第43話 決戦6
エリザとギランの戦闘が始まる直前。
「サルマが正体を見せよったらしいな」
ヤマトとウォードが向かい合っていた。
「これで現実世界側に勝ち目は無いやろ」
「戻ら、」
動こうとしたヤマトを制するウォード。
「逃がす訳無いやろ。お前の敵はワイや。ケジメつけるぞ」
テレポーテーション。2人の身体が惑星ファーゼストから離脱した。
ヤマトが着地する。いつの間にか全身の疲れと傷は癒えていた。
「此処は」
そこはヤマトが最も見慣れた場所だった。
「そうや。ジュベルや」
ウォードは数十メートル奥に立っている。
「お前と闘るなら此処しか無いと思ってな。ああ、あと負けた後に言い訳されたくないから回復しといたったわ。感謝は要らんからな」
第2の故郷であるラント。ヤマトにとって最も思い入れのある場所だった。出来れば此処で戦いたくなかった。この場所を破壊したくなかった。
「最後にもう一回だけ聞く。お前の気持ちは変わらんか」
ウォードの真剣な声。
「……変わりません」
ウォードが嘆息する。
「分かった。なら闘るしかないな」
ウォードの全身を、青い「氣」が纏い出す。
「ここまで来たらどっちが正しいかは『力』で決めるしかない。『力』のある者だけが意見を押し通せるんや」
ウォード・フォーカスは己の力だけで道を切り開いてきた。そしてその圧倒的な力で、敵を屈服させてきた。
ウォードが威厳を見せつける。
「ワイだけが唯一絶対の王や。王に従え、ヤマト」
ウォードの全身から放たれる「氣」。そのエネルギーは、柳達3人をも凌駕していた。
《8》
一瞬にして間合いを詰められるヤマト。以前戦った時とは段違いのスピード。
だがヤマトもあの頃より成長している。数々の修羅場を潜り抜けて来た。ウォードが突撃してくる完璧なタイミングでエクスカリバーを振り下ろす。音速並のウォードは進路を変えられない筈だ。
――仕留めた。ヤマトはウォードの左肩から斜めに切り裂く。だが感触は無い。ヤマトが切ったウォードが霧のように消える。
ウォードはヤマトの背後に居た。
「うおらああああ!」
ウォードの目にも止まらぬ連打。とてもⅠ本の剣では受け止められない。腕や腹部に拳が突き刺さる。
ヤマトは身に着けている防具の寸前にダガーの刀身5センチだけを出現させた。短剣のダガーとは言え、出現させたのはアンテニー・ダガー。その昔十字軍が使用していて、尚且つ刃にダイアモンドより硬いカルメルタザイトを使用した物だ。
ウォードがそのままヤマトの腹部に右拳を叩きこもうとする。
――よし、拳を潰した。
ヤマトは確信する。しかし。
ヤマトの身体が宙を舞った。50メートル吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたヤマトは、受け身して停止した。短剣は人間の人体なら簡単に貫ける筈だった。
痛みを堪えるヤマト。目の前に立ちはだかるウォードを見上げる。
「おい、ヤマト。お前、ワイを舐めてんのか」
青く光る拳からは少量の血が流れている。ただ、皮膚が僅かに切れた程度だ。ウォードの肉体は溢れ出る「氣」によって防護されている。
「そんな小手先の戦(や)り方でワイを倒せると思ってんのかっ。ワイの名はウォード・フォーカス! この世界を統べる者や! ワイを倒したかったらなあ、この星を破壊するくらいで来い!」
ウォードが「氣」を具現化する。ウォードの周辺に、数万の「氣」の玉が一瞬で出現した。ウォードは「氣」の玉を一斉にヤマト目掛けて飛ばす。
対するヤマトは同量の弓矢を出現させる。太陽神アポロが使用した弓矢だ。矢の先端から小さな光を放っている。
ウォードの「氣」の玉とヤマトの矢がぶつかり合う。大地が揺れた。
本人達は接近戦に突入する。ヤマトが手にするのは妖刀・村正。柳が消滅したことで使用可能になった。非常に軽く曲線が美しい。自由自在に出てくる太刀は、刀そのものが生きているようだ。ウォードは「氣」を具現化して槍を作り出していた。両端が双刃になっていて殺傷能力が高い。今のウォードはイメージしたものなら何でも作り出せる。これがウォードの完全覚醒能力・「超常現象(パラノーマルフェノメノン)」だった。
