猫人族

 猫人族。

 始めて見た。


 俺の誕生日を祝った翌日。

 新たに渡ってきた森のエルフたちの集団の中に三角に尖った猫耳がピョコピョコと揺れる毛むくじゃらの耳をした少女が混ざっていた。

 あまりにも愛くるしい猫耳の美少女に興奮を隠しきれなくて思わず【鑑定★】で覗き見。


────

 名前 :キキ・ソマリ

 性別 :女 年齢:12 種族:猫人族ワーキャット

 身長 :136cm 体重:39kg B:83 W:52 H:80

 職能 :窺見★

 Lv :4

 HP :120

 MP :460

 VIT:6

 STR:9

 DEX:31

 AGI:28

 INT:23

 MND:23

 スキル:魔法(土:2、風:2、水:2、闇:3)

     無属性魔法:3、詠唱省略:2

     雲隠れ★、認識改変★

     剣術:2、体術:2

 ︙

 ︙

────


 獣人──猫人族のキキ・ソマリ。

 凌辱のエターニアのスピンオフ作品──凌辱のエターニア 猫耳美少女とニャンニャン冒険記アドベンチャー──のヒロインである。

 ヒロインとして出てきたのはもっと年が上で十六歳とかだったと記憶してる。

 アルスがエターニア王国を引き継いでアルス王国と国名を改めた後、王都に迷い込んだキキ・ソマリを発見して匿い、イチャイチャラブラブな毎日を過ごす。

 ただそれだけのゲームだった。

 ケモミミに低身長、そして巨乳、丸くて小ぶりな可愛らしいお尻に生える細くて長い扇情的な尻尾。

 スタイル抜群がケモノ美少女は2Dアニメーションでの演出が凄かった。

 ニャンニャンと声を出して喜ぶ姿がとても愛らしく、エッチのおねだりが可愛くてそれなりに人気のあったキャラクターである。


『ご主人様、大好きニャン♡』


 というテキストと音声が多くのケモナーの心を撃った。

 ゲームでの彼女の仕草はまさにネコ。

 女の子の姿なのに、本当にネコっぽく甘えたり、威嚇したり、時には戯れたり。

 それは猫好きの高村佑の嗜好にも大きくヒットしたものだ。


 そんなわけで、ここは大仰に振る舞ったほうが良いかも知れないのに、ネコをかまいたくて仕方ない。

 前世の俺の記憶がそう言っている。

 猫人族にマタタビって効くのかな? などとやましいことまで考え始めていた。

 ここにフィーナとイヴェリアがいないのは幸いだ。

 ともあれ、世界樹の麓──エルフの森からやってきた彼らには挨拶をしなければならない。

 そう思っていたらエルフの男性と目が合った。


「お初にお目にかかります。森からやってまいりました。ケレブレス陛下よりこちらをお預かりしています。どうぞ、お納めください」

「ようこそ。お気遣いありがとうございます。今回は十二名と聞いていましたが……」


 先に挨拶を頂いた。手土産まで貰ってしまったが、岩塩や家畜の対価なので素直に受け取る。

 エルフが十二名。確かに揃っている。

 しかし、一人多いのは恐らくあの猫人族だ。

 キキ・ソマリと言う名の彼女。

 その彼女に対してエルフの代表に問うと彼が申し出る。


「旅程の途中に倒れていたところを保護いたしまして、行くところがないようでしたから私達のほうで保護しておりました」

「ん。彼女は森のダンジョンに挑むには些か心許ないから、迷宮への挑戦を許可できないのだが……」

「そう思いまして、もし、差支えがないようでしたら、バハムルの方でお預かりいただけないものかと思いまして、そのお願いをしようと考えておりました」

「そういうことであれば、彼女が良ければこちらで保護しよう」


 キキのレベルは低いため、バハムルの森に入ることを許可することはできないのは彼女の身の安全を優先してのことだ。

 もし、彼女もダンジョンに潜るということであれば、バハムルの兵士たちとパワーレベリングして一定のレベルに達してからでないと許可を出すことはできない。

