森のエルフの女王
バハムル領の西に広がる森林。その奥地を探索して発見したダンジョン。
俺はダンジョンまでの調査は行ったが更にその奥地の探索を行ったことはない。
「森のダンジョンか……。もしやその森の更に奥地の山岳部にはエルフの郷があるやもしれぬぞ。もしそうであれば、我らとしても協力は吝かでない」
山にもエルフが居るのか。
ここはゲームでは出ない話が次々と出る。
ゲームでは足を踏み入れられないこの大樹の麓、森のエルフの郷に俺がいるくらいだ。
ここ以外にもそういった場所や土地があってもおかしくない。
もし、バハムル領の森林にあるダンジョンの更に奥に女王が言う山のエルフの郷があるかもしれないのなら調査をしてみたい。
ともかく、その前に、ラストダンジョンの攻略と【スキル結晶石:催眠術★】の入手。それからまだ見ぬドワーフの国を経てバハムルに帰らなければならないが。
「わかりました。では、私たちが領地に帰ってから早急に船着き場を用意しましょう。完成目処が立ったら直ぐにこちらに伺います」
「わざわざこちらに来る必要はない。余がイヴェリアに【精霊魔法】を教えるのだ。【精霊魔法】で連絡を取り合えるから余とイヴェリアの間で共有すれば良かろう」
精霊魔法ってそんなことが出来るのか。
けど、それができるなら便利すぎる。
「では、そろそろ参ろう」
ケレブレスはそう言って手のひらを上にして胸の高さに留める。
何を要求しているのだろうと思っていたら───。
「何をしておる。早く余の手を取るのだ」
エスコートしろ。ということだった。
立ち上がって「恐れ多いですが……お手を取らせていただきます」とケレブレスの手を取ると、視界の端のイヴェリアの視線が鋭く突き刺さるほどに痛々しい。
「イヴェリアは側近にしばし相手をさせよう。イヴェリア、済まぬな。貴女の伴侶を借りるぞ」
そうして、俺はケレブレス女王陛下に宮殿の奥へと通された。
◆
「我ら、森のエルフは精霊たちとの親和性が高く、多くのものが【精霊魔法】を使うのだ。それは余とて例外ではない。だが、ごく稀に【精霊魔法】ではなく【召喚魔法】を使えるものが現れる」
奥の部屋に通されたが、そこから更に奥へと進む通路があり、そこは世界樹へと繋がる廊下だった。
道すがらケレブレスが上機嫌に話しかけてくれている。
奥の部屋を過ぎてからは手を取り合った男女が二人きりで歩いている。目の横でたゆんたゆんと揺れ続けている豊かな実りで俺の気が削がれていた。
だって、服がめちゃくちゃ薄い。なんなら谷間も横乳も露わでプルプルと震えていたりもするのだ。
ハイエルフとはいえ成人で成熟した女性である。彼女の色気は精通を迎えた少年のシドルには刺激が強すぎた。
「くっくっく!乱れておるな。余も女として見られているというわけか。ん。これはこれで悪くないぞ」
俺の様子に気が付いたケレブレスが揶揄う。
「申し訳有りません……。つい……」
「はっはっは!許す。気の済むまで見るが良い」
豪快に笑われている。
そういったやり取りを繰り返しながら歩くこと数十分。
世界樹の幹を囲う登り坂の回廊を手を繋いで並んで歩いている。
ところが何を血迷ったかケレブレスが俺に身体を寄せてきた。
「お、お戯れを……」
というのもケレブレスの揶揄いが過ぎて俺の腕に腕を絡めてきたのだ。
「ここは人の目につかぬ。余もこういった経験を積んでみたかったのだ。許せ」
腕を絡めるのは良いのだが胸が温かくてとても柔らかい。
イヴェリアからも押し付けられるそれよりもずっと大きくて柔らかいのだ。
「し……しかし、こういったところは聖地とかで、男女が睦まじくして良い場所なのかと思いまして……」
「これが悪しき行為であれば精霊たちが怒るだろうが、余の周りの精霊たちは喜んでおる。先程から余の心が踊る毎に精霊たちが喜色に染まっておるのだ」
精霊とは!
