第24話 王都へ②

「では――、サラが力の加減を出来るようになるには、一度王都に行き、その魔術師とやらに会わないとダメなのだな」

「はい。そのお方の魔法の力がどうしても必要なんです」


 ベリンダはアルマン伯爵の前で力説をしていた。

 結局タダで王都まで行けるというサラの口車に乗せられてしまったのである。


 ベリンダがサラからもらった指令は2つである。

 まずは、サラが魔法の力を制御出来るようになるためには、王都に行かないといけないという話をでっち上げること。

 そして話をでっち上げた事がバレないように、ベリンダとレナの3人だけで旅をする許可をもらうこと。

 

 たしかにサラを王都に連れて行くという名目があれば、旅費はすべて伯爵家が持ってくれるだろう。

 だがベリンダはこうも思っていた。


 ――きっとサラお嬢様は、ただ遠旅がしたいだけよね…。



「なに?!伯爵家の娘だとバレないよう隠密で行動したいから、お供はお前とレナだけで王都へ行きたいだと」

「はい。乗合馬車を使って王都へ行こうと思っております」

「ダ、ダメに決まっている!サラは我がハイラート家の大事な一人娘だぞ」


 慌てているハイラート領主を前に、ベリンダは冷静に話し始めた。


「お言葉を返すようですが…。サラお嬢様が伯爵家の馬車で王都へ向かえば、逆に目立ってしまいます。お嬢様が何をしに王都へやって来たのか詮索する者も出てくるでしょう。そうなるとサラ様の秘密を嗅ぎつけられてしまうかもしれません」

「しかし女子供だけでは、危ないのではないのか?」

「だからこそ乗合馬車で王都へ向かう方が安全なんです。金を持っていない庶民が使う乗合馬車をわざわざ襲うような、間抜けな盗賊はいませんから。それにサラお嬢様は、私共が命に代えてもお守りいたします」


 それを聞いたアルマンはじっと考え込む。

 たしかに伯爵家の馬車で王都へ向かえば、サラが王都にいるという噂が広まってしまうかもしれない。それを聞きつけた王都の古狸どもに、あれこれ余計な詮索をされる恐れも出てくる。

 しかし、アルマンは心配だった。本当に3人だけで大丈夫なのだろうか?

 ベリンダがしっかりした女性であることも、いざとなったら侍女がサラを命に代えても守ってくれることもアルマンは頭では分かっていた。


 アルマンが不安を拭い切れないのを見て取ったベリンダは、いつもの最終手段を使う。


「何度も言っておりますが、お嬢様の魔法の力は凄まじいものがあります。もしも王国の人間にサラ様のお力を知られてしまったら、きっとサラお嬢様は一生王国の――」

「ああ、もういい。わかった」


 説得に手こずると思っていたアルマンがすぐに折れてくれたので、ベリンダはほっと一息つく。


「ベリンダよ、本当にその魔術師なら、サラを魔法の制御が出来るようにしてくれるんだな?」


 アルマンに念を押されたベリンダは自信たっぷりに答える。


「はい。必ずお嬢様は力の制御が出来るようになります。それから、魔術師様には今回の事を他言無用にする事もすでに了承してもらっています」

「うむ。ではルーベンから必要経費をもらいなさい。サラをたのむぞ」



◇◆



「まあ!ベリンダ先生は本当にお父様の説得が上手なんですね」


 私は遠旅が出来ることになって満面の笑みを浮かべていた。

 何しろ私にとって初めての遠旅になるのだ。

 前世の記憶を辿っても、箱入りご令嬢だった私はほとんど屋敷から出た事がなく、王都に行ったという記憶がなかった。

 六歳の時に婚約が決まってしまったため、婚約者探しのためにわざわざ外に出かけて周囲に顔見せする必要が無かったという事もあったのだろう。


「でもサラ様。本当によろしいんですか?」

「何がですか?」


 ベリンダ先生は上級貴族である私が、乗合馬車で遠旅をする事を心配していた。

 だが私はベリンダ先生が話してくれたような遠旅をしたかったので大歓迎だった。


「それにレナさんの口止めはちゃんとされたんですか?」

「それなら大丈夫。だって下手な事をお父様に告げ口したら遠旅ができなくなっちゃうから。さっき鼻歌を歌いながら旅の荷造りをしに行ったもの」


 ベリンダ先生が言うには、旅先では何が起こるのか分からないので、しっかり旅支度をしないといけないとのことだった。

 とりあえず私の服装は上等過ぎるので、あとで街に行って庶民向けの服など必要な物をいろいろ買ってきてくれるそうだ。

 軍資金についてはちゃんとお父様から預かっているという。


 そういえばベリンダ先生は何があるか分からないって言っていた。もしもの時のために武器なんかも必要になるかもしれない。


「ベリンダ先生。ついでに剣…、いいえ、ショートソードも買っておいてくれませんか?」

「えっ!短剣ですか?」

「ええ。今は木剣しか持っていないので、ちょっと不安で」


 私は、剣術を習い始めた時に中年兵士からもらったボロボロの木剣しか持っていなかった。

 ちなみに草原で剣術の稽古をする時は、ダンから木剣を借りていた。

 さすがに長旅となると、何があるかのか分からないので、持っていく武器がボロの木剣だけでは心配だ。

 ショートソードだったら、かさばらないので持ち運びも楽だし、何となくカッコイイと思ったのだ。


 ――とうとう私は少女剣士としてデビューするのね。


「でもお嬢様に剣って必要ですかね?」


 少女剣士として活躍する姿を想像して、自分に酔いしれている私に、ベリンダ先生がヘンな事を言ってきた。

 いやいや、さすがに天才間者を自称している私でも、素手じゃまともに戦えないですから。


「いくら私でもさすがに素手では……」

「でもお嬢様だったら大型の魔物ですら、魔法を使えば一発で倒せますよね?」


「…………」



 しばらく沈黙の時間が流れる。 


「えっと…、ショートソードですね。では街に行って参ります」


 そしてベリンダ先生は、逃げるように街へ出かけて行ったのであった。

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