エロゲの世界に転生した俺はクリア後の世界を快適に生きられたのだろうか
それから
バハムルの森の
目の前にある階段を降りれば千階層。
ここまで来るのはとても大変で、気が遠くなるほどの年月を重ねようやっとここまで辿り着いた。
俺がいるこの大部屋は下に繋がる階段以外に何もない。
そして、この大部屋に至る直前に戦った階層の──九百九十九階層のボスはプロトタイプ・デモン・ロードと言う名前で見た目はアグラートと全く同じ。
いやはやこのダンジョンはとても趣味が悪い。
それに俺を不老長寿にしたケレブレスも。
──寝てから降りよう。
俺は寝る準備をして横たわる。
瞼を閉じると楽しかった日々や人との別れの幻影が闇の中に描かれる。
◆
戴冠式以降、バハムル王国はとても平和だった。
バハムル王国は俺が国王として君臨している間に合議制に移行。おかげで俺やフィーナは政治から開放されて自由を謳歌──と言いたいが、その頃には良い年齢になって、俺とフィーナ、俺とイヴェリアとの間にできた子たちは皆、成人してフィーナとの間にできた長男に王位を譲っている。
ちなみに俺はフィーナに勧められるがままに何十人という子を作らされた。
フィーナはイヴェリアに【房中術★】を駆使させて女性の状態を確認すると、俺に【絶倫★】の強制受胎という副次効果を最大限に活用して最小限の行為で俺を子作りに励まさせた。
これがエロゲの世界である。
こういうこともあるんだろうと思っていたがフィーナとイヴェリア、カレンやソフィさんとする行為以外は作業である。
カレンはダイル準男爵家を継いだが昇爵して俺の子を産むついでに公爵位を与えた。
男児が生まれるまで頑張って二人の女の子と男の子ができたが、年齢的にギリギリだったし俺たちはカレンが男の子を生んだことに安堵。
ダイル家には王位継承権まで与えて以降この家から数人、国王を排出している。
ソフィさんは俺が即位した時点で妙齢に達していた。
ロア男爵家のご令嬢で俺が娶る形で離宮でその生涯を全うしたのだけど、彼女との間にできた子は男の子が一人。ロア家に伯爵位を与えてソフィさんとの間にできた男の子を養子に出している。
ソフィさんとはフィーナとイヴェリアともどもほぼ一緒に行動をした。
彼女のスキル【飛脚★】は移動速度二倍という効果があって遊説には欠かせない存在。
ソフィさんと一緒にカレンも俺たちの護衛としてずっと一緒に生活を送った。
ソフィさんが最初にこの世界から去り、その次にフィーナがこの世から旅立った。
『シドル様にお仕えして、子を授かり、ロア家を繋ぎ止められたことを心から感謝しています。私はとても愛されて、恵まれて幸せでした。本当にありがとうございました』
最期までソフィさんの笑顔は俺の癒やし。
老いて胸こそたゆまなくなってしまったけど、それでも俺の推しのソフィさんであることには変わらなかった。
本当に最期まで笑顔で、そう言い残して息を引き取ったのだ。笑顔のままで──。
フィーナの最期はいつもと同じで俺と右にフィーナ、左にイヴェリアと三人で寝ていて、朝起きたらフィーナが息をしていない。
俺の腕に抱き着いてイヴェリアの頬に手を置き、俺とイヴェリアが目覚めたときはまだ身体が少し温かさが残っていた。
老いることのない俺とイヴェリアの傍でフィーナは老いていき悲しそうな目で俺とイヴェリアに目線を向け──それでも幸せなんだと微笑を崩さない。
彼女は最期まで誇り高い王女であることを貫いた。
それから俺とイヴェリアはバハムル王国を出て世界各地を巡る旅に出る。
しかし、その前にイヴェリアは言った。
「ケレブレス様のところに参りましょう」
俺とイヴェリアの容姿は戴冠式のあの日から変わらない。
あれから既に半世紀以上経過しているというのに少年と少女の組み合わせにしか見えない。
