エルフの棲む森

 何日もの野営を経て、無事に国境の関所を越えた。

 と言っても、イヴェリアをお姫様抱っこして、俺の【認識阻害★】でこっそりと気付かれずに突破。

 ここからはエターニア王国ではない。

 凌辱のエターニアの設定では魔族の国となっている。

 実際は魔族の国なんてものはここにはないが──。

 関所を越えて半日ほどの場所に凌辱のエターニアⅡのラストダンジョンが見えた。


「ねえ、シドル。ダンジョンが見えますわ」


 関所を越えてからは俺の少し後ろについてきているイヴェリアが指をさす。

 その先にラスダンがあるのだが


「入口が封印されていて入れなさそうだよ」


 ゲーム中ではイベント発生前に行っても『封印の力が弱まっているようだ』と表示されるだけだった。


「そうね。入口が塞いであるものね。それにしてもあの封印の奥には微弱だけどそれなりの魔力を感じるわ」

「イヴェリアも分かるんだね」


 彼女にそんなスキルがあったのかと疑問が沸き、久し振りに【鑑定★】で覗いてみた。


───

 名前 :イヴェリア・ミレニトルム

 性別 :女 年齢:14

 身長 :164cm 体重:46kg B:82 W:56 H:78

 職能 :大魔女★

 Lv :99

 HP :4020

 MP :23720

 VIT:201

 STR:100

 DEX:100

 AGI:395

 INT:1186

 MND:990

 スキル:魔法(火★、土★、風★、水★、光★、闇★)

     魔素探知★、鑑定:8、無属性魔法★、詠唱省略★

     魔法カウンター★

     剣術:4、弓術:8、杖術★、体術:6

 ︙

───


 レベル99!

 恐らく俺が居ない間に単独、もしくは、カレンとバハムルの森のダンジョンを周回していたんだろう。

 俺、イヴェリアに勝てなさそう。

 【魔法カウンター★】は魔法攻撃を受けるときに同じ魔法を威力1.5倍で相手に返すスキルだ。

 【魔素探知★】は初めて見た。これで周辺の状況をイヴェリアは把握しているらしい。

 封印の扉の向こうにも有効だった。


「八十階層のボスを一人で倒しに行ったら【スキル結晶石】がドロップしたから使ってみたのよね。そしたら分かるようになったのよ」


 どうやらイヴェリアはシルバードラゴンを単独で撃破したそうだ。

 その後、カレンを連れて行ったらまたシルバードラゴンが出たので倒したら宝箱がドロップしたのだとか。

 それでイヴェリアが【魔法カウンター★】を覚えたらしい。


 バハムルの森のダンジョン。一体何なんだろう?


 それからイヴェリアが覚えた【魔素探知★】を【鑑定★】して、その内容を伝えた。


「それでシドルの周りが濃厚に見えていたのね」


 魔素と魔力は似て非なるものだが、俺は【魔力感知★】で自分や他人の魔力は分かるけど、魔素は分からない。


「濃厚?」

「ええ。それが魔素だというなら、私よりもずっとドロッとして濃厚なのよ。毎夜、褥を共にするのも、毎朝、キスをするのもシドルから白濁と煌めいて漏れ出るそれが私の身体に染み入るように注がれて心地が良くなるのよ」


 言い方!

