第14話 3人目の仲間

ウォードがエリザから離れる。


ヤマトとウォード、両者が前に出た。20メートルの距離で向かい合う。ヤマトが剣を構え、ウォードはまだ腰に手を当てたままだ。


「悪くないな。うっし、こっちから行くでえ」


 ヤマトの視界からウォードが消える。一瞬にして、目の前にウォードが現れていた。すかさずハイキックが飛んでくる。ヤマトはそれを左腕で防ぐ。威力が強い。右方向に20メートル吹き飛ばされる。


 受け身して体勢を整えるヤマト。元の場所を見た。ウォードが居ない。


視界に地面の影が入った。大きい。上空を見上げる。ウォードが空から降ってきた。


「ええ反応や」


 両手を合わせて殴り掛かるウォード。ヤマトは両手をクロスさせ防御した。ヤマトの骨は皮膚の内側で軋んだ。


そのままウォードに馬乗りになられ、連打を受ける。目にも止まらぬ速さで飛んでくる拳。ヤマトは防戦一方となる。


連打するウォードの拳の一撃が地面に当たる。大地が揺れた。その隙にヤマトは反転し、起き上がる。ウォードの拳が落ちた場所に、半径5メートルの穴が生まれていた。


「何て馬鹿力じゃ」


 ギランが呟く。


ヤマトがウォードを見据える。愉快そうに笑っていた。


「ほれほれ。そんなもんかあー」


 打撃の一撃ずつが重い。身のこなしが滑らかで、高速で攻撃が繰り出せる。威力は慈空並で、スピードは遥かに上。どう戦う。


「何ボケっとしとんねん。一瞬たりとも気を抜くなよっ」


 ウォードが距離を詰めてくる。それからまたも連打。ウォードの拳圧に押され、元の位置から遠ざかっていく。30メートル、50メートル、100メートル。これだけ連打を続けているのにウォードに全く疲れは見えない。


「ほれ」


ウォードが繰り出した前蹴りを躱すヤマト。瞬時に反撃に出た。


縦・斜め・突き・横と、太刀を繰り出す。しかしその全てを躱される。全く攻撃が当たらない。


「どうや。強いやろ、ワイ」


 ヤマトは鷹火山での修業で強くなった自負があったが、自惚れだったと気付かされる。このウォードには勝ち筋が全く見出せない。


厄介なのはスピードと手数。体力に底が見えず、こちらの攻撃は当たらない。


ならば。と、ヤマトがウォードに突っ込んでいく。


「それは単調過ぎんか?」


 ヤマトはウォードとの距離を詰める。残り数メートルになった所で力を解放した。「開力」で得た特殊能力だ。


「何や」


 ウォードはヤマトの能力を知らない。ヤマトの剣が姿を変え、二刀流に変化していた。


「武器が変わったやと」


「開力」で手に入れたヤマトの能力の名称は「武器性質変化(バリアブルウェポン)」。武器の大きさだけでなく武器自体も自在に変えられる。手数で勝負するなら二刀が有利と考えた。


