王国の攻防

イシルディル帝国

 凌辱のエターニアⅢ─王国の攻防─

 凌辱のエターニアの三作目で、凌辱のエターニアのメーカーとしては最後となるコマンド形式RPGとなった。


 物語は南方の辺境伯領サウドールがイシルディル帝国に攻め入られて滅ぶシーンから始まる。

 サウドール辺境伯は好戦的で独断で行動することが多く帝国と幾度の小競り合いを引き起こした結果、見事に帝国の返り討ちに遭い辺境伯は処刑されサウドール領は帝国へと編入された。

 だが、帝国の進軍はサウドール領に留まらず、いくつかの伯爵領を制圧し、アルスが治めるウミベリ男爵領に攻め入ったところからⅢの舞台は幕を開ける。


「シドルはファウスラー領の大半が帝国に攻め込まれるというのね?」

「俺の予測ではそうだね。アルスがウミベリ男爵に叙爵されて故郷のウミベリ村を陛下から賜ったけど、恐らく領地の運営にはほぼ無関心だと思うんだよな」

「なら、アルスと言う男は領主になったことを良いことに権力を翳して好き勝手に遊んでるということ?」


 凌辱のエターニアⅡをクリアするとアルスは男爵に叙爵されて領地を貰い受ける。

 Ⅱのエターナルモードはウミベリ村で女の子を連れ込んだり凌辱に行くなど、プレイヤーはそういう楽しみ方をしていた。

 ただ、このゲームは巨乳キャラが少ない。

 巨乳キャラとのエッチシーンはウミベリ村の実母や実姉、もしくは、王都の売り子や通行人などを相手にする必要があった。

 リアルだったら実の姉は母親とはないけれど、プレイヤーが主人公を操るエロゲーの中なら話は別。

 もし、アルスがウミベリ村に居るのなら、プレイヤーと同じ行動を取っているのかもしれない。


「ともあれ、これは聞くより見たほうが早いわね」


 イヴェリアは【精霊魔法】を発動する。

 行使中のイヴェリアは無表情だ。

 一昔前に氷結の魔女と渾名された頃の姿を思い起こさせる。

 凌辱のエターニアⅠで見られる儚く美しい凛としたその姿。

 このイヴェリアの顔を見るとゾワッとするんだよね。

 誰の手にも届かない孤高の花。

 彼女のエロいシーンがないからこそ、誰もが彼女を美しく想い、彼女の登場シーンはセーブをして何度も見直した。

 キャラデザ最高だなって思わせたのがこのイヴェリアという魔女の造形。

 そんなイヴェリアが俺の手の届く距離にいる。

 それだけで胸が熱くなる。


 どのくらい経ったろうか。

 二十分か三十分か。


「あの平民上がりと比べると、シドルはずっと良い領地運営をしてるわよね。あんなのが領民や国民からの支持が強いだなんて信じられないわ」


 イヴェリアは【精霊魔法】を解除した。

 三十分近くかかったのはウミベリ村の位置の特定に時間を使ったらしい。


「どうだった?」

「シドルの言ったとおりだったわ。アルスは村長の家を領城にして代わる代わる女性を連れ込んで艶事に夢中よ。あれが勇者だなんて思いたくないものね」


 イヴェリアが使用する【精霊魔法】は精霊の視点で物を見ることが出来るみたいだ。

 一体、何を見ているんだろう?