 そういった説明をし終えると、エルフがキキを連れてきた。


「は……はじめましてニャ……。キキと言います。よろしくお願いします」


 キキはエルフの代表に促されて恐る恐る挨拶をする。


「俺はシドル・メルトリクス。一応、この国の王をしている。よろしく」


 俺がそう言うと、キキは一歩後退った。

 王と言う言葉に反応したのかな。そう思った。

 彼女の第一印象は背が小さいのにおっぱいが大きい。

 それとすごく細くて肩から腰、尻、太ももまでのラインがとてもしなやか。

 いかにもメス猫って感じだ。

 顔立ちは猫っぽいけどヒトっぽい。

 それと細くて長い尻尾。

 全体的な印象はロリ巨乳。だが、猫って感じだ。

 前世の俺のストライクゾーンからは少しかけ離れているので性的に見ることはないだろうが、猫を弄るみたいに楽しむ愛玩動物として楽しむくらいはしたくなる。

 そんな、下賤な欲は置いておいて、とにかく、エルフたちを案内しなければならない。


「では、本日から使用していただく屋敷を案内しよう」


 俺は十二人のエルフたちを連れて彼らが集う区画に用意した屋敷に案内した。

 それから悩んだ末にキキを粗末な領城に連れていくことにする。

 今なら家にはソフィさんしか居ないはず。

 ソフィさんは獣人を見たらどんな反応をするんだろう。

 俺は魔族領の魔族について学んでは居るけれど実際に目にしたのは今回が初めて。

 ソフィさんはどうなんだろうか。


「ただいま」


 と、玄関扉を開けて声をあげる。


「おかえりなさいませ。シドル様」


 ソフィさんの声が居間の方から聞こえる。

 続けて──


「今、手が離せなくてお迎えにいけません。申し訳ございません」


 と、玄関までソフィさんの声は居間の扉を越えてよく通る。

 さすが冒険者組合の受付嬢としてで鍛え上げられただけのことはある。


「キキ、狭いところだけど上がって」


 と、俺は伝えてキキを家に上げた。

 オドオドと家に入り俺の後ろをついてくる。


「ソフィさん。お客様を連れてきたよ」


 居間に入り、俺は台所のソフィさんに声をかけた。


「あ……」


 ソフィさんが目がまん丸。


「獣人……です?」


 たゆんと大きな胸が揺れた。


「はい。猫人族で、キキと言いますニャ……」


 どことなくビクビクとしているキキ。

 正面にはポカンとした顔のソフィさん。


「ニャ?」


 二の腕で手を組んで大きな乳房を持ち上げつつ手で顎を支えて首を傾げると、


「シドル様。今、ニャって言いましたよ? ニャって! ニャって可愛いらしいですね。でも……魔族なんですよね?」

「ソフィさん……。キキの語尾に関しては置いておいて。彼女は魔族というより獣人で俺たちとそう変わらないと思うよ」

「私たち人間と変わらない……ですか……」

「エルフやドワーフたちだって俺たち人間とそう変わらないけれど種族としての特徴はあるだろう? 俺はそれと同じだと思ってるよ」

「そうですか……。私たちは魔族を恐ろしいものだと教わっておりますから、この状況に戸惑ってます」


 ソフィさんにとって猫人族は魔族。

 俺が連れてきたという背景があるからこうして取り合ってくれているけれど、そうでなければこうして会話が成り立たないくらい狼狽えたのでは?

 そんな空気を感じたキキは申し訳無さそうに、


「ごめんニャさい……」


 と、頭を垂れる。


「ごめん〝ニャ〟さい?」


 キキが猫人族特有の喋り方なのか、言葉の節々に混ざる〝ニャ〟にいちいち反応を見せるソフィさん。

 とても好奇心をそそるのかキューッと尻尾が跳ね上がったみたいに頬が釣り上がる。

 小さくて可愛らしい愛玩動物っぽいから本当は構い倒してみたいのではないのか?

