第12話 勇者イルカス=無限転生

 勇者イルカスは死ぬこと333回目であった。

 1度死ぬと死ぬ前の1日を忘れる。

 勇者イルカスは元々勇者召喚でやってきた別の世界の人間であった。

 1度死ぬと決まって人間王国の皇帝陛下が住むとされる神殿の玉座に全裸で蘇っている。

 1度死ねばスキルガチャを1度使用できる。

 現在勇者イルカスには333個分のスキルを習得している。


 だがほとんどはゴミスキル。それがスキルガチャの悲しい所。

 現在334回目のスキルガチャ。

 素っ裸になりながら、空中に浮く四角い箱からボールが出てくる。

 隣では皇帝陛下が微笑んでこちらを見ている。


 この特権は勇者イルカスだけに与えられた事。

 

【おめでとうございます。スキル:剣神を習得しました】


 勇者イルカスはスキル:剣神の説明をじっくりと見ていく。

 その瞳から希望が生まれ、みるみるうちににやけた顔になっていく。

 いくら死んでも勇者イルカスの本質は変わる事はない。


「いくのかな?」


「ああ、皇帝陛下、10万の大軍を借りるぞ、どうやら俺はあの女魔王に殺されたようだ」


「でも、誰に殺されたかは明確じゃないんでしょ?」


「そうだな、まったく死んだ後に記憶を失うのは勘弁してほしいぜ」


「全てじゃないんでしょ?」


「その通りだがよ、ああーほかの奴等次々死んでるみてーじゃん」


「まぁ、仕方ないでしょ、雑魚なんだから、君を除いて、あとあいつらね」


「うんうん、そうだ4人借りてくぞ、雑魚だけど、いないよりましだ」


「ああ、うん、任せるよ、おいらはこの世界から異種族がいなくなればいいから、異種族は苦しみしか生まないから、人間は素晴らしいから、なぜかって」


「ああ、わかってるさ、皇帝陛下」


「ああ、うん、任せたよ、おいらの頼もしい戦友」


 素っ裸の勇者イルカスは一瞬で衣服を着用していた。


 そして現在、10万の人間の兵士を引き連れて、4名の勇者候補生を引き連れて、魔王ルウガサーのいるダンジョンにたどり着いたというわけだ。


 皇帝陛下は人間王国の神殿に座ってるだけで何かしらの力を使い、全ての指令を終えていた。


 なので勇者イルカスは10万の兵士を引き連れて進軍するだけだった。


 勇者イルカスの誤算はと言えば。レベルが80止まりという事と。

 モンスター1体が8000レベルという事。

 しかも入口の門に陣取っている1体のスライムによってだった。


「おい、聞いてないぞ、見た目的に小さいスライムなのに、いくら鑑定してもレベル8000だぞ」


 兵士が恐ろしい声でつぶやく。


「勇者イルカス様、どのようにいたしましょうか」


「うむ、静止画バニーいるか」


「ここにおるが」


 そこには深々と黒い帽子をかぶり、黒い眼鏡を着用している、のっぽの男性がいた。

 彼はポケットに手を突っ込みながらうんうんと頷いている。


「出来そうか?」


「任せな、どんなにレベルが高かろうが、静止画にしてしまえば2分もつぜ」


「ああ、聞いたな、2分間に全軍突撃するぞ、高速で走れ、遅れた者は死ぬぞ」


 静止画バニーは右手の人差し指と親指と左手の人差し指と親指の形を四角くすると。


「ぱちとな」


 次の瞬間、スライムの動きが静止した。


「間違っても触れるなよ、動くぞ」


 静止画バニーが忠告する。

 誰もが夢見るだろう、レベル8000を倒してレベリングと。

 しかし、残念な事に一撃では倒せないのが現実だ。


 勇者イルカス達はなんなく10階層の平原地帯にたどり着く。


 そこには空があり太陽があり雲がある。

 勇者イルカスは絶句する。そこに広がるモンスター達全てがレベル8000だという事に。


「うそだろ」


「ははは、ここに子どものウルフフォーンがいるぜ」


 兵士が笑った。次の瞬間蹴り上げたはずだったが兵士の足が引きちぎれた。


「ばかものが、そいつもレベル8000だぞ」


「あ、え、があ」


 異変に気付いた。ウルフフォーンの大群(レベル8000)が襲い掛かる。


「皆の者それぞれ命を懸けて戦え、俺達は内部に進む、続けるものは1人残り続けええええ」


【うぉおおおおおおおおお】


 10万の人間の兵士が1人また1人と命を落としていく。

 勇者イルカスと静止画バニーと残りの3名はただ走り続けている。


 10階層の平原地帯を乗り越えるだけで2万人の兵士が死んだ。

 9階層の森地帯に入ると、やはりレベル8000のモンスターに襲われて、3万人の兵士が死んだ。


 人の命とは本当に呆気の無いものなのだと勇者イルカスは感じている。


 そして8階層の海地帯に来た時、海の所々に島があり橋がある。

 それを通らねばいけないが、確実に海に落ちたら死ぬだろう。


 最後の巨大な橋に辿り着いた時。

 大勢の兵士達は希望を持っただろう。


 だが突如として巨大な橋が爆発した。

 さらに全ての橋が爆発し、兵士達はあちこちの島で遭難してしまった。

 

 大勢の兵士が爆死した。


「うっひょーあたしたちの爆弾すげーな」

「姉ちゃん落ち着けって興奮しすぎ」


「お前らは?」


「あれ、あん時の勇者じゃん、死んだはずだろ?」

「うんうん、そうだね」


「ほぉ、俺を殺した奴等の仲間という事か。俺は魔王ルウガサーに用がある、岩鉄丸カナックいけるか?」


「任せろ」


 赤いリザードマンが瞼に手を当ててにへらと笑い、さらに爆笑する。


「いいねーその岩のボディー破壊したいねー」


「姉ちゃんは作る専門でしょ破壊するのは僕だよ」


「あたしが作ったものをあんたが投げる、だから2人で破壊した事になるのさ」


「なるほど、姉ちゃん賢いな」


「だろ?」


 勇者イルカスはその工程を見ながら。頭を押さえる。


「岩鉄丸カナック頼むぞ」


「御意に」


 岩鉄丸カナックの姿。

 それは岩の形をしたゴーレムそのもの、身の丈は6mは遥かに超える。

 岩の内部には人間の女性が収まっている。

 岩鉄丸カナックは地面を殴るとその衝撃で空を飛翔した。橋の向こうに着地したら。その岩の拳が炸裂した。


「今のうちに渡れ」


 スキル334個のうちの一つクリエイトにて橋を創作。

 スキル334個のうちの一つ範囲拡大にて橋の範囲を拡大。

 あちこちに橋がクリエイトされる。

 

「助かりましたー勇者様」


「お礼はいいからはしれええええ」


 次の瞬間島そのものが巨大なクジラのモンスターに飲み込まれた。

 それだけで1万人の兵士が死んだ。


「ぎゃあああああ」


 悲鳴があちこちから上がる。

 

 岩鉄丸カナックとリザードマン2名との戦闘が白熱している所、勇者イルカスと静止画バニーと残り2名の勇者候補生は走る。その後ろからは4万人にまで減った兵士達が必至に追いかけてきた。


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