野営にて
エターニア王国の南東には広大な樹海が深々と広がっている。
その奥地には大樹が聳え、それを人々は世界樹と呼んでいた。
凌辱のエターニアⅣの劇中の最後、シドルの最期は召喚した悪魔に魂まで食い殺されて消滅する。
このスキルはある場所で教わったものとされているのだが、詳細については記載がなかった。
精霊魔法と召喚魔法。
この二種類の魔法は似て非なるものだが、精霊を信仰する種族に伝承する固有のものである。
(教わるなら今のタイミングだよなー)
ソフィ・ロアがバハムル領にやってきて数週間。
彼女はイヴェリアともカレンとも仲が良く良いお姉さんとして頼られているみたいで、年の功というのは本当にあるものだと実感。
そのソフィさんは村長のジョルグとも頻繁にやり取りをしているらしくて、俺が居なくても良い領地運営ができそうだった。
それともう一つ。
「わかりました。私、王家直属の騎士の公募に応募します」
カレンに王都で見た王家の騎士の募集を伝えたところ、全く興味がなかったというわけでないみたいだったから、どうせ任期のあるものだから行ってみては?と勧めてみたら、割とすんなり応じてくれた。
家事に明るいソフィが居るおかげで、カレンにとって気がかりになるものがなく、今の自分の力量を試したいと言う武人としての欲求に従うことが出来たらしい。
「じゃあ、俺、王都の更に向こう側にも用事があるから王都までは同行するよ」
「はい!お願いします」
俺とカレンが話しているところにイヴェリアも割って入る。
「それ、私も連れて行って戴けるかしら?一人で取り残されるのも淋しいのよね」
「バハムルは私とジョルグでも充分に運営できるので大丈夫ですよ」
イヴェリアに続いてソフィさんがたゆんと豊かな胸を揺らしてくる。
とは言え収穫の時期で忙しい時に不在になるからな。
「それに、私、こう見えても代官の娘で、ある程度は分かりますからお任せください」
もし、何かがあったとしても、ソフィさんは男爵家の娘で代官をしていた家で育っているから名代として不足はない。
ゲームの中のソフィと違って、ここのソフィさんは【魅了★】の影響下にない正常な判断ができるソフィさんだから大丈夫だろう。
バハムルにいるのが嫌になったら【認識阻害★】を使ってトンズラするんだろうし、もし、そうなったとしてもジョルグが居れば何とかなるか。
「分かった。では、バハムルのことはソフィとジョルグに任せることにするよ」
領地のことは任せて俺たちは翌週には王都に向かって旅立った。
◆
道中は全て野営。
今回は三人で軽く走りながらの移動だった。
イヴェリアを見られては不味いので俺が抱えて【認識阻害★】を発動しながら走り続ける。
一週間ほどで王都近郊に着く。
「シドル様、イヴェリア様。ここまでありがとうございました。こうして送り出してもらったこと、とても感謝してます」
「カレン。ごめんなさいね。私のせいで王都内まで送ってあげられなくて」
「イヴェリア様のせいじゃないですよ。それに私、ワクワクしてるんです。どんな猛者がいるんだろうか本当に楽しみなんですよ」
王都に入るための西門から二キロメートルほどの場所で立ち止まってカレンを見送ることにした。
俺とカレンなら王都に入るのは吝かでないのだが、イヴェリアは死んだことになっているし、偽名を名乗るにはリスクがある。
王都においそれと入ることはできなかった。
ゲームでは悪魔みたいに振る舞って印象の悪いイヴェリア。
けれど、今、目の前にいるイヴェリアはきちんと謝れる子なんだよね。
カレンは王都に行くのが始めてなので念を押しておこう。
「冒険者組合の場所はわかるな?」
「たぶん。大丈夫です。南の平民街に近い商業区ですよね?」
「そうそう。ソフィ様にも何度も言われたので覚えてますから」
「そうか。なら大丈夫そうか。あと、王家直属の騎士になれなかったらバハムルに戻ってくるんだよな?」
「そのつもりですよ。でも何となく落ちる気がしないんですよね。決まったらお手紙を書きますから。ソフィ様宛になりますけど」
「ああ、手紙、待ってるよ」
別れを惜しむカレンは少し離れた。
「では、行ってきます。シドル様、イヴェリア様」
「ああ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
