ウミベリ村にて
プロティア侯爵領で母さんのシーナと妹のジーナをソフィさんとイヴェリアに引き渡して数日。
俺はプロティア領からファウスラー公爵領へと入りウミベリ村を目指していた。
ファウスラー領内の南部は放棄された砦があったり、まだ占領下にないというのに村に帝国兵が入り込んで、村に残された女子供が帝国から物資の支援を受けていたりと不思議な光景を良く見かける。
一方でファウスラー領の領都近くでは王国軍が駐留しており、領都の南に広がる平原に本陣を設置していた。
王国軍は王都からの増兵を待っていて、それが到着次第領地奪還に向かうつもりだ。
ファウスラー公爵領と旧ウミベリ男爵領は北のグランデラック湖から流出するいくつもの河川のうちの一つのそれほど大きくない川で隔てられている。
帝国はその河川一帯を戦線として塀や柵を並べ、ウミベリ村には本格的な砦の建造作業が急ピッチで進められていた。
ウミベリ村は人口こそ少ないものの領地はそこそこの広さを誇る。
主な産業は漁業。
漁獲量はそれなりだというのに裕福ではない生活をしている家が多い。
というのは前世でのゲームの知識。
見る限り村人は生き残っていないだろう。
ゲームでもウミベリ村の村人は一人として残さず殺されたとテキストで説明されていたんだよな。
凌辱のエターニアⅢのスタートはウミベリ村で一番立派な建物である村長の家の一室。
そこを執務室として使用しているが実質ヤリ部屋。
帝国軍がサウドール領の占領直後にウミベリ村を急襲。
ゲームでは、主人公が執務室でファウスラー公爵夫人のサレア・ファウスラーと二人きりという場面から開始。
敗走イベントはプレイヤーがサレアに話しかけてエッチシーンが始まり、その後、今まさに絶頂というところで帝国軍が領村に侵攻。
反抗する村人を次々と殺害すると村長の屋敷に侵入する間際に裸同然と言う姿で王都に逃げた。
村を出るカットシーンでは全裸だったのに、王都に逃げ入った時のカットシーンでは平民と同じ服装だった記憶がある。
凌辱のエターニアⅡではメインヒロインだったサレア・ファウスラーの登場シーンはⅢではここだけで、ⅣではNPCとして登場し、いつでも行為に及ぶことができた。
川を跨ぐ橋はどこも帝国兵の警戒が厳しい。
そこで、最も大きい橋を渡ってアーロイを訪ねることにした。
大きいと言っても四頭立ての大きな馬車が通れる程度。その橋を渡り切ると帝国兵に囲まれる。
この守衛は全員が槍を持っていて、俺に向けて構えられた。
「貴様、どこのものだ。名を名乗れ」
兵士の一人の野太い声
「シドル・メルトリクスです。アーロイ准将を訪ねてまいりました」
伍長らしきおじさん兵士が
「アーロイ准将に報告」
と言うと配下の兵士が「はっ」と応答して村内に走った。
「すまんが、准将を尋ねる客人とは言えおいそれと王国貴族を通すわけにはいかない。しばらく待ってもらおう」
「わかりました。お待ちしましょう」
待つと宣言をしても警戒は当然解かれない。
俺に向けられた槍が収められることはなかった。
それからしばらく──。
帝国兵たちの後ろから仰々しい男が現れる。
「アーロイ・ギーブスだ。話は聞いている。参れ」
俺に槍が向けられていることは変わらないが、その槍の持ち主は橋の守衛から准将の護衛に替わった。
おっさん顔のアーロイ准将の後ろを俺は歩いて村の奥へと通される。
向かった先は村に元々あった村長の屋敷。
ゲームで見た建物そのままだった。
(すげえ、再現度)
とは、思ったものの、アーロイから出た言葉はあまり良いものではなかった。
「ここは領主が仕事で使っていたらしいんだが、屋内外に腐乱した女性の死体が何体もあって、ここまで浚うのに苦労したんだ」
ここに踏み入ったときには既に村の何人もの娘たちが死んでいたらしい。
どういうことなんだろうと思いながらアーロイの後ろについていく。