そういうことだったのか。俺に手を取らせたときから何やらおかしいと思ってたんだ。
女王陛下を煽ってるんだな。
「だが、これは良いものだ。余が安心して身を預けられる。それほどの魔力をシドルは持っているのだな。故に周囲の魔素が濃厚でそれを目当てに寄ってくるものもあれば忌避して逃げるものもおる。これが召喚者足り得る才能というものなのかもしれぬな」
「同じことをイヴェリアにも言われました。それで毎日、一緒に寝て毎日キスをされるんです」
「イヴェリアも同じであったか。彼女は余ほどでないにしろ魔力が高いから、シドルの周囲のように魔素が濃密に凝縮された空気を好むのだろう。術者とは本能的にそういうものだ」
「本能的に……ですか……」
「魔素が濃ければ術者への負担が少なく強力な魔法の行使が可能となる。それは【精霊魔法】を使う余も同じなのだ。余にとってシドルは居心地の良い場所なのだよ。イヴェリアと同じでな」
ちょっと歩きづらいんですけど……とは言えず、ケレブレス女王陛下のためになる話を聞きながら歩いていたら、あっという間に幹の頂上に着いた。
穏やかな光に称えられた頂上の中央。
そこに不自然に魔力が凝縮されているのが分かる。
「やはり、勘付いているか……。そこに触れてみるが良い。余にはわからないのだ。ただ、『触れてみよ』と伝えられているだけでな」
「わかりました。触れてみます」
俺は中央に寄り、手をかざして魔力の塊に触れた。
刹那。
ギュッと周囲の景色がそこに吸い込まれて光が失せた。
『何も見えんッ!』
ケレブレスの声は聞こえるが光が魔力に奪われて目の前は真っ暗。
「ケレブレス陛下!」
『余は大丈夫。問題ない。それよりシドルはどうだ?』
「私も大丈夫で………す……」
声を出したが目の前に出てきたのは透き通った薄い衣に身を包んだ女神。
あまりの神々しさに言葉を失った。
ケレブレスを初めて目にした時の衝撃が再びといったところだ。
ただ衣が薄くて透けすぎてるから色々と見えている。
「貴方ですか。私を起こしたのは」
「起こしたってどういう……」
「そのまま、その通りよ。それに貴方、私の庇護下にある匂いを感じます」
「庇護下ですか?」
「シドル・メルトリクス。貴方は私の縁があるものに何度も触れているのでしょう。貴方はこうして私に触れたことで私の一端が貴方に宿っています。それをどう使うかは貴方次第。それが聖となるか邪となるかは貴方次第」
そう言って手を左右に広げるとあらゆるものを曝け出しながらパーっと光り輝き、光の粒子と変容する。
女神の居た場所と俺を中心に光の粒がギュルギュルと渦巻いた。
そして、俺の胸にギューッと集まり俺の体内へと消えていく。
(──ッ!熱いッ!痛いッ!)
周囲は再び光が失せた真っ暗な景色に移り変わり、次第に光が注がれ周囲が色付き始める。
「シドルッ!大丈夫か!」
俺は倒れ込んでいたらしい。
起きたいが身体が熱くて痛くて力が入らない。
でも、大丈夫だと俺の身体が教えてくれていた。
「陛下!大丈夫です!」
「だったら良いが、では、お前が収まるまで待とう」
ケレブレスは俺の頭の傍に腰を下ろすと蹲る俺の頭を太ももに乗せて俺の頭と胸に手を置く。
「【精霊魔法】だ。直に痛みが和らぐだろう。今はしばし、休むが良い」
俺はそのまま意識を手放した。
◆
「たっちゃんはとってもがんばり屋さんね。ママ、いつもたっちゃんのこと応援してるからね」
母さんは昔からずっとかわらずそう言ってくれてたな。
「佑、頑張ったな」
そう言って父さんは俺の頭をよく撫でてくれた。
だから、俺、何でも頑張りたいって思ったんだよな。
「あー!高村のお兄ちゃん!」
「あっ!佑お兄ちゃんだ!ね、ね、遊んで!遊んで!」
小学校の頃の記憶だ。
え──、と、誰だったかな。
女の子が二人。と、だけは覚えてる。
俺が六年の頃に入学してきた子だったな。
「アタシ、こっちがいいッ!」
「ん、なら、わたしはこっち!」
登校班が一緒でいつも手が塞がれてた。
「高村くん、大丈夫?一人で根を詰めてするのは良いけど、私たちだって居るんだからさ。もっと仕事、振っても良いんだよ」
「でも、みんな残業したがらないしさ、仕事を頼んだら嫌な顔をするんだよ」
「嫌な顔されたって思い切ってやらせちゃえばいいじゃない。仕事なんだよ?一人で全部できるわけ無いんだし、私たち、チームなんだよ」
「俺はそう思われてないのかもしれないからさ。そういうのもあるから仕事を振りにくいんだよ」
「じゃあ、私、これヤるから、それで良いでしょ?」
そうやって一緒に仕事をしてくれてた女の子。同期だったけど、辞めちゃったんだよな。
なんで辞めたんだっけ……。
「結婚することになったの。高村くん、今までありがとう」
あー、寿退社ってヤツだな。
女ってのは良い顔するけどアテにならないな。
「たっちゃん、おかえり。こんなになるまで頑張って……。もっと私たちが傍に居てあげたら良かった」
「佑……」
母さんは俺の手を握って、父さんは俺の頭をただ静かに撫でてくれていた。