 ただ〝魔族〟という点が彼女に忌避させている。


「あニャ…ニャァ……。ニンゲンみたいに言えないニャ……。申し訳ありミャせん……」


 ソフィさんの反応を気にしたのかキキは小さい体を更に小さくして縮こまる。

 いじらしく小さくなるキキにソフィさんは動揺。


「あ、あの……。そんなつもりはなくって……その……。何だか調子が狂っちゃいますよ……」


 魔族は怖いもの。

 出会ったら殺される。

 エターニア王国での教育過程ではそう教わっていた。

 家で教師をつけてもらっていた貴族でも同じだろう。

 ソフィさんの場合は落ちこぼれの学校で教わっていたけれど、その点は同じ。

 目の前に居る魔族と言う分類に纏められる魔族領の村に住む猫人族のキキ。

 取って食われそうな怖い存在が可愛い。

 可愛らしいのだ。


「キキ。俺たちは猫人族や獣人を含む魔族を恐れるように教育を受けているんだ。だから、ソフィさんみたいな反応をされると思う」

「そうですか。ニャんか申し訳ニャいです」

「謝らなくて良いよ。ここに住んでる領民がどう反応するかは分からないけれど、少なくとも何人かはこういった対応になることがあるけど、そうならないようにするからさ。最初は苦労するかもしれないけれど、キキが家に帰るまでの間、ここに住んでみる気はないか?」


 俺はキキにそう言って、ソフィさんにも、


「大丈夫だよね?」


 と訊いた。


「それがシドル様のご意思なら私は従うのみです」


 ソフィさんの反応を見るに怖さと好奇心が半々と言ったところか。

 キキのほうは、まだ、黙っていた。


「今日のところはこの屋敷の空き部屋を使ってもらう……で、良い?」

「はい。かしこまりました。夕食の支度が終わり次第部屋の準備をしますね」

「うん。宜しく頼むよ」


 ソフィさんが台所仕事に戻り、俺はキキををソファーに座らせる。


「ちょっと、待ってて」


 前世の俺は猫が好きだった。

 猫と言えば猫じゃらし。

 俺は俺の私室に戻り着替えるついでに矢筒から一本の矢を抜き取る。

 矢じりと外して先を潰す。

 猫と猫人族に共通点ってあるのだろうか。

 そんなことを考えながら着替えを終えた俺は居間に戻った。


 結果から言おう。

 猫じゃらしの効果は抜群だった。


──サッ。

──サッ。


 と矢じりを落とした矢を逆に持って矢羽根を猫じゃらしに見立ててカサカサと動かす。

 最初は矢羽根を動かす度に目線が顔ごと矢羽根を向く。

 ふるふると奮わせてカサッと動かしたら、なんと、キキが飛びついてきた。

 それも、


「ニャッ!」


 と言って。

 それをソフィさんが見ていて、頬が思いっきり緩んでいた。

 遊ばれたキキは


「こッ……これは違うニャ……じゃニャくて、違うんですニャ……」


 と訳の分からない言い訳をする。


「ニャんでこうニャるニャ……ニャんでニャ……ニャんでニャァ……」


 それから、猫じゃらしで遊ばれるキキは矢羽根に飛びかかる自分に狼狽。

 どうも本人はこれが猫の習性だという理解がないらしい。

 そうやって俺がキキで遊んでいると、台所仕事を終えたソフィさんが近くにやってきた。


「あの、私も、それ、してみたいです」


 ソフィさんの好奇心が勝った瞬間だった。

 それから、遊び続けてる内にフィーナとイヴェリア、カレンが帰ってきた。


「あら、その子が噂の猫人族かしら?」


 キキを見て一番最初に声を発したのはイヴェリア。


「あ、ほんと、ちっさいね。子どもみたい」

「凄いですねー。こんなにしなやかに動けるんですね。これは面白そう」


 フィーナとカレンが続いた。

 あれ、怖がらないの?

