第2話
ドラッグストアでの買い物を終えて、
家のガレージでトランクから
荷物を取り出した。
バタンというトランクがしまる音がした。
車のすぐ横に自転車をとめる音が聞こえる。
高校3年の
長女
サドルから乗り降りた。
父の龍弥が着いて同時に雪菜が帰って
来ていた。
「あ、お父さん。
今帰り?」
真っ暗なガレージでパッと
ソーラー電池のライトが着いた。
小さなライトの光で顔を覗いた。
「ああ、ただいま。
雪菜も今、帰りか。」
「うん。
おかえり。
そして、ただいま。
買い物して来たんだね。」
「そう。
母さんから電話あってね。
雪菜、部活の調子はどうなの?
来週県大会でしょう。」
肩にバックを乗せて、
庭を歩きながら聞く。
雪菜は、荷物を背負い直した。
「…的に当たらなかった。
ちょっと今日は調子悪い。
邪念が多いのかも…。」
「え?邪念?!」
「別に。なんでもない。
あーー、お腹空いた。
今日のご飯何かな。
ただいまー。」
雪菜は、玄関のドアを勢い良く開けて
入っていく。
部活のことより何より今は、早く
ご飯にありつきたかった。
(…集中できない何かがあるのか。)
龍弥は、玄関に買ってきた荷物と
いつものバックを置いた。
「おかえりなさい。
頼んでいたトイレットペーパー
買ってきてくれた?」
「ああ、これでいいんだろ?」
「…って、ごめんなさい。
ストックの戸棚の中見るの忘れてて、
あったんだわ。」
菜穂は、龍弥が帰ってきてすぐに
トイレットペーパーや
ティッシュボックス、洗剤などの
ストック戸棚の中を見せた。
「えー、買って来たのに?
てか、いつもどこを見てるのよ!」
「トイレの上の棚にいつも置くじゃない?
それがすっかり無かったから、
ここの存在あるの忘れてたの。」
「まぁ、またストック増やせるからいいか。
ちゃんと確認してよ。
今回だけだからね!!お母さん?!」
龍弥はイライラしながら、
手洗いを済ませて、食卓に座る。
「ほら、すぐご飯にするから座って
待っててってもう、席に着いてるし。
今度から気をつけます!!」
「まぁまぁ。そう言いながらも、
お父さんは買って来てくれるんじゃん。
甘えちゃいなよ、お母さん。」
「いや、マジでイライラするけど、こっちは。
プラスで考えれば、良い気分転換が
できたかな。お酒のおつまみに
色々買い出しして来ちゃったもんね〜。」
「あー、ちゃっかりしてるし。
てか、そのお菓子は
ご飯の後に食べなさいよ、
お父さん!!」
「お菓子じゃない!これはつまみだ。
それより、徹平は?
まだ帰ってないの?」
「さっきラインしたら、
コンビニ寄ってから
帰るって。
今日発売のトレカが無いと無理だとか
なんとか予約してたらしい。
中学生はまだまだ子どもだね。」
菜穂は、スマホのラインを確認した。
長男の
からのメッセージとスタンプが面白くて
クスクス笑っている。
「さっきから何で笑ってるの?」
「だってさ、徹平のラインは
話の筋道に関係ない漫画の1コマとか
送ってきたりするから面白くて…。
笑っちゃうよね。これ、ギャグ漫画だし。
どこから拾ってくるんだか…。」
「インターネットでしょう。
お母さん、ほら、お腹空いたから
食べようよ。」
雪菜は、菜穂の服を引っ張って、
食卓へ誘導する。
龍弥はすでにカレーライスに
ありついていた。
「ちょっと、いただきますも
言わないでもう食べてるし、早いよ!!」
「すでにいただいてます!」
「遅いぃ。」
「これ、中身何入ってるの?」
「これはバターチキンカレーだよ。
本場のインドもチキンカレーらしいよ。」
「そうなんだ。
今度、スープカレーも食べてみたいな。
お母さん作ってみてよ。」
「うん、気が向いたらね。
菜穂、弓道の試合来週でしょう。
どうなの?」
菜穂はカレーの話と違う龍弥と同じで
部活のことを聞く。
あまり言いたく無かった。
思っている以上に成績は上がって
いないためだ。
「試合は多分、大丈夫じゃない?」
「ふーん、よろしくないのか。」
「だろ?
さっきから、
調子悪そうなこと言うんだよ。
邪念が多いとか何とか。」
「へぇ…。邪念ねぇ。
好きな子でもできたの?
雪菜。」
「…!?」
目を大きく見開いて、後ろを体に向けた。
「図星?」
「え、何、何の話?」
龍弥は菜穂に聞く。
デリケートな話だろうとそのまま静かに
なった。
「お父さんはあまり聞かない方が
いいかもね。
女子トークで盛り上がった方が
いいのかもしれないわ。」
「女子トークって、菜穂、お前、
おばちゃんだろ。」
龍弥の頬に菜穂のグーパンチが飛ぶ。
「いったぁ。」
久しぶりの頬にパンチだった。
「雪菜、後で、一緒に話しよう?
