王国の攻防
アルスが目覚めたのは小さな船上。
【リミットブレーク】は魔力と生命力を力に変えて発動する。
そのため、発動直後は意識が薄れ、魔力が回復し始めるまでは目が覚めない。
「ああ、ここは……」
目が覚めたアルスにハンナは答える。
「今、王国に向かう船。私たちは皇帝を倒したけど、王国軍が帝都での作業中に帝国兵に襲われて応戦していたの」
「それで急いで私がローザとエリザを、エルミアがアルス様を抱えて船まで辿り着いたの」
王国軍は帝都に侵入してから店や家に入り込んで略奪を繰り広げていた。
帝国軍はネイル皇帝の指示で帝都北部の物陰に潜んで王国軍を撃退して略奪された物品を奪還。
ハンナに続いてサラがそれらについて答えるとアルスは身体を起こしてサラを引き寄せた。
「王国の兵はどうなった?」
アルスが訊くと、サラは首を横に振る。
「そうか……」
帝都に乗り込んだ兵士は全滅。
ここにいるものだけが生き残った。
アルスは滾るモノをサラに押し付けてそれの解消を始める。
それからしばらく──。
サラを使い終わったアルスはエルミアにアルスのものの後始末をさせていた。
(それにしても、この変わり様は……)
ローザ・バルドーとエリザ・ギルマリー。
艷やかで色濃い髪の持ち主だったが、色が削がれて真っ白に染まり、顔は老婆と見紛うほどにしわくちゃ。
鍛え抜かれていた身体は筋肉が萎んで皮膚が弛み、とても若い女性には見えなかった。
(これじゃあ、もう使えねーわ)
「サラ。頼みがある」
「何でしょう」
「ローザとエリザはもう使えない。起きる前に海にでも捨てておけ」
アルスは行為の後で脱力してダルそうなサラに彼女たちの処分を命令。
何の疑いも持たずにローザとエリザを海に投げ捨てた。
海に捨てられた二人は、息苦しさで目を開けて藻掻き──
「アルス様!」
「助けて!」
と必死に叫ぶが老体同然のその姿では抵抗虚しく海に沈んでいく。
アルスはバタバタと溺れる二人が海の底に消えていくのを見守った。
「これで食糧も足りるだろう」
船上に残ったのは四人。
勇者アルス、聖女ハンナ、王国の近衛騎士のサラ・ファムタウ、アルスの奴隷のエルミア。
ハンナはその様子を見て、
(ああならないように気を付けなきゃね)
と、【リミットブレーク】の発動で生命力を根こそぎ持っていかれたローザとエリザが躊躇なく捨てられる様子を見て警戒心を強めた。
ハンナは一度【リミットブレーク】でMPをごっそりと持っていかれたことがある。
あの後は目覚めてもしばらく倦怠感が抜けずに随分と苦労した。
けれど、その時はここまではなからなかった。
それに【リミットブレーク】の威力は
轟音と共に玉座を消し炭にして壁に大穴を開けた。
競技場の観客席を削ったときよりもずっと大きい大穴を開けたのだ。
威力の違いはレベルやステータスに依存するものではなく、ストーリー、つまり【主人公補正★】により凌辱のエターニアⅠの【リミットブレーク】と凌辱のエターニアⅢの【リミットブレーク】の違いだった。
アルスたちは数日かけて王国に上陸し王都への帰還と皇帝の殺害したことと帝都へ攻め込んだ兵士たちが返り討ちにあって全滅したことを報告。
「我が国の犠牲には心が痛む。だが良くぞ皇帝を倒した。これでこちらが優勢に立てるであろう。裏付けが取れたら報奨を与える。アルス・ウミベリは下がって休め。ファウスラー領の帝国軍は我が国の英雄が出るまでもない」
エターニア王国のジモン・エターニアはアルスたちを労って休息を与えた。
イシルディル帝国の帝都レムミラスに潜入して皇帝を倒したが王国領土内での攻防は未だ続いている。
実際はネイル皇帝は生きていて、皇帝が決定したとおりに帝国軍はファウスラー領内への侵攻を再開。
この帝国軍の侵攻でファウスラー公爵家の嫡男ロッド・ファウスラーが討ち死にするとファウスラー領軍はズルズルと後退。
ファウスラー領は三分の二の領地を帝国に奪われて失った。
その戦があまりにも唐突な突撃に見えたファウスラー領軍や援軍として来ていた王国兵が、帝国軍は皇帝の弔いのために戦線を進めたと話を広め、それを耳にしたジモンはイシルディル帝国の皇帝をアルスが倒したのだと確信する。
それから間もなく停戦の調停を提案する内容の書簡が王国に届く。
差出人が皇帝の名ではなく名代だったことも皇帝殺害の根拠となった。
ジモンは補佐としてドルム・メルトリクスを伴い、停戦の調停に赴く。
ジモンとドルムは帝国の和解提案を受け入れた。
ファウスラー領の返還。
帝国が弔い戦で勝ち取った領地を無償で返還すると言ってきたのだ。
これであれば王国の勝利と言える。
そう確信したジモンとドルムは勝ち誇って調停の場から去った。