 とても気になる。

 俺の【召喚魔法】では精霊を使役して偵察に出せても精霊の視点で物事を見られないのがちょっとだけ残念に思った。


「あとは帝国だな」

「そうね。イシルディル帝国のことは少し様子を見てみましょう」


 こうしてアルスがⅡをクリアした後の生活を知ることが出来、ゲームをしていた頃のエターナルモードと言うフリーエッチをアルスが楽しんでいることを知る。

 まあ、自由になるならプレイヤーと変わらないよね。ということで俺は納得することにした。


 それから程なく、イシルディル帝国がサウドール領を制圧。

 更に北に進軍しいくつかの貴族を廃しながらファウスラー領へと侵攻。

 数で勝る帝国軍にファウスラー領兵はアルス・ウミベリ男爵領を瞬く間に殲滅。

 アルスは命からがら王都へと逃れ生き長らえた。

 ちなみにこの侵攻でアルスの家族は全員死亡。

 偵察させていた精霊によるとアルスは情婦にしたNPCたちを盾にして一人で村を飛び出して逃げ回ったそうだ。

 ゲームでは詳しく説明されてなかったから分からなかったけど、そういう流れだったんだね。


 アルスが領地を失ったことをイヴェリアの【精霊魔法】でも確認した。


「アルスは着の身着のまま、武器も持たずに王都に逃げてるわ。みっともないわね」


 イヴェリアはちょうど逃げている様子をそのまま見ているそうだ。


「そうか。じゃあ、俺もそろそろ王都へ行こうと思うけど、留守を頼める?」

「ええ。シーナ様とジーナちゃんを迎えに行かれるんでしょう?」

「ん。そうだよ」

「分かったわ」


 アルスは王都に逃げファウスラー公爵家の邸宅敷地内にある領兵宿舎にしばらく留まるはず。

 オープニングイベントが一通り終わって帝国のスパイのローザ・バルドーをパーティーメンバーに加えてからなのだが、本当ならその前にソフィ・ロアが仲間になっているはず。

 ところがソフィさんは今、俺の視界の端っこで料理を作っている。

 そして俺が母さんとジーナを助けるのは、城の衛兵をしているサラ・ファムタウがアルスのパーティーに加わってからだ。

 サラがパーティーに加わるとどこの貴族の家も入り込むことができて、そこで働く使用人や夫人、娘などを凌辱することができる。

 平民の家だろうが貴族の屋敷だろうが王城だろうが、建物に踏み入ることさえ出来れば誰もを犯せるというのがこの凌辱のエターニアシリーズの醍醐味と言えた。

 それでも英雄だと評されるのはエロゲーの主人公だからだと言えるだろう。


 数日が経つと、ファウスラー領内に進軍した帝国軍は王国軍によって足止めをされた。

 帝国軍はあまりにも順調に侵攻が進んでしまったため補給線が伸びてしまい軍備や糧食が不足し始めている。

 逆に王国軍は二軍、三軍と編成を始めており、軍備も充分に整っていた。

 王都に逃げ込んだアルスは王国の三軍に配属され一個師団を率いる少将に任命される。


「はっ。あの男が少将ですってよ。無様に敗走する運命しか見えませんわ」


 【精霊魔法】を覚えてからのイヴェリアは遠方の情報を精霊に頼って収集している。

 そして、その節々で独り言ちるのだ。

 それにしてもイヴェリアさん。貴女、アルスのこと嫌いすぎていませんか?


「あ……ん……?」


 イヴェリアが何かおかしな反応を見せる。

 どうしたんだろう?とイヴェリアを見ていたら、彼女が「ねえ、シドル」と声をかけてきた。


「どうした?」

「シドルは王都に行くのよね?」

「そのつもりだけど、どうした?」

「だったらね。私、ソフィ様を鍛えてそちらに遣わせるから貴方のお母様とジーナを救出したらソフィ様に預けて、貴方は帝国に行ってみない?」

「帝国?」

「ええ。帝国。皇帝との謁見は私とケレブレス様で手筈を整えるからいかがかしら?」

「行くのは良いけど、俺が行ってどうするの?」

「そうね。私なりにエターニア王国を守りたいのよね。あんな腐った勇者や悪女な聖女は嫌いだけど、それ以上に大切な人もたくさんいるもの。私だって貴方と同じで王都には守りたい人がいるのよ」

