第41話 決戦4

惑星アメルゴン。サルマの猛威が世界を滅亡に向かわせている。


「ダークマター」


 何も無い場所に暗黒物質の塊が生まれる。


大きさは不均一。バスケットボール大のものもあれば、花火より大きいものもある。暗黒物質は宇宙全域に存在し、人間には視認できない未確認の物質だ。地球に存在する全物質の何倍もの量が宇宙に有り、宇宙を成り立たせている。サルマはこのダークマター(暗黒物質)を自らのエネルギーとしていた。


 惑星グランドヘイムに降り注ぐダークマター。接触した物質を全て消滅させる。破壊されるでも、爆発するでもなく、文字通りこの世から消えた。正確には暗黒物質に取り込まれた。宇宙を形成するダークマターの一部にされているのである。


「何も、何も通用しないっ」


 RWの戦士達は太刀打ち出来なかった。武器も、肉弾攻撃も、砲弾も、ミサイルも、核兵器も、全てダークマターに吸収されてしまう。ダークマターは物質を吸収して肥大化する。つまりサルマの力が増幅される。戦士達は無力だった。


「ウェルディ、アルガ」


 ジュベルの魔法使いが魔法で対抗しようとする。ザハス家に劣らない魔法使い名門の男。金属も溶かす灼熱と、大地を吹き飛ばすサイクロン。しかし、無数のダークマターに次々と削られていき、サルマに到達する前に消滅する。魔法でさえ無効化されてしまう。


「どうやって戦えばいいのだっ!」


 アメルゴン王国の地には、RW軍の中で最大の戦力が注がれている。人数は数億。その上武器・兵器・宇宙船が集結し、RW側が引き抜いた熟練の戦士達が集っている。だがそれでも、サルマのダークマターに対抗出来ない。グラウンド・オルタナスを極めた戦士達であってもダークマターに直面するのは初だった。


 数百万の戦士が一斉にサルマに攻撃を仕掛ける。剣、銃、打撃、そしてあらゆる魔法。それでも届かない。ダークマターに全て取り込まれる。


 サルマは虚空に悠然と浮かんでいる。その様相はこの世の悪・闇そのものだった。悪の化身以外の何ものでも無かった。


 サルマは右手を掲げる。その手の上にダークエネルギーが凝縮されていく。ダークエネルギーはどこまでも肥大化し、やがてビルを超える大きさに達した。


「消え去れ」


 サルマが右手を振り下ろし、ダークエネルギーが弾き出された。


「あ、あれを壊せっ」


 数万の戦士達がダークエネルギーの消滅を試みる。数多の武器と魔法が飛んでいく。だがダークエネルギーは止まらない。向かってくるもの全てを吸収し、抗う戦士達の頭上を覆った。


 数万の戦士がこの世界から消えた。


「ダークモンスター」


 サルマは猛攻を止めない。ダークマターが集結し、実体を持たないモンスターを生む。ダークモンスターには肉弾攻撃が効かない。液体を攻撃するようなものだ。にも拘わらず、ダークモンスターからの攻撃は当たる。ダークマター同様、接触した物質はこの世界から消滅させられる。


 ダークモンスターは怪鳥・恐竜・古代魚・大樹・人型と、様々なものに形を変えた。


 サルマを止める術が無かった。




 《5》


《速報ですっ、現在世界中で暴動が巻き起こっています。世界のあらゆる都市で事件が起きています。国民の皆様は充分注意して下さい。暴動が収まるまで興奮なさらないよう、どうかお願い申し上げます》


 グラウンド・オルタナスで熾烈な戦いが繰り広げられる中、現実世界も入り乱れていた。


 グラウンド・オルタナスで早々に消滅してしまった者達が現実世界で暴動を起こしている。店・一般人への強盗、民家への不法侵入・空き巣、警察への暴行・投石、政府機関へのデモ。


 グラウンド・オルタナスが消滅すれば人生が崩壊する、そう考える熱狂的な信者達が過激な暴動を起こしていた。通り魔的に人を刺し、民家やビルに放火する。子供を誘拐し、ビルの屋上から自殺を仄めかし、RW側が降伏するよう訴えた。


 SNSには毎秒新たな事件が投稿された。ニューヨークのタイムズスクエアのネオンサインが放火され消火作業中。自由の女神が松明を掲げる左手に旅客機が衝突。イギリスのシティ・オブ・ロンドンで強盗殺人。4人が死亡・6人が重軽傷。中国の深圳で自動車の暴走事故。2名の意識不明とビルの1階に入っていた店舗が損壊。ロシアから企業へのハッキング。範囲は全世界に及ぶ。アメリカのジャイアントテック・中国の半導体企業・ヨーロッパの医療・電力会社。南アフリカ共和国でレアメタルを所有する企業への侵入・強盗。犯人は現在も立て籠もり中。23名の民間人が人質として捕えられている。オーストラリアのシドニーのビーチで拳銃による発砲。3名が死亡。日本の総理官邸に大人数による不法侵入。中東では、戦争が勃発した。


 先進国の大多数はグラウンド・オルタナス側の転覆を拒否したが、全ての国では無かった。現在の世界のトップとグラウンド・オルタナス、どちらが勝っても立場に差し支えない国がこの機を狙っていた。戦争を仕掛けたのは国連と敵対している国だった。


 また、裏家業の人間もこの機を逃さない。ドラッグや拳銃など違法な物を横流しする絶好の機会だった。


 この混乱を収めるには、グラウンド・オルタナスでの戦争を終息させるしかなかった。



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