 一緒に寝ては居るけどヤってはいないからね。

 とは声に出して言わず。


「俺にはわからないよ」

「私のステータスやスキル、そのスキルの詳細だって私にはわからないけどシドルは分かってるでしょう?それと同じだと思ってくれれば良いのよ」


 そんなやりとりをして樹海の奥へ奥へと足を踏み入れていく。

 イヴェリアが覚えた【魔素探知★】はとても便利で有益だった。


 そうして樹海を進むこと数日。


「監視されてる」

「そうみたいね。私には詳しくはわからないけれど……」

「ともかくこのまま進んでみよう。道順、頼むよ」

「ええ。任されたわ」


 大樹海のエルフたちの郷に入るには迷いの森と呼ばれる罠を抜け出す必要があった。

 それをイヴェリアの【魔素探知★】で魔素の濃度のムラのある方向へと先導を頼んでいる。

 この迷いの森を抜けるにも数日かかるはずだというのに、監視の目が俺の【気配察知★】を刺激していた。


「ここは監視がある限り休めないな」

「そうね。野営はしばらく交代で休むようにしましょう」


 一日の移動距離は短くなるが安全を優先。

 それと迷いの森の中には魔物も動物もいない。

 群生する植物で食べられるものがあれば良いが、【鑑定★】を使っても見当たらない。

 食事は携帯用の固いパンと道すがら狩った動物で作ってきた干し肉をほそぼそと消費しよう。


 迷いの森を五日ほどかけて進み。


「この先の魔素は正常だわ。どうやらこれで抜けられるようね」

「この先に人の気配があるから俺から行く。戦闘があるかもしれないから気をつけて」


 俺がイヴェリアの前に立ってイヴェリアの手を引き、森を抜けた。


「人間風情がこの迷いの森を抜けられるとはね。この森に何の用?」


 白金色の無造作に伸びた長い髪の毛の持ち主。

 彼女こそがメインヒロインの一人、エルミアだ。

 背はそれほど高くはないが長く尖った耳が特徴的。

 銀色の瞳に白磁の素肌。

 貧相な乳房に凹凸に乏しい腰つきに平坦な尻。

 主人公アルスが国境の関所を抜けて直ぐに出会う彼女は、シリーズ中で一、二を争うチョロインでもある。

 魔物の群れに襲われた彼女をアルスが助けるのだが『人間にもこんなに優しい男が居たなんて……』と即落ち。

 そんな貧相な体躯の彼女は矢を番えた弓を俺に向けて構えている。


「勝手に立ち入ったことは申し訳ない。俺は【召喚魔法】を教わりたくて来たんだ」


 素直に答えたが弓を引く力を更に強める。

 本気でヤるつもりだ。


『おしッ!』


 遥か後方から強い魔力が籠もった声が響いた。


「なりませんッ!この者を通してはッ!」


 エルミアは弓を放とうと力を緩めた瞬間、更に強い魔力を込めた声が射抜く。


せと言ってる!聞けぬのかッ!』


 エルミアは硬直した。


「くっ……!」


 苦虫を噛み潰した表情で矢を番えた弓を下ろし、矢を背中に背負う矢筒に収納した。


『その者たちをこちらまで通しなさい』

「いえッ!しかしこの者たちは人間ッ!」

『通しなさいッ!』

「くっ……!」


 エルミアは再び声の魔力に屈する。

 悔しそうに眉間に皺を寄せる表情が何とも色っぽい。


 エルミアの戦意が消失したことを確認したイヴェリアは高めた魔力を四散させて戦闘態勢を取り止める。


 俺とイヴェリアはエルミアの先導で更に森の奥へと案内された。

 左右に後ろにと監視のエルフに取り囲まれながら。

 両手を後ろ手に縛られ猿ぐつわを嵌められ武器は没収。


 野営を二回ほど行ったがエルフたちとは一言も声を交わしていない。

 野営を設置する前に俺とイヴェリアは足を縛られるが、猿ぐつわは外され、食事はエルフたちが手ずから俺とイヴェリアの口に運んだ。

 寝るときも手足は拘束され、再び嵌められた猿ぐつわと自由を奪われた状態で眠る。


 世界樹と呼ばれる大樹の麓に俺とイヴェリアは連行された。

 大樹に最も近い建物。宮殿に。


「女王陛下。人間をお連れ致しました」


 宮殿前でエルミアが声を上げると、奥から魔力が感じられる声を響く。