俺とイヴェリアは王都に向かって歩くカレンの背中が見えなくなるまで、その場に留まった。
「行ったわね」
「カレンなら心配ないよ」
「あら、私だってカレンのこと、そんなに心配してないわ。むしろフィーナのほうよ。カレンがバハムル出身って知ったらシドルのことを根掘り葉掘り聞くんじゃないかしら」
「周りに誰も居なかったら俺のことは話しても良いとは伝えてあるからさ。無理して隠すより素直に話したほうが良いよってね」
「そうね。あの子、ああ見えて鋭いところがあるし執念深いからね」
「執念深い……ね……」
「そうよ。女ってそういうもんでしょ?良いことも悪いことも根に持つものよ。それより行きましょう。ここは王都に近いからなるべく離れたいわ」
「そうだな。早くバハムルに帰りたいしね」
とは言うものの、俺が召喚魔法を教われるとしたらアルスが凌辱のエターニアⅡのラストダンジョン攻略の時期とかぶるはず。
アルスがそのダンジョンに入ったら俺も単独で潜行するつもりだ。
凌辱のエターニアⅡのラスボスの討伐後に入手する【スキル結晶石:催眠術★】をアルスよりも先に押さえなければならない。
王都から南西に向かって国境までイヴェリアを抱えて走る。
数時間歩いたところで水辺で安全そうな場所を見つけたのでそこで一晩を明かすことにした。
「食糧を買わないとな」
俺が食事の準備をする。
多少の料理はできるけどカレンやソフィさんみたいに上手ではない。
「そうね。でも、私、町に入れるかしら……」
「抱えていれば【認識阻害★】で悟られることはないから大丈夫。町に入れたら宿に泊まるくらいできるからどこかで宿に泊まろうか?」
「泊まれるならそれも良いわね。でも私、野営でも全然良いわよ。以前はダンジョンで一人、寝泊まりしていたんだもの」
聞くところによると、イヴェリアはダンジョンに潜ってレベリングを始めたときは護衛をそれほど付けなかったらしい。
食事は最初は従者と一緒に持ち込んでいたけど、レベルが上がると従者が煩わしく感じて一人で周回を繰り返したのだとか。
それで食べるものはダンジョンの中で倒したケモノ系の魔物で、適当に捌いて魔法で焼き上げて味も付けずに食べてたらしい。
話を聞くととんでもないワイルドな女だ。とても貴族の令嬢とは思えない。
俺でも塩くらいは持ち込んだからね。
「ねえ、私、今、気がついたのだけど、シドル、魔法を同時にいくつも使ってるわよね?」
イーストヒルタワーで覚えた【多重処理★】のことか。
このおかげで魔法を順番に発動する必要がなくなり、頭の中で描いた現象をほぼ完璧に創造できる素晴らしいスキル。
「【多重処理★】を覚えたんだよ。そしたら同時にいくつも使えるようになってね」
「それ良いわね。私も欲しいわ」
とは言うけれど、他に取れる場所を俺は知らない。
未知のダンジョンなら入手できるかもしれないね。
バハムルの森のダンジョンみたいなところでなら。
何せ、シリーズ通してゲーム中一つしか取れなかった【スキル結晶:詠唱省略★】や【ラストリーフ】を入手できたくらいだから。
「次、取れたらイヴェリアにあげるよ」
「そうは言っても、私にとって魅力的なドロップアイテムが出るのはバハムルの森だけでしょう?あのダンジョンは常に人数分のドロップしかしないのよ。だから次に【スキル結晶:多重処理★】が出たらってことになるわね」
「そうなるね。それよりも、カレンやソフィさんみたいにうまく出来なくてごめんな」
料理を作りながらだったけど、作ってるのは干し肉と残り物の野菜を突っ込んだスープと硬いパン。
固いパンはそのまま食べられないからスープに浸しながら食べる。
こんな野営の料理でもカレンが作ったものは本当に美味かった。
真似できれば良いんだけど、生憎俺には料理というスキルは持っていない。
異世界に来たのにチートはラスボスのシドルの多芸多才と言う武芸と魔法を万遍なくそれなりにできるというシドルに与えられた才能のみ。
もし、【料理★】とかそういう便利なスキルがゲームでも存在していたら真っ先に入手したことだろう。
ゲームではキャラクター紹介に『料理が好き』とか『家事が得意』とか一文あるだけだったしな。
