試験運転

 前作から六年という年を経て発売された凌辱のエターニアⅣはバハムル領の謀反がメインシナリオの中軸である。

 シドル・メルトリクス率いるバハムル領軍が思いの外強く、数の暴力で畳み掛ける王国軍に対し、レベルの高さで暴威を振るうバハムル領軍と言った争いが繰り広げられる。

 物語は勇者アルスがバハムルに打ち勝つためにレベリングをしながら要所要所の戦に参加し、基本的にバトルには勝ってもイベントとしては敗走という進行をする。


「なんだー。勝っても負けるのか……」


 バトルに勝って達成感に浸っているとイベントでは敗戦。

 気持ち的には萎える展開だった。

 いや、良いんだけどね。


 シリーズ最終作と凌辱のエターニアⅣはコマンド形式のバトルからスタイリッシュなアクション形式に変わったこと大きな変更点として上げられる。

 また、描画エンジンが刷新されたことからグラフィックが高精細化して、よりリアリティの高い美しい映像でのエッチシーンに興奮を覚えた。

 そして、この最終作はNPCのセリフにまでフルボイスとなり、前作のネイル皇帝みたいにラスボスなのにボイスなしみたいなことにはならなかったのは改善点として評価が高い。


 凌辱がテーマのこのゲーム。

 凌辱のメインはNPCやサブヒロインに対するものだ。

 ゲーム中、主人公はNPCを捕まえて徹底的にヤりまくる。

 ストーリー進行のために犯すこともあれば、全く関係ないNPCをプレイヤーが息抜きで犯すこともある。


 メインヒロインたちとの初めてのエッチシーンは常に強要か無理矢理。

 その後、主人公に寄り添うメインヒロインはメス堕ちして主人公に付き従う女たちなのだ。


 いざ、俺がメインとなるシナリオに深く関わり気が付かされた。

 ルーナが最初からアルスに寄り添っている。

 つまりそれはルーナがアルスにメス堕ちさせられたことを意味する。


 俺はアルスが女を手中に収めるための強制スキルを先回りして取得している。


 【房中術★】【魅了★】【催眠術★】


 一番最初に取った【房中術★】はヤった女を快楽堕ちさせられるスキル。

 精神支配とは異なるアプローチで使用者との行為に中毒性や依存心を持たせる作用がある。

 次に先回って取った【魅了★】は使用者に対して強制的に発情状態にさせる精神支配に含まれる強力なスキル。

 ネイルに一度、使ったことがあるけど、たしかに強力だったし、効いたおかげで従順になるという利点もあった。

 ゲームと違って解除できたのは恐らく元からそういう設定があったのだと推測できる。

 ゲーム中ではNPCに使ってもその後は元に戻ってたからね。

 最後に、凌辱のエターニアⅡのラスボスを倒した後に出現する宝箱からドロップした【スキル結晶石】を使用して覚えた【催眠術★】は被使用者の状態を意のままに制御することができる。