『入れ』


 エルフたちが俺とイヴェリアの肩を乱暴に引っ張り、宮殿に力づくで引き込まれた。

 謁見の間に通され(?)て俺とイヴェリアはつんのめってうつ伏せに倒れる。


「貴様ら、通せと言った私の客人を如何様に扱ったのか説明できるか?」


 透き通った力強い声が脳天を突き刺す。

 エルミアたちは跪いて彼女の言葉に返した。


「女王陛下。恐れながら、客人とは言え人間。下賤なものですから何をされるか存じ得ません。ですからこのような対応を取らせていただきました。女王陛下の御心に叶わなかったと言うことでございますれば深く謝罪を致します」


 女王からは怒気を孕んだ魔力がビシビシと肌を刺す。


「「ひいいぃぃッ!」」


 エルフたちは腰を砕かせ尻餅をついた。


「そのもの等の拘束を解かれよ」


 女王が側近の女性に命じて俺とイヴェリアの拘束を解くと、側近が俺とイヴェリアを女王に身体が向く姿勢で起こしてくれる。


「申し訳ないな。エルミアたちが無礼を働いた。許して欲しい」


 イヴェリアととても良く似た雰囲気の持ち主だ。

 凛として聡明さが見て取れる。

 銀色でとても良く整えられている髪の毛は肩ほどの長さで切り揃えられており、尖った耳に銀色の目、桜色の瑞々しい唇、エルフらしからぬたわわに実る大きな乳房、括れた腰に大きく膨らむ臀部。

 そこからスラリと伸びる脚は赤く染まる爪先まで美を具現化した素晴らしい見目だ。

 俺もイヴェリアもあまりの美しさに目を奪われ声を失った。


「やれやれ、そこまで見惚れなくても良い。楽にしておくれ」


 女王のその言葉で彼女の側近たちは女王の傍に戻っていく。


「申し訳ございません。あまりの美麗さに声を失っておりました」


 俺がそう答えると女王は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「良い良い。人間から見ると余のようなものでも美しく見えるのだな」


 エルフの──とりわけ、ハイエルフの美的価値観とは程遠い容姿なのだろう。

 エルフにとって美しいとされるのはエルミアのような体躯の持ち主であって凹凸がはっきりとした体型は醜いとされている。

 これはエルミアとアルスが出会ったあとにそういった話がされる。

 とくにⅢでソフィが仲間になるときに、唯一人の巨乳ヒロインの彼女に『そんな醜い身体でアルス様のご寵愛を賜わろうとするとは何とも浅ましく甚だしいか』とソフィの体型を事あるごとに中傷していた。


「私も同性ながら陛下に見惚れておりました。見目も去ることながら、精霊にとても良く愛されているのが分かります。これがエルフの女王なのですね?」


 俺の横でイヴェリアが声を発した。

 何も言わないのは不敬と感じたのかな。


「くっくっく……。貴女、人間なのに精霊が見えるのと言うか?」


 女王が身を乗り出してイヴェリアに問う。


「いいえ。正確には魔素でございます。魔素の揺らぎが女王陛下に付き従うように動いていたのでこれは精霊しかないと断定したのです」

「そう。貴女、才能があるわ。ならば貴女には余が精霊魔法を授けよう。それと貴方……」


 女王が席を立ち、俺に向かって歩いてきた。


「はっ……」


 エルフの女王の威圧感に俺はジリジリと肌を焼かれ身震いする。

 身体が強張った。

 冷や汗がダラダラと吹き出てくる。


「貴方には余と共に奥の間に来てもらう。良いか?」


 女王は俺の右肩に右手をそっと置いてそう言った。

 するとエルミアがスクッと立ち上がって女王に詰め寄る。


「陛下ッ!それはなりませんッ!奥の間などに穢れた人間を通すとはっ!国を滅ぼすおつもりですかッ!」


 女王の側近たちが素早くエルミアと女王の間に入ってエルミアを牽制した。


「エルミア。彼らは余の客人。それに、我が郷は、才ある者への技能スキルの供与を惜しまない。この座に就く時にそう受け継いできた。それとも、そう……。その手を掛けている短刀。貴様、余をどうするつもりだったのか問おうか?」