王国は結果として、サウドール辺境伯領、ウミベリ男爵領、そしてプロティア侯爵領の三分の一を帝国に奪われてこの戦争を終えた。
アルスの【主人公補正★】の影響下にない者たちはこの戦を敗戦として捉えている。
ファウスラー公爵家の当主ドラン・ファウスラーがその一人。
気は優しいが豪胆な性格の持ち主の彼は息子のロッドを失い途方に暮れていた。
跡取りを失った苦痛は思いの外大きく、最早支えにならない名前だけの妻とアルスに懸想する娘との対立が強まり、家内では完全に孤立していた。
ジモンの公務が落ち着いた頃。
アルスには国王からの褒美として王都の屋敷が下賜された。
領地を失い住まいを失くしたことに対する温情でもある。
誰にも邪魔されない我が家を手に入れたアルスは昼夜を問わず女を連れ込んで恥辱の限りを尽くす。
そこにファウスラー公爵家の夫人、サレア・ファウスラーが入り浸った。
「なあ、サレア。俺、ルーナとヤりたいんだが、連れて来れない?」
ゲームでは凌辱のエターニアⅢのエターナルモードというエッチだけのためのフリーモード。
サレアはこのエターナルモードに登場していたが、ゲームではルーナ・ファウスラーの登場はなかった。
だが、そのほころびがここに生じ始めている。
理由は、ソフィ・ロアが居ない。
その補填にルーナが充てがわれる格好となったのだ。
「わかりました。連れてまいりましょう」
「頼んだ。ヤるってことは伏せておいてくれ。言ったらきっと来ないからな」
「ええ。承知ですわ」
行為の後で上気しているサレアはカーテシーを披露してアルスの屋敷から出て行った。
ルーナは直ぐにやってくる。
サレアの隣でルーナは手を組んでいた。
「良く来たね。ルーナ。こっちに来てくれないか?」
「アルス、わかったわ」
ルーナはアルスの隣に腰を下ろす。
「俺、もうルーナのこと我慢できない」
アルスはルーナを押し倒した。
だが、ルーナは何も言わず、コクリと頷いてアルスに従う。
いつもなら断っていたのに、今は断らない。
(断れない!?)
ルーナはサレアに連れて来られた。
目の前にはアルスが居て、少し離れたところに実母のサレア、アルスの奴隷のエルミアが控えている。
『やめて! 私、こんなことしたくないッ!』
そう言いたいのに、言おうとすると、別の意思が強く働いて思ってもいない言葉が口から出てしまう。
「ん。良いわ。私もアルスに抱かれたい」
今、この時点では受け入れたくない。なのに首を縦に動かして頷き、アルスを受け入れる。
(なんでこんなことに!?いやっ!いやあっ!)
抵抗したい。
なのに身体は言うことをきかない。
自分の意思で身体を動かせない。
ルーナ・ファウスラーは絶望した。
私に未来はもうないのだと。
それから何時間にも及ぶ事が終わるとルーナは涙を流して全裸で寝そべっていた。
隣では行為に励む母の姿。
ルーナはもう諦めた。
私の心はもうここにはないのだと。
ルーナはアルスの【主人公補正★】による支配に全てを委ねた。
◆
ドラン・ファウスラーは娘のルーナと妻のサレアがアルスの屋敷に行ったことを確認すると領兵をファウスラー領に引き上げさせた。
使用人は領都ファウスルフォートに異動するか王都に留まって就職先を探すかの二択を選ばせ、王都に残るものには再就職先を斡旋する。
アルスに仕えたいというものも多数いたが、そう言った者は準備金を渡して屋敷から出て行かせた。
そうして準備を行い、今日を迎える。
サレアの実家──サウドール辺境伯家は帝国に滅ぼされた。
辺境伯の娘と言う肩書に戻るだろうが、その辺境伯家は滅び、身元を引き受ける先がない。
そのため、今、入り浸っているアルス・ウミベリの預かるところに落ち着くはず。
そう考えてサレアへの離縁状を作成し、ルーナについてもアルスの家に行った時点でサレアの不義に協力したとして絶縁状を提出。
王家にはその二つを報せる書簡を送りつけてから王都の邸宅を引き払って王都を出た。
「もうこの国に仕えることもあるまい」
その昔は王家の血を取り込んだこともあった。
少し前なら恩義があって王家に反する行動を取ることを考えもしなかったが、今の王家はメルトリクス公爵家と組んでアルスに傾倒し、妻や娘を奪い、息子のロッドを始めとした戦死者への慶弔の一つもしない。
これまで仕えてきたというのに、これまでの忠誠を裏切られた。
これまでの恩義もあるから離脱だけに留めることにしたドランは領地に戻り、王国へと至るあらゆる関所を閉ざす。
この日を境にファウスラー領は自治領として独立。
エターニア王国にとってこれが大きな契機となった。
◆
王国の攻防はこうして幕を閉じた。
エターニア王国の王都エテルナではファウスラー領の離脱が大きなニュースとなっていた。
帝国から領地を奪い返したというのに、ファウスラー家の忠誠を失い、離脱を許してしまったのだ。
