第13話 これが現実だ!

 勇者イルカス達は現在、7階層の空地帯にやってきていた。

 その空間に入ると体は落下し続ける。

 しかしふわふわと浮き上がる。

 そこにレベル8000のドラゴンのカギヅメが迫ってくる。

 命を懸けて逃げ続ける兵士達と勇者達。


 出口に辿り着くまでに1万人の兵士が死んだ。

 6階層の入り口で兵士達の士気は低下していた。

 皆震える声を上げて涙を流していた。


 ここは人間にとってまさに地獄そのものだった。

 魔王ルウガサーは倒すところまで行ったと聞いた。

 つまり倒せるはずなのだが、おかしい、魔王ルウガサーの配下が魔王ルウガサーのレベルより上だろうか?


 もっとやばい奴がいるのではないか、本気でスキルを334個使用する必要があるようだ。

 自分の弱点は敵を侮って、スキルを使用する前に死ぬこと。

 あと334個のうちのスキル:隠蔽のおかげである程度は隠し通す事は出来る。


 6階層の山は果てしない山だった。

 ダンジョンの中に世界が広がっている。

 それだけではなくやはりレベル8000のモンスターがひしめく。

 

 ここまで来ると兵士達の質がよくなったのか、一人も死ななくなってきた。

 兵士達は何か吹っ切れた顔をしていた。

 勇者イルカスは兵士達が頼もしく感じた。


 5階層に辿り着いた時。それは確かに迷宮の形をしていた。

 少し違うとしたら黒い屋敷の形をしていた。


 勇者イルカスと勇者候補生3名と兵士達は恐る恐る中に入っていく。

 

「迷宮だよな? 中身が貴族の屋敷そのものだぞ」


「ですが、入り乱れています」


 2階の食堂に向かう階段があった。

 そこには一人のガイコツが仁王立ちしており、右手と左手の真ん中には1本の大剣が地面に突き刺さっている。


「なるほど、貴殿が勇者イルカスか、これは面妖な死んで蘇るとは、まぁわしは死んだまんまだがな、さて、貴殿は急いでいると見た。1人勇者候補生の相手になろう、兵士達はここから先は通れぬ、わしが全てお相手しよう」


「まったく兵士達もなめられたもんだなー」


 勇者イルカスが笑い声をあげる。


「そうだなーそうだなー」


 生き居残った兵士達は自信たっぷりであった。

 しかし次に起きた現象で彼等の生きる希望はなくなる。

 地面から無数の骨が召喚された。

 次に骨は動き出した。


「どうせスケルトンとかのぎゃああ」


【ザシュ】


 嫌な音を響かせて、ただの鉄の剣が兵士の鎧を両断していた。


「屈強な剣士は鎧をも両断する。武器の良しあしに関係なくな」


「そいつはただのスケルトンだろうがよおおお」


「それはわしそのもの、ボーン・スレイブ卿が10000体お相手しよう」


「く、くははっはははあ、なるほど、これが憑依玉の力が、回収失敗してたな、いけるか? 支離滅裂パン」


「あーいいでしょ? わたくし暇ですから、最近頭の中の声がうるさくってさー、あれですよ病気ですよ、しょうがないじゃないですか、胃薬飲み忘れたんですから」


「わかったから、やれ」


「はいひあさー」


「そこのお嬢さんがお相手かな、これは嬉しい限りですな、ですが人間がお相手、アンデット王であるボーン・スレイブ卿は手加減などしませんぞ」


「あーめんど」


 支離滅裂パンの姿は七色に輝く髪の毛をしており、お化粧をめちゃくちゃにして、だぶだぶのドレスを着用しているという本当に支離滅裂だった。


「貴殿よあまり団長をなめるな、死ぬより辛い事になるぞ」


「団長? 魔王だろ」


「ふふ、はははははは」


 ボーン・スレイブ卿はただ笑っただけだった。

 その後4階層の洞窟、3階層の図書館を通り過ぎた。

 そこのモンスターからも必死で逃げた。

 2階層の街に辿り着いた時、道化の姿をした子供のコボルトが立っていた。

 彼の周囲には無数のトランプが浮遊していた。


「お兄ちゃんからすごい人の血がする。お兄ちゃん死ぬべきだね」


 寒気を通り越した絶望。

 この子供のコボルトに何が起きたのか、それを引き起こしたのは自分たち人間族であり、それは皇帝陛下と決めた事なのだ。

 人間が優れているのだから。


 道化師、いやピエロそのものの少年はにんまりと笑った。


「ここは俺が相手しよう」


「いけるか、笑顔ルーン」


「ああ、こいつはちょっと見た事がある興味がある」


「あ、君、よくサーカス団でお父さんの芸を見て笑ってた人だ」


「久しぶりだな、ちょっとやりあおうぜ」


「あ、うん、殺したくないけど殺すよー」


 勇者イルカスはほぼ無人となっている街をただ眺め、勇者候補生1人をつれてさらなる地下へと向かった。


 1階層ダンジョンボスの間。


 そこには玉座は存在せず巨大な広間があり円卓のテーブルがある。

 

 椅子に優雅に座っているのがドワーフで、その隣にメイドのように立っているのが魔王ルウガサー。


 勇者イルカスは意味不明だと悟り。


「一体どういう事だ?」


「それはこっちのセリフだよイルカス、いやカス、雑魚って言ったら怒るんだっけ」


「それを知ってるって事は、俺の事を知ってるのか」


「殺しあった中じゃないか」


「まぁそんな所なんだろうが、死ぬかドワーフ」


「そうだ。同じ事をさせてもらおう、まず戦う前に相手のレベルを鑑定すべきだよ、ここにくるまでに他の奴等は鑑定したのかい?」


「ま、まずいです勇者様、あいつレベル0ぶはははははっは」


「ちょっと黙れ灰人バイ」


「す、すみません」


「どうせフェイントだ。俺達がレベル0に殺される訳がないだろ」


「それもそうなんだがなあ」


 ドワーフはゆっくりと立ち上がる。


「君達が来るまでに色々と暇だったから武具を色々と作ってみたんだよ。今の俺はシャツとズボンだろう? 君達にはそれだけで十分なのだが、まぁこれは自慢だ。この武器を見てくれ」


 空間、つまりイベントリからエメラルドの斧を抜き出す。


「真実の斧でね、君の真実を見破る事が出来る。発動条件は君の血を飲ませる事だ」


「そんなもの」


「まだわからないかね、これは俺の自慢だ。鑑定してみてくれ」


「う、そだろ」


 灰人バイが絶句している。


「レベル9999の真実の斧です」


「存在したのかレベル9999が」


「あとあいつのシャツの中にナイフがあるんですが、それもレベル9999です。あと円卓のテーブルも盾でしてレベル9999です。椅子も骨組みひとつひとつが武器でしてレベル9999です。あの壁にかざってる剣もレベル9999です。衣装ダンスの中にも服があるんですが、全てレベル9999です。ここはお宝の山なのか」


「ふふははははっは、ようやく俺達にも運が」


「来なかったんだよなー残念だけど」


 その時目の前にドワーフがいて、斧が右手を両断していた。


 勇者イルカスはようやく気付く、自分の悪い癖。

 油断してしまうという事。


「あぎゃああああ」


「死なせないし真実の斧で全て暴くよ」


 次の瞬間、円卓のテーブルの上に真実が映像となって流れた。


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