「くッ………!」


 エルミアは短刀を握る手に力を込めたが、側近たちにあっという間に取り押さえられた。

 エルミアだけでなく、エルミアに付き従っていたエルフたちも同様に女王の側近たちに次々と拘束されていく。


「そのものたちを迷いの森の外に放り出せ。当面は大樹の麓に入れるな」


 女王は魔力を乗せた声で側近たちに指示を出した。


「くッ!このまま人間に我らの秘技を漏洩させて良いのかッ!女王陛下!我らエルフは誇り高き森の民!人間になんか屈しないッ!くッ!やめろッ!いっそのことなら………」


 エルミアたちは宮殿から退場する。

 この場に残ったのは俺とイヴェリア、女王陛下に数名の側近となった。


「見苦しいものを見せてすまぬ。我らエルフも一枚岩でないのだ。だが、種族に問わず才ある者に技能スキルを供与するというのは代々我らが受け継いできた理念。余は貴方等に技能の供与を約束しよう」


 女王は再び俺とイヴェリアの間に向かい合って立ち、俺とイヴェリアの肩に手を置いた。

 ゆさゆさと俺の目の前で大きく揺れる豊かな乳袋に思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。

 それは仕方ない。

 ここのエルフたちの服は薄いのだ。

 同時にイヴェリアの目が一瞬だけ鋭くなったのは気の所為だろう。

 それにしてもこのおっぱい。

 女王への忠誠心に乏しいのは体型がエルフ的に望ましくないのではと勘ぐってしまった。


「くっくっく!人間はこの乳に価値があると申すか!面白いッ!」


 俺とイヴェリアの顔を見やって女王は盛大に笑う。

 何故か側近の女性たちが嬉しそうに和やかな表情をしているのが印象的だった。


「余はケレブレスと申す。この国の女王だ。人間よ、名を申せ」

「シドル・メルトリクスと申します」

「イヴェリア・ミレニトルムと申します」


 ケレブレスと名乗った女王に俺たちは跪いて名を名乗る。


「では、シドルとイヴェリア。

 いざこざはあったが余は貴方等の来訪を心より歓迎しよう。

 シドルが余に求める召喚魔法は余から伝授することは出来ぬ。

 代わりに余がシドルを奥に随伴し召喚魔法を授かる儀式を致そう。

 それとイヴェリアには精霊魔法の素養があるから余が自ら伝授する。

 だが、それだけでは余も面白くあるまい。

 貴方等は余や余の国に何をもたらしてくれようか?」


 対価、ということか。

 エルフに金銭は意味がない。

 森のエルフは山菜や狩猟で仕留めた動物や魔物を主に食べる。

 何を求めているのかは分からない。


「エルフの民が何を求めているかは存じません。もし、宜しければ私が代官を勤める領地に使いを送っていただき、こちらが差し出せるもので、そちらが求めるものを差し上げましょう」

「それはシドルとイヴェリアに対するということで宜しいか?」

「はい」

「んむ。ならば、貴方たちの領地とやらの場所を──」


 俺はバハムル領の場所を大雑把に教えた。


「──ほう。なるほど。貴方の領地は北の山脈の湖岸にあるのだな?エターニア王国内を横断出来ないのであれば、ドワーフの国が対岸の北側にあるはずだ。そこから我らが入領することは可能だろう」


 湖岸からこちらに渡ってくるなら関所がないし問題ないだろう。それよりもドワーフの国なんてあるのか!

 そっち側に何かしらの文明圏があるのなら足を伸ばして共生圏が広められるならバハムルとしては利益に繋がる。

 ただ、そういうことなら船着き場を用意しなければならないな。

 それから詳しい領地の内情を伝えてみることにした。

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