「入るが良い」
執務室は綺麗に片付けられていたが室内には多少の生臭さが鼻腔を刺激する。
「座れ」
アーロイの指示に従ってソファーに腰を下ろすと「もう下がって良いぞ」と俺に槍を向けていた兵士たちが執務室を出て行った。
それからアーロイは机から手紙を一つ手に取って俺の真向かいに座り手紙をテーブルに置いて差し出した。
「ネイル皇帝陛下からの書簡が今朝、届いたんだ」
ネイル・ベレス・メネリル。
凌辱のエターニアⅢのラスボスだ。
重厚な漆黒の鎧に包んだ如何にも剛健な外見で見た目の良さもシリーズ随一とまで言われていた。
シリーズ最強のボスと言われており、強くし過ぎたせいでエロゲーだと言うのにクリア出来ないプレイヤーが続出。
後に修正パッチとして、一定のターン数を消化すると残りHPに関わらず主人公のリミットブレイクが発動して勝利を確定すると言う
そのネイルから直々に指名のある手紙だから気になったんだろう。
だからこうして俺を執務室に招いて、ネイルの手紙を見せた。
そのアーロイは発言を続ける。
「突然の手紙で帝都に送れと命令があったから、どんな人間かと思ったら、まだ、子どもじゃないか」
まあ、アーロイの言う通りで俺はまだ十四歳の少年でしかないしな。
他国の、それも敵国の少年を帝都に招くんだから
「とはいえ、陛下直々に命を下されたので貴殿を帝都へ送らなければならない。今日は客間を用意するので我らが歓待しよう」
「ありがとうございます。では本日はお世話になります」
久し振りにベッドで寝られるらしい。
のだが、村の広場で開かれた歓待に引っ張り出されて帝国の料理を振る舞われた。
酒とかその辺はきちんとしていて無理矢理飲み食いさせられたりすることもなく和やかだったんだが
「シドル殿の装備を拝見しましたが随分なお手前かと存じます。是非、お手合わせ願えますか?」
帝国兵の一人が大声で俺に模擬戦を申し込んできた。
彼は騎戦将という名で出てくる中ボスだ。
ゲーム中で出てきて見覚えがあった。
ファウスラー領の領都の攻防戦で戦った。
その時の主人公のレベルではかなりキツい相手の一人……というか、凌辱のエターニアⅢはどのボス戦もギリギリの戦いを強いられることが多い。
彼は騎兵で馬上からの攻守に優れている。
地上戦では未知数だったが、断ることはできないだろうと考えた末に模擬戦に応じることにした。
「わかりました。お手合わせいたしましょう」
ということで手渡されたのは木剣と木盾。
相手も同じ装備で模擬戦を開始する。
数合は様子を見ようと考えて俺が先手を切って、スピードを緩めて剣を振ると彼が盾で剣を受けた。
なかなか動きが早いな。
でも、俺の敵ではない。
レベルが違いすぎるからね。
それから彼が剣を振るってくるので盾で受けず全て身を翻して避けきった。
ムキになってブンブン音を立てて大ぶりで振ってくるが悪手である。
「あまり、得意じゃないですよね?剣と盾を使った戦い方?」
彼が振った剣を剣で受け流してから俺は首に剣を添えた。
「参りました……。正直、少年だと思って舐めてましたが、まさかこれほどとは……」
勝負は終わったので俺は剣を引っ込めて帝国兵に木剣と木盾を返却。
何故か一目置かれたのか、俺はそれから数度の手合わせをしたり、談笑で夜が更ける。
帝国軍は王国軍と違って女性が皆無。
男たちの罵声に混じって騒いだのは今生では初めてだ。
たまにはこういった時間の使い方も悪くないと俺は思った。
そして翌日──。
久し振りのベッドで眠り目覚めはスッキリだし、旅の疲れもだいぶ楽になった朝。
装備品を身に着けて身だしなみを整えてから客間を出ると帝国兵が俺を待っていた。
「シドル様。出港の準備が整いました。こちらへおいでください」
帝国兵の先導で恐らく古い船着き場に向かうのだろう。
屋敷を出ると浜辺のほうに向かった。