なお、俺とイヴェリアはある日から性的な接触をしていない。
「私はシドルを愛しているけれど、同じくらいフィーナのことも大事なの。だから公平であるべきだってずっと思ってるわ」
そんな理由で俺は身を寄り添ってもキスも含めてそういったことは一切なかった。
俺には【絶倫★】というスキルがあってこれが時折暴走しようとする。
これを押さえつけるにはいささか魔力を使うのだがこれが大変だった。
抑止し続けた結果、俺はケレブレスとの間にも子を成してしまう。
「余はエルフだと言うのにこう何度も子を成せてしまうとは……それも、霊格を損なうことなく……本当にありがたいことだ」
「お役に立てて光栄ですわ」
俺を挟んでケレブレスとイヴェリアはそんな言葉のやり取りをする。
エルフの森には四半世紀近く滞在した。
ケレブレスが子を授かり、生まれてきた子が霊格の高いハイエルフで、その父親と協力者ということで多くのエルフに感謝される。
最初の頃は汚物を見る目で見られてたし、そんな扱いだったのに偉い違いである。
ケレブレスとは二男一女と三人も子を設け、俺とイヴェリアが森を出るころには女王の座を退位していた。
その次に訪れたのはイシルディル帝国の帝都レムミラス。
そこで皇帝のネイル・ベレス・メネリルの住まいに世話になることになった。
彼女の妹のルシエルはバハムルで俺の子を二人産んだ後にここに戻っており、その子らとも再会を果たしている。
なお、ルシエルから生まれた一男一女の二人の子は肌が白いのに特性そのものはダークエルフという一風変わった存在だった。
鑑定をしても〝ダークエルフ〟と出るのだから何がおかしいと疑問に思ったものだ。
その子らとイヴェリアは大変仲が良くて【精霊魔法★】を使って連絡をし合っていて父親であるはずの俺よりもずっと親らしく接していた。
二人の子はイヴェリアの弟子だと自負しているのもあるんだろう。
「ずいぶん久しいな……。忘れられたのかと思っていたが、訪ねてきてくれて嬉しく思う」
帝城に訪問したときに「しばらく滞在します」と伝えるとネイルは歓迎してくれた。
住まいは自分で購入すると言ったけどネイルは俺とイヴェリアを自身がメネリル邸宅に迎える。
俺が帝国に滞在している間にネイルとの間に何人かの子ができた。
ネイルだけじゃなく、彼女の母親のラリシルと、妹のルシエルにも子を作っている。
裏でイヴェリアが暗躍しているのは知っていたけれど、ネイルとは過去に約束を結んだのもあり──その時はどうせ俺は死んでるだろうと安請け合いしたのに、俺は生きている──その約束を果たす形となった。
ただ、ネイルの情愛に絆されそうになったこともあったけど、それを見知っていたイヴェリアは「この世界では男性のあるべき姿でもあるし、その役割を果たしているのだから誇るべき。男性として立派に振る舞っているのだから女性はあなたに身も心も捧げたくなるものよ」と俺をいつも言い包める。
それから、数十年後に魔族領に向かった。
「イヴっちは良いの?」
「ええ。私はシドルの傍に居るだけで精気を養えるから」
「勿体ない──でも、それってウチらと同じで食べる必要がないってこと?」
「そんなことはないわ。食べ物は食べてるし睡眠も摂るもの」
「まあ、ボクたちも必要ないけれど、こうまで上質な精気はないからさ」
ベッドの上での乱痴気にイヴェリアも傍らでその行為を眺める。
そんな爛れた生活を半世紀も送った。
イヴェリアの監視のもと、俺は彼女たちに何人もの子を成して、そのうちの一人が新たな魔王として君臨する。
俺の名前をあやかってシトリーと彼女たちは名付けた。
男になるのかと期待はしたけど、新たな魔王も女性。それも見た目は人間とほぼ変わらない淫魔の君主である。
