最終話:奏の話

澪央みおから告るように仕向けてくれてありがとう、これ約束の」

「ん、どーも。1万円確かに」


 結菜ゆうなは指でお札をはじくと財布にしまった。

 休日にわざわざ呼び出してお金渡すとかいけないことしてる気分だな。

 

「貰っておいてこんなこと言うのもあれだけど、私にお金払ってまですること?」

「まあね、こうでもしないとあの子から告ってくれなかったろうし」

「そこまでして彼女から告らせる理由ってなにかあるの?」


 結菜は怪訝けげんな顔をして尋ねてくる。

 あんまり話したくないんだけど、適当にごまかすのもな。

 嘘ついて墓穴掘るのもめんどくさいし、ちゃんと言うか。


「あるよ。私から告ったら関係性の重圧に耐えられなくなってすぐ振られる」

「関係性の重圧ってなにそれ」


 彼女は可笑しいのかフフッと声を漏らしながら笑った。

 まあ普通そういう反応するよね。

 

「実はさ、中学生の頃に一度私から告ったことがあったんだけど――」


 話始めると、その時の記憶が鮮明によみがえってくる。

 だから話したくなかったんだけど、今更やめるわけにはいかない。

 お互い両思いだと感じ、勇気を初めての告白をしてみた。

 その時はあの子も受け入れてくれて、そこから数週間はそれまでの人生の中で一番の幸せな時間だったといっても過言ではない。

 ただしばらくしてからだんだんと距離感が告白する前に戻っていって――。

 ある日「私たち付き合ってるよね?」と尋ねても告ったことがあの子の中でなかったことにされていた。

 その時嫌われるようなことをした記憶はない。

 それに相変わらずあの子から好かれているのは伝わってきたし。

「私じゃ釣り合わないよ」と言っていたのが原因だと気が付いたのはしばらくしてからだった。

 

「へーそんなことがあったんだ。なら結局今のままでも一緒じゃない? 付き合ってるってのは変わらないし」

「大丈夫。あの子の性格上責任感が強いし『自分から告ってきたくせに自分で釣り合わないって決めるの?』みたいなことを定期的に言っておけばなかったことにはできないはず」

 

 今度はもう失敗しない。

 前回はわかってなかったけど、今ならどうやれば付き合い続けてくれるかぐらい私もわかってる。

 

「そんなもんなんだ」

「そうそう、あの子のことは私が一番よくわかってるから。本人よりもね」

「すごいね。正直そこまでわかってるならわざわざ私なんか使わなくても自分から告るように仕向けられそうなのに」


 彼女は半笑い気味に言ってきた。

 ただ他人にどう思われようがどうでもいい。

 あの子にさえ嫌われなければ。

 

「多分無理かな。どんなに私が雰囲気作ってもあの子からは来ないよ。私が誰かと付き合うかもしれないっていうわかりやすいものを見せない限り」

「だから私に頼んだわけね。だったらもっともらうんだった。告らせるの意外と手間だったし」

「そうだよ」


 もっともらえばよかったか。

 まああと少しなら現実的に出せない額じゃないし、いいかな。

 財布を覗いてみると、2、3枚の諭吉と目が合った。

 彼らの視線は私に「簡単な形で今後のトラブルを防げるかもしれないのに、出し渋るのか?」と問いただしてくるようだった。

 確かにね、もともと成功報酬って名前の口止め料だし。

 結菜を利用してあの子から告らせるという複雑な計画だったからこそ、最後は下手に欲を出さずシンプルな形で終わらせたい。

 

「じゃあはい追加で2万円ね、これで労力に見合う?」

「えっ、は? 2万っ! なんで?」

「なんでって足りなかったんでしょ?」


 まあ誰を利用してわざわざあの子と付き合ったって広められてもいいんだけどね。

 噂があの子の耳に届くときには私のことしか信用できないようにするし。

 ただ万が一はあるしトラブルは避けておきたい。

 保険みたいなものかな。

 

「ならもらうけど。なんでそんなお金持ってるの?」

「別に持ってるわけじゃないよ、ただ節約してるだけ。それに私、あの子に関することには糸目つけないって決めてるから」

「そこまでできるんだ」

「うん、好きだからね」


 彼女に会うときには新しい服だって買う。

 似合うようにメイクだってする。

 デート代だって出す。

 これだってその一環だ。

 

「それよりさ、いいのさっきからめっちゃ通知来てるみたいだけど?」

 

 彼女が指さした先にはスマホのバイブが鈍い音を出していた。

 さっきまでと違いずっと鳴り続けているから多分通話のほうだろう。


「ああそろそろ出ないとまずいかな」


 通話かかってくるまでもう少しかかるかなって思ったけど、意外と連絡ないのを心配してくれているようでよかった。

 

「なら私はこれで帰るよ、誰かといるってバレたらやばそうだしね」

「ありがとう。助かる」

「お金どうも」


 彼女はそれだけ伝えると静かに出て行った。


「どうしたの澪央?」

『ねえ、かなでなにしてたの? なに送ってもずっと未読のままだし』


 通話越しに彼女の少し震えたよな声が聞こえてくる。

 もしかして放置しすぎて泣かせちゃったかな?

 

「ごめん、ごめん。ちょっと勉強してて」

『誰かと一緒にいてスマホ見れなかったとかじゃないよね?』

「そんなわけないじゃん」


 結菜とは居たけど、どうせ今日以降個人的な用事で会うことはないし。

 誰かと会ってたとしても、私の時間は全部澪央のために使うよ。

 

『ならいいけど。私、奏のこと信じてるからね』

「大丈夫だよ、信じて」

『よかったぁ~。あのさっ』


 照れた様子を見せながら、少し間を置いて彼女は言った。


『大好きだよ奏』

「ありがとう、私も大好きだよ。澪央」


 了

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ここまで読んでいただきありがとうございますっ!

奏の策略に驚いた

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【完結】私の友達を彼女にしようとする人が現れたので、盗られる前に彼女にします 下等練入 @katourennyuu

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