第40話 決戦3

柳が突っ込んでくる。滑らかな刀身から繰り出される太刀。雑に見える太刀筋は全てがヤマトの急所を狙っている。瞳孔・喉・心臓・胃。


 ヤマトはそれを躱しつつエクスカリバーで受ける。


 右側から気配を感じた。デイビスが巨躯で突進してくる。


「肉塊にしてやる」


 力を開放したデイビスは超人と化していた。人間の要素は残っているが、全身が赤紫に染まり、高さ15メートル・幅5メートルに巨大化していた。


 膨大な筋肉を内側に飼うデイビスは、凄まじい威圧感を放っている。ヤマトは柳の日本刀を押し返した。デイビスのタックルは受けずに寸前の所で避けた。


「ちっ」


 舌打ちするデイビス。


「俺が仕留める」


 氷の声が空中からした。ヤマトが首を傾ける。一体のミュータントが浮いていた。


 変貌を遂げたフレデリックだ。フレデリックはもはや人間では無かった。全身が超合金と化し、鉛色に光っている。足元から放たれるブーストで宙に浮き、両手がガトリング銃に変形している。


「滅べ」


 フレデリックは左右の銃を連射する。1秒間に100発の銃弾が噴出した。加えて一発ずつがショットガン並の威力。ヤマトは受けきるのを断念し、駆け抜けて躱す。その間に50の斧を創出し、重ね合わせて盾にした。フレデリックの連弾を防御した。


「まだだぜ」


 柳だ。疾風の太刀を繰り出す。ウォード並の手数とスピード。


「俺の『村雨』はなあ、殺した分敵の魔力を吸い取る。この世界で俺が殺したプレイヤーは3268人。お前を殺してこの『村雨』を完成させる」


 柳との接近戦を繰り広げる横で、デイビスが大地を持ち上げていた。幅30メートルを超える。


「ならばお前には殺させられねえ。いずれお前も俺が殺す。この小僧は、俺が頂く」


 巨岩がヤマトに向かって投擲された。時速80キロ以上出ている。ヤマトはその上に飛び乗った。


「誰が殺そうと構わない。世界の浄化の為、コイツを葬るだけだ」


 フレデリック。宙から機械化した8本の触手を伸ばしてくる。対抗するヤマトは8本の鞭を放出。鞭はフレデリックの触手を絡め取った。


 触手を掴んだヤマトは、遠心力を使いフレデリックを彼方へと飛ばす。50メートル近くミュータントが吹き飛んだ。


「想像通りの強さだぜ、ヤマト」


 1対3の攻防が続く。全員接近戦と遠距離攻撃が可能で、ヤマトは代わる代わる3人に攻められた。常に敵と向かい合うヤマトに対し、3人は距離を取りながら戦っている。長丁場になる程ヤマトは不利になった。


 厄介なのは3人が仲間を何とも思っていないことだった。デイビスと競り合っていると、デイビスもろとも柳が村雨で振切り付けてくる。次にフレデリックが無差別にガトリング銃を連射してくる。


 ヤマトは体力の消費が激しかった。1人ずつでも最強クラス。その相手を3人まとめて相手にするのは熾烈を極めた。


「背中ががら空きだっ」


 ヤマトの背後に柳が迫る。振り向くのは間に合わない。ヤマトは背中に斧の盾を出現させる。柳の太刀を防御した。が、衝撃で地上へと叩き落とされる。


「くたばれ」


 少し離れた場所で、デイビスが長尺の鉄塊を抱えている。その塊を水平に振った。ヤマトは躱すのが間に合わない。斧の盾で受け止めるが勢いを止められない。


ヤマトの肉体は宙に放りだされた。意識が飛び掛けている。


フレデリックが隙を狙っていた。触手を伸ばす。今度はヤマトを捕らえた。


「眠れ」


 両手はガトリング銃から鋭利な槍に変形している。2本の槍がヤマトの肉体に伸びてきた。


ヤマトは両手が塞がれている。巨大な鉄球を自らの前方に生み出す。間一髪で槍の脅威を逃れた。辺りに響く金属同士が弾ける高音。


「まだだぜ。俺を忘れるなよ」


頭上に柳が浮いていた。両手で村雨を振り下ろそうとしている。ヤマトは短剣を創出しフレデリックの触手を断ち切る。両手にエクスカリバーを握り村雨の太刀を防御した。顔から僅か10センチの所まで刃は近付いていた。


