第39話 決戦2
「場所を変えるぜ」
柳達の身体が光を帯び始め、空に向かって伸びた。ヤマトは自身も同じ光を放っているのに気付いた。
柳達3人が光の塊となって空に弾け飛んだ。
「ヤマトっ」
エリザが叫ぶ。
「エリザ」とヤマトが言い返す前に身体が地面を離れた。地上でエリザが切実な瞳で見上げている。ヤマトは仲間達の元から引き離された。
「ウェルディ」
エリザがヤマトに気を取られている背後で、ギランの風魔法が吹き荒れていた。
「ギラン。助かりまし、」
エリザは驚愕して言葉を止めた。いつもの如く援護してくれた、そう思い振り返った所だった。
エリザは有り得ない現実に直面した。
ギランの魔法が、RW側の戦士を襲っている。
「ギラン……?」
信頼する魔法使いの小さな背中が、静かに何かを物語っている。
「――エリザ様」
ギランが低い声を発する。
「ギラン、貴方、」
「私はこの世界を守ります」
ギランが振り返った。その瞳に切実と憐憫が入り混じっている。
「小僧の話を聞いてから、今日まで何度も自問自答してきました。どうすれば良いのか。何が正しいのか。――貴女を救うにはどうすべきか」
放心するエリザは何も返せない。
「申し訳ありません、エリザ様。私はこの世界を守ります。
貴女は、この私が倒します」
――ギラン、やはり貴方は。
誰よりも信頼し合っていた相手が、自分に武器を向けていた。
惑星アメルゴン。グラウンド・オルタナスの覇権を握る国。
夜でも無いのに空は暗黒に染まっている。大気が蠢めき、暗空の中央に巨大な円が生まれている。
「何だ、あれは」
アメルゴンで戦う米軍の兵隊が見上げる。
円の中心が開いたかと思うと、邪悪な光が降ってきた。光は一直線に大地に突き刺さった。
光の中から、何かが降りてくる。
「人間、か……?」
人間が落ちて来る。いや違う。人間などではない。誰にも判別がつかない。
ただそれが、世界を混沌に陥れるということは、直感で分かった。
あれはヤバイ。
その「何か」は、悠然と降りてくる。
形状は人間だ。だが肌が墨色。瞳は赤い。背中からは、異形の翼が生えている。
この生き物は人間か。いや、魔王か。悪魔か。
徐々に舞い降りてくる「何か」の全貌が明らかになった。
「今日、世界が変わる」
力を開放した、サルマ・ユリスタスだった。
《4》
「ひゅ〜、いつ感じてもボスの魔力はえげつねえな。違う星でもこれだけビシビシ来るんだからな。やっぱりあの人はバケモンだ」
柳がニヤつく。
ヤマト達は、クリティアのテレポーテーションにより惑星ファーゼストに移動していた。
惑星ファーゼストは、その名の通り星々の最果てにある。この星は太陽の光が届かず、いつも夜明け前のように薄暗い。海の水は濁り、木々は朽ち果て、大地がひび割れている。生物は生息せず、全てが終わりに向かっている星だった。
「これが、サルマの魔力……」
ヤマトは驚嘆する。
おぞましい力だった。ギランの熟練された魔力でも、エリザの慈しみに溢れた魔法でも、ウォードの純粋な力でもない。邪悪で、歪で、絶望が凝縮されている。こんな力を感じたことが無かった。
「俺達も始めようぜ」
ヤマトが柳に視線を移す。
「ボケっとすんな」
柳達が巨大な力を開放した。
星が揺れる。暴風が吹き荒れた。3人共が一国レベルの力を持っている。
柳の見た目はそのままだ。黒のスーツにネクタイ無しの白シャツ、足元は革靴。
柳の武器は日本刀だった。人を殺める道具なのに、魅力されてしまうくらいに美しい曲線。刀身から赤い煙を放っている。
「新 大和。殺し合う前に聞きたいことがある」
柳が問う。
「何だ?」
「どうしてそっち側に着いた。こっちに着けば俺達と一緒に世界を支配出来たのによ」
「そんなことに興味は無い」
「興味が無い、か――。世界を思うがままに動かせたんだぞ? 勿論敵対勢力は現れるだろうが、それでもある程度は自分達が決定権を持てる。自分達がルールを作り、街を作り、物質を生み、科学を進歩させ、未来を操作できた」
