第7話 傭兵団の拠点の名前

 ぱーっとやろうぜといったものの、ドワーフ族専用のスキル:イベントリにはパンや牛乳、水くらいしかない、しかし、その量はありえないとしか言えないくらい大量であった。


「なぁ、オメガさんよぉーあたしは驚いてるぜ、あたしたち勇者一行をぶちのめしたんよ、そんな所で傭兵団の団長ともあろう人が、パンと牛乳と水だって?」


「すまん、料理はある意味苦手だ」


「そういう事じゃないさ、あたしはこのダンジョンに魚の養殖場をつくってやる、どの階層かは決めてるんだ。そうしてもっと仲間が増えたら最高な宴をしようじゃねーか、なぁ?」


「か、かっけええ、姉ちゃん」


「あたしだってたまにはまじになるわよもう、恥ずかしいんだからね」


「あ、でれた」


 青い鱗のリザードマンのゲニーがげらげら笑っている。


「ダンジョンポイントが200pか、ダンジョンの権限をオメガさんに渡そうと思う、まぁボスは私だがな」


「それはどういうことだ」


「ダンジョンポイントを使用するのにいちいち伺いを立てたりするのが面倒くさいからだ。団長は団長で決めてほしい」


「そういう事なら」


 魔王ルウガサーはゆっくりと椅子から立ち上がると、ドワーフでおでこの広いそこに右手を振れた。


 頭の中がすーと透明になっていくと、目の前に色々なものが見え始める。

 まずこのダンジョンの構造がさらに鮮明になっていく。

 あとどこにでも移動できるようだ。

 まだまだ出来る事があるようだが、1つ1つ確かめていこう。


 意識を集中すると、ダンジョンポイントが表示される。

 ダンジョンポイントの使用一覧が表示される。


 魔王ルウガサーのスキルにはモンスター創造がある。

 さらにモンスターだけではなく生贄によっては建物も召喚出来ると聞いている。

 

 ダンジョンポイントが出来るのは能力値強化とスキルポイントの習得。

 それはダンジョン内部にいれば誰でも出来る。

 敵にだってとんでもないスキルを付与させる事も出来る。

 例えば呪いのスキルをやってきた敵に付与するなど、ある意味チート級。


 オメガはその説明を幸運の女神のチャクターから聞かされていた。


「という事だ。ある意味恐ろしいのがダンジョンポイントじゃ、さて、スキルでも習得しようじゃないか、オメガよ、お主はダンジョン内なら一瞬で行けると思っただろうが、それを広げて見ぬか?」


「は?」


「だから外の世界もどこにだっていけるんだよ【スキル:瞑想】【スキル:テレポート】というスキルがあればな、ふふふ、ふふふふふ、さらに1階層ならテレポートでダンジョンから出たり入ったり出来るのさ」


「ちゃ、チャクターさん怖い」


 丸くてふわふわしてて空を浮遊している小さな女神チャクターはゲニーを見てにかりと笑った。


「どっちも100pで習得出来るな」


「あと、テレポートは手を握って繋がっていれば仲間も一緒に飛べる」

「瞑想は1時間瞑想すれば一つの無人島をすべて知覚する。行ったことにしてしまうのさ」


「つまり、1日瞑想したら」

「そう、この大陸の全てを知覚するのさ」


「はは、っはっはっはっは」


 オメガは心の底から笑っていた。

 大量の軍勢を一瞬にして街の中に飛ばせる。

 レベル9999の武具を大量生産しレベル8000のモンスターを大量生産し、それを飛ばせば、人間は滅びる。それでは人間のやってる事と同じなのでそれは出来ないが。


 心の底から憎悪がメラメラと燃え上がる。

 ドワーフ族の尊厳を、ドワーフ王国を壊滅させ、今も苦しむドワーフ達。

 それはドワーフだけではない。大勢の大勢の異種族が人間達から駆除されているのだから。


 いつか、人間のいない世界を。

 夢見てなんかいないはずなのに。

 人間だっていい人はいるはずなのに。


「いつから俺はこんなになってしまったのだろうか」


 オメガはぼそりとただただ呟いていた。


 パンと牛乳と水の宴が終わると。

 オメガはダンジョンポイントの200pを使用して、瞑想とテレポートを自分に付与した。

 

 魔王ルウガサーはひたすらオメガの武具を生贄にしてモンスターを召喚し続ける。それぞれの各層に合うモンスターを配置させ、モンスター達の生活が始まる。

 不思議な事にモンスターがダンジョンに住むと、動物や草花、魚、虫が発生して、モンスター達の食料となってくれる。


 リザードマンの姉弟は8階層の海にて魚の養殖を始めた。

 彼等はそれが楽しくて仕方ないようだ。


 オメガは心を静めて、3階層図書館にて心を静める。

 無数に広がる本棚には本は1冊も存在しない。

 

 感覚を何度も研ぎ澄まし、今世界は人間達の暴力で広がっている。

 異種族達は次から次へと奴隷のように扱われ、気づけば家畜のように扱われている。

 人間達の貴族達はそれを見てあざ笑っている。


 心に怒りが充満してくるのを必死で押さえつけて、怒りを川の流れのように流す。

 すると心がほんわりと静かになっていく。


 大陸の全てを把握した訳ではない、他の大陸も全て把握したかった。

 だがその二つの怒りが強すぎて、助けにいかないといけないと察知した。


 一番危機的状況は片方のほう、黒い屋敷が見えた。

 全身から赤い炎が燃え盛り、ガイコツの彼は見えない涙を流して骨となった家族と食事をしている。


 そこに人間の軍勢が押し寄せる。


 もう片方は人間の街でサーカス団が開かれている。

 奴隷のように扱われているコボルトの少年。

 彼は父親と約束した。

 最高な道化師になるって。


 2つの強すぎる怒りを感知したオメガは目をかっと開いた。


「時間がない」


「だろうな」

「少しこわばってましたから」

「私が呼んだ。瞑想の仕方に迷いがあったからな」


「ガニーゲニーお前達はここで待機だ」

「へい、団長の命令であれば」

「はいなのです」


「ルウガサーここの指揮を頼む」


「御意」


「この拠点の名前を決めた。皆は心の底から自由を求めている。皆は夢を追いかけている。だからここは【自由の墓場】だ」


「ふ」

「いいね」

「オメガ団長が決めたのであれば」


「俺は飛ぶ、家族を愛した男の元にな」

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