間に合った、とヤマトの意識が村雨に向いた時。


「油断したな」


 デイビスだった。背後から肥大化させた拳で殴り掛かる。


 駄目だ、間に合わな――、


 ヤマトの身体が、再び宙を舞った。


 吐血するヤマト。周辺の景色がぼやけた。


 極め付けはフレデリック。両手を元に戻し、掌にエネルギーを溜めている。


「終わりだ」


 フレデリックのエネルギー弾が、ヤマトを捉える。更に上空へ飛ばされた。ヤマトの肉体は地上100メートルの高さにまで達した。


「来世で会おうぜ」


 闇に乗じた柳。


「龍神切り」


村雨が吸ってきた血液が刀身に赤黒い煙として浮かび上がる。ヤマトの腹部を、真上から叩き切った。


 ヤマトは地面に叩き付けられた。地面まで一瞬だった。


ヤマトの身体はそのまま地表にめり込んでいった。どこまでも深くまで進み、地上からは見えなくなった。


「死んだか?」


 柳が地上に降りて来る。


「どうだろうな。ヤマト・アストラルはサルマに匹敵する。だが地上に出て来たら仕留めるだけだ」


 フレデリック。


「その時は俺が殺す。奴の遺体はかなりの値打ちが付きそうだからな」


 デイビスだ。


 3人は少しの間様子を見た。ヤマトは出て来ない。


「……終わり、か。でもやっぱり強かったな、これだけ時間が掛かったのは初めてじゃなか? 1人ずつだったら殺られてたかもな」


「お前ならな。俺なら1人で殺れてたぜ」


 デイビス。


「御託はいい。サルマの所に向かうぞ。浄化の続きだ」


 フレデリック。


 柳達がその場を去ろうとする。


「……ん?」


 気付いたのは柳だった。


「どうした」


 フレデリック。


「野郎、まだ生きてやがったか」


 デイビスは再度戦闘態勢に入る。


 最果ての星の大地が揺れる。木が揺れ、水面が波立つ。振動は徐々に大きくなり、周辺の木々が次々に倒れていく。


「力が膨張していく」


フレデリック。


「力を隠してやがったかっ」


デイビスが吠える。


「はっはっ、身体の芯まで来るこの感じ、ボスと同じだ」


柳は笑った。


突如大地が破裂する。地面が無くなり、粉々になった岩々が飛び散った。


50メートルもの穴が生まれていて、その中からヤマトが飛び出してきた。


「まだ生きてたか、ヤマト。そう来なくっちゃな。今度こそ、キッチリ仕留めてやるからよ!」


 柳の目が血走る。ヤマトは空高くから3人を見下ろしていた。


「現実世界がどれだけ腐敗し絶望と隣り合わせだとしても、お前達の好きにはさせない!」


「死ねえっ」


 ヤマトに向かっていく柳。その肌は赤く染まっていた。額に第三の眼が開かれ、歯が突き出ている。頭部からは1本の角が生えていた。柳は赤鬼と化していた。


「うぐっ」 


 空中で柳を何かが弾いた。それはヤマトの槍・グングニルだった。


空は、いつしか濃藍から紫黒に塗り潰されている。360℃、全ての空にグングニルが浮いている。鉄槌を下す十字架が生まれていた。


「テメェ、ふざけるなよ」


 デイビスが怒号を飛ばす。生まれた恐怖に飲み込まれない為の雄叫びだった。


「この世界は俺が導く。そう約束したんだ。お前達はここで消えろ!」


 ヤマトは両の掌を柳達に向けた。無数のグングニルが、一斉に地上に降り注ぐ。柳達に、逃げ場は無かった。


「こんなもの、どうすれば、」フレデリックはその場から逃避する。


「小僧おおおおおっ、テメえええっ」デイビスは叫ぶことしか出来ない。


「おいおい。何だよ、これ。もうちょっと楽しませろよ」


柳の村雨の刃先が地上に向かって垂れた。


螺旋回転するグングニル。遠心力を伴っている。回避不可能な槍の雨、その内の一本が柳の肉体を無抵抗に千切る。鮮血が噴出する。が、それは数え切れない槍に埋もれて消えた。


けたたましい音が大地を抉った。数分に及ぶ轟音。惑星ファーゼストは、グングニルの針の筵となった。見渡す全ての風景が壊滅した。死者を埋葬する無常な墓標が誕生していた。


「倒、した」


 息を切らすヤマト。力を使い切っていた。


僅かに余った力で斧を浮遊させる。槍が刺さっていない場所まで移動し、着地した。グングニルによる攻撃は、惑星ファーゼストの半分を壊滅させていた。


 ヤマトは片膝を着いている。足が動いてくれない。


「エリザ達の、元に、戻らないと。サルマを、止めるんだ」


青い影が、音も無く現れた。ヤマトは影を見上げる。


「立て、ヤマト。宣言通りお前を潰しに来たわ」


 最強の戦士であり、最大の好敵手がそこに立っていた。

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