ヤマトは黙って聞いている。
「お前は興味無いかもしれないが、女を抱けるし、極上のドラッグもやり放題だ。当然金にも困らない。それなのに、何故」
「そんなもの望んでいないからだ。俺はこの世界で充分だ。誰かが作ったルールで構わない。この世界で、大切な人達を生きていくだけだ」
柳は鼻息を漏らした。
「願望は無いのか。何でもいい。女でも、金でも、家でも、土地でも」
「充分満たされている。今の生活で充分だ」
腑に落ちない様子で柳が頭を掻いた。
「そうか。欲が弱いんだな」
「お前達が強欲なだけだ。その欲が世界を滅ぼしている」
柳が返す。
「我儘なのは、お前達じゃないのか?」
ヤマトは睨む。
「どこがだ」
「じゃあ聞くがな、お前は今満たされていると言った。この世界で充分だと。ならもし仮に、満たされていなければどうしていた?」
「それは――」
「お前は、それでも戦っていただろうよ。その絶大な力を持ってな。ならそれは、俺達がしていることと何が違うんだ? 結局お前だって自分の意見を通そうとしているじゃねえか、力を誇示して」
「だからといって俺、」
「お前が俺達を批難するのは、俺達が悪人だからだろ? じゃあもし俺達が善人でありながら世界を転覆しようとしていたら、お前は俺達側に着いたのか?
違うよな。それでもお前はそっち側に着いた筈だ。要するにだ、お前だって自分の理想とする世界を創ろうとしてるんだよ。その点において、俺達は何も変わらない。俺達はその先手を打とうとしているだけで、お前はこちら側の意見を聞いて反論しているに過ぎないんだよ。
現実の政治と変わらねえ。お前は典型的な日本人だよ。自分達では何も発信しない癖に、誰かの意見には難癖を付ける。臆病者だ」
ヤマトが言い返す前に別の声がした。
「私はまた別の思想だがな」
フレデリックだ。
「俺は元々ある国の政府機関で働いていた。だが腐敗しきっている世界に絶望した。汚職・隠蔽・横領。『国を豊かにする為』という大義名分を掲げながら、上層部は私腹を肥やすことしか考えていない。そしてその為なら、人の命を簡単に見捨てる。例えそれが仲間や部下でもな。私はそれが許せなかった。
見捨てられる者達はいつも弱者だった。お前のような一般人・貧困にあえぐ者・難民・女子供ら。だからこんな世界は一度浄化するべきだと思っていた。それで私はサルマに加担したのだ」
「……」
「俺は堅苦しいことは言わないぜ」
最後にデイビス。
「俺は軍人だった。元々は南米のスラム街出身でな。そこでは『力』が全てだった。力こそが法律。力を持たない家族や仲間は全員殺されたよ。
でもよ、それがこの世界の真理なんだよ。俺はそれを知った。結局は『力』だ。何処に居ても、何をしてても、『力』の種類が変わっているだけだ。
スポーツでは身体能力が、学校では知識が、スラムでは暴力が、政治では金や権力が、その『力』に値する。
巧みに『力』を操り、敵を追いやる。こんな服を着たり体裁を保ってはいるが、何処までいっても人間だって獣なんだよ。変化する『力』を使って相手を蹴り落とすんだ。
そして俺はサルマに出会った。奴は強くて、歯が立たなかった。初めて恐怖で身体が震えた。
それは俺にとって最大の屈辱であり、生きる目的になった。だから俺はいつかサルマを殺す。奴の元で『力』を蓄え、いつか奴の寝首を搔く。そして俺が世界を支配するボスになる。これが俺が奴に就いた理由だ」
「……」
3人が主張を聞き終えた。
「やっぱり、分かり合えねえか?」
柳が言う。
「――無理だ。俺はこの世界を守る」
ヤマトの言葉に、柳は小さく笑った。
「そう言うと思ったよ。なら、血で血を洗うしかねえな」
柳が日本刀を構える。
「行くぜ、ヤマトっ」
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