 俺は不思議に思った。

 フィーナとカレンは分からないけれど、イヴェリアが魔族を見るのはこれが初めてだったんじゃないか。


「魔族って一枚岩じゃないんだよ。好戦的な種族がいたり、そうでなかったり、種族で性格が違うんだって。私はそう教わったよ」


 フィーナはそう言った。


「私はシドルが平気そうなら何も問題ないわね。そうでなくても今までエルフだったりドワーフだったり会ってるんだもの」

「私も同じですよ」


 イヴェリアとカレンは俺の反応で無害だと感じ取っているらしい。


「それにしても可愛らしいわね」

「ほーんと。子どもみたいだね」

「私はこの子、鍛えてみたいですねー。良い動作してますよ」


 ソフィさんがキキと戯れているのを見て、イヴェリアとフィーナが目を細めて眺めていた。

 ところが、カレンだけはキキを愛玩動物として見るのではなく、鍛え甲斐のある弟子候補として観察。

 時折、キキの気配が消失することがあるのは【雲隠れ★】の効果だろう。

 スキルの使い方が非効率だからなのかMPの消費が激しくて長く続かないらしい。

 何故か俺の【鑑定★】で【雲隠れ★】を発動しているキキを見ることが出来る。

 キキのこの【雲隠れ★】が凄いのはフィーナの【不撓不屈★】に察知されない点だろう。

 他者に作用しない気配を完全に消すスキルとは──まるで忍者。


 そうして俺は三人の女声とキキがソフィさんがに遊ばれている姿を楽しんだ。

 そして、ふいにイヴェリアが口を開く。


「ねえ、シドル」

「ん?」


 俺が返事をすると、イヴェリアは俺に顔を寄せてきて


「キキ様の首──」


 と、キキの首を注視させられた。

 首輪が嵌められている。


「闇属性の精霊の力を感じるわ」


 イヴェリアが指摘したので俺は【鑑定★】で首輪を確認。


 【奴隷の首輪】


 そういえばこれ。アルスの奴隷に堕ちた森のエルフのエルミアに着けられていたものだな。

 ということは、フィーナは見たことがあるんじゃないか?


「フィーナ、キキの首についている首輪。見たことある?」


 気になって訊いてみた。


「見たこと無いよ」

「そうか。あれ、奴隷の首輪なんだけど、アルスの配下のエルフが着けていたものと同じなんだけどさ」

「エターニア王家の先祖は奴隷とかそういうの嫌う人だったみたいで奴隷に由来するものは何一つなかったよ」

「ん。わかった。ありがとう」


 フィーナは知らなかった。

 というか、エルミアが奴隷にされた現場を見ていたわけではなかった。


「なら、私、訊いてみるわ。あの子、お風呂に入れたいですし」


 俺とフィーナの会話の区切りがつくとイヴェリアが言った。

 イヴェリアは鼻が良い。

 きっと、絶えられない何かがあったのかもしれないなと、俺にも思うところは少なからずあった。


 翌日。

 キキを領民に紹介したところ、差別的なことは何一つなかった。

 ただ、ドワーフの反応に違和感を覚える。

 それも、そうだろうと思ったのは昨夜のうちにキキの身の上話を聞いたからだ。

 この時、俺はイヴェリアに


「精霊魔法は遠方を監視をすることも出来るけれど、精霊により愛されているものならその妨害もできるわよ」


 と、教わった。


「地の精霊ならノームやノーミードに働きかければ簡単に妨害出来るんじゃないかしら」


 続けてイヴェリアから出た提案に乗り、俺は【召喚魔法】を使ってノームを喚び、レギンを始めとしたモリアからの監視に妨害をかけることにした。


「まあ、最も──。地の神獣を仕えばモリアを一瞬で地の底に沈められるでしょうけれど、そんなことをしたら魔族の王が出てくるでしょうね」


 と次の提案は恐ろしいものだったけど、魔族の王が出てくるって──。


「魔王と呼ばれているアレだよね?」

「ええ、そう。魔王は神にも等しい力を持つと言われてるわ。いくらシドルが強大になれたとしても魔王は同格かそれ以上の存在でしょうから、巻き込まれたらただでは済まないわね」


 魔王は天使とも悪魔とも言われているし、そうであれば神獣と同じだとかそれ以上に強力なのだろう。

 せっかくクリア後の世界に到達したんだし、俺は快適に生きたい。

 事なかれ主義で行こう。

 そう考えたのであった。


 で、今、キキを領民に紹介したところだったけど、特に問題はなく。

 俺が矢羽根で実演してみたところ、領民にはこれが大変好評で、キキはとても恥ずかしがっていた。


「猫の習性って猫人族も受け継いでるんだね」

「ウチにはわからニャい……。けど、ニャんでかニャ……。こんニャイジられ方ニャのに楽しいのが悔しいニャ……」


 屋敷に帰り、俺が思わず言った言葉にキキはそう返してきた。

 生まれてから猫を見ていないけど、キキは猫を知っているらしい。

 ということはこの世界には猫がいる。

 俺がキキを離すと、今度はソフィさんがキキで遊ぶ。

 ソフィさんは愛玩動物を愛でて楽しむタイプらしい。


「ニャニャニャニャニャァ!」


 ソフィさんは矢羽根でなく木の球を転がしてキキと戯れていた。

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