メルトリクス邸宅にて
王都の冒険者組合ではアルスが
俺はそれを遠目に眺めている。
せっかく貰った領地を数ヶ月で失ったアルスはただいま絶賛金欠中。
よって冒険者組合で依頼を消化して金を稼ぐ。
とはいえもう数日もすればアルスは帝国軍との戦争のために王都を出るんだけどね。
こうして客観的に凌辱のエターニアⅢの舞台を見ていると、セリフが無くて選択肢しかなかったアルスのクズっぷりがよく分かる。
道行くNPCを物陰で犯したり、他人の家に忍び込んで凌辱する。
ゲームでは旦那さんらしき人が居ても普通にヤれたからな。
奥さんをヤッてる時に旦那さんがこっちを見て何も言わないんだよね。
このゲームは凄えなって多くの男性ファンがSNSで感動を書き込んでた。
そんなファンたちの間で数多くのMODが作られたし、それでNPCの見た目や服装を改造したりできたんだよね。
出来の良いMODだとパトロンを募ってそこそこに稼げたんだよな。
メインヒロインの改変MODはカットシーンに反映されないせいで人気はなかったけど、ユーザーにとってMODも含めて、この凌辱のエターニアというシリーズは厚い支持を集めていた。
3Dグラフィックのこのゲームには、VR化MODまであってVR
社会生活に馴染めなくてこのゲームにハマってからは俺もMOD作りに勤しんで、前世の俺はそれで生活費を稼いでた。
今はそれがリアルな世界で、ゲームに登場したNPCがそのまま出てくるし生身の人間だ。
そんな生身の女たちをアルスは強引に犯して女たちを捨てていく。
それでも周囲はアルスが何をしても素知らぬ顔でいるのが不自然で気色が悪い。
アルスの行動を追いかけて見ていたけれど、まあ、プレイヤーだった頃とそれほど変わらない。
エロシーンが見たいばかりに道行く女に話しかけてエッチする。
ゲームではたったそれだけのことだったからな。
ゲームでは気にならないことが、今はそうじゃないし、当然、気になるよね。
そして、また、アルスが冒険者の女の手を引いてトイレに連れて行ったのを俺は見ていた。
二十分後。
アルスは冒険者の女とトイレから出てきた。
冒険者はローザ・バルドー。
帝国の間諜である。
金欠で依頼を受けるアルスにローザが接近して王国の情報を帝国に流すつもりなのだが、アルスに感化されて帝国の情報をアルスに渡し、帝国には偽りの情報を流す。
今、まさに、ローザがアルスに犯されて落ちるシーンを目の当たりにした。
それと、ゲーム中ではソフィさんを【魅了★】で堕としてパーティーメンバーに加えていたのがゴッソリ無くなってるのに、ストーリーがちゃんと進んでいる。
まるで最初からそれが存在していなかったみたいに。
依頼を受けたアルスが戻るのは夕方。
それまでに俺は必要物品の購入と、冒険者のタスクとして依頼を消化した。
荷車などを買ったから使った分くらいのお金を稼いでおきたかったのだ。
俺は依頼の完了報告を済ませて【認識阻害★】を発動させて冒険者組合のロビーの片隅に移動すると、アルスとローザが戻ってきた。
無事に依頼を完了したらしい。
報告を終えたアルスとローザは組合を出ると別れた。
俺はアルスを尾行する。
この日、聖女ハンナは第一軍の治療支援のために従軍しているから王都には居ない。
アルスは大教会を通り過ぎて貴族居住区へと足を進める。
彼が目指しているのはメルトリクス公爵家邸宅だ。
歩くこと数十分。
俺は【認識阻害★】で悟られてはいないが、生家へと戻った。
「アルスだ。ここに用があって参った。入って良いか?」
アルスは仰々しく門番に開門を要求すると、門に立つ兵士があっさりと門を開く。
ゲームだったら門番に話しかけると選択肢が表示したのを覚えてる。
『メルトリクス公爵家の屋敷に入りますか?』
・はい
・いいえ
ここで『はい』を選んで邸宅に入るのだ。
俺もこっそり家に帰る。
二年ぶりの帰宅である。
アルスは母さんの私室に向かうだろう。
俺はその前に確かめたくて俺の私室だった部屋に向かった。
俺の部屋はここを出されたあの日から変わっていない。
廃嫡されて家から出されているとは言え未だメルトリクスの長男だ。
まだ、俺はメルトリクスの人間だということを心のどこかで認めてくれている証拠かもしれない。
手入れはたまにしかされていないのか、埃が溜まってはいたけど、出たときと変わっていない部屋がどことなくくすぐったく感じた。
部屋を確認したら次は母さんの私室だ。
きっともう始まってるはず。
そう思って俺は【認識阻害★】を発動したまま母さんの私室の扉に聞き耳を立てる。
『良いじゃないですか。ヤらせてくださいよ。俺、おっぱいが大きな女性が周りにいないからヤりたくて溜まらないんです』
『私には夫がおりますし、公爵家の夫人としてはしたないことは出来ません』
『良いじゃん。減るもんじゃないし』
『お断りします。帰ってください』
『聞き分けがないなー』
そろそろか。
俺は扉をそっと開けると腰の短刀に手をかけるアルスが目に入った。
ああ、やっぱりこういうことだったんだな。
というのも、ゲームではシーナ・メルトリクス・エターニアに話しかけると
『シーナ・メルトリクス・エターニアとエッチします。よろしいですか?』
というテキストが最初に表示される。
NPCに話しかけると必ず最初は『はい』か『いいえ』の選択肢がある。
エッチシーンはロード時間が少し長いしエッチシーンも長いので、そのためだと思われる。