あれから俺、引きこもってたんだよな。
狂ったみたいにエロゲーばかりやって、それでも父さんも母さんも見守ってくれた。
物足りないと思ったらMODを作って公開したっけ。
ちょっと手の込んだイイヤツは金になったんだよな。
◆
「シドルは目の前のことに集中するとテコでも動かないな」
父さんの声だ。
どうやら俺の物心が付く前の記憶らしい。
「ほーら、シドル。熱中するのも良いけど私たちに甘えなさい」
俺の手に収まったおもちゃの数々を母さんは手から離して俺を抱きかかえた。
「シドルってば、本当に可愛いわ。ねっ」
母さんが頬にキスをする。
俺も嬉しかったんだろうな。
キャッキャッと燥いで母さんの頬を撫でて唇にキスを返した。
◆
「あ……おはよう。シドル」
ぼんやりと光が差し込む。
薄っすらと見えるのはイヴェリアの顔だった。
「む、目を覚ましたか。余の前で唇を重ねるとは大した度胸だ」
ケレブレスの顔も見える。
「ここは?」
「ここは客間の一つだ。世界樹の幹の頂上で倒れたシドルを余が運んだのだよ」
あの距離を一人でか……。
「一人で運んだのは確かだが精霊たちの力添えがあってのものだ。感謝は受けるが気にするでない」
「陛下の手間を煩わせて申し訳ございません。ありがとうございます」
「謝らなくても良いと言ったであろう。それよりも身体の具合はどうだ?」
「調子は悪くないですよ」
「そうであろうな。以前よりも魔力が強まっておるようだからの」
俺自身の感覚としてはちょっとダルいって感じだ。
「シドルの周りの魔素が以前よりずっと濃厚になったの。先程口づけたのはシドルから魔素を戴いたのよ。【精霊魔法】って魔素をとっても使うものなのよ」
「イヴェリアは【精霊魔法】を覚えたんだね」
「ええ。見ていただいても良くてよ」
つまり見ろってことだな。
───
名前 :イヴェリア・ミレニトルム
性別 :女 年齢:14
︙
スキル:魔法(火★、土★、風★、水★、光★、闇★)
無属性魔法★、精霊魔法★、魔素探知★、詠唱省略★
魔法カウンター★、鑑定:8
剣術:4、弓術:8、杖術★、体術:6
︙
───
名前 :シドル・メルトリクス
性別 :男 年齢:14
︙
スキル:魔法(火:8、土:8、風:8、水:8、光:8、闇:8)、
無属性魔法:8、召喚魔法★、魔力感知8、詠唱省略★、
MP自然回復★、気配察知★、認識阻害★、解錠:8、
鑑定★、房中術★、魅了★、多重処理★
剣術:8、盾術:8、槍術:8、斧術:8、弓術:8、
棒術:8、杖術:8、体術:8
───
ついでに俺のステータスも確認してみた。
無事に覚えられている。
イヴェリアは【精霊魔法★】と俺は【召喚魔法★】。
「イヴェリア、頑張ったんだね」
「うふふ。ありがとう。大したことはしていないけれど、シドルに褒められるのは嬉しいわ」
「余が教えたのだから当然であるが、シドルの傍らで教えたらあっという間だったぞ。やはりシドルの周囲の魔素は格別」
「それは女王陛下がそうしたほうが良いと教えてくださったからよ。実際、シドルの魔素に興味を持つ精霊が多かったのだけれど」
俺には良くわからない。
そもそも魔素はこの世界では空気みたいなもので普通の人間には感じ取れないものだ。
それを森のエルフは種族特性で感じ取ることが出来、イヴェリアはスキルで魔素を探知する。
「ところで余は【召喚魔法】というものがどういうものなのか分からぬのだが、教えてもらえるか?」
ケレブレスは興味を持っていた。
スキルの解説に依ると、属性魔法の熟練度に応じて召喚できるものが違うのだそうだ。
精霊が顕現して姿を見せ、術者が使役する。
試しに実害が少なそうな土と水の混合で【召喚魔法★】を発動。
「ドライアド!」
木の精霊、ドライアドが顕現した。
受肉した状態に非常に近く、物質化されていると見紛うほどに生々しい。
女性らしい姿でふっくらと乳房がふくらんで見える。
何故人型?と思ってしまったが魔素はわからないが魔力は強い。
「済まない。試しに召喚してみただけなんだ」
目が合ったのでそう言った。
「お初にお目にかかります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
嫋やかに頭を下げる。
「戻って良いよ」
「はい。ではまたのお喚びをお待ちしております」
ドライアドは露と消えた。
一連を見ていたイヴェリアとケレブレスは驚いている。
「ドライアドって上級精霊よね」
「いきなりドライアドか。実体化に近い状態は初めて見たがこれが【召喚魔法】か」
召喚してみて分かったのは俺の周囲でしか顕現はしなさそう。
というもの俺の周囲に渦巻いているらしい魔素を使っているからだと思われる。
それと実体に近い状態を維持するには俺の
ところで俺、どれくらい眠っていたんだろうか。
訊きそびれてしまった。
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