道すがら、村人らしき人の姿がちらほらと目に映る。
「あれは村人ですか?」
気になって訊いた。
「そうです。逃げ送れた村人を私たちで保護しました」
「そうなんですね。てっきりころし……」
「帝国では無碍に殺傷をすることを美徳とはしていません。ですので敵国の民だからと殺したりはしませんよ。ですが……」
帝国兵は足を止めると、村人の一人が泣いていた。
「娘は……娘がアルス様に連れて行かれているのですが戻ってこられるのでしょうか?」
帝国兵は首を左右に振って
「そのような女性をこの村の中で見当たりませんでした。引き続き捜索はいたしますが、何分この状況ですので期待なさらないでください」
と、そう答えた。
村人は下を向いて拳を握り、涙を地面に零す。
「アルス様を信じて娘を送り出したばかりに……こんなことにッ……」
村人が嗚咽を交えて咽び泣くが、今の俺にはどうしてやることも出来ない。
彼らは帝国軍の扱いに委ねて俺は帝国兵の後について再び港へと足を向けた。
その道すがら、帝国兵は村の惨状を語る。
「村長の屋敷だった建物の裏庭に、何人もの女性の遺体がございました。
何故、女性だけなのか調査したところ、領主のアルスが女性を連れ出して劣情を満たすために使用されたそうです。
村長によると、少しでも抵抗を見せた女性は喉を斬って使用した後に処分し、従ったものは屋内で面倒を見たそうなんですが、私たちが攻め入ると、領主の逃亡の際に助けを求めた女性たちを盾にし、斬り捨てて逃げたと聞きました。
それで屋内に女性の複数の遺体が残り、裏庭は腐乱した遺体が折り重なっていたんです」
と、そんなことになっていたらしい。
残った村人はここで生活できるのか気になった。
ここは漁村で、今は船着き場を港に改造しつつ軍事利用している。
「ここで保護した村人はサウドール領に移送する手筈となっています。既に労働先も確保しているので生活面での支援もありますから問題なく生きていけるでしょう」
帝国兵はこういった民への施しを行う自国に誇りを持っている様子が伺える。
ただ、侵略をするのではなく、一度帝国の民になれば、帝国の一兵卒として民を守るという気概がどの兵士にも見て取れた。
それで、到着した港はすでにしっかりと港として建造されていて充分に機能しそうに見える。
「帝都からのお迎えの船が来ておりますので、こちらに乗ってお待ち下さい」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
「いえ。こちらこそ。王国にシドル様みたいな方がいらっしゃることが分かって嬉しく思います。また、お会いできることを期待しております」
俺はそれほど大きくないヨットに招かれると案内してくれた兵士と別れの挨拶を交わした。
こんなに親切にしてもらえると思ってなかったからある意味拍子抜けたけれど、王国よりもずっとまともな支配体制を敷いているし、これなら攻め込まれたほうが民のためになるのかもしれないな。と、そう思い始めていた。
だけど、そんなことよりも……。
ゲームと現実のこの違いよ。
凌辱のエターニアⅡのエターナルモードは王都とウミベリ村でNPCと遊んだり、メインヒロインと逢瀬を繰り返した。
NPCを屋敷に連れ込んだのはそうだし、一度連れ込むと屋敷の中でNPCと遊んだり出来たんだよな。
それで終わりだと思ってたしⅢが始まったときもサレア夫人とエッチなことしてる最中に逃げるけど、細かい描写ってあまりないんだよね。
剣を取って執務室を出たのに屋敷を出たときは丸腰に丸裸。
王都に付いたときには平民の服を着てた。
俺はそれは配慮だと思ってたんだよな。
主人公って一体何なんだろう。
ウミベリ村の様子を見て俺はそう思った。
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