 ヤマトが連続して太刀を繰り出す。右手の本差は一般的な剣で、左手の脇差は1メートルに満たない短刀だ。二刀流の基本だった。


ウォードは戸惑う。いかに動体視力が優れていると言えど、二刀の太刀を避け続けるのは難しかった。


ヤマトは反撃の機会を与えないよう太刀を相次いで繰り出す。これは当たった、とヤマトが右手を振り下ろした。


「期待以上やで、ヤマト」


 ウォードは右腕でヤマトの斬撃を受けていた。その腕が青く光っている。


どうして腕が切れない――。


 ヤマトの鳩尾に前蹴りが入り、数十メートル吹っ飛ばされる。片膝を着いて、何とか留まった。


「腕が、光ってる」


 ヤマトが溢す。


「そう、これがワイの能力や」


 ウォードの能力は「身体覚醒(フィジカルアラウザル)」。自身の「氣」を放出する能力だ。ウォードは今「氣」を右腕に集中しヤマトの太刀を防御した。


「貴方も、『開力』していたんですね」


「ん? 『開力』? 何やそれ。知らん内に勝手に出来るようなったんや。そういう名前なんか? 初めて知ったわ」


 ウォードは自力で力を解放していた。ヤマトは面食らう。


「今のは危なかったわ。反応が遅れてたら右腕切り落とされてたなあ。ご褒美にワイもちょいと本気出したるわ」


 ウォードの全身が、青白い「氣」に包まれる。ヤマトは巨大な力を感じ取った。無意識に全身に力が入った。


「行くでえ」


 ウォードはヤマトの眼前に現れた。先程より断然速い。ヤマトが防御する暇も泣く打撃を入れられる。


「ほれほれほれほれ」


ヤマトは一方的に攻撃を喰らう。為す術が無い。


「とどめ差したるわ、ヤマト」


 一層大きな「氣」を纏った右拳を振り上げるウォード。戦いを終わらせるつもりだった。


その拳を振り下ろそうとした寸前で、ウォードは動きを止めた。


 ウォードの首筋に、極細の針が浮いていた。


「動かないで下さい。少しでも動いたら刺します」


ヤマトは二刀流を解除し、目に見えないくらいの針を出現させていた。


「ほう~。毒針か? ワイは丈夫さが取り柄やねん。多少の毒じゃ効かんけどなあ」


「多少じゃありません。針の先にはボツリヌストキシンÅの百倍の毒が塗ってあります。ボツリヌストキシンÅ自体1グラムで1000万人近い人間を殺せます。止めておいた方が身の為です」


「……。ふっ、分かった分かった」


 ウォードは放出していた「氣」を解除する。


「ほんなら勝負は引き分けや。お前が針を刺そうもんなら、ワイも同時にお前を殺してた。そうやろ?」


「――分かりました」


 2人の戦闘は終わった。


「ヤマト」


 エリザ達が寄ってくる。


「勝ったのですか」


「いや、引き分けだよ」


「そうですか、よく負けませんでしたね」


 ヤマトはウォードを見る。


「でも、今もう一回やっても勝てると思えない」


「それ程か……」


 ギランが呟く。


 ウォードは仲間達と立ち話している。まだ余力が有りそうだった。


「じゃあな。勝負はお預けや。今度会ったら決着付けようなあ」


 ウォード達が一足先にこの場を去る。快活に笑っている。


「ほなな。ヤマト、爺さん、エリザちゃん。また何処かで」


ウォード達は去って行った。


敵が見えなくなり、草の上に座り込むヤマト。エリザが回復魔法を唱える。暖かな光が傷を癒していく。ギランがヤマトの肩を叩いた。


「まあよく負けずに済んだ、小僧。さっさと傷を治して調査の再開じゃ」


「はい」


 結果は引き分けだったが、ヤマトからすれば負けに等しかった。終始優勢に戦いを進められ、最後に奇策が嵌まっただけ。己の非力さを痛感させられている。


エリザ達と冒険を繰り返し、強くなった気で居た。だがそれは自惚れだった。


「もっと強くならないと」


 3人はエルヌス山脈の調査を再開した。




 調査を終え、3人はジュベルに戻ってきた。エルヌス山脈の土地権は現在協議中だ。両国の落とし所を見つけるべく議論されている。現実世界の政治や戦争・外交においても、どちらかが一方的に利益を得るような結論にはならない。あとはジュベル政府に任せるだけだった。


ヤマトは、ウォードといつか再戦する気がしていた。それはただの直感に過ぎなかったが、程無くしてヤマト達を仰天させる出来事が起こる。惑星マハールの調査を終えて、1か月が経った頃だった。


ヤマト達は惑星リーウォに飛び立とうとしていた。ジュベル政府から同惑星のジャングルを調査して欲しいとの依頼が入った。惑星リーウォはアメルゴン王国から近く、巨大な川と熱帯のジャングルが広がる星だ。狩猟民族が個々に縄張りを治めているが、その狩猟民族たちを統制しているのがある魔物達だと言われている。


ラントから飛び立とうと、宇宙船に乗り込もうとした時だった。


「おっ、居った居った」


 特徴のある掠れ声が聞こえてきた。3人が揃って声の方を振り向く。


「お久〜」


 何とそこにウォードが立っていた。


「貴様、何故此処に」


 咄嗟にギランが杖を構える。魔法を唱える寸前だった。


「待ち待ち、爺さん。慌てなさんな。ワイはもう敵やない」


「どういうことじゃ」


「ワイは一緒に任務に向かう仲間やで」


「は?」


「……」


 ヤマトとギランの声が揃う。エリザは呆然としていた。


「ワイ、ジュベルで住むことにしたから。せやからこれから宜しゅうやで、3人さん」


 ウォードは真っ白な歯を覗かせた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る