今日ね、バタフライピーティーって言う
青い紅茶買ってみたの。
レモン入れると青から紫に変わるのよ。
女子トークしましょう!」
「へぇ、青い紅茶はすごい気になる。
飲んでみたいな。
確かにお父さんと話すより、
お母さんの方が良いかも。」
「んじゃ、ご飯食べ終わったらね。
雪菜の部屋にお母さん入ってもいい?」
「うん。
いいよ。
最近、少し片付けてたから。」
「それは良いことね。
紅茶、準備しておくからね。」
「ちぇ、俺は仲間はずれかよ。」
頬杖をついて、2人を見る。
カレーの入った皿は空っぽになっていた。
ちょうどその時、玄関のドアが開いた。
「ただいまー!!
ねぇねぇ、ちょっと、これ見てよ!!」
部活帰りの徹平が帰って来た。
帰って早々、コンビニで予約した
キラキラしたトレカを見せつけてきた。
「おかえり。
徹平、手洗ったの?
食卓の前にまず手洗いでしょう!!」
「マジか?!徹平、でかしたな。
SSRじゃねぇか。
これ、フリマに出したら
何十万円もするやつだって、きっと。」
龍弥も一緒にハマっているトレカを2人は
盛り上がって見ていた。
こんなに子煩悩な夫だったかなと
目を疑うくらい楽しそうだった。
「父さん、これ、売る訳ないでしょう。
家宝にするんだから。
硬いプラスチックケースに入れて、
丁寧に保管するよ。
家に金庫ってあった??」
徹平はわたわたと辺りを見渡した。
「徹平!! 夕ご飯だよ。
まずは、手洗いして来なさい。」
菜穂は、何度も言うことに
聞かない徹平にイラついて来た。
トレカの話になると親子で盛り上がって
歯止めが効かない。
菜穂に怒られて、
しゅんと落ち込んだ徹平は仕方なく、
洗面所に行って手洗いしに
行った。
着ていた中学校のジャージも
私服に着替えて、おとなしく、
食卓に座った。
「男子って、年関係なく、
そういうので盛り上がれるんだね。」
「本当に困った趣味だよ。」
「趣味くらい親子で一緒なのは
良いことじゃないか。
遠出して、
釣りに行く訳じゃないんだし。」
「インドア派だものね。お父さんは。
アウトドアではない。
あれ、でもゲームとかは
あまり興味なかったんじゃなかった?」
「ああ、別に携帯ゲームに興味はないけど、
カードゲームとかUNOとか
ボードゲームとかは好きだったよ。
友達がお盛んにいた中学ではね。」
「……黒歴史ね。」
菜穂は、龍弥の過去を遡って思い出す。
「黒…なのかもしれないけどな。
いろいろあったから。」
「ふーん…。ごちそうさま。
んじゃ、お母さん、部屋で宿題してるから
紅茶持ってきてね。」
今は、菜穂と龍弥の話に興味がない雪菜は、そそくさと食器を片付けて、部屋に向かって行った。
「あ、俺も、食べ終わらないと…。」
「徹平は、
いただきますも言わずに食べてるわね。
全く、もう。」
いつの間にか、
スプーンでパクパクと食べていた。
お腹が空いていたようで、
すぐに完食した。
「そういや、徹平、
今どこのポジションなんだよ。」
「え?
何、部活の話?
まだ1年だから、ボール拾いだよ。
先輩たちの試合を見学ばっかしてる。
結構、うちの部活人数多いみたいでさ。
あと、走り込みかな。」
「あー、そっか。
まだ1年だから試合とかにも
出れないのか。
新人戦、無いの?」
「あー、あったね。
でも、まだ決めてない。
そっか、新人戦のために
練習試合するよね。
俺、どこ行くんだろ?」
「まだ何も決まってないのか。
徹平は昔からゴールに入れることだけ
考えていたからやっぱり、FWじゃないの?
逃げ足も早いしな。」
「父さんはMFだっけ。
キャプテンもやってたんでしょう。
俺には、無理だ。
誰かの指示に従う方が楽だもん。」
「そうだけど…。
まぁ、サッカー顧問もやってるしな。
指示通りに動いてくれればいいんだけど
難しいものよ。キャプテンも。
いつも徹平はお姉ちゃんに指示されて
動いてるもんな。」
「それは言わないで!!
俺は、姉ちゃんに脅されてるの!」
「え、そうなのか?」
「まぁまぁ、良いから。
食器片付けて、
徹平も宿題終わらせなさいよ?」
菜穂は、テーブルを拭きながら、
促していく。
ごくごくいつも通りに白狼家の
日常が過ぎていった。
雪菜の邪念騒動を聞く前では…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます