第38話 決戦
グラウンド・オルタナスの各惑星に数え切れない戦士が集結している。
ロバート・アレンら世界の上層部は、ニューヨークの国連本部に集結した。ある意味で歴史上初めて世界が結託した瞬間かもしれない。憎み合っていた者達が手と手を取り合うのは、決まって共通の敵が現れた時だ。
現実世界VS仮想世界。国際連合VSグラウンド・オルタナス。
これは世界と世界の戦いだった。どちらが「表の世界」になり、世界を主導するのか。世界の命運を左右する「メタバース・ウォー」だった。
それぞれの惑星に集まった戦士達は、身体を硬直させその瞬間を待っていた。
惑星モノゴラスにある大草原。天気は快晴。
白く光る雲、透き通る空、涼風に揺れる雑草。とても世界の行く末を決める大戦の直前とは思えない。
平和の祭典が催されそうな空気の中、ハルマゲドンは突然始まった。仕掛けたのは現実世界側・ロシア軍の航空宇宙軍BKC(Aerospace Forces of the Russian Federation)と戦略ロケット部隊PBCH(Strategic Missile Forces of the Russian Federation)だった。
大陸間弾道ミサイルIBCM・ssーxー35が青い空を切り裂く。グラウンド・オルタナス側の戦士達に向かって発射された。
グラウンド・オルタナスの戦士達は奇襲を防げなかった。地面に穴が開き、数百人が宙を舞う。それが開戦の号令となった。僅かな時差はあれど、他の惑星でもほぼ同時刻に開戦する。その光景は、現実世界・他世界のテレビで世界同時中継されていた。
「発射!」
先制攻撃を仕掛ける現実世界。数万のミサイル・兵器が火を噴く。150mmの砲弾・分裂する核ミサイル・原子爆弾・水素爆弾。細菌・科学兵器も投入し、グラウンド・オルタナスの殲滅を図る。
《今、今戦いが始まりました。もの凄い攻撃です。ロシア軍・中国軍・米軍・トルコ軍が一斉に砲撃を放っていますっ》
別の放送では宇宙からの映像が流れていた。惑星ペリアは人が住む最小の惑星だ。その惑星ペリアに、何万の宇宙ミサイルが降り注ぐ。それはさながら流星群のようだった。ミサイルは、数十秒後に大地を破壊する爆発となって確認される。煙は球体のあらゆる場所から上がり、膨張を続けやがて最小の惑星は破裂した。
破裂した惑星ペリアの欠片が宇宙に飛び散る。映像上は極めてスローモーションに見えている。しかし実際には時速200万キロという光速を超える速さで飛翔している。言わずもがな、スローに見えるのは宇宙が途方も無くも巨大だからだ。だから油断していると悲惨なことになる。
《今、惑星ペリアが爆破しました。信じられません。グラウンド・オルタナスならではの光景でしょう。ご覧の通り、他の惑星でも現実世界軍による攻撃が、きゃあああああああっ!》
突然テレビの放送が切れた。中継していたコンゴ共和国の女性キャスターが乗っていた宇宙船に、爆発した星の破片が直撃した。グラウンド・オルタナスの宇宙船は光速を凌ぐ速度が出せる(光の速度は宇宙で時速約30万キロ)が、爆発した星の破片には及ばない。それを躱せなかった。
女性キャスターが乗っていた宇宙船は爆破し、現実世界に還っていった。宇宙放送はブルネイの放送に切り替えられた。
宇宙に大量の爆発物が飛散している中、地上では戦士達による戦闘が始まっていた。
現実世界側は大量の資金(世界各国の政府が資金を捻出した)を投入しグラウンド・オルタナス内の武器・兵器を買い占め、そして開発していた。
GA(以後グラウンド・オルタナスはGA,現実世界はRW『Real World・現実世界の略』と表記する)のエネルギーはクリティアだ。そのクリティアを用いればどんなことも可能となる。
RWはクリティアを詰めた剣を数万本用意し、GA側の戦士目掛けて発射する。剣は一本ずつが10メートル単位で、且つ原子力のエネルギーを内包している。クリティアにより対象目掛けて飛んでいくように改造してあった。
またボツリヌストキシンÅ(1000万人が死ぬ毒)を改良した毒が塗ってある小針を無差別に発射した。毒は戦士達の視界に入らずに大気中を感染し、周辺の人間・動物・昆虫・魔物・植物の生命を奪う。昆虫は手足を蠢かせ、魔物は悲痛な鳴き声を上げ、植物は花弁や葉・茎をしおらせた。人間は10分間苦しんだ後、息途絶えた。