これでは周辺各国から笑いものになってしまう。
王は速やかに挙兵してファウスラー領に攻め込むがあっという間に追い返されて騒動は鎮圧。
エターニア王国軍は帝都への潜入作戦で多くの精鋭部隊を失い兵力が落ちていた。
特に手練れの兵が多かったサウドールの壊滅、そして、ファウスラー家の離反。
この二つは王国軍の軍事力を大きく削ぐ結果となった。
そして王家にもう一つの痛手。
「ログロレス子爵から陛下に、暗部としての活動を無期限で停止すると連絡がございました」
謁見の間でジモンは報告を聞く。
「訳が分からぬ。ログロレス子爵を呼び出せ」
ジモンは報告に来た文官に命令を下すと
「申し訳ございません。ログロレス子爵は王都からも撤退し、領地に戻っております」
「何だとッ! あやつもファウスラーと一緒か! 許せんッ! ノルティアはどうしておる?」
「ノルティア辺境伯も同様、ログロレス子爵の王都撤収に併せて王都の邸宅を引き払い、既に帰領しております」
「ぐぬぬぅっ……。何故だッ!」
「何故と申されましても私では存じかねます」
文官に当たり散らしても仕方がない。
だが、王家が優秀な暗部を失ったことは非常に重い意味を持つ。
そしてトドメに数日後。
次女のフィーナが一人で王城に戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「迷宮巡りはどうであった」
「非常に有意義でございました」
「であるか。では、勇者アルスとの結婚について話を進めるぞ」
ジモンはフィーナにアルスを婿に迎えてもらいたいと常々考えていた。
だが、相手は男爵であるからフィーナが拒否をすればそれまでではあるが今回は半ば強制に近い物言い。
「お父様、申し訳ございませんが、私はあのようなものと婚姻を結ぶつもりはありません。それに今は、王族の一人として強くなりたいと考えています」
「そうか。王族としてのその心意気は評価に値するが、このような事態だからお前がアルスと結婚して民の支持を得るべきだ」
「何度も言いますが、お断りいたします。私は再び、カレンと迷宮巡りに参ろうと思います。本日はその報告です。では失礼します」
フィーナはそう言ってカーテシーをするとジモンの返答を効かずにジモンの前から去った。
いつもなら、何ヶ月後には戻ります。などと言っていたものが今回はいつ戻るとも言っていない。
当のフィーナはその日、実父であるジモンを見限った。
『勇者アルスとの結婚について話を進めるぞ』
この言葉を投げかけられた瞬間。
こんな浅慮を口にする者ではない。とフィーナは買い被っていた。
なのに、アルスの影響とはいえ他国に示しがつかない平民上がりで満足な実績をなさないものを王女の婿に迎える。
もし、嫁に出すということならフィーナに何らかの呵責があったと見做されるだろう。
婿に迎えるというのなら国も貴族も落ちぶれたと思われても仕方ない。
王族は精神が高いというのに、とフィーナは父親の変貌に落胆。
(もう、以前のお父様には戻らないのね)
とはいえ、こうなることを想定していたフィーナはこれまでの準備を怠っていない。
王家の動向を見守り、貴族の王家への信頼度を見計らってきた。
(私はシドルを王にする)
フィーナの攻防はここから始まる。
◆
フィーナがジモンを訪ねた翌日。
公務を行うジモンに近衛兵のサラ・ファムタウがやってきた。
「大変です! 陛下!」
「何事だ!」
ノックもせずに乱暴にドアを開けて執務室に入室してきたサラにジモンは怒鳴る。
「も、申し訳ございません」
サラは頭を下げる。
「良い。で、何があった。申せ」
ジモンが仰々しく訪ねなおすとサラは「はっ」と応じて要件を伝えた。
「マリー王妃殿下、リアナ王女殿下が後宮から出ていかれました」
「何だとォッ!?」
「こっ……こちらをッ!?」
サラはジモンの大声にビクッと慄いたが、勇気を出して後宮の一室で見つけた手紙をジモンに差し出した。
「くそっ!」
離縁状だった。
シモンは男子で現在も王太子という立場だから置いていき、マリーはリアナを連れて王家を去った。
「捜索隊を編成しろ!早急にマリーとリアナを探し出せッ!」
大声で暴れるジモンにサラは辟易したが国王の命令を無碍にすることはできず、近衛騎士から捜索隊を編成するために上長に上申する。
この日のマリー王妃の離縁を皮切りにミレニトルム公爵家、および、マリー王妃とイヴェリアの実母のイアリの故郷であるイステル辺境伯の離反も判明した。
そして、物語の舞台は凌辱のエターニアⅣ─アルス王国建国記─へと進行する。
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