第2話:澪央の告白
「で、
なんと言ったかわかっているのか、
「私が許可したら付き合うって」
「やっぱそうだよね~。で、許してくれるんでしょ?」
「さっき嫌だって言ったよね?」
奏も許可したらって言ってるし、やっぱり絶対に付き合うのなんて認められない。
「またそうやって自分勝手に決めるんだ。ただの友達のくせに」
「だから、友達じゃないって」
「あーっそう。まあもう何でもいいよ。ダメって言うなら
「なんでっ、約束が違うじゃん」
奏のほうに向かおうとする彼女を慌てて止める。
ただ私の
「約束って。澪央さんと約束した覚えないし。あのさ、なんで奏にこだわるの? そんなにいい?」
「当たり前じゃん」
そんなにいい? ってなにそれ。
よかったから付き合うんじゃないの。
何言ってるの?
「じゃあなんで付き合わないの?」
「私なんかが付き合えるかわかんないし。関係性が変わって奏と
「は? なにそれ?」
彼女は鼻で笑いながら心底馬鹿にしたような口調で言ってきた。
その顔を見れば呆れられているのくらい私にもわかる。
それでも関係が崩れる恐怖は私以外の誰にもわからないでしょ。
「なにって」
「そんなに人に取られたくないって言うなら自分から取られないようにすればいいのに」
「それができたら、苦労してないよ」
中学生の時に転校してきて、誰も知り合いがいなくて怖かった時に彼女だけが話しかけてくれた。
そこから彼女は私のすべてになって。
放課後も休日も受験の時も彼女と一緒にいた。
彼女がいない人生なんて考えられない。
いつまでも友達って関係性でいたらいつか終わってしまうのはわかっている。
ただ壊す覚悟で告白する勇気なんかなかった。
「なら私はできるから、奏を私以外の人にとられないようにしてくるね」
彼女は軽い感じに言うと「かなで~」と呼びかけた。
ダメ。
そんなことしないでよ。
私から奏を奪わないで。
「ねえ待って」
「邪魔しないで」
彼女は重い苦しい声で制止してくるが、もうそんなのにかまっていられない。
奏は私のものだ。
「めっ」
「何聞こえないんだけど?」
「やめてっ! 私の彼女に話しかけないで!」
「は? 彼女じゃないってさっき言ってたじゃん」
「今から告白してくる、それならいいでしょ」
「わかったよ」
彼女は肩をすくめると、こちらに来た奏にむかって「澪央さんが話があるって」とだけ告げる。
彼女の中で奏への興味がなくなってしまったのか、こちらの様子を気にすることなくどこかへ行ってしまった。
「澪央? 話って?」
彼女は私の顔をみるなり心配そうな表情で覗き込んできた。
心配だよね。
鏡を見てないけど、多分私の顔色はここ数年で一番ひどいだろうし。
心の準備なんかできてないのに、告らなきゃいけない。
もし断られたらどうしよう。
多分ストレートに振ってくることはないと思う。
けどこちらを傷つけないよう困った顔をしながら言葉を選ぶ姿が想像できて、胃の痛みをより一層強くしてきた。
「ごめん、人のいないところで話したい」
「ん、わかった。静かなところ行こう」
黙って歩き出した彼女のあとをついていくと、空き教室に連れ込まれた。
「ここなら誰も来ないから」
「わかった」
もうここまで来て逃げたりできないよね。
わざわざ人のいないところに行きたいって言っちゃったし、適当なことは言えない。
「ねえ、澪央緊張してる?」
「え、そう見える?」
私今そんな緊張してたかな?
唾液を飲み込もうかと思ったが、その時になってようやく口の中がカラカラに乾いてるのがわかった。
めっちゃ緊張してるじゃん。
「うん。まあね」
「で、澪央がそんなに緊張してまで私に話したいことってなに?」
「それは――」
「あそこで結菜さんと話してたってことはなにか関係あるでしょ?」
なにも言わなくてもそこまでバレてるのか。
「言う気がないならいいんだけど、澪央は結菜さんと私が付き合うの許してくれるの?」
「許さないけど」
もうここまで来ちゃったんだし遠慮する必要なんかないよね。
「そうなんだー、彼女ほしかったなー」
彼女はわざとらしく言うと、軽く微笑んで見せた。
「ねえ、奏の彼女ほしいって誰でもいいの?」
「えーどうせ付き合うなら好きな人のがいいけど――」
その言葉を聞いた時、心の中にくさびを打ち込まれたかのようなずきっとした痛みが広がった。
ねえ少し頬を赤くしながら言う好きな人って誰の事。
私も好きな人の中に入ってるの?
「あのさっ、好きな人って誰かいるの?」
「言わなきゃわからない? 教えてあげよっか?」
彼女は私との距離を一気に詰めてきた。
彼女の息遣いまで聞こえてくる。
ここで「私のこと好き?」って聞けたらどれだけいいんだろう。
ただそんな勇気があったらとっくに付き合えている。
「全然っ」とか言ってたけど、やっぱり結菜が好きとか言うのかな。
やだ。そんなの聞きたくない。
「そんなの言わなくていい」
「そっか~」
少し悲しげな顔をした後、続けた。
「で、話って? 今までので終わりじゃないよね」
「終わりじゃないよ」
「私はなに言っても受け入れる準備はできているよ」
彼女はそう言うと全体重を私に預けてきた。
ずるずると滑るように壁に座るように崩れ落ちると、全身を彼女の香りで包み込まれていくのを感じる。
それでも私が何も言えないのにしびれを切らしたのか、彼女は私の手をしっかりと握りながら言った。
「大丈夫だよ。澪央が言いたいことを言ってくれるだけでいいから」
そんなこと言われたら言いたくなっちゃうじゃん。
言ってもいいの?
彼女は私の不安を感じ取ったのか、念押しのように「大丈夫」と私の目を見ながら繰り返した。
「ほんとに?」
「うん、私を信じて」
小さく息を吸うと吐息のような声で私は言った。
「ねえ奏。私と付き合って」
私の心臓が破裂してしまうんじゃと思うくらい緊張した告白は、割とあっさりと返された。
「うんいいよ」
「ほんとに?」
「当たり前じゃん。ここで嘘つく必要ないし。あ、ただ澪央から告白してくれたって思っていいんだよね?」
私の上で満足げな様子を見せながら彼女は尋ねてきた。
なんでわざわざそんなことを確認するんだろう。
一瞬そんなことが脳裏をよぎったが、もうどうでもいい。
付き合えた喜びによって生み出された感情の洪水が細かなことをすべて押し流してしまった。
「うんいいよ! これからよろしくね、奏!」
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