RWが資金・クリティアに頼った攻撃を繰り広げるのに対し、GAの戦士らはゲームに沿った戦い方で応戦する。剣術や武術、魔法、特殊能力を使った戦法だ。RWが使用する兵器は驚異だが、直接対決では圧倒的にGA側に分があった。
RWの戦法は現実世界での動きや武器の扱いをそのまま再現しており、基本に忠実過ぎる。GAでは通用しなかった。ミサイルは魔法で無効化され、化学兵器は跳ね返って来る。純粋な戦闘ではRW側はまるで歯が立たなかった。
ゲームの世界であるGAの戦士にはゲーム内のパロメーター(力や速さ、防御力、反射速度、特殊能力など)や世界に1つだけの武器、現実世界では不可能な身のこなし、魔物との膨大な戦闘経験が加算されている。ゲームの世界で重要なのは、知識や統率ではなくゲームのシステムを把握することだ。この戦いの為だけに参戦した即席の戦士が多いRW側は、苦戦を強いられている。
GA側は魔法で空を飛び、上空から矢を放つ。先端が5本に分かれた棘付きの鞭は30メートル先まで届く。刃が10メートルを超える斧は現実世界では有り得ない大きさだ。
やはり厄介なのは魔法の存在だった。穏やかな天候かと思いきや突如雲行きが変わり豪雨が降る。吹雪が収まったかと思いきや、竜巻が起こり上空に放り出される。炎の竜が山々を食い荒らし、どこからともなく落ちる電撃が人体を感電させた。
RW側の戦士達は、兵器に頼らなければ何も出来なくなっていた。
「こ、こんなもの、どうすればいいのだ」
RW軍がたじろぐ。対処方法を知らない。そこに、1人の戦士が現れた。
「皆さん下がって下さい。此処は僕らが戦(や)ります」
惑星セントラルに突如現れた救世主。ヤマト達だった。
ロバートら国際連合はこの展開を読んでいた。ゲームの世界での戦闘に不慣れな自軍は間違いなく苦戦を強いられる。だからRW側は、ヤマトら超一線級のプレイヤーの引き抜いたのである。
「おおっ!」
ヤマトは50メートルのハンマーを創出している。それを軽々と振り抜き、100人以上のGA戦士が吹き飛ぶ。
「来い、俺が相手だっ」
ヤマトの能力は今やグラウンド・オルタナスで圧倒的だった。長い歳月を経て、能力は限界まで達している。
特殊能力も進化していた。慈空に開花して貰った「開力」の完全覚醒能力。それは「無限武器創出(インフィニティウェポン)」だった。ヤマトの周辺に1000近い武器が生まれ、浮遊している。
ヤマトの最終覚醒は手数の多さから「千手観音」とも呼ばれる。無限に現れた武器は、ヤマトの敵となる相手に自動で攻撃を繰り出す。剣が敵を切り、斧は叩き切る、矢が射抜き、鞭は弾いた。武器の大群が、荒ぶる猛獣のように敵に襲い掛かった。ヤマトの戦闘力は神々の領域に達していた。
それぞれの武器も最強形態まで進化している。剣はエクスカリバー、電撃を発することが出来る。槍はクングニル、プラチナすら貫きレーザーを放出できる。刀は斬鉄剣、五月雨斬りで敵を千切りにする。斧はリサナウト、全長50メートルでどんな物質も叩き割る。
極めつけは。
「こ、これは」
RWの戦士達の手元にヤマトの武器が現れた。ヤマトの能力で最も強力なのは、これら伝説の武器を無限に仲間に与えられることだった。
ヤマトの能力は、仲間と共闘し、仲間を生かす為の能力だった。
「行くぞおおおおっ!」
ヤマトの登場で形勢が変わった。それまで戦意喪失していたRW側の戦士達が息を吹き返す。
押されていたRW軍が一気に押し返した。GAで戦ってきた戦士達と言えど、ヤマト達は止められない。無数の武器は、攻撃と同時にヤマトを守っている。
何か、来る。
流れがRW側に傾いた戦場で、ヤマトは危機を察知する。30メートル横に飛び退いた。
3つの光が空から降って来た。光は地面に衝突し、小型爆弾並みの衝撃と煙を生む。
煙が辺りを覆い、その中からやさぐれた男の声が聞こえてきた。
「おいおい、その力反則だろ」
この声は。
「待ってたぜ、コイツと戦えるのをな」
他に2人。
「サルマの言っていた通りだ。まずはこの男を抹消しなければならない」
3人の男達が、ヤマトの前に立ちはだかる。
「さあ殺し合おうぜ、ヤマト」
柳達だった。
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