 王都から母さんと妹のジーナを拐った時に使ったけど、冬眠とか冷凍睡眠コールドスリープに似たスキルを探して使ってみたら【仮死状態】になってた。


「ねえ、フィーナ」


 夜。俺の部屋に入り浸る二人のうちの一人の名を呼ぶ。

 ベッドに横たわる俺の太ももを枕にして寝そべっているその人だ。


「なーに?」


 と、返事が返ってきたのでボソリと訊いた。


「アルスの【主人公補正★】の効果って詳しく分かる?」

「ああ、アレね……。分かるよ」


 フィーナの【不撓不屈★】は自身に使われたスキルや魔法などを分析し無効化する固有技能ユニークスキルだ。

 つまり俺の【鑑定★】はもうフィーナには効かない。


 アルスの【主人公補正★】には主に二つの効果があった。

 【主人公補正★】が紡ぐ物語の補正。

 【主人公補正★】の所持者に対する印象、評価の補正。

 効果範囲はメインストーリーの進行度、主人公アルスのレベルにより増減。


 しかもこれが精神MNDが高いとレジスト出来るという意味が俺には分からない。

 それをフィーナに伝えると、こう返された。


「多分だけど、思考の誘導だからじゃないかな?」


 思考の誘導が精神に働きかけるかららしいけれど、それだったら【魅了★】や【催眠術★】も精神で良くない?ってなるけどそういうことでもないみたいだ。


 それからルーナ。

 ゲームでは事を終えない限りああやってピッタリと寄り添ったりしない。

 つまりアルスはルーナとのそれを既に終えていたということ。

 どうしてシナリオにそういったズレが生じているのか。


 と、考えていると、このバハムル領の領村にある粗末な領城にはメインヒロインの一人、ソフィ・ロアが居ることを思い出した。

 これが既にシナリオのズレなのだ。

 凌辱のエターニアⅣでは最初からパーティーメンバーにいるソフィ・ロア。

 ゲームではステータスの低さに役立たずとされ隅に追いやられ不人気キャラと評された彼女だ。

 俺は彼女がいることでオートマッピングができて移動速度が早くなるからとても重宝させてもらった。

 それに好みだったからね。大変お世話になりました。

 で、ソフィさんが居ないからルーナに主人公アルスの手が伸びた。ということかもしれない。


「ありがとう。だいたい分かったよ」

「ん。じゃあ、今度は私に教えて?」


 俺の太ももを枕にするフィーナが上目遣いする。

 いや、可愛いんだけど。

 フィーナもイヴェリアも十六歳になって可愛さに磨きがかかってる。

 子どもっぽかったのがだいぶ大人びてきた。


「何を?」

「前にさー。私のこと【鑑定★】したよね?その時に何を見たのかを!【性癖】とかー【性感帯】とかー【その他】の内容とかー」


 フィーナのその言葉が聞こえたイヴェリアが反応する。

 彼女はフィーナが使ってない太ももを枕にして本を読んでいる。それもフィーナよりも俺の身体に近いところで時折鼻をスンスンとならしてうっとりするのが艶めかしい。


「シドルってそんなことまで見られるの?」

「ん。イヴ知らなかったの?」

「ええ。もちろん。知るわけないじゃない」

「へー、じゃさ、イヴもシドルに教えてもらったら?イヴの【性癖】とかー【性感帯】とかー【その他】の内容とかー」


 フィーナが煽るからイヴェリアが俺を押し倒すと覆い被さって顔を近づけてきた。


「ねえ、本当なの?シドル?私の【性癖】や【性感帯】、教えてくださる?見られるんでしょう?」


 フィーナもイヴに追随して俺の腕を枕にして顔を近付ける。


「ね、シドル。レジストしないから、私のステータスをもう一回見て教えてよ。私の【性癖】とかー【性感帯】とかー【その他】の内容とかー」


 フィーナのステータスの内容は良く覚えてる。

 何せいたるところに俺の名前が出てたから。

 イヴェリアはとても口で伝えられる内容じゃない。

 とはいえ、きっとそれは、ゲームの中で既にそうだったのかもしれない。

 だけど、今目の前にいる二人は生身の人間で血が通った感情のある女の子。

 それもシドルにとっては大切な幼馴染だ。

 おいそれと女性の汚点になるかもしれないことを口にするのはご遠慮したい。


「いや、言わないし見ないからッ!」

「あら、そう?良いの?本当に」


 イヴェリアは舌なめずりをして俺の顔に生温かい息を吹きかけると、俺の顔や首、それから際どいいろいろなところをさわさわと撫で始める。


「言わないとやめてあげないわ」

「ど、どこで覚えてくるんだよ。こういうこと!」

「ふふ。広場で奥様たちに「男性をその気にさせるにはどうしたら良いの?」って訊いたら、皆様とても協力的で様々なことをたくさん教えてくださったわ」


 乙女になんてことを教えてるんですか?バハムル村のご婦人方!

