと兵士達の首が綺麗に斜めに両断されていく。

 地面に頭が落ちるまで時間がかかる。


 魔王ルウガサーもレベル9999の剣をオメガから与えられている。

 彼女も次から次へと人間の兵士の首を両断していく。


 エルフ達は口を大きく開け広げて、何が起きているのか理解不能とばかりになっている。

 10人が死に30人が死に90人が死に100人が死ぬ。

 かかった時間は3秒。


 やせ細ろって一生懸命魔力を世界終の木に与え続けているエルフの親の手をオメガは取った。


「もうやめろ、人間は皆殺しにした」


 すると、エルフ達はこちらを見てぽかんと口をあけて、怯えの表情を浮かべた。

 次の瞬間、自分達が保護されたのだと認識し、ぶわぁっと涙を流していた。


「エルフ達は弱ってる。無人島にある自由の墓場ダンジョンに保護しよう」


「それがいいと思います」


 オメガは一瞬で鑑定を終えると、全員で20名だと理解した。


 次の瞬間にはその場から全員がいなくなる。


====無人島====


 1階層ダンジョンボスの間で魔王ルウガサーは腕組みをしていた。

 団長の椅子には体の小さなドワーフがちょこんと埋まっている。


「エルフ達は2階層の街で生活しています。8階層の海にて取れた魚を食べさせておりますが、なんとか空腹はしのげたようです。失われた魔力も回復しています。エルフ達の情報から、エルフ王国は落とされたようです」


「なるほどな、ドワーフ王国を取り戻したいけど、エルフ王国には1人面白い奴がいる。瞑想でその情報は得てるんだ」


「御意に」


「ただ。流星シルベスタンがかつての英雄を蘇らせたとして、どうやって倒すかだ。かつての英雄はレベル5000はあるらしいから」


「それは危険ですね」


「さて、時間はあまりない、動こうか、皆にはダンジョンの警護をお願いするよ、ダンジョンポイントも50億あるし、色々と使えそうだよ」


「では、私も参ります」


「ルウガサーはペロンクとエルフ達を元気づけてやってくれ」


「で、ですが団長のお傍を離れる訳にはいきませぬ」


「いや大丈夫だから」


「いやです。はなしませんよおおおお」


「げ」


 一瞬のスキをついてオメガはテレポートに成功した。

 それを苦しい表情で見ている魔王ルウガサー。


====エルフ王国====


 そこに広がるのは地獄。

 エメラルドの葉っぱの生い茂る木々は炭のように燃えカスになっている。

 エルフの全身が黒焦げに炭化している。


 兵士がエルフの死体の中に生き残りがいないか槍で突き刺している。

 中には死にかけているようで、心臓を突き刺されて死に絶える。


 沢山のエルフが逃げまとい、魔法を炸裂させてもマジックバリアで跳ね飛ばされる。


 それが流星シルベスタンの力。

 仲間に星の欠片を持たせると、バフ強化させる事が出来る。

 条件は流星シルベスタンに命の3番目に大事なものを捧げる事。


 これも瞑想で得た知識。

 瞑想は全てを知覚する事は出来ない。

 だが深く深く瞑想すればそれも可能となる。


 オメガの形相は怒りそのもの。

 そこまで人間として生きていたいが為に、いつかくる別世界の異種族侵攻が怖いがために。


 その為にこれだけのエルフを。耳が長く、長身で美形の彼等を殺すとは。


「お、ドワーフがいるぜ」


「なんでこんな所に?」


「重武装してる」


「馬鹿なんじゃないか?」


 2人の兵士が近づき、10人に膨れ上がり、いつしか100人に増える。

 彼等は新しいおもちゃでも見つけたように、槍でオメガを突く。


「もう殺しちまおうぜ」


「ぎゃははははは」


「下品な笑い方だな、そうやって弱い者いじめしてないと楽しくないのか? 人間」


「なんだとー」


 兵士が叫び声を上げると剣を振りぬきざまにドワーフの首を両断しようとした。


 だが剣はぽきりと折れると、転がって吹き飛んでいった。


「あいにく、俺の防具はレベル9999なんだよ」


「は?」


【ぐしゃり】

 

 と音を響かせて、一人の兵士の足がひんまがった。

 ドワーフの右手だけでそれを成し遂げた。


「は?」


「どういう」


「ぎやあああああああ」


 時間差で激痛が響く。


「すまないね、首とまではいかないが、足だけでも破壊しておいたよ」


 兵士達の顔が狩りをする者から狩られる側に切り替わった瞬間であった。

 腰を抜かした兵士達は地面をはいずって逃げようとする。


「ごめん、足が大きくてさ」


【ぐしゃり】


 オメガの足は兵士の頭を踏みつぶしていた。


「おお、これは面白い」


「た、助けてくれ頼む頼むから」


「何を言ってる? お前らがして来たことをマネしてあげただけだよ?」


【ぐしゃり】

【ぐしゃり】

【ぐしゃり】

【ぐしゃり】


 人間の頭が潰れるとまるでリンゴのように砕け散る。

 

 いつしか、エルフ達が歓声をあげていた。

 たった1人のドワーフにやられている人間達を見て笑っていた。


 まるで虫けらのように人間を処理し終えたオメガは一汗掻いたという感じで額を手で拭った。


「さて、エルフ諸君、ダンジョンにこないかい?」


 ドワーフスマイルで、新しく100名のエルフを街に勧誘した。


 何名か人間が逃げる事に成功していた事をオメガは見逃さなかった。

 

 彼等にはいい宣伝役になってもらおうと考えている。


 彼等のおかげで、変な噂が広がり始める。


 ドワーフが率いる傭兵団が次から次へと人間を殺してまわっていると。

 異種族にとっての希望の光だと。




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