「逃がさない」
ヤマトが攻め立てる。剣術ではヤマトの方が上だった。ウォードが上空に回避する。2人は地上を離れ、どんどん雲に近付いていく。ヤマトは自らの斧に、ウォードは具現化した「氣」に乗って戦う。
2人の戦闘は、正しく超常現象だった。
創出した武器と「氣」が衝突し、本人達は接近戦を繰り広げる。更に別の場所で互いの武器と「氣」を操作している。
ヤマトが標高1000メートルの山を麓から切り、ウォードに投げ付ける。ウォードはヤマトが投げた山を小惑星並の「氣」のハンモックで跳ね返す。
ウォードが具現化した万単位の触手を地面の中から出現させ、ヤマトの全身を絡めとる。ヤマトはその触手を巨大な斧の束で引きちぎった。
ウォードが「氣」のエネルギー弾を放ち、ヤマトはグングニルを束にして討ち返す。
ヤマトが億単位の矢を降らせ、ウォードも矢を具現化して相殺させた。
ラントに居た2人は、いつしか惑星ジュベル全域に広まっていた。街が崩壊し、大地に底が見えない穴が生まれ、海が割れ、空に亀裂が入った。
2人の力は互角だった。どちらが勝ってもおかしくなかった。
「うおあああああっ!」
「おらああああっ!」
ヤマトの全力を込めたエクスカリバーと、ウォードの「氣」を一点集中させた拳。2つが空中で衝突し、惑星ジュベルに巨大な地割れを生んだ。その地割れは、惑星ジュベルの円周の4分の1に達した。
大地に放り出された2人。両者の真上から、海水が降って来る。その水で、乾燥地だったラント郊外に大きな湖が生まれていた。
死力を振り絞る2人。向かい合う小山の頂上で向かい合った。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「あーっ。あーっ。あーっ。あーっ」
ヤマトにはもう新たな武器を創出する余裕が無かった。ウォードは「氣」を身体から離して具現化出来ない。
意識が朦朧とするヤマト。足元はふらつき、視界が霞んでいる。聖剣・エクスカリバーは鉛のように重たかった。
「ああっ」
だが負ける訳にはいかなかった。
ここで負ければ世界が乗っ取られてしまう。世界は衰退し、滅亡に向かう。テクノロジーは停滞し、建物は老朽化する。果ては人類の退化に繋がり、残ったメタバース世界すら存続出来なくなる日が来る。世界の人口減少・食糧の不足・労働力減少・経済の縮小。時代が逆行してしまう。だから何としても勝たねばならなかった。
ヤマトの鈍くなった斬撃が、ウォードの腕を叩いた。2・3歩後退りした後、ウォードが地面に跪く。
ヤマトは剣の先端を地面に置いた。
「何してんねん。敵を殺すチャンスやぞ、躊躇わず殺(や)らんかい」
「……」
答えないヤマトに、ウォードは怒りを爆発させる。
「何甘ったれとんねんっ! 今のワイはお前の敵やぞ、殺せるときに殺せ!」
まだヤマトは動かない。
「どっちにしろ終わりやっ、お前らが勝つってことはこの世界そのものが無くなるっちゅうことや! それを選んだのはお前自身やろうが!」
ウォードの怒声がラントの荒野に轟く。2人の周囲には何も無かった。生物も植物も、何も。どこまでも平坦な土の大地が続いている。
「それでも、出来ません」
ウォードが更なる罵声を浴びせようとする。
かつてウォードは人間を見限っていた。人間の「業」を目の当たりにし、人を信じられなくなった。その認識がヤマト達によって変化させられた。人と居る喜び、哀しみ、幸せ、怒りを思い出した。
ウォードは仲間達と共に居たかっただけだった。
ヤマトが重い口を開いた。
「ウォードさんは僕にとって仲間です。僕にとって初めての仲間でした」
ウォードは静止する。
「だからウォードさんを殺せません」
ウォードは悲嘆した。ヤマトの言うことが理解出来なかった。
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