「そういうことなら、行っても良いけど、母さんとジーナをどこで引き渡せば良いかな?」

「プロティア侯爵領の領都なんてどうかしら?あそこなら貴方が帝国に行くにも丁度いい場所よ」


 プロティア侯爵領は帝国に滅ぼされたサウドール辺境伯領に隣接する領地である。

 海岸部に面しているけど断崖絶壁で港なんて作れるところじゃない。

 だから帝国はサウドールを陥落させた次にウミベリ村を狙った。

 ここは漁村で小舟程度なら付けられる。

 帝国にとって良い補給路となり得た。だから、サウドールの次に真っ直ぐにウミベリを遅いそこから北へと攻め上がることを選んだ。

 ということで、比較的安全だと考えられたプロティア候爵領で俺が拐った母さんとジーナをソフィさんたちに引き渡す。

 俺はその後、プロティア侯爵領の西隣のルグラーシュ侯爵領の海岸から帝国に渡るのかそれとも正攻法でサウドール辺境伯領を行くのか。


「プロティアでお母様とジーナを引き取ったら貴方はサウドールに行ってもらってもよろしいかしら?帝都に安全に入れる手配を済ませておくから、サウドールに入る前に精霊を喚んでくだされば確認できるようにしておきます」

「分かった。そういうことなら、母さんとジーナは荷車に寝かせた状態で渡して、バハムルに着いた翌日に目を覚ますように調整するよ。それならソフィさんも助かるよね?」

「私、話を聞いてましたけど私なら人の目を避けて移動できますし、イヴェリア様がご一緒しても大丈夫ですよ」


 ソフィさんも会話に参加してきた。


「そういうことなら、私がソフィ様とご一緒にシドルの家族を引き取るわ。そうすれば一人ずつ抱えていけるものね」

「へ、私、荷車を引こうと思ってましたよ?私、ステータスが低いですけど身体強化は出来るので」

「荷車ね。それは良いわね。人が居なければ私も引かせてもらうわ」

「イヴェリア様に荷車を引かせるだなんてそんな恐れ多くてダメですよ」

「ふふふ。言われると思ってたけど大丈夫よ。貴女の索敵はいつも正確で範囲が広いから本当に頼りにしてるの」

「はい!そういうことなら索敵は是非、私にお任せください!」

「良いお返事ね。そういうことだから、ソフィ様にはできる限り索敵に集中してもらいたいのよ」

「索敵は当然頑張るとして……」


 ソフィさん。

 イヴェリアの術中にハマったらしい。

 ソフィさんの【周辺探知★】は極めて優秀なスキルで【気配察知★】と組み合わせることで周囲の地形や人の有無など事細かに理解できるらしい。

 ゲームでもソフィさんが居ればマップを開示しなくても最初から完全に開かれたものが見られた。

 当のソフィさんは自分のスキル構成を正しく理解していたわけでないから俺が教えるとみるみる内に自信を付けて周囲の役に立てている。

 そこをイヴェリアの美麗な笑顔で褒められたら嫌な気はしない。

 ソフィさんは気分を上げてイヴェリアに言葉を返すと、途中で食い気味に遮られる。


「なら、決まりね。人の目が無ければ私が荷車を引いて、ソフィ様に索敵をお願いするわ。シドルみたいに無尽蔵にスキルを使えるわけではないのでしょう?」


 そうして、イヴェリアはソフィさんを畳み掛けた。

 ソフィさんはステータスが低いから常にスキルを発動し続けられるわけではない。

 それを言われてしまうとソフィさんには断る手立てがなかった。


「それは確かにそうですけれど……本当によろしいんですか?」

「ええ、もちろん。今の私はただのイヴェリアよ。このバハムルで身分を持ち出すのは無粋だわ」


 平静を装っているが心のなかでは喜んでいることだろう。

 アレの頭の中は以前、湖面を走った犬ぞりを引く犬になった気でいる。

 イヴェリアは脳筋だからな。

 きっと、荷車を引きたいんだろう。

 レベルと熟練度スキルレベルに物を言わせた最大限の身体強化で。

 それを上手に言い包めてソフィさんに譲らせる。


 こうして役割分担と大まかな予定が決まったことで各々は仕事に戻っていった。


 一週間後。

 俺はバハムルを発って王都エテルナへと向かう。

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