第15話 爆発

 青い海が広がる世界。

 リザードマンの姉弟は子供の頃に大きな夢を抱いた。

 それは海に行く事だった。

 だが、2人の願いは自由の墓場というダンジョンにより叶えられた。

 2人は何もない海に生命たる魚の養殖を始めた。

 魚が沢山いれば飢えて死ぬ事はない。


 2人の両親は2人を残して死んだ。

 それは飢えであった食べる物がなかった。

 なぜ、2人が生き残ったのか、2人のスキルにあった。


【ボマー】というスキルは火薬を食べる事を許してくれた。


 リザードマンの村の近くには火薬草と呼ばれる草が生えている。

 しかしリザードマンは食べる事が出来ない。

 だが2人はスキルの恩恵と本能で火薬草を必死に食べた。

 食べて食べて食べつくした。

 2人の体はほぼ爆弾と言っても良いだろう。


 現在2人は主たるドワーフに従っている。

 

 その願いが、自分達の願いだから。


「なぁ、姉ちゃん、久しぶりに本気だそうぜ」


「ああ、いいぜ、なぜかって、村じゃーできなかったからなぁー」


 2人の眼の前には6mを超すゴーレムの岩鉄丸カナックが迫りくる。


「お前等は人間を苦しめるのか、いつも人間を苦しめるのか」


「それはあんたらも同じさ、いや一方的な攻撃を仕掛けてきたのは人間のほうさね」


「そうだそうだ」


「話し合いは無理みたいだな」


「そりゃーあたしも同じ意見だねぇ」


「そうだそうだ」


「じゃあ」


「2人の最高な爆発劇って奴を」


「姉ちゃんそれじゃあしまらないだろ」


「そうだね、二人合わせてポーズを決めて」


「いっくよー」


「いっくよー」



 岩鉄丸カナックは巨大な岩で頭を押さえながら。


「何がしたいんだ」


 リザードマン族。

 いつかドラゴンになりたかった。

 2人の小さな夢、それはドラゴンになりたかった。

 そして魚をたらふく食べたかった。

 後は最高な爆発ショーを見せたかった。


「「スキル:ドラゴニック化」」


 レベル10000になった事で無数のスキルを習得した。

 その1つがドラゴニック化であった。

 みるみるうちに体がドラゴンのように肥大化する。

 鱗が巨大化する。

 首が長くなる。

 そこには赤いドラゴンと青いドラゴンがいた。


 大きさは15メートルは越えている。


「はは、ははははは、そんなのありかよ」


 だが岩鉄丸カナックは一筋も諦めていなかった。


「ならこちらも迎撃モードといきましょうかね」


 岩鉄丸カナックの背中から無数のキャノン砲が出現すると。

 無差別にエネルギー砲が発射された。

 赤いドラゴンと青いドラゴンに衝撃となって衝突すると。


 煙がモクモクと海の天井へと昇っていく。


「こんなのは爆発じゃないよねー」


「そうだよ姉ちゃん、爆発ってのは」


「「こんなのさー」」


 2人の体はほぼ爆薬で出来ている。

 いわば爆弾の体という訳だ。


 2体のドラゴンは夢見る飛翔をすると。

 岩鉄丸カナックに向けて飛翔した。


「夢だねー空飛んでるよー」


「姉ちゃんすげーなーでももっとすげーのいっくおー」



 赤いドラゴンと青いドラゴンは岩鉄丸カナックに激突する。


 岩鉄丸カナックは何かを叫ぶ。


「防御モード展開」


 岩のシールドが無数に岩鉄丸カナックの正面に展開される。

 だが赤いドラゴンのガニーと青いドラゴンのゲニーが衝突した瞬間。

 そんなものが無意味だと悟る事だと2人は思っている。


 爆発、いや、それは世界の終わりの爆発と言っていいだろう。

 海面より上が蒸発し、海の中の魚達はいくらか死に絶えた。

 島は灰になり、土になる。

 天井の海も蒸発し、この階層はほぼ全てが蒸発する。


 赤いリザードマンのガニーと青いリザードマンのゲニーが2人で手を合わせて笑っている。


「すげーなー最高な爆発劇だぜ、また魚育てないとな」


「うんうん、ねーちゃんの爆発は最高さ、さて、あそこにいる燃えカスはどする」


「あがががははがががあ」


 岩鉄丸カナックは岩ひとつ身にまとわず、タイツのような服を着用しながら、全身が真っ黒こげになっていた。皮膚はどろどろに溶けて、炭化してるし、鼻と口は潰れていた。


「かはかは、勇者様がきっとお前等を」


「その勇者ってさたぶん拷問されてるよ」


「なんでだ、がは」


「あそこに映像が流れてる。まったくオメガ団長はやる事がえげつないなぁ」


 そこには勇者イルカスが無数の亡霊に追いかけまわされ、見た事もない世界で逃げまとっている。鼻水をたらし、涙を流し、ほぼ全裸で、ぼろぼろになりながら命乞いをしている。


「これってさ、世界中に流されるんだってね」


「うひょー団長凄い事するねー」


「きゃはっはあ、人類の希望の勇者様があれじゃーな」


「でも面白くてさいこーじゃん」


「あっはっはははは、お前らを巻き添えに」


 カナックが吠え声を上げると、笑いあうリザードマンの2人に向かってボールを投げた。


「それは勇者様が自決ようにぃ」


 爆発、いや必ず死ぬ呪の爆弾。


 だがそれは。


「あれ?」


「かゆ」


「う、うそだろ」


「そうか、言い忘れてたわ、あたし達の体あらゆる爆弾だから、爆弾は基本きかないよ」


「僕の体は爆弾なのです。そしてぴかーって爆発するんです」


 ガニーの体は爆弾そのもの、ゲニーの体は爆弾そのもの。


 レベル10000になる事で得たスキル。

【スキル:バクサン】

 あちこちを爆散させる事が出来る。


 2人はカナックの体を触ると。


「いやだー無駄死にばはああ」


 女性であり、勇者候補生の岩鉄丸カナックは全身を爆発させられて、爆死してしまった。


 体は墨となり、粉々となり、風が彼女の死体を運んで行ってくれた。


「よーし雑魚だったな、ちょっと勇者様の逃避行って奴をリアルタイムで見ていようぜ」


「姉ちゃん勇者って人間の希望なんだろ、あれは希望なの?」


「そうさ、鼻水たらして涙流して全裸で逃げるのが人間さ」


「いいねー人間って面白いねー」


「だろ?」


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