第8話 ボーン・スレイブ卿

 黒くて巨大な屋敷、スレイブ家は遥か昔からの大金持ちの一族だった。

 ボーンは巨漢であった。そして金髪で優しい瞳をもった妻と出会った。

 娘は金髪で可愛らしい顔をしている10歳。

 息子は巨漢のボーンの血よりスレンダーな妻の血を強く受け継ぎ、小柄でハンサムな男の子だった。


 今日もいつも通りの朝食。

 新しい朝がやってくる。

 食卓には目玉焼きとパンで挟んだサンドイッチ。

 妻特製のコーンスープのトウモロコシは畑から収穫した作物だ。

 

 妻はこちらを見て微笑み、娘と息子はけらけらと笑って。

 普通のどこにでもある幸せだった。


 心臓がどきりと脈打った。

 

「はぁはぁ、違う違うぞ」


 赤い炎で燃え盛る屋敷。

 自分も家族もその炎に包まれて死んだ。

 だが、違うぞ。違うんだ。


「だって妻も娘も5歳になる息子だって生きているんだから」


 だが、しだいにかすみがかるようにして世界が暗転する。

 机に座っていた美しい妻は骸骨となり、娘は小柄で息子は小さい骨となる。


「あああ、あああああああ、ああああああああああああああああああ」


 ボーンは自分の腕を見る。

 そしてテーブルの真向かいに設置してある鏡を見る。

 そこに映し出されたのは、全身から燃え盛る赤い炎の骸骨だった。


 赤い炎は憎しみの光となり、燃え続けている。

 これを行ったのは人間達だ、それも遥か昔、毎日毎日、現実逃避を繰り返す。

 朽ちた黒い屋敷はいまだに崩れ落ちる様子はない。


 毎日毎日、家族ごっこをする。

 スキル:不死身により死ぬことを許されぬ体。

 

 この屋敷の地下にはスレイブ家が代々守ってきた憑依玉がある。

 

 スレイブ家はアンデット王の血筋だとか。


 だからボーンはアンデットになっているのではないかと考えていた。


 1000年近くこの屋敷で家族ごっこをしている。

 いつか妻と娘と息子の元に旅立つ事を夢見ながら。

 ただひたすら朝食のふりを終えるとベランダに出て辺りを見回す。


 スレイブ家の屋敷の周りはすでに暗闇につつまれていた。

 いつもは巨大な木々が立ち並び、モンスターの叫び声が響いているものだが。

 今日は静かだった。


 スレイブ家のテリトリーに何者かが侵入した。

 それは1人や2人ではなかった。

 少しずつ少しずつ増えていく。

 人間の兵士だと理解した。


 最近の人間社会の政治については理解していないが。

 とりあえず庭に出てみる事にした。


 そこには既に兵士が200人近くいた。

 1人の髭もじゃの男が叫び声をあげた。


「お主がアンデット王か」


「うむ、それはわしの事か? 違うのう、わしはしがないボーン・スレイブ卿じゃよ」


「それは遥か昔に死んだ。そこにいるのはアンデット王、実際赤い炎に包まれているではないか」


「ほう、君のほうがわしの事を詳しそうだ。ちょっとティータイムでもしないかい?」


「それは断らせてもらおうか、なぜならお前は捕まり見世物になるからだ。憑依玉を頂に来た」


「ほう、わしは、そんなに雑魚呼ばわりかね、いいだろう、お手合わせしようじゃないか」


「ぎゃはははははは」


 それは唐突に後ろから声が響いた。

 そこには妻と娘と息子が。

 脳内にフラッシュバックが炸裂して、家族の笑顔が世界を覆う。


「こいつ椅子に骨をのせてやんの、変な趣味ー」

「やめなよーそれでもかわいいんだよ、ばっちい」


 妻の骨をベランダから粉々にして投げ捨てる2名の男女。

 見た目は青年と美少女といった所。


「きさま」


 次に娘と息子の骨を粉々にして2階のベランダから投げ捨てる。


「きさまらあああああああ」


 ボーンの周りの地面から無数の骨が召喚されてくる。

 だがそれはただ召喚されただけで。


 ボーンの右手と骨が結合して、巨大なボーンソードとなり。

 だが。


「いいのー屋敷壊れちゃうよー」

「奥さんとの思いでだったんでしょー」


「ぐううう」


「取り押さえろ」


 隊長らしきおっさんが叫ぶと、大勢の兵士がボーン・スレイブを取り押さえ始める。


「放せーあそこには妻と娘と息子があああああ」


 ボーン・スレイブは怒りのあまり叫び声をあげる。


「悲しいよね、その気持ちわかるよ、でもそこにはもう彼等はいないんだよボーン卿」


====★★★★====


 オメガは瞑想で得た沢山のボーン・スレイブの情報を得ている。

 ボーン卿は大勢の苦しむ人々を助けてきた。

 子供、大人、老人、ありとあらゆる人々に愛を送った。

 その結果。妬んだのが遥か昔の皇帝陛下の人間の国王だった。

 ボーン卿をアンデット王だと断定し火破りにした。


 その時人間達は涙を流して笑っていたそうだ。

 ボーン卿に恩を仇で返した。

 そして全てを計画した皇帝陛下の先祖は高笑いしたそうだ。


「もう知ってるんでしょ人間がしてきた事」


 ドワーフ青年のオメガは語りかける。

 背丈はとてつもなく低い、人間の半分くらいしかない。

 それでも一人の男として立っている。


「人間を滅ぼそうよアンデット王、いやボーン・スレイブ」


「お前はどこからやってきた。ドワーフ風情が」


「おじさん、殺すよ?」


「ひ、ひいいい」


 1人の兵士がしりもちをついた。


「そこのドワーフを捕まえろ、情報班は鑑定しろ」


「はい、で、ですが、レベル0です」


「なんだとおお、ぎゃはははは、捕まえろおおお」


「君達さ、レベル0だからって油断しすぎだよ、武器や防具も鑑定しないとさ」


 レベル9999:高速の剣を抜き打ちざま、一瞬にして100人の兵士の足だけが両断されていた。

 オメガが一瞬で消えた瞬間に起きた現象だ。


「なんだと……」


 隊長は叫び。


「ひゅぅううう」

「おもろしそー」


 ボーン卿を取り囲んでいた兵士達は危険を感じて離れる。

 隊長も剣を抜いている。

 黒い朽ちた屋敷の方角から2人の青年と美少女がやってくる。


 オメガは倒れていて燃え盛っているボーン・スレイブ卿の右手を掴み立たせる。


「お前が求める答え、俺はそれを持っている。くるか? ボーン卿、いやボーン・スレイブ」


「ふ、お前が何者か知らないが、わしは大事な妻と娘と息子の骨を壊された。そうだなもうそこには彼等はいない、そうなんだ。お前名前は」


「俺はオメガ。人間を滅ぼすドワーフだ」


「はっはっは、人間を滅ぼすドワーフね」


 青年と美少女が眼の前にやってくる。


「おじさんたちぃー手出し無用よー」

「むかんりょうです」


「ああ、任せたぞ勇者候補生、いや勇者そのものか」


 隊長らしき人が囁くようにそう呟いた。



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