第12話 惑星マハール

惑星マハールに到着する。今回ヤマト達は、最も標高の高い山脈の調査を任された。


マハールにはヤマト達以外のジュベルの兵士・警備軍も出動しており、手分けして調査を行う。依頼されたエルヌス山脈は、登頂部の標高が13000メートルを超える。一定以上登ると雲に包まれ、文明を築けばマチュピチュのような空中都市になるだろう。


 平均気温は高く、10000メートル以上の標高でもそれほど寒くない。山風が吹いて初めて肌寒くなるくらいだ。ジュベルで見ない魔物やモンスターも多かった。


フォーウイングアルバトロスは、4つの羽根を持ち強力な疾風を巻き起こす。羽根は上下で白黒に分かれた模様で、尖った嘴は赤く、鉤爪は鉄のように固い。口から催眠の魔術を唱える。


動く人面樹。大きいものだと高さ40メートルを超え、幹は軽トラックほどもある。主に枝を使って攻撃・敵を捕獲し、切れ味鋭い葉っぱを無数に飛ばす。人面樹の長は土の中の根っこを触手にして相手を捉え、そのまま窒息死させる。他国の戦士が30人まとめて食べられた記録が残っている。


 小柄な魔物ではフーフスクワールが居る。ウサギくらいの大きさで、何故か人を見つけると拾った木の実やドングリを渡してくる。それを受け取らないと、激昂し1・5メートルに巨大化する。そしてアルマジロのような回転攻撃を仕掛けるのだが、その威力は軽自動車が時速60キロで突っ込んで来た時と同等と言われる。


事前に報告があった通り、マハールには貴重な資源が多く眠っていた。地表にはメリダスや鉄鉱石。山を流れる川には砂金が混じり、丹念に探索すれば母岩となる岩が出てくると思われる。他にも、微小なダイアモンド・サファイアの欠片を発見した。他の調査団からの報告では、地上にはジュベルに少ない幅の広い河川が多く見られる。流れは緩やかで川魚が豊富に生息している。


乾燥地帯が多いジュベルは、これまで多くの資源を他国からの輸入に頼ってきた。そしてそれは外交上の弱みだった。弱点を無くせば今後国際関係を有利に進められるようになる。ジュベルにとってマハールは宝の山だった。 


「山頂へ向かいましょう」


 エリザが促す。


山の下腹部は森林が生い茂り、珍しい色合いの樹木が生えていた。木の幹が抹茶色で、葉がピンクやブルー、雑草は雪のように白かった。中には食べられる葉っぱもあり、ヤマトが味見してみた(その前にちゃんとギランが消毒の魔法を掛けた)。


「あっ、この葉っぱ甘いですよ」


すると色によって味が異なっていた。桜色の葉は砂糖の味がして、海色の葉は苦味があった。


「これは新種のフルーツではないか」


樹木の中にはグルメツリーが数万本に一本割合で生えている。グルメツリーは、見た目はただの木だが成る実が特殊だった。ドラゴンフルーツを紫色にしたような果実や、パイナップルの棘が異様に長く、中に金色に光る果肉が入っている果物。グルメツリーは果実の品種、肉の品種、野菜の品種に分かれ、毎年不規則に実を結ぶ。


「坂が急になってきたの」


 ギランが溢す。3人は山の中腹部まで登って来ていた。


「ギランさん大丈夫ですか。骨が折れたりは、痛っ」


 ギランの杖がヤマトの頭部を小突いた。


「年寄り扱いするな、馬鹿者っ」


「いつも自分で老いたって言ってるくせに……」


 ヤマトが頭を擦りながら言う。


「たわけっ。自分で言うのは良いが人から言われるのは嫌なんじゃ。察せっ!」


 そこでエリザが会話に加わる。


「でもギラン。あまり無理はなさらないように」


「ご配慮ありがとうございます、エリザ様。小僧、貴様もエリザ様を見習え!」


「理不尽過ぎますっ。対応が違い過ぎです、パワハラです」


「まわりくどい単語を使うな、小癪な!」


「そのくらい知っておいて下さい!」


「何をっ!」


「……」


ヤマトとギランが取っ組み合う。エリザは2人を無視して先を目指した。そんなことを話しながら、3人は山を登って行った。


 中腹部から、木々が無くなり山の斜面が急になった。足場は崩れやすいので注意が必要だ。この時点でかなり高く、惑星マハールの大地が一望出来た。


「2人共、空から敵が狙っています」


見晴らしが良くなったことで、空の魔物から狙われやすくなった。ウインドグリフォンは鳥の上部と馬の下部が合わさった魔物だ。強い蹴りを放つ上、空も飛べる。3メートル以上ある羽をはばたかせ、小さな竜巻を起こしてくる。多くの戦士はこの突風でバランスを崩し山から振り落とされてしまう。


「フレイズっ」


 ギランが炎魔法を唱える。3人は魔物を倒しつつ頂上を目指した。山頂が近付くにつれ、雲の量が増えた。湿度も上がり、気が付くと髪が湿っている。より雲が多くなった場所では、数メートル先が見えず足元が隠れた。標高と反比例し、気温は下がっていった。


雲海の中を進んで行くと、開けた平地に出た。踝まで雑草が生え、脛の辺りを雲が這っている。悟りを開いた仙人が住んでいそうな場所だった。


先頭を歩くヤマトが何者かの気配に気付いた。


「待って下さい。何か居ます」


「何かとはなんじゃ」


「それを今から確かめるんです。考えて喋って下さい」


「小僧、貴様……」


 ギランはヤマトを一喝したかったが状況が状況なので堪えた。後で説教しようとギランは心に誓った。


先頭のヤマトが剣を構える。ギランも杖を強く握った。そこに居たのは、魔物じゃなく人間だった。


「お? 誰や」


 1人の男がヤマト達に気付いた。振り返ると同時にぶっきらぼうな声を上げた。


「知らない人ですね」


 ヤマト達は距離を詰める。そこには5人の人間が立っていた。 


5人の内、4人が同じ服装だった。カーキ色のシャツの胸には丸いバッジや金色の胸章、肩に飾緒が付いている。その上から丈の長いPコートを着用している。下はシャツと同じ素材のカーキのスラックスで、足元は黒の革靴。


「むっ、奴らラゾングラウドの者じゃ」


「え」


 ギランが小声で伝える。ヤマトはラゾングラウドの人間に会うのは初めてだった。


現在のグラウンド・オルタナスはシーロンとアメルゴン王国が覇権を争っている。ジュベルはアメルゴン王国と親交があり、対するシーロンと親密な関係を築いているのがラゾングラウドだった。


ラゾングラウドは最も大きい惑星の1つで、資源が豊富だ。その資源力を生かし、他国との外交を進めている。


 ラゾングラウドの他国からの印象はあまり良くない。ジュベルやラントに流れてくるのは、大半が同国の評価を下げる情報ばかりだ。国際法に違反した親交のある国との密輸、国際機関への虚偽の報告、他国への不法侵入・略奪・殺人・人身売買。


それ故、ジュベル国民の大多数はラゾングラウドに対し批判的なイメージを抱いている。またラゾングラウドは武力を重視する国であり、上層部の多くは軍の人間が占めている。強さで序列が決まる伝統があった。


「何やあ? お前ら」


 

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