「私はこういうのも好きよ。美味しいだけが食事じゃないもの。いつどこで誰と食べるかが私にとっては食事なの。今は川の畔で野営を張ってシドルと二人で食べてるのよ。とっても幸せで美味しいわ」
「そう言ってもらえると気が楽だ」
食事を終えて、空になった鍋を洗うついでに身体と髪を洗ってテントで寝る。
水は冷たいから鍋に水を貯めて魔法の火で温めてから石鹸を使って身体を拭き髪を洗う。
三人で居たときはイヴェリアとカレンで洗い合っていたみたいだけど、今日は俺に声をかけてきた。
「シドル、身体を洗いましょう」
洗った鍋で水を汲み魔法で温める。
イヴェリアも【詠唱省略★】で火属性魔法を器用に調整して水を温かい湯に変える。
そして互いの身体を拭き合うので、当然全裸。
俺もイヴェリアもまだ十四歳。
身体が発達しきっていないんだよな。
とは言っても、イヴェリアの全裸でムラムラしないとは言い切れない。
遅かった俺の精通もついこの前に来たばかり。
イヴェリアは死ななかったし、俺への好感度は振り切ってる。
ヤろうと思えばイヴェリアは拒まないだろう。けど、ヤるのは当分先だ。
まだ俺は生き残れるのかわからないからね。
無責任に孕ませて死ぬわけにはいかないし、それは、イヴェリアだって望まないはず。
あれこれ真面目に考えてるのに、イヴェリアは意外とあっさりなんだよな。
衣服や下着を脱いで俺の前でイヴェリアは全裸になる。
そして、少女らしからぬ表情で言う。
「もう、私、シドルに見られて恥ずかしいことなんて何一つないもの。あれもこれも見られてあんな世話まで男性にさせてしまったら、その方の元以外には嫁にいけませんものね。わかるわよね?シドル」
俺も貴族の息子だからな。
貴族の未婚の女性にあんな世話やこんな世話までしたらそうなるのは仕方ないよね。
助けた時点で責任は取るつもりだから良いんだ。
覚悟を決めて俺も服を脱いだ。
イヴェリアの前で全裸になるのは初めてのことだった。
お互いの身体を拭きあったのは背中だけで前は流石に自分で洗う。
もっと過剰に反応するかと警戒したけど、そういう雰囲気じゃなかったから大丈夫だった。
それでも、大人顔負けの乳房は将来性を感じさせるほどに立派なもの。
三年後が楽しみだ。
そしたら俺、イヴェリアと結婚しても良い。
(そう言えば俺、【房中術★】があるけど実際に致した時にどうなるんだろう)
気になることを思い出してしまった。
イヴェリアが以前、俺に蠱惑的に迫ってきたときにキスをしたけど、その時に【房中術★】は働いていたはずなのに、テンパりすぎてて覚えてない。
女の子に迫られるなんて前世の俺、
そんなことを頭に駆け巡らせて眠りに就いた。
それから朝、目が覚めるとイヴェリアが俺の口を塞いでた。
無下にするのは憚られたので「おはよう。イヴェリア」と声をかけると「シドル。起きてたのね。おはよう」と返してきたのでキスはそのまま続けることにする。
なお、この時、【房中術★】はしっかりイヴェリアに効いていた。
キスまでしかしなかったけど、このスキルは最中でなければ効果がないらしい。
キスが終わったらイヴェリアは物欲しげな表情をずっと向けてはいたけど、それほどの時を置かずに平常運転に戻る。
たぶんレジストしたんだ。
もしそうなら、俺が取った【魅了★】もレジストできる条件があるということか。
とはいえ、房事に自動発動するのならヤらなければ問題ないということだ。
レジストできる条件を満たしていれば精神的な影響がないということでもある。
ならイヴェリアとは問題はないということだね。
仲が進展していくのは悪くないけど、俺もイヴェリアもまだまだ若いし、俺には死亡フラグがある。
死なないためにも今ここでイヴェリアに溺れるわけにはいかないんだよな。
「テントを片付けて朝ご飯を食べようか」
ひっつくイヴェリアから顔を離した。
「そうね。と言っても私にできることはあまりないけど……」
「イヴェリアは存在そのものが尊いから良いんだよ」
「そういうこと言うと離してあげないわよ?」
「ははは。お手柔らかに頼むよ」
というやり取りがあっても俺の邪魔をしないイヴェリア。
「テントは私が畳んでおくわね。だから、シドルは朝食をお願い」
「ん。任された」
自然と役割分担が出来ていた。
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