 俺は心の中でそう叫んだ。


 フィーナもイヴェリアに続いて俺をイジる。

 俺は二人の玩具と化していた。



 翌朝。

 バハムル王国樹立を目指して独立を勝ち取らなければならないと、村の広場で決起集会が開かれた。

 そして今後の方針が打ち出される。


 ゲームではヴェスタル辺境伯領を最初に陥落させる。

 主人公はその間、国王の命でダンジョンに潜りパーティーの強化を図る。

 アクションRPGになったことでチュートリアル的な意味で挑むダンジョンである。

 ちなみに凌辱のエターニアシリーズは最大で六人のメンバーで構成できたがⅣは三人パーティーである。

 これもアクションRPGに刷新した影響だ。

 そのため、多くのプレイヤーは近衛騎士のサラ・ファムタウとエルフ族で奴隷のエルミアを連れて歩くのが主流だった。


 バハムル王国樹立のための最初の戦いはやはりヴェスタル辺境伯領への侵攻だとフィーナは主張する。

 俺としては戦うにはまだ早いと思ったのだが、王国軍がバハムルへ向かって進軍していると聞いてバハムルから打って出たほうが良いかもしれないと考えを改めた。


「私はバハムルに残って教育と訓練を続けるわ。それとこの領地の統治のお手伝いもするわね」


 イヴェリアは戦うつもりがないらしい。

 俺もできれば争いごとは避けたいものだ。


「良いわ。イヴとソフィ様はバハムルのことをお願いするわ」

「ええ。おまかせを」

「はい。畏まりました」


 フィーナが指示をするとイヴェリアとソフィが返事を返す。


「バハムルは人口が千三百人で、今回、バハムル軍に参加してくださる方は五百名……ヴェスタル領軍は総勢八千……」


 フィーナは難しい顔をするが、


「それだけ居れば大丈夫だよ。遠征軍は二百で行こう。俺が魔法で戦闘に参加できなくしていけば良いんだよね?」


 俺は少人数での出兵で良いと考えてそう伝えた。


「あ、ん。そうね。それが簡単にできたら良いけれど……」

「大丈夫。そこは俺に任せて。こう見えても昔は稀代の天才と呼ばれてたからね」

「フフ、今は無能で最弱って呼ばれてるのに」


 俺が参加することが分かると領民が一気に湧き上がった。

 バハムル領の領民は俺の強さを知っているからね。


「あ、私とカレンも行くから、置いて行かないでよ」


 少数での出兵が確定してフィーナとカレンの参加も決まった。



 バハムルから出た俺たちの最初の戦闘は関所越えである。

 総勢二百名の歩兵のみ。

 言葉にすると瞬殺されるに違いないと思われて仕方がない。

 だが、この歩兵の最低レベルが70で最大が82。

 遅れを取ることはないはずだ。


 関所を守っていたヴェスタル領兵は総勢20。

 俺が関所に着く頃には既に決着が着いていた。


「このまま行こう」


 行けるところまで進み野営を張る。

 【気配察知★】で周囲の様子を探ったところ恐らく大丈夫だろうということでカレンの料理を食べてこの日は休んだ。


(やっぱソフィさんを連れてくるべきだったな)


 ゲームみたいにソフィさんがいるからマップを開いた時に全て分かるということはないけれど、それでもソフィさんのスキルは有用だからね。


 それから数日。

 いくつかの村を制圧しながら領都ウェスタルナへと到着。

 外壁前に五千のヴェスタル領兵が陣取っている。


 対するバハムル軍は百八十の歩兵。

 出発したときは二百居たバハムル軍だが、いくつかの村を制圧したことで、村の管理と物資の調達に人員を割く結果となった。

 どこの村も食糧が不足して村人は餓え、塩がないから健康状態が非常に悪かったので、持ってきた食糧と塩を村に置いて各戸に配給といった感じで軍を進行。


 残った兵の人数ではとてもじゃないけど勝負にならない。

 とは言えここで勝って帰らないと食糧がないのである。


 ゲームでは戦闘の描写はない。

 ちょうど最初のダンジョンをクリアした時に『一方その頃……』という感じでカットシーンが流れウェスタルナの領城で領主ともども捉えて降伏を促す映像が流れる。

 ヴェスタル領には援軍は間に合わないはず。

 ということで俺は単騎で乗り込むことにした。


「魔法でぶっ飛ばせば一発だよね」

「そうね。シドルならあの規模を直ぐに無力化できそう」

「でも、シドル様を一人で行かせるわけないですよー」


 フィーナは賛同してくれたけど、カレンは一人で行かせるという選択肢がないらしい。


「なら、指揮をリグに譲って三人で行こうか。そして領城を奪お」


 リグはバハムル村から連れてきた領民で、レベル82の拳闘士。

 親方気質で面倒見が良いことからフィーナが兵長に推した人物だ。

 フィーナはバハムル軍の指揮を兵長に委ねて指示を細かく伝えると、俺とフィーナとカレンの三人で軍を離れウェスタルナへと突撃した。


 この戦闘で俺は試したいことがいくつかあった。

 一つは戦闘のフィーリング。

 これまではターン制のバトルっぽい感じで相手が順番に攻撃して自分の攻撃が合間に入る感覚だった。

 俺の職能が【なし】から【オールラウンダー★】に変わったことがⅢまでの戦闘とⅣでの戦闘に違いを生じさせる可能性があったから、もしかしたら、アクションRPG風のバトルになるんじゃないかと考えた。