そこで『はい』を選ぶと
『エッチを断られました。どうしますか?』
シーナとのエッチを希望した場合のみ、この確認のテキストが表示される。
その選択肢が
・声を封じて黙らせる
・謝罪して止める
このふたつ。
ここで『謝罪して止める』を選ぶとシーナとの会話が終了してもう一度話しかけると
『シーナ・メルトリクス・エターニアとエッチします。よろしいですか?』
再度、最初の確認テキストが表示する。
それで『声を封じて黙らせる』を選ぶのだけど、それが今、目の前で起きている。
アルスは手にかけたナイフで母さんの喉を斬るつもりだ。
母さんはアルスの動作で斬られると思ったのか目をがっちりと閉じていた。
俺は【認識阻害★】を発動させたまま、アルスの首を手刀で打って気絶させる。
やっぱり、これで母さんが死んじゃってたんだな。
「シドル……」
母さんは目を閉じたまま俺の名前を呼んだ。
死ぬ覚悟をした間際に何故、俺の名前を呼んだのか。
考えたいところだけどそんな余裕はない。
(母さん、ごめん)
俺は母さんに【催眠術★】を使って眠らせると、そのまま担いで俺の私室に運んだ。
もう一人。
ジーナだ。
ゲームでのジーナはアルスに心酔しきっていたから一筋縄ではいかないだろう。
だけど、あんなやつに手籠めにされるのを黙って見るのは絶対に嫌だ。
ジーナの私室にこっそり入ると、ジーナは椅子に座って本を読んでいる。
久し振りに見る彼女はとても大きく育っていた。
俺が家を出たときは六歳だっから今は八歳。
知らない間に成長を重ねたのかと思うと胸から込み上がるものがある。
それはそれとして、今はアルスの手からジーナを守りたい。
彼女も母さんと同様に【催眠術★】で眠らせた。
寝かせた母さんとジーナを肩に担いで【認識阻害★】を発動させ、屋敷から冒険者組合に預けた荷車を引き取りに向かう。
その荷車に母さんとジーナを乗せて買った水や食糧、布材などで隠して運び、プロティア侯爵領の領都でソフィさんとイヴェリアに荷車ごと引き渡す。
何はともあれ、これでとりあえず母さんの命は救えたし、妹のジーナがアルスの手に堕ちることもなくなったはず。
母さんとジーナを荷車に隠して俺は冒険者組合を出た。
道すがら、前世の俺の記憶から母さんを思い出していた。
今思えば前世の俺は、母さんとのエッチシーンで何度も抜いていた。
俺、こと高村佑にとってはソフィさんとのラブラブな睦み合いとシーナへの凌辱シーンは最高にエモかったのだ。
後から思うに、母さんのあのシーンは喉を切られていたのに出血の描写はなかったんだよね。
あれはメーカーの配慮だったのかもしれないな。
そんなことがあったから、やはりそういう目で母さんを見たこともあったけど、俺は母さんの子どもだしと何度も自分に言い聞かせて育ったんだよね。
この世界でも多くの男子は母親や姉妹が性の目覚めのきっかけになることが多いから性の対象として見ていたとしても、健康的な男子なら普通のことかもしれない。
とは言え、もし、俺に高村佑の記憶がなかったら、このシドルの目覚めはフィーナが呼び起こしたに違いない。
そう思えるところが多々ありすぎだもんな。
それも子供の頃からずっと。
母さんとジーナを荷車に乗せた旅は順調だ。
荷車は俺が引いているけれど、俺はタスクとして旅をしている。
嘘発見器みたいなスキルがあるせいで実名でしか登録できない冒険者組合。
俺が前世の記憶持ちで高村佑という別名が記憶にあるおかげで嘘発見器をすり抜けてタスクの名で身分証明と言える冒険者証を作れた。
ソフィさんとイヴェリアを落ち合ったのはプロティア領に入って直ぐだった。
「待ち合わせの場所までまだずっと先だけど?」
「ソフィ様のスキルがとても役に立ったのよ」
何でもソフィさんの【周辺探知★】と【気配察知★】で俺を特定して迎えに来てくれたのだとか。
「それはありがとう。人の目につかないところで引き渡せるからとても助かる」
「いえいえ。シドル様のお母様と妹様でしたよね?」
「ああ、今はスキルで眠らせてあってバハムルに着くまでは目が覚めないから、食事は要らないけど、唇を濡らす程度で良いから数時間おきに水を与えてほしい。身の回りの世話はそれ以外は要らないけど、お願いするよ」
「承知いたしました!私、責任を持って看ますから、安心なさってください!」
「本当に助かる。何から何までありがとう」
「良いんですよ。それよりもイヴェリア様とお話なさってください。またしばらく帰らないんでしょう?」
ソフィさんの気遣いで俺はイヴェリアと少し会話をした。
最後にキスをされて、イヴェリアはこう言う。
「【精霊魔法】を覚えてからなのか、シドルの魔素がとても美味しく感じるのよ。今はこのキスという行為が一番魔素を吸収できるのだけど、まるで乾いた喉をトロリと滑らかに通る冷たくて気持ちが良い水のようで、身体全体がとても潤うのよね。もうシドルなしでは生きていけない身体になってしまったわ」
ソフィさんとイヴェリアと別れの挨拶を済ませた俺の次の目的地はウミベリ村。
プロティア領から南下してサウドール領を目指すのかと思ったら、イヴェリアに「ウミベリ村のアーロイという帝国騎士を尋ねてくださる?そしたら帝都までの船に乗せてもらえるわ」と伝えられたからだ。
ここからまた一人での行動だ。
俺はウミベリ村へと急いだ。
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