「これで、私たちの約定は概ね達成されたわね」
イヴェリアのその言葉で俺はアグラートたちに別れを告げて一旦バハムルを目指した。
バハムルの発展は著しく数百年たっても立派なままの城にはメルトリクスの姓を持つ俺達の子孫が国王として君臨し、王城では代表者たちが執政を担っている。
城の東には背の高い建築物が立ち並びそれはあたかも大都会にも見えた。
市街は空き地のある東へ西へと伸び、迷宮は都市の中にひっそりと口を開けて冒険者たちを飲み込んでいる。
俺が住んでいた頃よりも快適だろうけれど、俺が住んでいたときも快適だった。
ここには電気も水道もあって魔法が使えなくても火を使って料理をして水を汲みに行かなくても水が出る。
ここまで発達した都市はこの王都バハムルとイシルディル帝国の帝都レムミラスだけだ。
それから俺とイヴェリアは大陸西部の国々を転々とし、カザド山脈の北端にある霊峰ミンドールに登る。
「この辺りはエルフの森と変わらないくらい魔素が濃いわ」
季節は夏。
それでも北方のこの地で標高が高くなれば気温は下がる。
低下する気温に反して魔素は濃さを増す。
俺には魔素を察知する能力がないし、魔素が薄かろうが濃かろうが魔法の行使に不自由しない。
だからそういうところに疎さがあった。
この頃からイヴェリアは俺に身を寄せ、そして、身体を再び重ね合った。
今思えばあれがイヴェリアの異変だったのだ。
あのときに気がつければ俺はまだ──。
山のエルフは森のエルフ以上に閉鎖的だった。
コミュニケーションを取れるまで随分とかかったけど俺のことを全く知らない彼らとの生活は悪くない。
イヴェリアが霊峰ミンドールの中腹の山のエルフの郷に持ち込んだ本の一つにバハムル王国建国記というものがあった。
数百年前に刊行されたこの本はこう始まっている。
『本書は私の贖罪である──』
ゆっくりと流れる時間の中で俺はイヴェリアと一緒にこの本を読んだ。
著者はハンナ・ホリーベル。
そこには俺と勇者の争いの記録が事細かに記されていた。
彼女は勇者と一緒に行動した時間が多いから視点はほぼ勇者のもの。
だけど、そこにハンナ自らが罪だと感じたものを強く意識した内容となっていた。
それがイヴェリアと一緒に俺と彼女の人生を振り返るきっかけとなって時間を忘れてその時の気持ちや想いを交換する。
山のエルフたちもとても良くしてくれて、ゆっくりと流れるこの場所を俺はとても気に入っていた。
でも、それは突然終わりを告げる。
朝、いつもと同じく俺が目を覚ますと俺の視界に微笑むイヴェリアが映る。
「おはよう。シドル」
「ああ、おはよう」
おはようの挨拶を交わして唇を重ねるとイヴェリアの頬から俺の頬に涙が伝った。
「これが最期のキスよ」
「最期?」
「ん。私の時間はもう終わるの──」
「終わるって何が?」
「人間には寿命があるのよ。シドル──私、幸せだった……」
わけがわからない。
俺が動転しているうちにイヴェリアの顔がみるみるうちにしわくちゃになり、そして、サラサラの白い灰になった。
イヴェリアの衣服を残し、俺の顔やあちこちにイヴェリアだったその灰が零れて流れ落ちる。
唯一、イヴェリアの涙の雫が俺の頬に残りそこに灰がこびりついた。
こうして時間の流れは俺から何もかもを奪う。
バハムルの森の迷宮に潜ったのは俺が最後に残ったからだ。
革の袋に入れたイヴェリアの遺灰を携えて俺は迷宮の奥へ奥へと進む。
五百階層以降は極端に魔物の強さが増し、それから階層を増すごとに難敵化していった。
そうして、ようやっと辿り着いた千階層に降りる階段。
俺は今、ここに居る。
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