首吊り縄

北里有李

首吊り縄


引退の部室の青き黴の香よ




背もたれは硬し冷房強き模試




熱帯夜壁凹ませる思ひ出よ




眺め入る真白き腕に蚊の来り




母泣くや首吊り縄の汗の染み




虫の体当たりしづかな網戸かな




医者の目の痛し窓には雲の峰




秋声や久しく聞かぬ父の声




永き夜の無音の音の騒がしさ




鰯雲サッシの錆の脆きかな




枯蟷螂の引つかかる壁くすみけり




秋思かなペンと消しゴム代る代る




足元のストーブ足でボタン押す




自転車のハンドルに冬めきぬ指




クリスマスケーキ小さきを選びけり




冬晴れのプールの深き緑かな




玄関の鏡に去年の汚れあり




霜焼けの痒し指に血つきにけり




夢といふ枷の欲しきや水仙花




卒業や未練は椅子に彫りてゆく

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首吊り縄 北里有李 @Kitasato_Yuri

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