 それと力の調整だ。やり過ぎれば相手を一瞬で消し去ってしまうほどの能力を今の俺は持っている。

 できる限り人の命は奪いたくない。

 後ろの二人はどうなんだろうか。

 俺は先陣を切って駆けながら考えた。


 五千の陣に俺は突っ込んでいく。

 俺からは攻撃をしない。

 最初に試したのはダッジと言うアクション。

 向こうから攻撃をしてきたら避けるだけの回避技だ。

 ゲームで体験したものと似た感覚だった。

 数千時間と遊んだゲームだけに感覚として染み付いている。

 次はパリィを試した。

 剣を手に取り相手の攻撃を剣で受け流す。

 すると相手が怯むので、そのタイミングで俺は蹴りを入れた。

 これもゲームと良く似ていて、タイミングもそのままピタリと一致する奇妙な感覚に陥る。

 それから剣を収め、ダッジからのカウンター。

 俺にはカレンやイヴェリアみたいにカウンタースキルを持っていない。

 だから、アクション操作でカウンターっぽいことをするしかないと考えていた。

 ダッジからカウンター、そして、コンボへと繋げる。

 伸びた相手には追撃をしない。


(これならイケるな……)


 最後にライズアタックと呼ばれる打ち上げ技からの空中コンボを試す。

 これも成功。

 タイミングは完璧に一致した。

 どうやらボタンを押すタイミングで身体を動かうイメージを働かせると自分の思った挙動で動作する。

 これもゲームで何万何十万と操作を繰り返して見てきたから覚えていたことだ。


(けれど、めちゃくちゃ手加減した素手でこの強さ。武器を使ったら殺してしまうな)


 凌辱のエターニアⅣのシドル・メルトリクスは多芸多才という勇名が広まっているという設定だった。

 デブで遅くて耐久性が皆無だけど凌辱のエターニアシリーズに出てきた武技や魔法の全てを扱う完全なオールラウンダー。

 凌辱のエターニアⅠでしか出なかった技まで使うので古参のファンからの評価が地味に高いキャラクターでもあった。

 ただ、ラストバトルで全ての技と魔法を披露してくれるわけだけど何せ耐久性が皆無。

 ちょっとの攻撃で倒されるラスボスだったので、技を見るには攻撃をせずに避けて見るしかなかった。

 中には回避不能の大ダメージを喰らうのもあって相当キツかったけどね。


 そうしてシドルの試験運転を行い、五千のヴェスタル領軍はいつの間にか壊滅状態。

 フィーナとカレンは死屍累々を築いていたし、俺の回りには伸されて気絶している兵士でいっぱいだった。


「ねえ、シドルはどうして殺してないの?」

「この人たちは職業軍人で中には忠誠よりも稼ぐために戦ってる人もいるからさ。そういう人なら占領後にバハムル兵として働いてもらえるんじゃないかって期待してるんだよ」

「へー、そう。なら、私もそうするわ。たしかにバハムルは兵が少ないからこっちに従ってもらえるならそれに越したことはないものね。反抗するなら処刑すれば良いんだし」


 フィーナが俺に訊いてきたので俺は答えたのだが、この時、俺は違和感を少し感じた。

 シドルの価値観と前世の俺、高村たかむらたすくとしての価値観が一致する。

 今までこういうことは何度もあったし、そうじゃないこともあった。

 例えばネイル皇帝と過ごした時はシドルとしての俺も佑としての俺も同じものを抱いたけど、ケレブレスの時はズレを感じてる。

 数年前のフィーナやイヴェリアに抱いた感情や懸想もそう。

 佑は女性らしい体型───胸と尻がが大きいなどの───を好むがシドルはそうではない。

 だから、殺すことが当たり前の状況でこうした不思議な感覚の一致に違和感を感じた。

 それがもしかしたらシドル・メルトリクスの性格なのかもしれない。


 そうして考え込んでいたらフィーナがカレンにも同じことを言い出した。


「もしかしたらバハムルの兵になってくれるかもしれないから、なるべく殺すのは止しておこう」

「はい!わかりました!って、たしかにそうですね。兵として抱えられたほうが絶対に良いですもんね」


 カレンの同意も得られたということで俺はカレンを呼び──


「捕虜にするから武装を剥いで欲しいんだ。リグのところに行って伝えてくれ。俺とフィーナはこのまま領城に突撃する」


 と、伝えた。


「えー……わかりました。シドル様、どうかご安全に」

「頼んだよ。くれぐれも警戒を怠らないようにね」

「はい!わかりました」


 後始末をカレンに任せる。

 だが、その前に息のある者に回復魔法をかけおこう。

 それから俺は、フィーナと二人で領城に攻め入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る